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クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
ディフェンスの司令塔 塔山蹴人(トウヤマ シュウト)  編

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お前こそボロモーケじゃないか 前編

 カケル、聖女セイレーン、委員長、マイミサオ育栄イクエの6名は、舞がスキルで発現させた透明ボードの上に乗り、空の上を飛行中。


 地域の特産品であるジビエが有名な、チイキ・サイハケーン村を目指しているのだ。



「チイキ・サイハケーン村から東に向かうと、サッカー部の塔山トウヤマ蹴人シュウト君がいる街に行けるのよね」

 委員長が、みんなに向かって言葉を投げかけた。


「蹴人君は頭がよくて性格もいいから、仲間になってくれたら心強いと思うの」

 と、ミサオが応じると、


「そうね。でも、ここからはかなり距離があるから…… 塔山君の所に行くのは、やっぱり北にいる剣道部の鶴木さんたちを仲間に加えた後になるわね」

 と、委員長は確認するような口調で操に言葉を返し、そして次の言葉を付け加えた。


「まあ、早瀬君的には、塔山君を仲間にするのは、きっと最後の方がいいでしょうからね」


『ドキッ!』

 カケルの心臓が跳ねる。


「セイレーンさんを、イケメンで性格のいい塔山君に合わせたくないでしょうから」

『ドキッ! ドキッ!』

 どうやら図星のようだ。


「私、蹴人様に会ったことありますよ?」

 キョトンとした聖女サマがつぶやいた。


「あれ?」

 聖女様の発言に疑問を感じたカケル。


「あの、セイレーンさんは、以前、みんなの名前までは覚えてないって言ってませんでしたっけ?」

 そう言ったカケルに向かって、聖女サマがひと言。


「あの…… 素敵な方だったので……」


「俺、日本に帰りたい……」

 カケル、絶望……


「でも、カケル様の方が、もっと素敵だと思いますよ!」

 聖女サマの口から溢れた言葉に、驚きの声を上げる女性陣。


「え?」

「あれ?」

「ウソ!?」

「お腹空いた」


 腹ペコ舞は置いといて……


「ち、ちょっと! 早瀬君って、洗脳のスキルが使えるの?」

 新しく一行に加わった育栄が驚きの声を上げた。


「……それ、前にも聞いたし。今回で二度目だし。もう、ヘコタレないし」

 と言いつつ、ちょっとヘコタレ気味のカケル。


「私、聖女様に憧れてたのに…… なんで、よりによって早瀬君なの。私きっと、悪夢を見てるんだわ」

 まったく、酷い言われようだな。



 こんな調子で、今日も透明ボードの上は賑やかだ。



♢♢♢♢♢



 さて、正午からはかなり時間が経ってしまったが、チイキ・サイハケーン村まで、あと少しのところまでたどり着いたカケルたち一行だったが……



「お腹空いた。もう限界……」


 舞がそうつぶやくや否や、透明ボードはヘナヘナと地上に向けて落下した。


 山間やまあいの小道に不時着したカケルたち。


 カケルたちの目の前には、驚きの表情で彼らを見つめるたおじさんたちの姿があった。

 おじさんたちは4人組で、荷車のような物を引っ張っていた。何か荷物を運んでいる途中のようだ。


「あ、あなた方はいったい?」

 茫然とした表情でつぶやいたおじさんたち。

 そりゃそうだろう。なんたって、空から人が降って来たんだから。


「私たちは、皆さんの言うところの『勇者』になるのだと思います。スキルを使って空からチイキ・サイハケーン村に向かっていたのですが、ちょっとトラブルがありまして」

 委員長がみんなを代表して、おじさんたちに事情を説明した。

 流石、委員長。こういうとき、本当に頼りになる。


「なんと! 我々チイキ・サイハケーン村の者は皆、勇者様…… おっと、皆様も勇者様でしたね、勇者蹴人様には、いつもお世話になっているのですよ」

 と、一行のリーダーと思われる、一番年長に見えるおじさんが口を開いた。

 おじさんの話を聞き、驚きの声を上げるカケルたち一行。


 おじさんの話では、現在蹴人はチイキ・サイハケーン村と、近くにある大きな街——オリコサーンと言うらしい——とを、行ったり来たりする生活を送っているそうだ。

 ただ、残念ながら、今日はオリコサーンの街へ出かけているという。


 ならば、蹴人のいる街へ行こうじゃないかという話になりかけたところ、舞が、


「イヤだ、イヤだ! アタシは今すぐ肉が食べたいんだ! 肉が食べられないんなら、絶対、スキル『飛翔』は使わないからな!!!」

 と、子どものようなことを言い出した。


「仕方ないわね…… それなら、先に食事を済ませたいんですけど、この辺に食堂とかレストランとかありますか?」

 と、委員長がリーダー格のおじさんに問いかけるが、


「ここは山の中ですので…… 麓の村まで行かないと」

 と、おじさんは申し訳なさそうに答えた。



「もうなんでもいいから食べる! その辺に落ちてる葉っぱでもいいから食べる!」

 我慢の限界を超えた舞が、今度は地団駄を踏み出した。


「ワシらはこれからオリコサーンの街まで肉を売りに行くところだったんです。近頃ではジビエとか言って、たいそうな人気になりましてね。その肉を少しお分け致しましょう。お前たちもそれでいいな?」


