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吸血塾2ブラッドサッカー  作者: クオン
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スレイブたちの葛藤

その桐谷翔太が自宅に戻り、孝明塾で吸血鬼たちが今後を憂いていた小一時間後のことである。

若生と別れた桐谷翔太は蓮夏からのメールを受け取った。

場所指定の呼び出しだった。

呼び出された場所は本庄家の本家宅。

門構えの立派な門扉から入ると桐蔭寺早紀が待っていた。

「こちらへどうぞ。桐谷先輩」

「本庄はもう来てるのか?」

「ええ、めちゃ機嫌悪いから気をつけてね」

「俺がスレイブとかになんのはそんなに嫌か?」

「んまあ、それもあるんですけどねえ。若生君ったら退学届けのこと全然蓮夏先輩に相談無しだったから」

「八つ当たりじゃねーか?」

「むしろ当たり所が桐谷先輩ってえとこがフィットし過ぎなんですよお」

早紀が案内した場所は離れのガレージだった。

閉められていたシャッターではなく、横のドアを開けて早紀は入っていく。

続いて入った桐谷は棚の上に点された蝋燭に目を向けた。

「久しぶりだー 桐谷センパーイ」

蓮夏は蝋燭の光からやや離れた木製の長椅子なのか縁台のようなものに腰掛けていた。

「それともはじめましてー? スレイブの桐谷さーん? ヒャハハハハハー」

(こりゃ確かに機嫌悪いわ。センパーイとか引き伸ばす口調なんか特に)

「どーよ? 人生変わった感想は?」

「ケッ、まだ実感湧かねーよ」

「殴った拳が若生の歯に当たって感染ってー? やらかしてくれてるじゃねーか? おい!!」

蓮夏は声を荒げた。

「蓮夏先輩。今は今後の確認でしょ?」

「まずは今現在の確認だぜー。てめーの立場―判ってるよなー桐谷?」

「偉くなったなー? 本庄」

「俺が偉くなったんじゃねー! テメーの格が下がったんだ! スレイブの桐谷後輩よー?」

「勝手に格付けしてんじゃねーぞコラ!?」

「見せてやろーかー? どの辺が格上か。教えてやろーかー? 先輩の実力をよー」

「若生君が怒りますよ。蓮夏先輩」

早紀が早い口調で蓮夏を制した。



「ちっ! で、どーすんだ? 眷属か? 生い先短い人間か?」

「俺ぁ爺じゃねーぞ?」

「生きる先の短いって―書くほーだよ! 若ボケ!!」

「桐谷先輩、つまりですね、あなたの進路相談がこの会合の主旨なのですよ」

「何上から目線でしゃべってんだー? 桐蔭寺」

「そりゃ私らスレイブ的先輩ですから。で、進路とかもひっくり返りますよ。スレイブならずっと若生君につき従わないといけないから。県外の大学なんて無理だし。梓大医学部なら近いけど、今から進路変更大丈夫ですぅ?」

「その絶対無理だって言いたげな顔は何なんだよ?」

「他県の進学希望なら入試受かってから春休み中に腕切り落としちまえ。テメーの成績で医大はありえねー」

「切り落とすのは手の平半分だー。んで、ぶっちゃけ俺にとっちゃ大学はどーでもいーが親はゴネるだろーなー」

「桐谷建設社長さん、息子の左手が不自由になってもゴネそうですね?」

「ケッ、カンケーねー。んな話恥ずかしくてチクれるかよ。テメーの面子しか考えてねーよーな親なんぞ端から想定外だぜ」

蓮夏と早紀は初めて顔を見合わせた。

「そーだったよな。でなきゃー俺らは端からつるんだりしなかったよなー」

と、蓮夏。

「私も蓮夏先輩もいつでも家、一族を切り離せる覚悟があるから若生君のスレイブでいられるんですから。桐谷先輩は家族より若生君を取れるんですか?」

「親とはいつ縁切っても構わねーが、だからって何で緋波を選ばなきゃならねーんだ?」

「単独でいると別系の吸血鬼に食われるぜ。ちっとでも将来の生存率を上げたいのなら若生を選んでスレイブでいるんだなー。それか自分用のスレイブ見つけてさっさと眷属になるこった」

「ただし眷属になって自分がスレイブを作る時にそんな境遇の人間が都合よく見つかるとは思えません」

「眷属になったからって必ずスレイブが必要って訳じゃねー。噛み付き衝動さえ抑えりゃ輸血用パックとOS1で代替出来んだ」

「出来るのかしら? 空腹なのに食べることも出来ない。性感帯の感度は上がってるのにセックスも出来ないのが善良な吸血鬼でしょ? スレイブにある程度依存しないと人と協調する精神の長期維持は難しいと思います」

「俺たちは若生のスレイブなんだ。あいつが抱えてる飢餓に比べりゃ普通の眷属の飢えなんか屁でもねーはずだ」

「それでも若生君が恐れているのは私たちが飢えを感じることでしょう? だから絶対に眷属を作ろうとしないんじゃないですか?」

「ちっ、結局そこに話はもどっちまうか!」

「けど、桐谷先輩がスレイブになったのはいい機会だとは思いませんか? 少なくとも若生系列が暴走するリスクは完全でないにしても払拭されたんですから」

「まだ眷属になってからじゃねーと安全性は半分も証明されねーよ」

「暴走はスレイブ時にある程度兆候が出るもんなんだそうです。三人スレイブが揃って無事ってことは若生君もこのまま私たちを眷属にせざるを得ないでしょう。特に20年後にはね」



「おい、吸血鬼ってそんなに暴走しちまうもんなのか?」

やっとで桐谷は口を挿むことができた。

「若生君の特性なんですよ。彼、暴走を前提に吸血鬼になったそうじゃないですか? 普通はグールやゾンビ化する可能性の方が高いんだそうですが」

「人間なんざ、一瞬でミンチにしちまうんだよ。んな奴に喧嘩売ったんだ。削られた50年程度の寿命は自己責任だと思っとけ!」

「もっと前に話は戻るけどなんで吸血鬼はセックス出来ねーんだ?」

「眷属とスレイブは感覚がシンクロするんですよ。それでセックス中毒になった吸血鬼は首から吸血しないとオルガスムスを得られないからスレイブを消耗品扱いし眷属を作りまくるからNGなんです。眷属同士でもオルガスムスを得るには吸血しないといけないからクロス・ブラッドで暴走、ジ・エンドです」

早紀は指でバッテンを作りながら言った。

「眷属になる前にせーぜー楽しんどけ」

「おい! 俺は緋波からオメーを取り戻すために、こんな目にあってるんだぜ――」

「るっせー!! 俺はもう若生のもんなんだよ!」

「さっきの話じゃまだ事には及んでねーんだろ!?」

「それ以上に血でつながってんだ!」

「血っつったって、そこの桐蔭寺の血も飲むし、俺の血も飲むつもりなんだろ! あいつは!?」

「だ・か・ら、心底むかついてんだよ! テメーにっ!! ロード・フィルも死んでこれからって時にのこのこ割り込んできやがって!」

蓮夏は縁台を音を立てて踏みつけながら立ち上がった。

「蓮夏先輩私情丸出しぃ~ 本音だだもれぇ~」

「てめー、さっきから突っ込みが馴れ馴れしくなってねーか?」

そう言いつつも蓮夏は縁台に座りなおした。

その夜結局、桐谷の進路について結論は出なかったが、もう一度若生を交えて会を持つという事で意見は一致し解散したのだった。

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