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吸血塾2ブラッドサッカー  作者: クオン
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本庄家での言い訳

「に、逃がしたな?」

仲井が歯軋りしそうな形相でマルリックに迫る。

「逃亡幇助にはあたらない。なぜなら弁護士資格持っている私が署で緋波若生の正当防衛を代弁するからだ。眠らない吸血鬼の24時間対応だから諸君らの調書作りも捗るだろう」

日本では弁護士を呼ぶ権利が軽視される傾向があることをマルリックは知っていた。

このタイミングでの弁護士資格の宣告に仲井ははらわたが煮えくり返る思いだったが、マルリックの取り調べが容易なものにならないことは覚悟を決めなくてはならなかった。



若生は二度目の跳躍からは本庄家を目指した。

電柱の頂点への着地もかなり正確にこなせるようになった。

最も今夜はほぼ無風状態だったせいもあるが。

本庄家の庭に降り立ち、剣道場や屋敷の様子を窺って異常がない事に安堵する。

若生はまず道場に立ち寄った。

中にはいつもの場所にクレナイと弥生が座り込んでいた。

「大立ち回りでござったな」

引き戸の横に立っていた風馬が声をかけた。

新しい作務衣を着、忍者風の頭巾を外していた風馬は浮世絵の男ような切れ長の目にへの字の口元をしていた。

鼻筋はむしろ今風のストレートに通っていたが。

「見てたのかい?」

「そのベルトの式神で、気を感じることが出来るんだってよ」

蓮夏がいることは匂いで分かっていたので驚かなかった。

しかし、ベルトの事は初耳である。

若生は自分のベルトの腰回りを一周触ってみて重なった部分に挟まれた小さな折り紙に今更ながら気が付いた。

「いつのまに」

風馬に触られた記憶はない。

「か様に仕込んだのでござるよ」

風馬の手から数センチほどの平たい鳥の様な折り紙が若生の腰に張り付いて、元の折り紙が風馬の手に飛んで戻る。

黙って式神を仕込まれたのは愉快ではなかったが、今後も説明の手間が省けるので若生はそのままにしておいた。



「新しい種の眷属、確かに初めて感じる気でござった」

「それが、眷属ではなくグールだったんだ」

「グール、かばねもどきにござるな」

「つまり、あれを作ったリタは相当な攻撃力を持った眷属に進化している可能性がある」

「そうとも限りますまい。あの女吸血鬼の眷属が獣化能力に突出した変異であることも否定出来ないでござる」

「主より眷属の方が強いのか?」

「実例は目の前にいてござる」

「つまり、リタはそういう方法を確立したのか?」

「確立と言うからには複数いるはずでござるが、一体でもグールを多数作ることはた易いことでござる」

「んなことより、あの騒ぎをどーするつもりなんだよ?」

さすがに蓮夏が口をはさんだ。

「警察沙汰になったのは知っていたのか?」

「あー、七緒から婆あに連絡があったとよ」

「警察はマルリックに任せるとして、リタと眷属は俺がどうにかするしかないな」

「そーじゃなくて、オメーの家のことだよ!」

「成り行きだ。仕方なかった」

「あそこは俺とオメーの居場所だったろ? なんであっさり壊したりするんだよ?」

「すまない。あそこで俺一人で居るのは耐えられなかった。気が付いたら家ごと奴らを壊していたよ」

「くっ!」

蓮夏は次に出す言葉を詰まらせた。

若生は数年間、いや若生の年齢にしてみれば長年と言った言った方がいい期間あそこで虐待を受けてきたのだ。

破壊衝動に走ってしまう若生のトラウマに思い至って、蓮夏は言葉を失った。



「また、どこかで別の場所を探そう」

そう言った若生は遠い目をしているように見える。

「人の上で人を支配するか、人から離れて人以下の身に落とさねば、安息の地得ること難しいものでござる」

と、風馬。

「ロード・フィルは700年かけても人を支配することは出来なかった。俺には無理だな。と言って人以下の身に甘んじれば俺のスレイブは更に下位の階級に隷属されることになる。何とか人社会と折り合いを付けながら交流したいもんだ」

「中庸を望まれるか? 最大の難敵は人の欲望にござる。鬼の血に魅せられ、血を得て尚欲に狂いて人を襲うては、人から鬼の血を忌まれ、畏怖を植え付けてしまうものにござる」

「俺の周囲の人たちはVアメーバで欲に走ったりしてねえよ」

「若生殿、それは貴殿の人となりに負うところが大きいのでござる。食欲と性欲を同時に求める吸血鬼、長となればは己が欲望の為に徒党を組むことが殆どでござった。こと下僕にここまで思入れておられる吸血鬼は貴殿が初めてにござる」

「というより、まだ吸血鬼として自覚がないということなのかもな。もっとも改めるつもりもないが・・・」

「部屋に戻る!」

短く言って蓮夏は道場を出て行った。

「怒らせたか・・・」

「泣いているのでござるよ。涙腺の匂い、覚えるがよろしかろう」

若生は蓮夏の後を追おうとする。

「無粋でござろう。主のために泣く下僕、血を求めぬならば、泣くに任せるがよろしかろう」

「500年の経験からの忠告かい?」

若生は足を止めて訊いた。

「否、それがし、人付き合いは得手にあらず。差し出がましい節介にござったな」

「お節介ついでにまた留守番を頼んでいいかい?」

「クレナイの監視がそれがしの目的にござる。楽にそれがこなせるなら拒むことあらず」

「もう夜が明ける。期限も短い。早くケリをつけたいんでね」

若生はそう言って道場の外に出て、自室に戻って戦闘でぼろぼろになったTシャツをトレーナーに着替えて、またすぐに外に出た。

国道の方向に跳躍する。

歩いていると警察の職質を受けてしまうだろうから国道の方向に跳躍する。

国道の歩道は早朝ランニングや散歩の歩行者も少なくないので目立たないだろう。

若生は歩きながら携帯を取り出した。

警察はおそらく若生の携帯を傍受するだろうが、本庄家の近くでなければ今更問題にはならないだろう。

呼び出すのは篠崎健司だった。

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