 年長者のおじさんの問いかけに笑顔でうなずく3人のおじさんたち。

 この人たちが、みんな良い人でよかったな。


 カケルがお金を払おうとすると——


「いえいえ、いつも勇者蹴人様にはお世話になっていますので、お金は結構ですよ」


 そう言ってもらったのだが、それでは流石に申し訳ないので、カケルたちは相談の上、ボロモーケ温泉の素を一つずつあげることにした。


 大人買いしたから、温泉の素はまだまだいっぱいあるのだ。


「なんと! そんな貴重なものをいただけるとは! ありがたや、ありがたや。そういうことでしたら、肉はすべてすべて差し上げましょう! この近くに炭焼き小屋がありますので、どうぞそこで召し上がって下さい!」


 そういえば、ボロモーケ温泉は万病に効くんだったな。

 おじさんたちが大喜びするのも納得だ。



 ♢♢♢♢♢♢



 只今、炭焼き小屋で少し遅めの昼食中。

 せっかくだからと、おじさんたちも一緒に食事をすることになった。

 盛大な焼肉パーティー開催中だ。



「お代わり!!! おじさん、このお肉、スっごく美味しいね!」

 みんなから少し離れた場所から満面の笑みを浮かべた舞が、大きな声を上げた。

 舞だけ離れた場所に座っているのは、ユニークスキル『芸人』の発動を避けるためだ。


「ありがとうございます。実は、肉だけ食べると臭みがあるのですが、薬味を肉に付け込むことによって、とても美味くなるのですよ。蹴人様が薬草やら木の実やらを見つけてくださり、この食べ方を教えて下さったんです。これまでは畑を荒らす害獣であったものどもが、今では地域の特産品と言われるまでになりました」


 なるほど。地域のお宝再発見って訳だな。



「はひふのひいはんひは——」

 口いっぱいに肉を頬張りながら、なにやら解説している舞。


 舞の親友操が通訳してくれた。

「『あいつのじいちゃんは中華料理屋だからな。ときどき店を手伝ってるって言ってたし』と、言ってるんだと思うの」


 舞の家は蹴人の家の近所にあり、家族ぐるみで仲良くしているそうだ。


 舞の通訳を聞いたカケルがしみじみと口を開いた。

「ひょっとすると、アイツのプライベートスキルは『中華の達人チェンさん』かも知れないな」

 誰だよ、それ?



 ♢♢♢♢♢♢



 食事を終えたカケルたち一行は、蹴人に会うべくオリコサーンの街へと向かった。

 透明ボードを使ったため、1時間もかからず、オリコサーンの街に到着することが出来た。


 カケルのスキル『隠蔽(本当は姑息こそく)』を使って、街の中に入ろうとしたところ、セイレーンがカケルたちに静止するよう促した。


「街の入り口にある入場門には、聖術で作られたスキル看破かんぱの結界が張ってあるようです」

 どうやら、カケルのような隠蔽系のスキルを持つ者への対策がなされているようだ。



 門番は通行証か身分証明書を見せろと言っているみたいだが……

 カケルたち日本から来た転移者は、そんなもの誰も持っていない。


 さて、どうしようかとみんなで顔を見合わせていたところ——


「フッフッフ、ハッハッハ、アーハッハッハ、です! どうやらここは、私の出番のようですね!」

 セイレーンが得意げに、懐から一枚の紙を取り出した。


「これは、私が帝国内の教会へ赴任するとき、教王様からいただいた任命書です。これほどわかりやすい身分証明書はないと言ってもいいでしょう! みなさんは私の友人として、私と一緒に街の中へ入っていただくことに致します!」


 そう言って、ちょっと誇らしげな様子で、門番に任命書を見せる聖女サマ。


 すると、任命書を見た門番がマジマジと聖女サマの顔を見て、

「あなた、あの水の聖女セイレーンさんですね」

 と、聖女サマに問いかけた。


「いやあー、やっぱりセイレーンさんは有名人ですね!」

 感嘆の声を上げるカケル。


「そんなことありませんよ! なんだか恥ずかしいです」

 と言いつつ、満更でもない様子の聖女サマ。


 二人のやり取りに無関心な様子の門番が口を開いた。


「王宮からの通達です。あなたは王宮からの無断逃亡、容疑者隠匿、並び国家転覆容疑で全国指名手配されています。我々とご同行願います」


「え?」

 二人の門番に両腕を掴まれて詰所へと連行される聖女サマ。


「あれ?」

 状況が飲み込めず、周囲をキョロキョロ見回す聖女サマ。


「おや?」

 笑顔が引きつっている聖女サマ……



 カケルたちは…… みんなポカーンとした顔をしていた。

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