おもしろ神官、コゼニスキー
「この街は商業都市です。ひょっとすると、精神干渉系のスキルを解除する聖道具を売っているかも知れませんよ」
セイレーンが委員長を励ましている。
委員長のスキル『説教』では、どうやら舞の精神に干渉しているスキルの効果を解除出来ないようだということが、先ほどの泥棒たちとのやり取りで明らかになった。
委員長は責任を感じているみたいだ。
しばらくして——
気を取り直した委員長は、カケル、セイレーンとともに、この街にある道具屋を回ることにした。
いろいろな道具屋を回ってみたが、残念ながら、今のところお目当ての聖道具は見つけられずにいた。
「まあ、いろんな聖道具が出回ってるみたいだし、きっとそのうち見つかるよ」
「カケル様のおっしゃる通りです! でも…… 本来、聖道具とは教会で使用するものですので、これだけ聖道具が出回っているということは、きっと誰かが不正に教会から持ち出しているのだと思います。ちょっと複雑な心境です……」
そんな会話をしながら、次の道具屋に入ってみたところ——
フードを深く被った、いかにも怪しげ女が、なにやら店主と親しげに話していた。
きっと常連客なんだろう。
その女が、カケルたちを見て、
「あっ!」
と、声を上げた。
「えっと…… どなたでしょうか?」
しっかり者の委員長が女に声をかける。
「わ、私は通りすがりの生活習慣病予防プランナーです。それでは……」
そう言って、そそくさと店から出ようとしたところ——
「あれ? あなたは以前、教王国で一緒にお師匠様の元で学んだ、コゼニスキーさんではありませんか。確か今はボロモーケの街にある教会で神官をされていたのでは?」
驚いた表情で、セイレーンが女に声をかける。
「い、いえ、私はどこにでもいる、ごく普通の整理収納アドバイザーです」
珍しいよ。少なくとも、どこにでもはいないと思うよ。
それから一応ツッコむと、さっきと職業違うよ。
怪しい女が店の外へと向かって足を踏み出そうとした瞬間——
「コゼニスキーさん! 良い聖道具があったら、またよろしくお願いしますよ!」
店主の陽気な声が店内に響いた。
「も…… も…… 申し訳ありませーーーん!!!」
コゼニスキーはセイレーンの前で土下座した。
「ちょっと…… 他のお客さんが、こっちを見てるわよ」
委員長がそう言うと、
「…………そうですね。とにかくお店から出ましょうか」
と、感情のない声でセイレーンが応えた。
どうやらセイレーンさんは、とても怒っておられるようだ。
♢♢♢♢♢
ここは道具屋近くのフードコート。
感情の消えた表情をしているセイレーンと、ビクビクした様子のコゼニスキーが、テーブルをはさんでイスに座っている。
隣のテーブル席から、二人の様子を見つめるカケルと委員長。
コゼニスキーの年齢は20歳ぐらいだろうか。
これといって特徴のない顔だ。
「出来心だったんです……」
おずおずと口を開いたコゼニスキー。
いや、どう見ても常連さんぽかったぞ?
「もう絶対しません、どうかお許しを!」
コゼニスキーは、テーブルの上に頭をこすりつけて謝罪している。
「……あなたも神官ならおわかりでしょ? 私たち神官は祭壇の前に立てば、相手のステータスが見えるのですよ? もし嘘をつけば、『賞罰』の欄に、『偽証』と明記されますよ? そんな醜態を晒すおつもりですか?」
『賞罰』の欄に『偽証×2』と記載されているカケルが、ドキッとした顔をした。
諦めた様子のコゼニスキーは、これまで自分が行ってきたことをすべて話した。
やはり、何度も聖道具を横流ししていたようだ。
「どうか! どうかこのことはご内密に! お願いします!!! ウォーーーン!!!」
泣きながらセイレーンに取りすがろうとするコゼニスキー。
なんだか女性版カケルのようだ……
「……今度、お師匠様にお会いしたら、あなたに『悪いこと禁止聖紋』を刻んでもらうよう、お願いします。それまでの間、私はあなたの罪を公にしないと約束しましょう。それでどうですか?」
「ははぁー! 聖女様のご温情、心から感謝致します!」
「ねえ、なんだかこの人、早瀬君に似てない?」
やはり委員長もそう思ったのか。
「…………全然似てネエよ」
いや、そっくりだと思うぞ?
「じゃあ、一応、話はついたってことでいいのね——」
委員長が待ち構えていたかのように口を開いた。
「——ねえ、あなた精神干渉系のスキルを解除出来る聖道具に心当たりはない?」
熱のこもった目をした委員長が、コゼニスキーに質問を投げかける。
「聖道具でそういったものに心当たりはありませんが…… でも、この街の近くにある、古今東西どんな病にも効くと言われるボロモーケ温泉なら、スキルの影響も解除出来るかも知れません」
コゼニスキーがそう答えたのだが……
「なんだか怪しさ満点の温泉ね」
委員長は懐疑的だ。
「その温泉のことなら聞いたことがあります。確か『呪い』が解消された事例があるとか」
セイレーンも、その温泉について知っていたようだ。
「この世界には『呪い』なんてものもあるんですね……」
チキン野郎カケルがなんか言ったが放っておこう。
「でも…… お高いんでしょ?」
委員長がコゼニスキーに尋ねる。
「私は温泉の管理者にも便宜を図ってあげた…… コホン、顔が利きますので、皆さまを無料で、かつ最高級の浴場にご案内出来ますよ! 是非、私にお手伝いさせて下さい! そして、お師匠様に私が心を入れ替えたと、是非、お伝え下さい!」
「…………コゼニスキーさん。今後は真っ当な人生を歩んで下さいよ?」
「ははぁーーー! 聖女様に誓って必ず!!!」
こうして、調子のいい女コゼニスキーは、カケルたちの協力者になった。




