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クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
第3章 決戦のとき、来たり来なかったり!

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公爵はちょっと面白い人のようだ

 王弟ジユージン公爵を捕縛して、無事、砦に帰り着いたカケルたち。


 敵本陣から鐘を打ち鳴らす音が鳴り響いた。


「これは敵が撤退する合図だ」

 カケルたちと共に戦っている、この砦の最高指揮官ガンコロジン将軍が、そう皆に伝えた。


「勝鬨を上げようではないか。蹴人殿、よろしく頼む!」

 将軍にそう言われた蹴人であったが……


「僕はそういうのは苦手なんで、ここはカケルにお願いしよう」


「ヨッシャアアア!!! 俺に任せろおおお!!! うおおおーーー!!!」

 まだ興奮冷めやらぬカケルが、大声で勝鬨を上げた。


「うおおおーーー!!!」

 舞も叫んだ。


「うおおおーーー!!!」

 砦の兵士も叫んだ。


「うおおおーーー!!!」

 えっと…… この人は誰だ?


「なんで、ジユージン公爵がしれっと混ざって、勝鬨を上げているんですか?」

 蹴人が冷静に、公爵にツッコんだ。


「あれ? バレちゃいました?」

 どうやら公爵は、ちょっと面白い人のようだ。



 公爵といろいろお話するのは後にすることとなり——


「本当に、ワシらは追撃しなくてもいいのかのう?」

 ガンコロジン将軍が、今回の勝利の立役者である蹴人に問いかけた。


「はい。今回の戦いの目的は、あくまでワルダークミ伯爵の野望を打ち砕くことです。敵兵を殺すことではありません」

 蹴人はキッパリと言い切った。


「では、事前の話し合い通り、勇者殿たちはもう行かれるのか?」

 という将軍の問いに、


「はい。我々はこっそりワルダークミ伯爵のお宅に先回りして、みんなと約束した『お仕置き』をするつもりです」

 と、いたずらっぽく笑った蹴人であった。



「ではみなさん、お元気で!」

 砦の兵士が叫ぶ。


「私はまたここに帰ってくるぞ!」

 コダチが兵士に叫び返す。


「俺たちのこと、忘れないで下さいね!」

 砦の兵士がまた叫ぶ。


「ああ! でも私はまた帰ってくるぞ!」

 コダチがまた兵士に叫び返す。


「お世話になりました! お元気で!」


「だから、私は帰ってくると言ってるだろ!!! それに、お前、ジユージン公爵ではないか! 私はお前になんのお世話もしてないぞ!」


「あっ、そう言えばそうですね」


「公爵さん、また何しれっと混ざってるんですか…… さあ、公爵さんも一緒に行きますよ?」

 あきれ顔の蹴人がジユージン公爵にそう告げると、


「えええ!!! なぜ、私が一緒に?」

 と、驚きの声を上げる公爵。


「ここにいたら、貴族たちがあなたを奪え返しに来るでしょ?」


「ととと、とんでもない。ワタシが誰に捕まったとしても、アイツらが助けに来るはずありませんよ! なんなら、断言してもいいですよ?」


「いや…… もうちょっと威厳とか持ちましょうよ……」

 蹴人のあきれ顔は、一層深まった。



 今、砦の兵士たちから、カケルたち日本から来た転生者11名とセイレーンに対して、『スキル防御の指輪』が贈られているところだ。

 ささやかなお礼だと、兵士たちは言っている。


 ありがたく受け取ったカケルたちは、早速、指輪を装着した。


 これから舞のスキル『飛翔』で発現させた透明ボードを使用することにしているが、人数が増えたため、どうしても誰かが舞の近くに座らないといけない。


 舞のプライベートスキル『芸人』対策として、『スキル防御の指輪』は、今や必須アイテムとなったのだ。



「では、みなさん、ありがとうございました。さようなら!」

 みんなを代表して、委員長が砦の兵士たちに別れの挨拶を告げた。


 透明ボードが宙に舞い、南の空へ向かって進んで行く。


 剛田や遠投3人娘は涙を流していた。

 彼女たちは約1ヶ月の間、ここにいる兵士たちと寝食を共にしたのだ。

 彼女たちはコダチとは違い、もうここへ戻るつもりはない。


「お前らのことは忘れないぞ!」

 剛田が泣きながら手を振った。


「今までありがとう!」

「お世話になりました!」

「あたしたちのこと、忘れないでね!」

 遠投3人娘も大粒の涙をこぼしている。


 他のクラスメイトたちも、もらい泣きしていた。

 カケルも、うっすら目に涙を浮かべている。


 透明ボードの上にいるみんなの悲しみが、最高潮に達したそのとき——




「ウキャキャキャキャ!!! は、腹が痛い…… アハハハハハハ!!!」

 ……ジユージン公爵が爆笑した。


 カケルたち一同の、冷たい視線が公爵に向けられる。


「い、いえ、違うのです! 別に、あなた方を見て笑っているのではなく、なぜか突然笑いが…… ウヒョヒョヒョヒョ!!! 無理! もう無理! これ以上喋るの絶対無理ィィィ!!! ウハハハハハ——」


