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吸血塾2ブラッドサッカー  作者: クオン
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警察の不手際と逃亡する若生

しばらく待ったが警察が考明塾に来ることはなかった。

代わりに仲井刑事からの電話連絡に七緒が出ることになる。

普通の受け応えに若生は任意同行で出頭になるかなと思っていたら七緒の声のトーンが上がった。

「銀針を抜いた? なぜ?」

若生は受話器の音に意識を向ける。

『切断された腕に掴まれて手を握り潰された鑑識官を助けるため、胴体から針を抜いてその腕に刺したらしいのだ。で、胴体の方を移送しようとした途端、動き出して手が付けられん! マルリック氏をハンターをよこしてくれんか?』

「行くよ!」

若生はまず包みから銀針を三本取り出し外に出ようとする。

「私も直ぐに追いつく」

同時に外に出るが、若生はすぐに跳躍し電柱の先を蹴りながら一直線上に自宅を目指す。

マルリックは道路を迂回しながらそれでも車両と同程度の速さで走り去った。



「様子はどうだ?」

年配の刑事が仲井に訊く。

「幸いリビングから出ようとはしません。体力に自信のあるもんは集まりましたか?」

「まだ、3人だ。」

その刑事の後ろに制服警官が二人、私服の体格のいい刑事が一人控えていた。

「いよいよとなったら踏み込んで取り押さえるぞ。拳銃は意味が無い。警棒は両手でしっかり持って使え。手の平に注意! 絶対に掴まれるな。とにかくあの両腕があいつの武器だ。振り回している時は絶対あの――」

その時、天井の大穴から何かが飛び降りた。

破壊しつくされた屋内で首のない、毛むくじゃらの『人体』と呼べるのかどうかという物が両手を振り上げてそれに反応する。

飛び降りた人影は素早い動きで獣の背後に回り込み、左手で左足首を掴み引きずり倒した。

右手でうつ伏せに倒れた獣の腰のあたりに右手を押し当て、次いで頭のない両肩の中央から突き出だ頸椎に同様に押し当てると獣は動かなくなった。

「悪かったね。あの警官にこの銀針の一本でも渡しておけば良かった」



暗がりの部屋の中で異様に髪の長い男が振り返った。

「君が・・・緋波若生か?」

仲井が言葉を詰まらせかけたのは若生の手際の良さに驚いていたからである。

数人がかりで拘束できるかどうかという化物を一瞬で、しかも片腕で取り押さえ鎮圧するとは。

間違いなく人間ではない。

「はい。あなたが仲井刑事ですね? マルリックも直ぐここに来ますよ」

若生は心証を悪くするのも何なので言葉をやや改めた。

「2時頃ここにいたな? 何故、現場から逃げたのかね?」

後ろにいた刑事が動こうとするのを仲井が制しながら更に質問を続ける。

「塾に報告が最優先でしたので」

「警官の制止を振り切ってもかね?」

「塾も狙われる可能性がありましたから」

「電話連絡で事足りたのじゃないのかね?」

「見ていた通り、そいつが駆除に回った方が手っ取り早いのだ。ベン・マルリックだ」

後ろで周りの警官がざわついたのを仲井が手を上げて収める。

「大丈夫だ。私が要請した」

「入って、見せてもらってもいいな?」

「触らなければ」

マルリックはガラスが吹き飛んで無くなったサッシの下側をくぐって中に入る。

「ここを見てくれ、首の断面にまで毛が生えて来てる」

若生が自分が作った傷跡を指差した。

「ミスター仲井、君が最初に来た時は切断面はどうだった?」

「その状態だった。鑑識がしきりに写真にとっていた時のフラッシュでよく覚えている」

「ブレードで切ったのか?」

マルリックは若生に向き直って訊いた。

「いや、ブレードで口内を突き刺しておいて、吹き飛ばした」

「ふむ、頭の残っているボディはまだあるのか?」

「まだ救急車に乗せたままで発車していないはずだ」

「見せてもらえるか?」

「よろしいですね?」

仲井が支持を仰ぎ、年配の刑事が頷いて許可を出す。

「ベン・マルリックだ。仲井氏の上司か?」

「刑事課長の丸尾だ」

「銀製の弾丸が手に入らなければ、銅でカバーされたフルメタルジャケットもそこそこ効果がある。今後大量に必要になるかも知れん。銅の場合は表面が黒錆で覆われたら効果がない。発射後の残弾は常にクリーニングが必要になることを忘れるな」

「君は神父だそうだな? 神の啓示かね?」

「NATO軍の実績から忠告している」

「要請すればデータを手に入れることは出来るのかね?」

「機密扱いだから、よほどの日本政府の強い要請でなければ正確なデータは開示されんだろう。厚労省の今泉女子からギリシャ経由の方が概要が掴みやすいかも知れん。数値的なデータは期待できんがな」

