委員長はカッコいい
泥棒二人組に尋問を始めた委員長。
動機とか犯罪歴とかを聞くのかと思ったら……
『あなたは今、どんな気分?』とか、『どこか体に痛いところは無い?』とか、健康チェックを始めたではないか。
どうやら委員長は、自分のスキル『説教』の効果や、身体・精神に及ぼす影響について調べているようだ。
さぞや周りの人たちの注目を集めている…… かと思えば、そうでもないようだ。
ここは商業の街と言われるだけあって、とても賑わいを見せている。
いや、喧騒に包まれていると言うべきか。
喧嘩や揉め事など、珍しくもないのだろう。
「もう、盗みはしないように、いいわね」
ひと通り尋問が終わったようで、委員長はそう言うと、泥棒二人組を解放した。
しかし——
「早瀬君、あいつらを尾行して」
コッソリ委員長がカケルに耳打ちした。
委員長の指示に従い、スキルで自分の身を隠したカケルが二人組を追う。
「おい、なんだよあの女! 善人ぶりやがって」
「まったくだ。次に会ったら、覚えてろってんだ!」
口々に文句を言い合う二人組。
コイツら、まったく反省していないようだ。
「ゴブッ! え?」
「グフっ! な、なんだ?」
カケルの拳が二人組の腹にヒット。
委員長の元に戻ったカケルが、
「アイツら反省してないぞ」
と言うと、
「じゃあ、もう一度泥棒二人組の元へ行きましょうか」
と言って委員長は歩き出した。
委員長が泥棒二人組に近づくと……
そこには腹パンを食らってうずくまっている男たちの姿があった。
「あなたたち、どうやら反省してないようね。腕立て伏せ100回、腹筋100回、それからヒンズースクワットも100回。これを5セットやりなさい」
憐れ、委員長の命令を受けた二人組は、涙を流しながら筋トレ5セットを完遂した。
「もう、泥棒をしてはいけません。これからは真面目に生きなさい」
委員長は泥棒二人組にそう告げると、再び男たちを解放した。
フラフラになりながら、カケルたちの前から逃げ出す二人組。
「早瀬君、もう一度、尾行をお願い」
委員長の指示に従い、再びカケルは自分の姿を隠して二人組を追う。
ヘロヘロになりながら、二人が話をしているようだ。ちょっと聞いてみよう。
「あの女、マジでヤベエよ…… この街から早く出よう」
「まったくだ…… ここから馬車で3日ほど行ったところに、別の商業都市があるんだろ?」
「ああ。今からそこに行くことにしよう。まったく、馬車代がもったいネエな」
「なあに、金なんて、また次の街で人様の財布からいただけば済むことじゃネエか」
「そうだな、ハハハ——」
「そうだぜ、ガハハ——」
「——ハハハ…… うげっ!」
「——ガハハ…… ぐはっ!」
またカケルの腹パンを食らった二人。
懲りない連中だ。
またまた、委員長のもとへ戻り、泥棒二人組の言動を報告するカケル。
「どうやら、私のスキルは行動を強制するだけで、精神には影響を及ぼさないようね。それから、『〇〇しなさい』は効くけど、『〇〇してはいけません』では強制力が発揮されないみたいだわ。後は、命令は具体的に言うことかな…… 抽象的な命令ではダメなのね……」
なにやらスキルの影響について考察を深めておられるご様子の委員長。
「まあ、いいわ。じゃあ、早瀬君、悪いんだけど、もう一度泥棒たちのところに案内してくれる?」
委員長、カケル、セイレーンの3人は、腹パンを受けてやっぱりうずくまっている二人組の元へと再び向かう。
委員長が泥棒たちに向かって口を開いた。
「起立! 動くな! その姿勢のまま、今日犯した盗みについて話しなさい—— え? 今日は私たちだけ? じゃあ、昨日犯した盗みについて話しなさい—— ふむふむ、なるほど—— じゃあ、一昨日……」
委員長は尋問しながらメモを取っている。
男たちは額にあぶら汗を流しながら、克明に犯罪履歴を口にしている。
泥棒二人は、今なにが起こっているのか理解出来ず驚いている様子だが、委員長の命令に対し、心から服従している——精神まで支配されている——わけではないようだ。
やはり先ほど委員長が言った通り、スキル『説教』は相手に行動を強制出来るだけで、精神まで支配することは出来ないようだ。
さて、先ほどから委員長は、せっせとメモを取っているのだが……
実は、この世界にも紙と、それから鉛筆がわりの黒鉛があったのだ。
委員長にとって、筆記用具はどんな世界においても必須アイテムであるのだ、たぶん。
旅の途中、小さな村で文房具屋を見つけた委員長は、小躍りして喜んだものだ。
でも、メモを取るのは委員長の仕事じゃなくて、書記の仕事だと思うのだが……
まあ、いいか。
泥棒二人組から、ボロモーケの街に来てから犯した悪事をすべて聞き出した委員長。
すべての悪事を紙にメモをしたみたいだ。
「この紙をしっかりと握りなさい」
そう言って、委員長は泥棒のうちの一人に紙を手渡した。
「あなたたちは、これから衛兵さんの詰所に行きなさい。そして、その紙を衛兵さんに渡しなさい」
委員長がそう言うと、二人組はカケルたちに背を向け歩き出したのだが………
「おいっ! ちょっと待ってくれ! いや、待って下さい!」
「もう絶対、泥棒なんてしないからさあ!」
「フン。そういうことは衛兵さんにでも言えばいいんじゃないの?」
泥棒たちの背中に向け、委員長はそう言い放った。
「委員長様、カッコいいです!」
セイレーンが叫んだひと言に、満更でもない表情を見せる委員長であった。




