誰かコダチを止めてくれ
ここからはお待ちかね、質問タイムの始まりだ。
「じゃあ、ここは3人を代表して、カケルからみんなに質問してもらおうか」
蹴人の言葉を受けたカケルは、
「じゃあ聞くぞ。みんなは帝国のこと、どう思ってるんだ」
と、お馴染みになりつつある質問を口にした。
まずは剛田が、
「そんなの決まってるじゃねえか。あたしらは帝国の…… あれ? 帝国の何なんだ?」
と、口にすると、遠投3人娘も、
「あれ? なんで帝国のために働いてたんだっけ?」
「そりゃ…… なんでだろう?」
「あたしら、今まで何やってたんだ?」
と、混乱した様子を見せる。
4人の洗脳は解けたみたいだ。しかし——
「おい、お前たちどうしたんだ? みんなで力を合わせて、力なき帝国の民を魔王の手から守ろうと誓い合ったじゃないか?」
キョトンとした顔で、コダチがそう言ったのだが……
「いや、それ言ってたの、コダチだけだから……」
『なに言ってんだ?』みたいな顔をして、剛田がつぶやく。
「そんなこと、ひと言も言ってないから……」
「あたしらは、帝国のために働こうって言ってただけだから……」
「『民のため』とか、恥ずかしくて絶対言わないから……」
遠投3人娘も困ったようにつぶやいた。
「嗚呼、なんてことだ……」
ぶわっ、と大げさに天を仰いだコダチ。
なんだか様になっている。これも練習してたのかな?
「どうやらコダチだけは洗脳されていなかったようだね」
蹴人はそう言った後、王宮にいた宰相のじいさんが、スキル『国威」を使って級友たちを帝国の僕にしていたこと、お茶に混ぜたボロモーケ温泉の素でそのスキルの効果を解除したことを伝えた。
「あのクソジジイ…… 今すぐ王宮に戻ってボコボコにして…… やろうかしら」
ここに蹴人がいなければ、剛田は今すぐ王宮のある王都に向け、走って行ったかも知れない。
命拾いしたな、じいさん。
それはさておき。
「コダチ、君は本当に自分の意志でここに来たのかい?」
蹴人の問いに、
「そうだが?」
と、至極当たり前のような顔をして答えるコダチ。
一同、信じられないという顔でコダチを見つめる。
そのとき——
「ちょっといいか」
幼なじみのカケルが口を開いた。
「コダチは正義感の塊みたいなヤツなんだ。俺たちが小学校の低学年のころ、同級生が中学生にいじめられていたことがあったんだけどさ。それを見たコダチが激怒して、中学生に突っかかって行ったんだ。でも、当然相手にされなくてな。憤ったコダチは、自宅にあった親の金を盗み出し、拳銃の密売人を探して街を彷徨ったんだよ」
カケルの発言を聞いたコダチが説明を加える。
「腕力で敵わなかったので、銃器の力を借りることにしたんだ。私は子どもの頃から頭が良かったのさ。でもカケルよ、お前は少し話を盛っているぞ。私は街を彷徨ったりしていないぞ?」
「そうだっけ?」
「ああ、ちゃんと交番に行って、『どこに行けば、拳銃の密売人に会えますか』って聞いたよ」
「それで、どうなったんだ?」
「大きな警察署に連れて行かれちゃった」
「こういうヤツなんだよ」
「「「「「 どういうヤツなんだよ!!! 」」」」」
同級生一同、力強くツッコんだ。
だが、聖女サマは、いたく感動していた。
なぜだ?
その後、どうしてコダチだけ洗脳されなかったのか、ということについて話し合われた。
コダチが言うには——
「プライベートスキルって、ステータス画面の一番下にあるの? いやぁ、全然知らなかったよ。謁見の間で自分のスキル『剣豪』を見たとき、なんかテンション上がっちゃてさ。最後まで見てないんだ」
「……お前はそういうヤツだよ。じゃあ、なんか親戚とかに、神主さんとかお寺関係の人とかいないのか?」
あきれながら尋ねるカケル。
「うーむ…… 私の叔父さんのお嫁さんの妹が飼ってた犬の獣医さんの——」
「もういい、わかった。とにかく知り合いに、宗教関係の人がいるってことだな。なら、たぶんそれだよ」
「いや、私の母方の実家がお寺なんだ」
「なら、早く言えよ!」
「フッ、ちょっとカケルをおちょくっただけだよ」
「お前、いい加減にしないと……」
「ちょっと話を整理しようか」
あきれ顔の蹴人が口をはさんだ。
そうだよな。このままでは収拾がつかないよな。では蹴人サン、お願いします。
「たぶんコダチはユニークスキル『清廉』を持っている。だから洗脳されなかった。もう、そういうことにしておこう。そして——」
なんだか、ヤッツケ仕事になっているような気もするが、まあいい。それから?
「——ここからが本題だ。コダチの弱い者を助けたい気持ちは理解出来るし、魔王討伐をやめろなんて言うつもりはない。でも、帝国が西で戦争を起こそうとしていることは、みんな知っているだろ?」
女子5人が頷いた。
「カケルと聖女さんは、西の戦争を止めようとして、僕たちのもとを訪れた。戦争をしようとしているのは、僕たちのクラスメイトだ。でも残念ながら僕たちの力だけでは、彼らに敵わないだろう。だからみんなの力を貸して欲しいんだ」
蹴人の話を聞いた剛田が、
「聖女さんがいれば、なんとかなるんじゃない…… のかな。こんなに強いんだ…… よ?」
と言ったが、
「……死人が出ちゃうよ」
という蹴人のひと言に、
「なるほど……」
と、納得した。
「あれ? 私、これでも一応人間なんですけど……」
セイレーンが複雑な表情でつぶやいたが、なぜかみんな目を合わせようとしない。
「聖女殿の戦争を止めたいという気持ちはよくわかった」
と、ここでコダチが口を開いた。
「さり気なく、俺の名前を省くなよ。ちゃんと俺も、戦争を止めたいと思ってるんだからな」
「なんだ? 聖女殿に好かれたい一心で、心にもないことを口走ってしまい、『でも、上手く行ったら、俺、告白とかされちゃって』とかいう、甘い妄想を抱いて喜んでいる、恋愛経験のないカケルよ」
流石は幼馴なじみ。カケルのことをよく理解している。
「おい、見た目はそこそこ美人なのに、その珍妙な物言いのためいつも男に逃げられる、恋愛経験のない憐れな我が同志コダチよ。俺のことは気にせず話を進めてくれていいぞ」
流石は幼なじみ。心が通じ合っているようだ。
コダチは不本意な様子ながら話を続ける。
「チッ、今日のところは引き分けということにしておいてやろう。さて…… いいか蹴人、戦争の一件は私たちにも責任があることなんだ。本来であれば、私たちがあのバカな男子たちを止めないといけなかったはずだ」
「じゃあ、協力してくれるのかい?」
蹴人は期待した目をして、コダチに言葉を向けた。
「ああ。王宮で帝国の連中とケンカ別れしてここに来たけど、実は魔王って、まだしばらく復活しないんだって。だから、ここにいても暇なんだ」
理由はさておき、コダチは協力してくれるようだ。
「それより、王女たちをブン殴って、戦争をやめさせた方が早いんじゃない…… かしら」
「剛田さんの言うこともわかるよ。でもね、もう多くの兵が西へ向かっているんだ。ひょっとすると、すでに戦争が始まってるかも知れない。今は一刻も早く、西へ行くべきだと思うんだ」
遠投3人娘は、頷きながら蹴人の話を聞いている。蹴人の意見に賛成のようだ。