 先ほど公爵は怖いからと言って、透明ボードの中央に寄って行ったのだ。

 中央には舞が座っている。


 公爵に『スキル防御の指輪』を渡すの、忘れてたみたいだな……



 ♢♢♢♢♢



 疲れ果てた様子で、自分の館へ戻った来たワルダークミ伯爵。

 しかし、使用人が誰も玄関まで迎えに来ない。


「まったく…… 負け戦の情報に怯えて、どこかへ逃げたのか……」

 そう言いながら、玄関口のドアを開けたところ……


「やあ、伯爵。さっきぶりだね。あんまり帰りが遅いものだから、先に始めてるよ」

 と言って、ワイングラスを掲げるジユージン公爵サマ。



「なぜ、あなたが勝ち誇った態度でいるのか、さっぱりわかりません……」


 今日何度めになるか、もうよくわからないが、とにかく蹴人があきれた顔をして、ジユージン公爵にツッコんだ。


「いや、なんか『お前のウラをかいてやったぜ』みたいなこと、一度はやってみたいじゃないですか」


「あなたもウラをかかれたうちの一人なんですけど……」


「おっしゃる通りです。静かにしておきます」


 やっぱり公爵サマは面白い人のようだ。


 カケルたちも、室内で豪華なソファーに座りくつろいでいた。

 厨房から勝手に持ち出した、肉やら魚やらを勝手に食べている。



 食後はみんなで、室内ドッチボール大会——調度品や絵画の破壊とも言う——や、室内リフォーム大作戦——壁や家具の破壊とも言う——、室内ロデオ競技会——牛や馬に乗って大暴れ——など、ありとあらゆる嫌がらせ、もとい、みんなの団結を強めるためのイベントを催し、大いに盛り上がった。


 その後、室内キャンプファイヤー大会を始めたところで、

『お願いですから、もう帰って下さい。今後は絶対悪いことはしませんから』

 という言葉をワルダークミ伯爵から引き出せたので、400字詰原稿用紙10枚分の反省文を書くことを条件に、伯爵を許すことにした。



 ♢♢♢♢♢♢



 翌日、ワルダークミ伯爵館から、少し離れた場所にあるジユージン公爵の屋敷を訪れたカケルたち。


「うおおおーーー!!! ドラゴンだ! 本物のドラゴンだ!!!」

 カケルの興奮、天井知らず。


「やめて下さいいいーーー!!! ドラゴンだけは…… ドラゴンだけは勘弁して下さい!!! ドラゴンの肉が美味しいなんて、あれはどこかのバカが勝手に妄想して吹聴しているだけです!!!」

 自分が所有するドラゴンを手放してなるものかとばかり、ジユージン公爵が涙ながらにそう訴えるが——


「へえー。ドラゴンの肉って美味しいんだ」

 ヨダレを垂らして、ドラゴンを見つめる舞。


「し、しまった! ワタシとしたことが! 食いしん坊舞殿のまえで、なんという失態を!」


 公爵は舞と仲良しになっていたようだ。


「何か誤解されているようですね。僕たちは、別にあなたからドラゴンを奪おうなんて、思ってませんよ?」

 ニッコリ笑顔で、蹴人が公爵にそう伝えたのだが……



 ジユージン公爵の話では、王宮を出て公爵として独り立ちしたとき、一切の持参金を要求しない代わり、このドラゴンだけをもらってきたらしい。

 よほど、このドラゴンがお気に入りのようだ。


「このドラゴンで、我々を西の国境まで送って欲しいんですよ」

 蹴人は笑顔で公爵にお願いした。

 ドラゴンの背に飛行船を載せると、とても速く、そして大量の人数を運ぶことが出来るそうだ。


「でも…… このドラゴンは、私の言うことしか聞きませんので……」

 恐る恐る、ジユージン公爵がそう言うと、


「知ってますよ。この辺りでは有名な話ですね」

 と、やはり笑顔で蹴人が応える。


「いやぁーご存知でしたか。ならば仕方ない。ワタシとしては、是非、勇者殿たちに協力したかったのですが、いやはや、本当に残念です」


「何を言っているんですか。あなたが御者を務めるんですよ?」


 そう、蹴人は知っていたのだ。この男がドラゴン使いであることを。

 どうやら蹴人は、初めからこのドラゴンを使うつもりで、公爵を捕縛したようだ。


「え? あの…… 最近引いたおみくじには、遠方への旅行は控えるべしと書いてあったもので……」


「……あなたは信心深いんですね」


「はい、それはもう」



 二人の会話を聞いていた舞がひと言。


「なら、このドラゴン食べちゃおうよ!」


「喜んで、皆様を西の国境までお送り致します!」


 やっぱり公爵サマは、面白い人で間違いないようだ。



 こうして、カケルたち一行は、公爵が御するドラゴンに乗り、一気に西の国境へと進むことになった。


「まったく…… 舞殿なら本当に食べかねませんからね…… 困った食いしん坊です」


 知らない間に、公爵サマと舞は、とても気心の知れた仲になっていたようだ。

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