内戦を回避せよ! 中編
舞が生成した透明ボードに乗り、一触即発の危機にある三軍に近づいたカケルたち。
これ以上近づくと、低空飛行しか出来ない透明ボードでは弓兵の射程距離に入ってしまうため、ここからはカケルのスキル『疾風』と『隠蔽(本当は姑息)』を使うことになった。
三つの集団の間には、それぞれ約20mほど間隔が空いている。その間隙を縫って、騒動のど真ん中へ乗り込む計画だ。
ここから先は、カケル、セイレーン、武闘派代表のコダチ、剛田、そして知能派代表の委員長、蹴人の6人が、三者が睨み合っている中心地点に向かい、説得を試みることになった。
カケルたちスポーツ科の面々に不安な様子は見られない。
なんと言ってもこの世界最強の用心棒、セイレーン先生がついているのだから。
♢♢♢♢♢
カケルたちが、帝国軍、伯爵軍、市民の集団が睨み合う、ど真ん中へとたどり着くや否や、
「みなさん、戦ってはいけません!」
と、開口一番、セイレーンが大声で叫んだ。
すると——
市民の集団から大歓声が湧き上がった。
「聖女様だ!」
「聖女様が我らを助けに来て下さったぞ!」
「これで我々の勝利は間違いなしだ!」
「わ、私の話を聞いて下さい! 私は——」
「「「「「 うおおおーーー!!! 」」」」」
セイレーンの話を聞かずに、市民たちは盛り上がっている。
そう言えば、水の聖女セイレーンは、この街が水不足に陥ったとき、ここでスキル『水成』を使って、市民に水を提供したことがあると言っていた。
市民はセイレーンのスキルの威力を、よくわかっているようだ。
しばらくして——
「痛っ!」
「げっ!」
「アーーー!」
市民の指導者らしき人物数人が叫び声を上げ、お尻を抑えて痛がっている。
どうやらカケルが姿を隠して、カンチョーして回っているようだ……
「お前ら! セイレーンさんが、今、お話されてるだろ! ちゃんと聞きやがれってんだ! ささ、セイレーンさん、続きをどうぞ」
「………………わかりました」
ちょっと複雑な表情をしたセイレーン。
その後、セイレーンは三者に向かって、争いを止めるよう説いた。しかし——
「私は、帝国軍の第三師団を預かる、イキオイーと申します。国王陛下より将軍職を拝命しております。我々はもとより戦いなど望んでおりません。我々は先頃まで西の国境地帯に布陣していました。しかし、食料の配給が滞り、やむなくこの地まで引き返して来たのです」
なるほど。食料がなければ、戦争とか言ってる場合じゃないからな。
「ゴキンジョーの街でも伯爵領にある街でもどこでもいい。どうか我々に食料を分けていただきたい。ただそれだけです」
イキオイー将軍の言葉に、ちょっとお尻を痛そうにしている市民の代表が抗議する。
「そんなこと、信用できるか! お前らが街に入ったら、何をするかわからないじゃないか! 第一、王様はもうどこかへ逃げちまったって話もある。お前たちに食料を渡して、いったいどうなるって言うんだ!? 俺たちだって、食料不足で困ってんだよ!」
もう、この国では、どこもかしこも大混乱のようだ。
「ならば、伯爵軍の方々にお願いしたい。地方貴族は、王族の…… ええい、はっきり言おう! 王女の失政の被害に遭われていないではないか!」
帝国軍の将軍まで、王女を見限っているようだ。
「待たれよ」
今度は伯爵軍から声が上がった。
「ワシはダイスキー伯爵家当主、ジブン・ダイスキーである」
なんと、伯爵サマご本人の登場のようだ。
「確かに、ここゴキンジョーの街のような国王直轄の地に比べれば、我々の領地は王女の失政の被害が少なかったかも知れない。だが、これからはどうなるかわからぬではないか? もう我が国の王室は終わりだ。今後は誰が敵になり、誰が味方になるのか、さっぱりわからんのだ。これより我々は、自分たちの力だけで自分たちの領地を守らねばならん。今、帝国の将兵に便宜を図る余裕はないのだ」
これは…… とてもマズイ状況だ。
三者それぞれ、言いたいことは言い合った。
そして三者いずれも、一歩も引かない構えだ。
どうすればいい?
もう戦うしかないのか?
カケルたちの周りにも、緊迫した空気が流れた。
そのとき——
「ちょっとーーー! 舞殿、起きて下さい! 起きて下さいよおおおーーー!!!」
場違いな人の声がした……
空を見上げると、舞と王弟ジユージン公爵を乗せた透明ボードが、ふらーっと空中を漂いこちらに向かって来た。
確かこの二人は、他のクラスメイトたちと一緒に安全な場所で待機していたはずでは?
それにしても、よく弓兵に打ち落とされなかったものだ。
まあ、あんなにオロオロしてる人が、敵だとは思わないか……
「い、委員長殿、助けて下さい! 舞殿が暇だから一緒に空の散歩に行こうと言われたのでお付き合いしたところ、舞殿ったら勝手に寝ちゃったんですよ!」
舞と公爵は、とても仲良しになっていたようだ。
「このままだと、ゴキンジョーの街の城壁にぶつかってしまいます!!!」
この状況でも、公爵はマイペースのようだ。
舞は一度寝ると、滅多なことでは起きない。
これはボロモーケ温泉でも実証されている。
ポカーンとした表情でジユージン公爵を眺める、両軍兵士と市民たち。
そんな中、帝国軍のイキオイー将軍がハッとした表情を浮かべ——
「あ、あなたは王弟殿下…… 王弟ジユージン公爵ではありませんか!?」
「え? ああ、あなたは確か北部方面軍の幹部の方でしたね…… って、そんなことより! 舞殿! このままでは、本当にどこかの建物にぶつかりますよ!!!」
「なにを言っておられるのかよくわからないが、我らの状況を見て、相当焦っておられるようだ」
イキオイー将軍が叫んだが…… いや、それ全然違うから。
「はっ、こ、これは失礼を致しました!」
と言って、居住まいを正した将軍。そして、
「皆の者、王弟殿下に敬礼!!!」
と、部下たちに一喝。
イキオイー将軍がそう叫ぶと、帝国軍の軍人が一斉に、ブユーデン公爵に対して敬礼を捧げた。
ただ、捧げられた当人は、オロオロして全然見ていなかった。




