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クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜腹黒王女からクラスメイトを取り戻せ!〜  作者: 大橋 仰
スイマー 水野操(ミズノ ミサオ) 編

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33/66

操は毎日魚づくし 後編

 幸せそうに肉料理を頬張りながら、ミサオがこれまで自分の身近で起きた出来事について、順を追って話し始めた。


 王宮で過ごした3ヶ月間、その後森で実戦訓練をした2ヶ月間、ここまでは舞から聞いていた情報とほとんど変わりない。


 さて、いよいよ1ヶ月前の出来事、すなわち女子と男子が喧嘩した一件について話が及ぶと——


「ウチのクラスの男子はみんな、クズだと思うの」

 操はバッサリとクラスの男子を切って捨てる言葉を放った。


「あの…… 一応俺も、クラスの男子の一員なんですけど……」

 おずおずと口を開いたカケルが、おどおどとセイレーンの顔を見る。

 大丈夫だよ、そんなことで聖女サマがカケルのことを嫌いになんてならないよ、たぶん。


「あっ、ゴメン。正確に言うと、蹴人しゅうと君はクズじゃないし、カケル君はクズかどうかわからない。残りの男子はみんなゴミ」


 蹴人とは西の国境へ行かなかった、唯一の男子である。



「あのー…… そこは蹴人と一緒に、俺も、クズとかゴミじゃない方のカテゴリーに含めてもらえませんでしょうか」


「だって、カケル君がどう言うかわからないから」


「ねえ、水野さん、一体どういうこと?」

 しびれを切らしたように、委員長が口をはさんだ。


「あのね、ニッシーノ国との戦争に協力したら、ハーレムを作ってやるって帝国の人が言ったの。そしたら、バカな男子どもが大喜びしやがって……」

 操の語尾がおかしい…… 相当ご立腹のようだ。


 操の話を聞いたカケルは思わず叫んだ!

「なんとうらやましい!!! いや、汚らわしい!!!」



『ヤバイ、本音が口から出ちまった…… たぶん上手くごまかせたと思うんだけど……』

 心の中で危機感を覚えたカケルが、操たちの顔を見ると……


 操——アウト。ごまかせていない。

 委員長——アウト。ごまかせていない。

 セイレーン——ギリでアウト。たぶん、ごまかせていない。

 舞——ドロー。初めから話を聞いていない。


「…………すみせんでした。ちょっとだけ羨ましいと思ってしまいました。…………でも、こと女性関係におきましては、わたくしめが口だけ番長のチキン野郎だということを、皆さまよくご存知だと思います。………………なあ! ハーレムを作ってやるとか言われたら、確かに最初はハシャいじゃうかも知れないけど、俺には絶対そういうのはムリだってわかるだろ! なあ、みんなもそうだと思うだろ!!! セイレーンさん、信じて下さい!!!」


 人間とは追い詰められると、ここまで自分のことを卑下出来るものなのか?


「そうね。早瀬君って口だけは達者だけど、いざ女の子の前に出ると、急にヘタレになるからね」


「そうだね。カケル君は舞以外の女子と喋ると、なに言ってるかわからないほどキョドキョドするもんね。女の人に囲まれたら、きっと緊張しっぱなしだろうね」


「そうそう! 早瀬君ならきっと、『あのー、もしよろしければ、エッチなことをさせていただきたいんですけど、よろしいでしょうか』とか聞きそうだしね」


「わかる! いざエッチなことをしようとしたら、いっぱい鼻血出して病院に運ばれそう」


「「 あはははは!!! 」」



「おいっ、二人とも!!!」

 カケルがものすごい剣幕で叫んだ。

 流石のカケルも、ここまで言われては黙っていられない…… あれ? 違うのか?


「ありがとう!!! 俺のことよくわかってくれてたんだな。俺、今とっても嬉しいよ!!!」


 ……なんでこれほど悪し様に言われて、この男はこんなにも喜ぶことが出来るのだろう?

 これは一種の才能というものなのか?

 ……そんなわけないな。聖女サマに嫌われまいと必死なんだな。

 わかるよ、カケル。でも、なんだか涙が出そうだよ……



「でも…… カケル様は、私とお話になるとき、そんなにキョドキョドしい態度ではないと思うのですが?」

 純粋無垢な目でカケルを見つめるセイレーン。


「そっ、それは、その…… セイレーンさんが、俺にとって特別な人だからです!!!」


「あっ、早瀬君がとうとう言った!」

「これで今日からカケル君は、もうキョドル君じゃないの」

 さりげなく変なアダ名つけるの、やめてやれよ……


「そうだよ! セイレーンは特別なんだ——」

 あっ、さっきまでボケーっとしていた舞が、絶妙なタイミングで口をはさんできた。

「——セイレーンの面白さは、ホント特別だよ! たった今、アタシから『バカ3号』の称号を送らせてもらうよ!」


「まあ、嬉しいです! 今日から私、『バカ3号』の名に恥じぬ立派なバカになるよう、いっぱいボケていきますね!」


「ツッコミも期待してるよ!」


「わかりました!」


 …………まあ、そういうオチになるんだろうな。


 さぞやカケルは、ガッカリしているんだろうな…… と思ったけど違うのか?


『いやー、良かったよ。ナイスおバカだよ、舞。俺、勢い余って告白っぽいこと言っちゃったけど、断られたらどうしようって、ドキドキしちゃった。それに、ハーレムの件もなんだかうやむやになったし、なんだか最高のエンディングじゃないか!』


 カケルはやっぱり、キョドル君のままだった……

 なんかもう、聖女サマとうまくいくことを心から祈らせてもらうことにするよ。



「でも、この世界に来てから、早瀬君はちょっと変わったのかな?」

「そうだね。私たちともナチュラルに喋ってるの」


『ふふっ、セイレーンさんと二人きりで話す機会を得たことで、俺の対女子トークスキルは飛躍的に向上したのさ』

 カケルはそんなことを心の中で考えていた。そしてセイレーンへの感謝の言葉を口にした。

「ふふっ、これもすべてセイレーンさんのおかげですよ」


「なんでやねーーーん!!!」

 あれ? なぜかセイレーンが急に雄叫びを上げたんだけど……

 

「え? セイレーンさんの身に、いったい何が……」


「うーん…… ツッコミって難しいですね。今のはツッコむタイミングではなかったのでしょうか……」


「…………これからは、俺が全責任を持ってツッコみますので、どうかセイレーンさんは、心のままにボケて下さい」


 ギリギリの落とし所を見つけたカケルであった。

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