表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
第3章 決戦のとき、来たり来なかったり!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/69

本当に、決戦のとき来たれり! 中編

 敵兵は、蹴人のスキル『罠猟わなりょう』で作った落とし穴ゾーンに入って来たようだ。


 蹴人は後ろを振り向き、

「でも安心していいんだよ? そんなに深くは掘ってないからね」

 という言葉を発した。


 カケルと蹴人の後には、育栄イクエが椅子に腰掛けている。

 育栄は昨日から今朝にかけて、雑草の海の整備・点検に走りまわっていたため、現在休息をとっている。

 育栄の仕事はここまでで、これ以降の戦闘については、仲間たちに任せることになっていた。


 ひょっとして、自分が作った天然の障壁のせいで死者が出るのではないか。

 そんな心配をしていた育栄に対して、蹴人は声をかけたのだ。

 蹴人は気遣いの達人なのだ。



「罠に恐れをなして帰ってくれれば、別にそれでもいいんだけど…… やっぱり帰ってくれないようだね」


「多少の犠牲は覚悟の上で、数の力で押してくるようだな」

 カケルはそう言った直後、


「おっと、犠牲って言っても、死んでるわじゃないからな。穴に落ちた兵士を助け出すのが面倒だから、放ったらかしにして進軍を続けてるだけだから」

 後ろにいる育栄に向かって解説した。

 カケルも少しは成長しているようだ。


「まったく…… 部下に優しくない上司なんて、僕は嫌いだね」

 蹴人にはまだまだ余裕があるようだ。



 両翼に布陣している混成軍の動きに目を移すと、先ほどと変わらず、積極的に軍を進める気配は見受けられない。


 ひょっとして、右翼、左翼両軍に、変にヤル気があった場合を想定して、こちらも砦を守る兵士たちの両端りょうはしに、遠投3人娘を配置していたのだが……


 このままいけば、どうやら3人娘の出番はなさそうだ。


 蹴人が投擲用の武器として選んだのは、殺傷能力のない聖道具だった。

 これは、破裂すると足がベトベトして歩けなくなる不思議なボールで、舞はこれをスライムボールと呼んでいた。


 蹴人が自宅から運び出した箱の中には、こういったお役立ち聖道具が、たくさん入っていたのだ。



 さて、再び視点を敵中央軍に戻そう。


「さあ、そろそろ敵が『道』に気づいたようだね」


 蹴人は敵中央軍の進路に、砦まで真っ直ぐ伸びる5本の『道』を用意していた。


 罠を設置せずに、砦まで一直線に進める『道』——と言っても表面は雑草で覆われているが——を、あえて用意していたのだ。


 その『道』に群がる敵兵たち。


 ここから見ると、まるでストローに吸われたジュースのごとく、敵兵が一直線に丘の上へと吸い上げられているように見える。


「さあ、カケル。そろそろ出番だよ」

 そう言った蹴人に向かって、


「わかった。蹴人、農山さん、それじゃあ俺、行ってくるよ!」

 と力強く答え、階下へと駆け出したカケルに、


「待ってカケル! ちゃんとイヤリングは付けてるかい?」

 と、確認の言葉を送る蹴人。


「ああ! メチャクチャ恥ずかしいけど、ちゃんと付けてるよ! まったく、イヤリングを付けるだなんて、俺の黒歴史確定だよ!」

 そう言って笑うカケルに、農山育栄が——


「大丈夫よ! なんというか、それなりに、まあまあ、よく見ると、似合わないこともなくはないわよ!」


「ありがとう、農山さん! 俺、この作戦が終わったら、もう二度とイヤリングなんて付けないことにするよ!」

 微妙な笑顔を残し、カケルの姿は階下へと消えた。


 このイヤリングが何なのか。

 それはこの後、明らかになるだろう。



 蹴人は砦から身を乗り出し、砦の下で待機しているミサオとセイレーンに準備の合図を送った。


 操とセイレーンを守るように、彼女らの前面に布陣していた兵士たちが、サッと左右に移動した。

 操とセイレーンの目の前には、雑草の海が広がるのみ。


 カケルも、砦から降りて所定の位置についた。



 ♢♢♢♢♢



 蹴人の用意した5本の『道』を通って、敵兵たちが砦目指して駆け上がってくる。


 それはまるで、蹴人が5本ストローで敵兵たちを吸い上げているかのように見えた。


 そして——


