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クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
第3章 決戦のとき、来たり来なかったり!

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アバヨ!

 綾士あやしきょうだいの双子の兄、通称アニーが突然泣き出した。


「うわわわーーーん!!! みんなゴメンよ! 転移する前の日の放課後に、僕が魔法陣を教室に書いたんだ! オカ研で流行ってたんだよ! 消そうと思ったんだけど、下校時間になっちゃって消せなかったんだ! 教室の後ろの方だから、目立たないしいいやと思ったんだ!この世界に転移するとき、魔方陣が光るのを僕は見たんだ! みんなをこの世界に連れて来てしまったのは僕なんだ!!! 」

 そう言って、アニーは泣き崩れた。


 アニーの話を聞いた蹴人シュウトが口を開く。

「よくわかったよ。ありがとうアニー、本当のことを教えてくれて。いいかい、アニー? 王女のスキル『召喚』っていうのは、実は魔法陣から魔法陣へ人を移動させるスキルなんだ。だからアニーの書いた魔方陣が入口になっちゃったみたいだね。でも、入口は出口にもなり得るだろ? 今度は王宮にあった魔方陣を入口にすれば、きっと日本に帰れるよ」


「でも、もう絶対誰かが教室の魔法陣を消してるよ! 僕たちがこの世界に来て、半年も経ってるんだよ? 残ってるはずがないよ!」


「カケルの話だと、日本とこの世界では時間の流れ方が違うそうなんだ」

「でもカケルの話じゃ……」


「おい、アニー! お前もかよ! お前らきょうだい、どうでもいいとこだけ似てるんだな! いいか、よく聞けよ! 俺はお前らが転移して6時間後にこの世界に来たんだよ。でもこの世界では6ヶ月経ってたんだ。ちなみに、俺はこの世界に来て、まだ半月ほどしか経っていないんだ」


「じゃあ、まだ魔法陣は残っているってこと?」

 すがるような目で、カケルを見つめるアニー。


「ああ、日本じゃ警察が学校を封鎖してたから、多分警察以外、誰も俺たちの教室に近づいてないはずだ。警察が消すわけないしな」


 カケルの言葉を受け、蹴人が更に補足する。

「あとは王女を捕らえて、スキル『召喚』を発動させるだけだよ。大丈夫、王女にスキルを使わせる方法はあるんだ」


 そう、委員長のスキル『説教』を使えばいいのだ。


「俺も帰りたいぞ! ハーレムの件は謝るからさ!」

「ハーレムのことは悪かったよ。ちょっと調子に乗っただけだよ!」

「男なら誰でも一度ぐらい夢を見ていいじゃないか! なあ、俺も日本に連れて行ってくれよ!」

 男子たちから、哀れな声が聞きえてきた。


「うむ、よくわかるぞ。正確には真の恋愛というものを知らなかった、昔の俺ならよくわかったと言うべきかな。真の愛を手に入れたこの俺が、お前たちの罪を許そうじゃないか。フッ、ハーレムに憧れるなど、まだまだ本当の愛を知らぬが故の過ちというところか」

