舞が温泉に入ったら
ボロモーケの街郊外にある温泉の前にたどり着いた、カケルたち一行。
委員長の隣には、カケル、セイレーン、コゼニスキーの3人が、笑い疲れてぐったりしていた。
その横には、ここまでコゼニスキーに抱えられてきた舞が、地べたに横たわりスヤスヤと寝息を立てている。
「コゼニスキーさん…… いくら自分が笑い死にそうだからといって、高嶺さんのことを物みたいに扱わないで欲しいんですけど。さっき、道端にポイって捨てたでしょ? それにしても…… こんな扱いをされても、高嶺さんは本当に起きないのね」
委員長が口を開くが、委員長の言葉に続く者は誰もいない。
コゼニスキー同様、カケルとセイレーンも笑い過ぎたあまり、話す気力も尽きてしまったようだ。
カケルなど、また白目をむいて、ヨダレを垂らしているではないか。
しばらくして——
3人の体力が回復したのを確認したうえ、コゼニスキーが温泉の経営者と話をするため、温泉施設中に入って行った。
数分後、カケルたちの元に返って来たコゼニスキー。
今は夜であるため、本来なら営業時間は終わっているが、コゼニスキーの顔を立てて、管理人が特別に温泉に入る許可をくれたとのこと。
コゼニスキーは、ちょっと自慢げだ。
ここで……
カケル、セイレーン、コゼニスキーの視線が、一斉に委員長のもとへ向けられた。
ここまでの道中、委員長だけは舞のスキル発動範囲1mの外側にいたため、笑い過ぎて死ぬのではないかという恐怖を経験をしていないのだ。
「わ、わかったわよ。今度は私が高嶺さんを背負うわよ! 背負えばいいんでしょ!」
勢いよく舞を背負った委員長だったが……
「グヘヘへ!!! な、なにこれ…… お腹が…… ゲヘヘヘヘ!!!」
笑い方は人それぞれのようだ……
施設内に入り、温泉へと向かうカケルたち一行。
営業時間が終わっているため、周囲に人はいない。
また、ここまで来てこれ以上急ぐ必要もない。
そういうわけで、みんな手はつないでいない。
舞は委員長に任せている。
そう、犠牲者は少ない方がいいのだ……
委員長は舞を背負っているため、両腕が自由に使えない。
笑い過ぎて涙を流し、その…… 言いにくいのだが、鼻水とヨダレも垂れ流しだ。
普段の知的な容貌が見る影もない。
メガネも左側が上がり右側が下がり、まるで喜劇役者のように見える。
「惜しい。これでメガネが落ちたら最高なのに。俺、『メガネメガネ』って言いたかったな」
「え? カケル様、なにを言っているのですか?」
どうやらセイレーンは、往年の大師匠を知らないようだ。
それはさて置き。
やっと温泉に到着した一行。
日本で言うところの露天風呂のような場所だ。
——ドボン!
いろんな我慢の限界に達した委員長が、ポイっと舞を温泉に投げ捨てた。
「おい、委員長! なにやってんだ!」
カケルが叫んだ。しかし……
「…………そ、そっと地面に降ろすなんて…… フフフ、絶対に無理よ! グヘヘへ!!! 温泉に投げ入れるのが…… クックックッ、一番安全だと思ったのよ! ゲヘヘヘヘ!!!」
先ほど、舞をポイしたコゼニスキーの気持ちが、痛いほどよくわかった委員長だった。
「ゴボゴボ…… お、溺れる……」
温泉に投げ込まれた舞。
流石の舞も目を覚ましたようだ。
「舞、大丈夫か! 早く捕まれ!」
そう言って、お湯のすぐ側まで行って手を伸ばすカケル。
カケルが舞の手を掴んだそのとき——
「アッハッハッハ!!!」
——ドボン!
爆笑のあまりカケルは舞の手を離してしまった……
「ゴボゴボ…… ま、また溺れる……」
哀れ、舞は再び温泉の底へと落ちて行った……
いや、落ちて行ったらダメじゃないか!
「勇者様! そこはそんなに深くありませんから、ちゃんと立てば足がつきますよ!」
この温泉をよく知るコゼニスキーが叫ぶと——
「ゴボ? あっ、ホントだ。ここ結構浅いや」
舞が、なんだコレ? みたいな顔をしたそのとき——
騒動を聞きつけた管理人の男が慌てた様子でやって来た。
心配させてしまい、申し訳ない。
「あの…… 大声で笑ったり叫んだり…… いくら夜だといっても近所迷惑なんで、やめてもらえますか? 非常識ですよ?」
……全然、心配してなかった。
完全に目が覚めた様子の舞が、なにやら話し出した。
「なんだよ、なんでアタシこんなトコにいるんだ? あれ? アタシの服、ベチョベチョじゃないか。まったく、仕方ないな」
そう言って、ブワッと上着を脱ぎ捨て、下着姿になった舞。
「ギエエエーーー!!! 痛ェェェーーー!!! ま、舞! 服を着てくれ!!! お願いだからーーー!!!」
どうやらカケルの胸に刻まれた、『エロいこと禁止聖紋』が光ったようだ……
激痛に襲われ、大声で叫びながらのたうちまわるカケル。
「…………もう帰ってもらっていいですか?」
あきれ顔の管理人のひと言が、カケルの胸に哀しさと切なさを刻み込んだ。




