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クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
第4章 ハーレムにつられた男子たちの末路

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男子たちは今

 ここは帝国領の西の端。隣国ニッシーノ国との国境を接する山岳地帯である。

 見渡す限りの山肌は急峻な崖で覆われ、そこかしこに巨大な岩がゴロゴロと転がっている。


 帝国からすると、この人の往来を拒む山岳地帯は、ニッシーノ国からの侵入を防ぐ重要な拠点であり、帝国の歴史上、代々国土を守る天然の要害としての役割を担ってきた。


 そう、王女がニッシーノ国に攻め込むと宣言するまでは。




「ヒサシ、ご飯の用意が出来たよ」

 そう声をかけたのは、アニーと呼ばれる温厚な少年。


 もともとは『綾士あやしきょうだいの兄』と呼ばれていたが、いつの間にか級友たちは皆、『アニー』と呼ぶようになっていた。


 アニーには双子の妹がいる。

 王女から草食系男子を紹介してやると言われ一緒について来た女子、そう、この国境地帯にやって来た唯一の女子は、綾士あやしきょうだいの妹、通称イモトーなのだ。



「おい、今日はアニーの食事当番じゃないだろ?」

 そう応えたのはヒサシ。他の級友たちから離れ、ひとりで大きな岩を背にして空を眺めていた。


 ヒサシはカケルと同じ陸上部に所属する長距離ランナーである。

 カケルとは同じ陸上部に所属していることもあり、とても仲がいい。



 優しげな笑みを浮かべて、アニーがヒサシに応じる。


「いいんだよ。僕のスキルは対人戦闘に向いてないんだから。せめてこれぐらいはやらせてもらうよ」


「お前、気を使い過ぎだよ…… それを言うなら俺のスキルだって『強肺』だぜ? 持久力があったって、この世界じゃあ、あんまり意味ないよ」

 そう言って、ヒサシは乾いた笑い声を上げた。


「僕のスキルなんて、蹴った物を狙った場所に落とせるっていうだけの、ヘンテコスキルだよ。いったいどこで使うんだか……」

 アニーはセパタクロー部に所属していた。といっても、部員はアニーとイモトーの二人だけであり、実質休部状態だ。


 アニーはオカルト研究部にも所属しており、むしろこの通称オカ研の部室の方へ、足繁く通っていた。



 蹴人シュウトの話では、剣道部所属のケンイチを除く他の男子5人のスキルも、いわゆるハズレスキルだということだった。


 サッカー部の3人は、物を蹴って遠くに飛ばすスキル、野球部2人に至っては、どこかから飛んできた何かに棒を当てるスキルだとか。

 どこかから飛んできた何かとは、一体なんなのだろう?

 ハズレスキル、ここに極まれりという感じがする。



「結局、僕たちって、ケンイチ頼みなんだよね」

 ため息混じりにアニーがつぶやいた。


 剣道部のケンイチは、スキル『剣士』を持っている。

 これは剣術に特化したスキルだが、コダチが持つスキル『剣豪』よりも数段劣っている。

 ケンイチはそれが不服で、この世界に来てから事あるごとにコダチと衝突していたそうだ。


「まあ、確かにケンイチ頼みってことには間違いないけど……だからアイツ、最近、調子に乗ってるんだよ」

 と、不満を口にしたヒサシに対し、


「しっ! あんまり大きな声で言うと、ケンイチに聞こえるよ」

 と、アニーが注意を促した。



 この山岳地帯は、数日前まで多くの帝国兵であふれかえっていたらしい。

 ニッシーノ国に攻め込むためだ。


 しかし、帝国兵は皆逃げてしまい、ここに残っているのはヒサシを始めとしたカケルの級友9人だけになってしまった。



「ケンイチは、俺たちだけでニッシーノ国に攻め込めばいいなんて言ってるけど、いったいどうするもりなんだよ…… 食料も残り少ないっていうのに…… チッ、本当に面白くねえな」

 そう言いながら、ヒサシはアニーとともに、7人の級友たちが待つ食事場所へと戻って行った。



 ♢♢♢♢♢



「遅かったじゃネエか。どこに行ってたんだよ」

 今やこの集団のリーダー格となっている剣道部のケンイチが、エラそうな態度でヒサシに問いかけた。


「別に。ちょっとウンコしてただけだよ」


「まったく…… カケルと舞を筆頭に、ホント、陸上部の連中は下品だな」

 あきれたように言葉を吐き出すケンイチ。



 ケンイチの周りには、残り少ないパンをかじり、水で薄めたスープを飲む男子5人と女子1人の姿があった。


「おっ、なんだ? このスープ、海の匂いがしないか?」

「いや、どっちかって言うと、ゆでタマゴの匂いじゃないか? 腐ってんじゃないよな?」

「まさか? 結構うまいぜ」

 そんなことを言い合いながら、スープを口にするカケルの級友たち。


「なんだか体が温まるな」

「本当だ。温泉に入ってるみたいな気分だな」

「そういえばこの匂い、温泉の匂いがしないか?」

 男子たちが、そんな言葉を口にしたとき——


「グヘヘヘ」

 下品な笑い声が聞こえてきた。


「おい、ヒサシ。下品な笑い方すんなよ」

 というケンイチの言葉に対し、


「はあ? 別に笑ってねえよ」

 と、答えるヒサシ。


「じゃあ、誰だよ、笑ってんの」

「誰も笑ってねえし」


「おかしいな…… 確かに下品な笑い声が……」

 ケンイチの言葉は、どこからともなく吹きつけてきた突風によりかきけされた。


 その突風のせいで、砂塵が舞い上がったと思ったら——



イテエエエ! 砂が目に…… 目に入った!!!」


 ケンイチたちの前に、突然、下品…… かどうかわからないが、とにかく上品とは言い難いカケルの姿が現れた。


「おいヒサシ! は、早く目薬をくれ!!!」


「…………そんなもん、この世界にねえよ。それから、半年ぶりに会った親友にかける言葉がそれかよ……」

 口ではそう言いながら、喜びの表情を隠しきれないヒサシ。


 カケルの姿を見た他の男子たちも——


「カケル! お前も絶対、こっちの世界に来ると思ってたぜ!」

「よく俺たちのところに来てくれたな! 嬉しいよ!」

「俺、前からお前は、友だち思いなヤツだと思ってたんだ!」

 歓迎の言葉が男子たちの口から、次々に飛び出す。



「アッハッハッハ! 真のヒーローは遅れてやって来るものだ!」

 いや、単に遅刻しただけだから。

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