幕間 王女と宰相のじいさん⑤
「ハァ…………」
「フゥ…………」
ここは王宮にある王女の部屋。
王女と宰相のじいさんが、テーブルを挟んで顔をつき合わせ、ため息をついている。
「開拓村ノホホーン周辺の農作物が、一斉に枯れたそうね……」
「はい…… どうやらいつの間にか、ノホホーン村にいた女勇者が行方をくらませていたようですわい」
農山育栄のスキル『農耕』とは、彼女が畑に鍬を入れるだけで、作物がどんどん育っていくという優れたスキルであった。
ただ、これをいいことに、ノホホーンの村の住人は育栄に畑仕事を押し付けて、自分たちはなんの仕事もせずに一日中のほほーんと暮らしていたらしい。
そりゃ、村人が仕事をしないのなら、農作物も枯れるだろうよ。
「これって、あの変態転移者と関係があるのかしら?」
しつこいようだが、変態転移者とは王女のパンティをくすねて逃げたカケルのことである。
「わかりません…… ノホホーン村の者どもの中に、あの変態転移者を見たものはおりませぬゆえ」
それはそうだろう。カケルたちがノホホーン村で育栄と会っていたとき、周囲には誰も人がいなかったのだから。
大方、村の連中は、家でのんびりしていたのであろう。
——ガバッ!!!
なんだ? 今まで意気消沈していた王女が、急に立ち上がったぞ?
「わかりました! わたくし、今、はっきりとわかりました! わたくしの頭に、今、ビビビと何かが降りてきましたわ!!!」
「……またですか。い、いえ、なんでもありません」
ため息交じりのじいさん。
「いいですか爺、これはきっと陽動です!」
「……と、言いますと?」
「変態転移者たちの本体は、船で西に向かっているはずです。その本体が目指す目的地を悟られないようにするため、他の勇者が協力して陽動を仕掛けているのです!!!」
「……はあ」
もはやじいさんには、王女に反論する気力もないようだ。
「他の者なら、きっと騙されていたことでしょう。ふっ、でもわたくし相手に、そんな子供騙しの計略が通用すると思ったら、大間違いですわよ!」
大間違いしてるのは王女サマだよ……
「農作物を枯らすなんて、なんと非道なことをするのでしょう! これはテロです! そう、帝国に対する宣戦布告です!」
まったく、なにがテロだよ。
じいさんが手にした報告書にはこう書いてある。
育栄が居なくなった後、すっかり楽を覚えたノホホーン村の住民たちは、もうしんどい農作業はごめんだと言って、更なるお気楽生活を求め、みんな村から出て行ったそうだ。
どうやらじいさんは、真実を王女サマに報告しないと決めたようだ。
そりゃ、あの王女様なら、逃げた村人全員殺せとか言いかねないからな。
「きっと変態転移者の仲間たちは、帝国内で今後も陽動を仕掛けてくるでしょう。そのようなことは、絶対にさせません! 帝国内すべての土地に、あの者どものテロを防ぐため、兵を出しなさい!」
「…………姫様のご慧眼、恐れ入りますわい。ただ、近衛兵を除くすべての国軍は、ただ今西の国境を目指して移動中でございまして……」
「そんなこと、爺に言われなくてもわかっています! わたくしは、各地の領主たちに、兵を出させよと言っているのです!」
「ひ、姫様、お待ちを! 我が帝国では開闢以来、地方貴族たちには税を課すのみで、兵役を課したことなどありませんぞ!!!」
「わかっています!!! これを機会に、帝国は生まれ変わるのです!!! わたくしが絶対的支配者になるのです!!!」
ヒステリックに叫んだ王女。
「…………………………姫様の御意のままに」
じいさんは、すべてを諦めたような顔をしていた……
こうしてこの後、王女は地方領主たちの信頼を失うことになる。
王女サマ、ザマァ!




