操は毎日魚づくし 中編
水野操が温泉の素を飲んだことを確認したカケルは、早速、彼女への質問を開始した。
「水野さんは、なんでこの街に来たの?」
「漁師さんのお手伝いをするためなの」
「え?」
帝国に命令されたからではないのか?
「舞と一緒にボロモーケの街に行ったんだけど、私のスキル『水操』は、漁業の方が向いてるって思ったの」
「うーむ…… 水野さんはエライんだね……」
「ちゃんと働くのは当然だよ? そのうちカケル君にも仕事を紹介してあげるから」
「いや、俺、ニートじゃないし…… そんなハローワークの職員さんみたいな配慮いらないし……」
操が真面目すぎて、なかなか本題に入れない。
「じゃあもう、単刀直入に聞くけど、帝国のこと、どう思ってるの?」
「そんなの、帝国は私たちの…… あれ? 帝国って、私たちの何だろう?」
「やりましたよ、カケル様! スキルの影響が解除されています! 私、頑張った甲斐がありました!」
頑張りすぎて挙動不審だったことは、本人に言わない方がいいだろう。
キョトンとした表情を浮かべている操。
「水野さんは洗脳されてたんだよ」
カケルはそう言うと、これまでの経緯をかいつまんで説明した。
「そうだったんだね…… 私、自分の力でこの漁場に繁栄をもたらしてやろうと思ってたの」
舞と同じようなことを言い出した操。
「帝国のためにいろいろ我慢してきたんだけど、じゃあ、ちょっとぐらいワガママを言っていいのかな?」
「ああ、なんでも言って見ろよ」
「…………お肉が食べたいの」
「は?」
「ここは漁業しかない村なの。だから三食すべてお魚料理なの。もう限界なの。とにかくお肉が食べたいの」
一気に早口でまくし立てる操。
よっぽど魚づくしの毎日だったんだろうな。
「じゃあ、とにかくご飯でも食べに行こうか」
カケルがそう言ったとき——
少し遠くから隠れて様子を見ていた委員長が、カケルたちの元へやって来た。
「あれ、委員長も一緒なの? えっと……」
困惑する操。
そのとき、浜辺の方から、笑顔を爆発させた舞の叫び声が聞こえた。
「委員長が、アタシたちに悪いことするわけないだろおおおーーー!」
「そうだね。舞の言う通りだね。委員長のこと疑って、ごめんなさい」
そう言って、舞はペコリと頭を下げた。
それを見たセイレーンが——
「うおおおーーーん! ええ話ですーーー!!!」
と、また号泣した。
それを見たカケルも——
「うおおおーーーん! 委員長、良かったなあーーー!!!」
と、やっぱり号泣した。
それを見た舞も——
「うおおおーーーん! コゼニスキーさんみたいな、面白いオチが思い浮かばないよーーー!!!」
……紛らわしいよ。泣くほど悔しいのかよ。…………ああ、もう、こっちまでオチが浮かばなくなったよ!
それはさて置き。
お互いの詳しいことは食事をしながら話すことにして、とりあえずみんなで舞の透明ボードに乗って移動することになった。
ボロモーケの街に戻るより、ここから更に南にある港湾都市マドロースの街の方が近いそうなので、進路は南にとることにした。
♢♢♢♢♢♢
カケルたちはマドロースの街のレストランで料理を注文した。
もちろん、今回もカケルが支払い担当だ。
委員長がちょっと複雑な表情をしているが、まあこれはいつものことだ。
ここは海に面した街であるが、街の規模はかなり大きく、牧草地も街の中に含まれているそうだ。
そのため、このレストランのメニューにも、ちゃんと肉料理が載っていた。
操がニッコリ微笑んでいる。
しかし舞は、ムスッとした顔をして、カケルたちからちょっと離れた場所に座っている。
かわいそうだが仕方ない。
ここで爆笑したら、お店の人に迷惑をかけてしまうのだ。




