操は毎日魚づくし 後編
幸せそうに肉料理を頬張りながら、操がこれまで自分の身近で起きた出来事について、順を追って話し始めた。
王宮で過ごした3ヶ月間、その後森で実戦訓練をした2ヶ月間、ここまでは舞から聞いていた情報とほとんど変わりない。
さて、いよいよ1ヶ月前の出来事、すなわち女子と男子が喧嘩した一件について話が及ぶと——
「ウチのクラスの男子はみんな、クズだと思うの」
操はバッサリとクラスの男子を切って捨てる言葉を放った。
「あの…… 一応俺も、クラスの男子の一員なんですけど……」
おずおずと口を開いたカケルが、おどおどとセイレーンの顔を見る。
大丈夫だよ、そんなことで聖女サマがカケルのことを嫌いになんてならないよ、たぶん。
「あっ、ゴメン。正確に言うと、蹴人君はクズじゃないし、カケル君はクズかどうかわからない。残りの男子はみんなゴミ」
蹴人とは西の国境へ行かなかった、唯一の男子である。
「あのー…… そこは蹴人と一緒に、俺も、クズとかゴミじゃない方のカテゴリーに含めてもらえませんでしょうか」
「だって、カケル君がどう言うかわからないから」
「ねえ、水野さん、一体どういうこと?」
しびれを切らしたように、委員長が口をはさんだ。
「あのね、ニッシーノ国との戦争に協力したら、ハーレムを作ってやるって帝国の人が言ったの。そしたら、バカな男子どもが大喜びしやがって……」
操の語尾がおかしい…… 相当ご立腹のようだ。
操の話を聞いたカケルは思わず叫んだ!
「なんと羨ましい!!! いや、汚らわしい!!!」
『ヤバイ、本音が口から出ちまった…… たぶん上手くごまかせたと思うんだけど……』
心の中で危機感を覚えたカケルが、操たちの顔を見ると……
操——アウト。ごまかせていない。
委員長——アウト。ごまかせていない。
セイレーン——ギリでアウト。たぶん、ごまかせていない。
舞——ドロー。初めから話を聞いていない。
「…………すみせんでした。ちょっとだけ羨ましいと思ってしまいました。…………でも、こと女性関係におきましては、私めが口だけ番長のチキン野郎だということを、皆さまよくご存知だと思います。………………なあ! ハーレムを作ってやるとか言われたら、確かに最初はハシャいじゃうかも知れないけど、俺には絶対そういうのはムリだってわかるだろ! なあ、みんなもそうだと思うだろ!!! セイレーンさん、信じて下さい!!!」
人間とは追い詰められると、ここまで自分のことを卑下出来るものなのか?
「そうね。早瀬君って口だけは達者だけど、いざ女の子の前に出ると、急にヘタレになるからね」
「そうだね。カケル君は舞以外の女子と喋ると、なに言ってるかわからないほどキョドキョドするもんね。女の人に囲まれたら、きっと緊張しっぱなしだろうね」
「そうそう! 早瀬君ならきっと、『あのー、もしよろしければ、エッチなことをさせていただきたいんですけど、よろしいでしょうか』とか聞きそうだしね」
「わかる! いざエッチなことをしようとしたら、いっぱい鼻血出して病院に運ばれそう」
「「 あはははは!!! 」」
「おいっ、二人とも!!!」
カケルがものすごい剣幕で叫んだ。
流石のカケルも、ここまで言われては黙っていられない…… あれ? 違うのか?
「ありがとう!!! 俺のことよくわかってくれてたんだな。俺、今とっても嬉しいよ!!!」
……なんでこれほど悪し様に言われて、この男はこんなにも喜ぶことが出来るのだろう?
これは一種の才能というものなのか?
……そんなわけないな。聖女サマに嫌われまいと必死なんだな。
わかるよ、カケル。でも、なんだか涙が出そうだよ……
「でも…… カケル様は、私とお話になるとき、そんなにキョドキョドしい態度ではないと思うのですが?」
純粋無垢な目でカケルを見つめるセイレーン。
「そっ、それは、その…… セイレーンさんが、俺にとって特別な人だからです!!!」
「あっ、早瀬君がとうとう言った!」
「これで今日からカケル君は、もうキョドル君じゃないの」
さりげなく変なアダ名つけるの、やめてやれよ……
「そうだよ! セイレーンは特別なんだ——」
あっ、さっきまでボケーっとしていた舞が、絶妙なタイミングで口をはさんできた。
「——セイレーンの面白さは、ホント特別だよ! たった今、アタシから『バカ3号』の称号を送らせてもらうよ!」
「まあ、嬉しいです! 今日から私、『バカ3号』の名に恥じぬ立派なバカになるよう、いっぱいボケていきますね!」
「ツッコミも期待してるよ!」
「わかりました!」
…………まあ、そういうオチになるんだろうな。
さぞやカケルは、ガッカリしているんだろうな…… と思ったけど違うのか?
『いやー、良かったよ。ナイスおバカだよ、舞。俺、勢い余って告白っぽいこと言っちゃったけど、断られたらどうしようって、ドキドキしちゃった。それに、ハーレムの件もなんだかうやむやになったし、なんだか最高のエンディングじゃないか!』
カケルはやっぱり、キョドル君のままだった……
なんかもう、聖女サマとうまくいくことを心から祈らせてもらうことにするよ。
「でも、この世界に来てから、早瀬君はちょっと変わったのかな?」
「そうだね。私たちともナチュラルに喋ってるの」
『ふふっ、セイレーンさんと二人きりで話す機会を得たことで、俺の対女子トークスキルは飛躍的に向上したのさ』
カケルはそんなことを心の中で考えていた。そしてセイレーンへの感謝の言葉を口にした。
「ふふっ、これもすべてセイレーンさんのおかげですよ」
「なんでやねーーーん!!!」
あれ? なぜかセイレーンが急に雄叫びを上げたんだけど……
「え? セイレーンさんの身に、いったい何が……」
「うーん…… ツッコミって難しいですね。今のはツッコむタイミングではなかったのでしょうか……」
「…………これからは、俺が全責任を持ってツッコみますので、どうかセイレーンさんは、心のままにボケて下さい」
ギリギリの落とし所を見つけたカケルであった。