そんな解説をしながら救急車に案内された。



中の鑑識官の座っている前には二つの黒い艶のある袋が置かれてあった。

「空けてくれ」

チャックを開けると顎と鼻梁の長い獣の顔が現れる。

更に開けると両肩が露わになる。

塀に張り付いていた時に若生が耳内に銀針を突き刺した個体だった。

「若生に触らせていいな?」

「手袋をしてくれるなら」

若生は医療用のラテックス製の手袋を渡されて、着用しながらマルリックに訊く。

「噛み傷を調べるのか?」

「そうだ。首周りの毛を避けて押さえて見えるようにしてくれ」

なんで自分でやらないのかと訝っている丸尾に仲井が耳打ちする。

「マルリック氏の両腕は義手なのです」

若生はすぐに傷口を発見し毛を押さえてマルリックに見えるようにする。

それは二本の牙の痕ではなく、ざっくり抉られたような噛み痕であった。

「こいつら、グールだったのか?」

大概の事にも驚かなくなった若生が驚きの声を発した。

「迂闊だぞ、若生。お前はまだ吸血鬼狩りに対してはビギナーなのだ。検視を怠ってはいかんな」

「むしろ戦闘中は気が張ってて必要以上に観察してたんだがなあ」

「恐らくは他を探しても傷跡はこれだけなのだろう。お前が眷属だと思っていたのはそれほどに動きが速かったのか?」

「それに、たまたま最初に首を狙われたし。グールってところ構わず噛みついて来るんだろう?」

「他に狙われたところはあったのか?」

「あー、そう言えば二体目からは、先手で倒したんだった」

「手際が良すぎるのも問題だな。せっかくの戦闘データがお前基準では我々の役に立たん」

「複数相手にしたのは初めてだったんだ。んな余裕は無かったよ」

「ま、待て! お前たちはここで実戦演習をやってたのか?」

仲井が我慢できずに割り込んだ。



「まさか! 正当防衛だよ。自宅に押し入った暴漢を撃退しただけだ」

若生はいずれ出て来るであろう質問に用意していた答えを使った。

「いささか悪質過ぎる暴漢ゆえに鎮圧が強引になった感はあったのだろう」

示し合わせたような二人の答え方に余計に仲井は苛立った。

「分かっているのか? 4人! 死んでいるんだぞ」

「分かっているのか? その4人、いや6人は既に死んでいたのだ。グールとなってしまったら人格も尊厳も思考から外してしまわねばならん」

「なんだって? まだ2人いるのか? いやそもそも、その4人と2人をこんな姿にした犯人を知っているのか?」

「リタ・ギオレンティーノ。前に話しただろう? 700歳の吸血鬼がいると。その眷属の仕業だ」

「前の事情聴取ではそんな名前は出なかったが?」

「700歳が夢物語だと言って、訊かなかったのは君だろう? もっとも、あの時点ではリタが眷属になっていたという情報は私も持っておらず、1スレイブとしての認識しかなかったのだが」

「スレイブ?」

丸尾が仲井に訊く?

「吸血鬼にはスレイブという血の提供者がいるのです」

「普通は腕から血を吸いスレイブにする。普通の人間が同意や拒否の有無を問わず、首から大量に血を吸われるとグールになる。ただし、こんな獣人化した例は私も初めてだが」

「その700歳の吸血鬼がこんな化物を増やしているのか?」

「違うのではないかな? 奴は今首都圏に戻るために私をここに釘付けにした形跡がある。これは眷属に成りたてのリタの独断だろう」

「とにかく、ここまで大事件になったら君らの拘束は仕方がない。しばらく署に勾引することになる」

「冷凍血液か献血を保障してくれるのなら従おう」

「俺は、まだしばらく逃亡しておくぜ」

若生は救急車から降りながらさりげなく宣言する。

「なんだとお?」

仲井が声を荒げる。

「それが良かろう。警官は極力巻き込まない方が良い」

「な、何を言っている?」

「リタが狙っているのは緋波若生だけだ。一人の警官の損耗は十人単位の市民の死や汚染につながる。諸君らの急務は秘密裏にこの事態を署員に認知させて管轄内の監視を徹底することだ」

「勝手なことはさせない!」

仲井は拳銃を取り出そうとする。

「例え銀弾を使っても不意打ちでなければ、そいつを捕えることは出来んぞ。通常弾を食らうと更に攻撃力が増す化物だ」

「あんたに化物と言われると傷つくなあ。出来れば警察に行く前に塾に戻って先生に一報入れておいてくれ」

「七緒も出頭を要請されるのだろう。ここからは彼らの指示に従う」

「あーあ、迷惑かけちゃうな」

「血が足りなくなったら出頭しろ。2、3日でケリを付けて来い」

マルリックは両腕をクロスさせた。

「すまない」

そう言って若生はクロスされた義手に足をかけ、踏みつけて跳躍する。

若生は一瞬で夜空の中に消えて行った。

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