内戦を回避せよ! 後編
委員長と蹴人が密談を始めた。
しばらくして、ニンマリと笑った蹴人が、舞に向かって大声で叫ぶ。
「大変だ舞! 中華の達人チェンさんが、和風ボンゴレビアンコを作って、チョモランマにあるモホロビチッチ不連続面を探索に行ったぞ!」
「なに! それは一大事だ!」
がばっと身を起こした舞。
流石、お近所さん。舞の好みをよく押さえている…… ということでいいのか?
「こっちに来て!」
委員長が叫ぶ。
委員長の求めに応じ、舞は自分とジユージン公爵を乗せた透明ボードを、委員長の元へと進ませる。
ただ、舞は、『ついにチェンさんにも、旅立ちのときが来たんだね!』と叫んでいるのだが……
それはさておき。
セイレーンやコダチたちの背に守られながら、委員長がコソコソと公爵に話しかけた。
「えっと、偉そうな言い方をしますが、許して下さいね」
「いや…… 謝るぐらいなら、最初からやめておいた方が……」
笑顔を引きつらせながら、公爵が応える。
「公爵に命じます。私が合図したらこう言いなさい——」
♢♢♢♢♢♢
再び透明ボードの上に乗った、舞とジユージン公爵。
二人の身を守るように、セイレーンとコダチも同乗している。
5mぐらいの高さまで透明ボードが浮かび上がったとき——
「さん、はい!!!」
地上から、委員長の合図が聞こえた。
「『ワタシは王女を、絶対に許さない!!!』 うぉーーーん! ワタシ、言っちゃったよーーー!!! えらいこと言っちゃったよーーー!!!」
公爵号泣……
それを聞いた帝国軍の兵士たちが歓喜の声を上げた。
「おお! 王弟殿下が、ついに立たれるのだ!」
「なんと、泣いておられるではないか!」
「泣を拭って自分の姪に刃を向けられるのか!」
……いや、それも違うから。
「「「「「 王弟殿下、バンザーーーイ!!!」」」」」
涙を流して、帝国兵たちは声が枯れるほど叫んだ。
帝国兵の様子を確認したセイレーンが、先ほど委員長と打ち合わせした通り、隣にいるジユージン公爵の手を取り、そして——
「ともにー、この国にー、平和を築きましょおおおー」
と、棒読み丸出しで叫んだ。
演技の質はともかくとして……
「「「「「 水の聖女様、ばんざーーーい!!! 」」」」」
市民たちからも歓声が上がった。
その様子を見た伯爵軍。
参謀らしき男が、ダイスキー伯爵に向かって口を開く。
「は、伯爵。このままでは手を組んだ帝国軍と市民たちから、挟み討ちにされますぞ!」
「わ、わかっておるわ! ええい、仕方ない! 皆の者、王弟殿下、並びに水の聖女殿に敬礼!!! 我々は、これよりお二人の指示に従います!!!」
ジブン・ダイスキー伯爵も大声で叫んだ。
こうして、三者の戦闘は、無事回避されたのであった。
ただ、戦闘回避の立役者、王弟ジユージン公爵は浮かない顔をしていた……
「委員長殿、ヒドイ……」
公爵の声は、兵士や市民たちの歓声にかき消された。
♢♢♢♢♢♢
「みなさーん、ちゃんと並んで下さいねー!」
そう言いながら、ゴキンジョーの街にある大井戸に向かって、スキル『水成』で発現させた水をぶち込んでいく聖女サマ。
ここはゴキンジョーの街の中。
無事、街の中に入れた帝国兵たちに、聖女サマは水を供給しているのだ。
これで当面、帝国兵が喉の渇きに悩まされることはないだろう。
あの後、王弟ジユージン公爵の名代(もちろん自称)として、委員長と蹴人が、ジブン・ダイスキー伯爵、イキオイー将軍、市民の代表と話し合い、次の約束を取り付けた。
イキオイー将軍率いる帝国第三師団はゴキンジョーの街に入り、食料の供給を受ける。
ジブン・ダイスキー伯爵は出来るだけ早く、ゴキンジョーの街に食料を提供する。
伯爵領が領外から暴徒や他の貴族から攻撃を受けた場合、帝国第三師団は伯爵軍と共に戦う。
と、まあこんな感じだ。
「ふう、水の供給はだいたい終わりました。さあ、西の国境に向かいましょう!」
カケルに向かって、聖女サマは笑顔で声をかけた。
「お疲れではないんですか? なんなら、西の国境地帯へは、俺たちだけで行きますけど?」
「いいえ、大丈夫です。それに、私はカケル様に約束したではありませんか。勇者様たちをお助けするお手伝いをしますと」
「それは、そうですが……」
セイレーンは感慨深げな表情を浮かべ、カケルに向けて語り始める。
「ここまで、いろいろなことがありましたね。なんだか私、物語のヒロインになった気分でした。もし、これまでの冒険が物語だと言うのなら、この物語を始めたのは、カケル様と私ですよ? 私だけ途中で物語から退場するのは、ちょっと寂しいです」
「そうですね。間違いなく、セイレーンさんはこの物語のヒロインですよ。俺はヒーローにはなれなかったけど……」
「いいえ! 私にとって、カケル様はヒーローですよ!」
「あわわわ…… えっと…… じゃあ、い、行きましょうか!」
「あややや…… えっと、そうですね! い、行きましょう!」
頬を赤く染めたカケルとセイレーンが、二人並んでゴキンジョーの街の出口へと向かった。
二人から少し離れた場所に、両名を見つめる人影があった。
その人物は人知れず、次の言葉を漏らした。
「リア充、爆発しろ……」
コダチさん、どんまい!