 と、なにやら大人の階段を登ったような口ぶりで、よくわからないことをカケルが口走ると——


「そ、そんなバカな……」

「ま、まさかお前……」

「彼女が出来たのか!!!」

 驚愕の表情を浮かべる男子たち。


 男子たちの発言を聞いたコダチが、ヤレヤレといった表情で——

「安心しろ。カケルが勝手に脳内でキモチワルイ妄想をしているだけだ」

「コダチ、お前というヤツは——」


「だよな。おかしいと思ったんだ」

「カケルがモテる訳ないよな」

「やっぱりお前は、俺たちのリーダーだ」


「ち、ちょっと待てよ、俺は——」


「まあまあ、カケル。恋愛の話は後でゆっくりしなよ」

 困り顔の蹴人が口をはさんだ。



 だが、このとき、

「アタシは帰らないからネ!」

 という、イモトーの声が聞こえた。


「どうして?」

 という蹴人の言葉に対して、


「日本だとジミ女のアタシは全然モテないんだヨ! だからアタシは、この世界で一発逆転を狙うんだヨ!」

 と、男子たち顔負けの欲望を炸裂させた。


 イモトーの言葉を聞いた蹴人がつぶやく。

「あの…… 僕、結構いろんな男子から恋愛相談を受けるんだけど…… アニ研の男子が、イモトーのこと、結構いいなって言ってたよ?」


「アンタたちィィィ!!! なにグズグズしてんのヨ!!! 今すぐ日本に帰るわヨォォォーーー!!!」

 せめて相手の名前ぐらい確認しろよ……

 でもまあ、これで一件落着かな。


「ハーレムの件は、後で女子たちにちゃんと釈明するとして…… それじゃあ、みんなで王宮に戻ろうか」

 蹴人がそう言うと——


「お前たちの言いたいことはそれだけか?」

 これまで黙って話を聞いていた剣道部のケンイチが、このとき初めて口を開いた。そして——


「俺は帰らネエぜ?」


 ケンイチの言葉を聞いたコダチがひと言。

「あっそう。じゃあ私たちはこれで」


「テメー! 社交辞令でもいいから、一緒に帰りたげなひと言とか言えネエのかよ! 俺はテメーのそういうとこが嫌いなんだよ!!!」


「まったく同感だ。あっ、いや、まったく遺憾だ」

 本音の言葉を無理やり訂正するカケル。


「俺は王女様から聖剣をもらったんだ。だから俺が真の勇者なんだ。この世界で俺は成り上がるんだよ! 今まで帝国のために戦おうとか、しょーもネエこと思ってたけど、これでスッキリしたぜ。ありがとうよ、カケル!」

 清々しい表情で雄叫びをあげたケンイチ。しかしコダチは——


「聞き捨てならないな。真の勇者は私だ。私がちゃんと品行方正に魔王を討伐するんだ。だから聖剣は私に渡して、お前はサッサと日本に帰れ」


「ハン! 俺はこの世界で王になるんだ。帝国のために、ニッシーノ国の王になろうと思ってたんだけど、洗脳が解けたおかげで、今では帝国も支配下に置いてやろうと思ってるよ。そんでもって、俺は自分の王国を作って——」


「ハーレムを作るんだろ?」

 コダチがツッコんだ。


「ちげえよ! 平和な世界を築くんだよ! テメー、ちゃちゃ入れんじゃネエよ! それから、人の話は最後まで聞けよ! 」

 ……気のせいだろうか。なんとなく、ケンイチが憐れに見えてきた。



「言っておくが、俺も帰らないからな。俺はこの世界でセイレーンさんと幸せに暮らすんだ」

 カケルがそう言うと、


「え? 私、みなさんと一緒に日本へ行こうと思っているんですけど。じゃあ、カケル様とはここでお別れですね」

 と、隣にいたセイレーンから、まさかの一撃をいただいた。


「さあ、みんなで一緒に、日本へ帰ろうじゃないか!!!」

 と、何事もなかったように、元気よくカケルは叫んだ。

 やっぱりカケルは調子のいい男だった。


 ここで、イライラした表情で話を聞いていたケンイチが、再び口を開いた。

「ああもう、茶番はここまでだ! 俺はこれからひとりでニッシーノ国に行って、ひと暴れしてやるさ。ここからが俺のサクセスストーリーの始まりだ! じゃあ、みんな元気でな! アバヨ!」


 ケンイチの言葉を聞いたコダチが心底不思議そうな顔をしている。そして——

「おい剛田。アイツ今、『アバヨ』って言ったのか? 私は噂で、別れ際に『アバヨ』と言う絶滅危惧種がいるという話は聞いていたが…… まさか実際に自分の目で見ることになるとは」


「そう言ってやるな、コダチ。ケンイチは今、一生懸命カッコつけようとしてるんだろう。暖かく見守ってやろうじゃないか」


「お前は青少年の健全育成を見守る、地域の指導員さんかよ! 今のは、なんとなく…… そう、なんとなく言ってみただけだよ! お前らのそういうとこ、ホント、嫌いだよ!!!」

 ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしたケンイチであった。

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