 真ん中の一本を残して、他の4本の『道』から悲鳴が上がった。


「はい残念。当たりは真ん中の1本だけでした。他の4本のストローは途中で折れているって訳さ。おっと、僕としたことが、ちょっと調子に乗っちゃったかな」

 蹴人はそう言って、後ろにいる育栄イクエに、幾分か気まずい表情を見せた。


 砦まで一直線に伸びていると思っていた5本の『道』。

 実は、そのうちの4本の『道』の先には、蹴人が仕掛けた罠が張り巡らされていたのだ。

 いや、これはもう罠なんていうレベルではない。

 敵兵の前面は全て、足をつければ穴が生じる仕掛けになっている。


 物理的に、絶対前に進めない仕掛けになっていたのだ。


「せっかくここまで来たのに申し訳ないんだけど。だって、1本だけ道を作ったら、罠だと思われるかなって思ったんだ」

 育栄に言葉向ける蹴人。


「別に、そんなに私に対して気を使ってくれなくてもいいのよ? 私だって、みんなの勝利を願ってるんだから」

 蹴人の発言に、少し申し訳なさそうな顔をして応える育栄。


「そうかい。なんだか逆に気を使わせちゃったかな?」

 そう言って、蹴人は育栄に微笑みかけた。そして——


「よし! じゃあ、真ん中の1本の『道』に向けて、攻撃を仕掛けようか!」

 いよいよ攻撃開始だ。


 蹴人がミサオに向けて、攻撃開始の合図を送った。


 操がスキル『水操すいそう』を使って、真ん中の『道』に向けて水を放った。


 ——ドドドドド!!!


 水の流れは勢いよく、真ん中の『道』を丘の裾野すそのめがけて下って行く。



 操の横には大きなため池が広がっており、そこからどんどん裾野すそのへと向かい、水が流れ出て行く。


 このため池は、蹴人のスキルで複数の穴を掘った後、剛田のスキル『怪力』で各穴を繋げて作ったものだ。


 ため池の横では、聖女サマがスキル『水成すいせい』を使って、せっせとため池の中に水を補充していた。


 ミサオのスキル『水操』は、水を操るだけで水自体を生み出すことは出来ない。

 だが、聖女サマのおかげで、水は使い放題という訳だ。


 最初、聖女サマがこの攻撃を担当すると申し出たのだが、頼むからやめてくれと、みんなに止められた。

 聖女サマの『水成』は威力が強すぎる。死人が出ては困るのだ。


 蹴人が用意した『道』の横幅は5m。

 操は幅5m程の水の流れを、丘の下まできっちりコントロールして敵本陣近くまで流し続けなければならない。


 波の高さは約0.5m。敵兵が溺れない配慮も必要だ。

 やはりこういう細やかな仕事は、冷静沈着な操が向いている。

 というより、ポンコツ聖女サマには絶対に向いていないと、みんな心の中で思っていたはずだ。



 『道』にいた兵士たちは、ある者は左右に弾き跳ばされ、またある者は水の流れに足を取られ、遥か後方まで流される。


 雑草は約三分の一ほどなぎ倒された。本当はすべての雑草をなぎ倒したかったのだが、それは仕方ない。


 不完全だが、砦の上から見ると、本当の道が出来ているように見えた。



「さあ、そろそろ俺たちの出番だ!」

 力強く、カケルが声を上げた。

 いよいよ我らがカケルの見せ場がやってきたようだ。


 カケルの右隣にはコダチが、左隣には剛田が控えている。


「それじゃあ、準備に入るぞ」

 そう言って、カケルは二人の手を握る。


「ふっ、カケルと手を繋ぐなんて、幼稚園以来かな」


「な、なんだよコダチ、急に変なこと言いやがって」

「相変わらず、お前の手はベトっとして気持ちが悪い」


「よ、幼稚園児のころは、もっとサラっとしてたはすだ!」


「おい、お前らいい加減にしろ。カケル、蹴人からの合図を聞き逃すんじゃないぞ」

 剛田がカケルとコダチに鋭い目を向けた。


『カケル、そろそろ行くよ』

 カケルが右耳につけているイヤリング——蹴人が自宅から持ってきた聖道具『通信のイヤリング』——から、蹴人の声がカケルの耳に届いた。


 ——操がスキル『水操』で放った水の流れが、もうすぐ敵本陣まで届く。


『オン・ユア・マーク』

 蹴人の声がカケルの耳に響いた。


 ——水流が敵本陣に到達。


『セット』


 ——砦から敵本陣まで、誰もいない1本の『道』が完成した。


『ゴーーー!!!』


 カケル、コダチ、剛田の3人が、敵本陣目掛けて駆け出した!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