ドランク聖女セイレーン
「ちょっと、セイレーンさん、いったい何を飲んだの!?」
酔っ払っているセイレーンに対し、驚いた様子の委員長が尋ねる。
「日本で言うところのワインれすけどなにか?」
「こっちの世界でもワインはワインですよ……」
ちょっとあきれた様子の操。
「日本ではどうか知りまへんが…… ヒック、この世界れは、18歳からお酒が飲めるんれすよーーー、ハッハッハ! あらひは18歳なのれす。みなさんより、おねえさんなんれす!」
「ちなみにお酒を飲んだ経験は?」
再び聖女サマに問いかける委員長。
「初めてれすーーー! ウキャキャキャ……」
聖女サマはとても楽しそうなご様子だ。
酔っ払い聖女サマを見たカケルはというと——
『セイレーンさんって、呑んだくれてもカワいい』
……ハイハイ。
カケルたちが、ヘベレケ聖女サマをどうしようかと考えていたそのとき——
「大変だ! 港に大型モンスター襲って来たぞ!!!」
レストランの外から、男が大音量で叫んでいる声が聞こえた。
「私、ちょっと見てくる!」
真面目な操がそう叫ぶと、一目散に港目指して駆け出した。
「待って! アタシも行く!」
舞も操に続いて、レストランから飛び出した。
「…………早瀬君は行かないの?」
「…………そういう委員長は行かないのかよ?」
「私のスキルは『説教』なのよ? 言葉が通じない怪物に『説教』が通じるわけないじゃない」
「それを言うなら、俺のスキルだって、攻撃系じゃないからな……」
「ここは水の聖女セイレーンさんの出番だと思うんだけど……」
そう言って聖女サマに視線を向けた委員長だったが……
聖女サマは気持ち良さそうに寝ている。
まあ、酔っ払って大声で騒ぎたてられるよりは、よっぽどマシだけど。
「水野さんが心配だわ。彼女、無理しないかしら……」
そう言って、じっとカケルを見つめる委員長。
「ああもう、わかったよ。俺、ちょっと見てくるよ。委員長はここでセイレーンさんを見ててくれ」
「わかった。変なヤツが来たら、スキル『説教』を使って、海に飛び込めとでも言ってやるわ」
「……ほどほどにな」
♢♢♢♢♢♢
カケルが港まで来てみると——
なんと、クソデッカいタコかイカか、よくわからないモンスターが、沖の方から港に向かって来ているではないか。
「ウミボーズが来るぞ!!! このままだと、倉庫地区もすぐにヤラレちまうぞ!!!」
海岸から50mほど離れた場所にある倉庫が並んでいるエリア——ここでは倉庫地区と言うらしい——で、港湾関係者であろうと思われる男たちが騒いでいる。
「……ウミボーズってなんだよ。ここはクラーゲンでいいじゃないか、街並みは中世ヨーロッパ風なんだから。まったく異世界感台無しだよ……」
これだから、異世界ものラノベマニアは……
よく見ると、海岸から沖へ向かって大小の波がうねりをあげ、ウミボーズ目掛けて襲いかかっている。
このためウミボーズは、なかなか港に近づくことが出来ない。
船着場に立つ操がスキルを使っているようだ。
船着場は、海のすぐ側にある。
カケルは船着場まで…… は、行かず、倉庫地区で足を止めた。
これだから、女子からヘタレだのチキンだのと言われるんだよ……
「ミサちゃん、頑張れーーー!!!」
船着場にいる操のすぐ横で、舞が一生懸命応援してる。
操のスキルは『水操』。
水を操るスキルだ。
操は海水をウミボーズにぶつけて、こちらに近づけないようにしているのだ。
しかし、相手がデカ過ぎる。
日本でいうところの大型タンカーぐらいの大きさはあるだろう。
操も頑張っているようだが、それでも少しずつ、ウミボーズはこちらに近づきつつある。
「水野さん、もう限界だ、逃げよう! もうすぐウミボーズがここまで来るよ!」
倉庫地区からカケルが叫ぶ。
「ダメ!!! このままじゃ、港が破壊されるの!!!」
「おい舞! お前からも、水野さんに逃げろって言えよ!!!」
「むむむむむ…………」
ダメだ。舞自身は逃げた方がいいと思っているようだが、操の頑張りを無駄にしたくないという気持ちの方が強いようだ。
『どうしたらいいんだ!!!』
カケルが心の中で叫んだそのとき——
「ういー、なにやってんれすか?」
場違いな人がやって来た。
「ごめん、止めたんだけど、言うこと聞いてくれなくて」
委員長は息を切らしていた。
どうやらここまで、聖女サマを追いかけて来たようだ。
「なんれすか、アレ? 人がせっかくいい気分でくつろいでるのに」
くつろいでいるんじゃなくて、酔いつぶれてたんだろ?
「超大型モンスターですよ! このままだと港に上陸されて、この街はメチャクチャにされます!」
必死の形相でカケルが叫ぶ。
「なんと…… それは大変れす。わらしがなんとかしましょう。行きますよ、えーーーい」
聖女サマが状況にそぐわない、とてもかわいい雄叫びをあげると——
——ドゴオオオーーーーーー!!!
聖女サマの手のひらから、大量の水が恐ろしい勢いで吹き出した。
例えるなら、それはまるでレーザービーム。
そのレーザービームのような水の暴力は、あっさりウミボーズの胴体を貫通した。
ウミボーズ、一瞬のうちに撃沈。
倉庫地区でウミボーズの最後を見た男たちは…… 声を失った。
ウミボーズを海の藻屑と化した、当の本人は……
委員長にもたれかかって、かわいい寝息をたてていた。
「…………絶対に、セイレーンさんを怒らせてはいけないわね」
真剣な表情の委員長。
「今後酒を飲ませると、何人かの命が失われるような気がする」
これまた真剣な表情のカケル。
『俺、王宮から逃げ出したとき、街道で出会ったセイレーンさんを助けたつもりだったけど…… 実は助けなんていらなかったのでは? むしろ、追跡して来た兵士たちの命を守ったのでは?』
内心ビビリまくりのカケル。
『でも、そんなセイレーンさんも——』
久しぶりに、以下、省略。




