正義の味方、委員長
只今の時間は午後1時過ぎ。
カケルは朝食抜きで調査にあたっていたため、流石にお腹が空いてきた。
今後のことを考える前に、まずは腹ごしらえをしようという話になり、3人はまた、ボロモーケの街に戻ることにした。
たくさんの屋台が軒を連ねるこの街のメイン通りには、簡易なテーブルとイスが置かれたフードコートのような場所がいくつもあった。
そのうちの一つに陣取り、屋台で買ってきた謎の串焼きを頬張りながら、3人は次なる作戦を考えている。
「委員長の精神干渉系スキル『説教』で、舞の洗脳が解けないかな」
カケルのつぶやきに、眉をひそめる委員長。
委員長はこの世界に来て間もなく北の離宮に幽閉され、スキルを封じられた生活を送っていた。
そのため、まだ一度も自分のスキル『説教』を使ったことがないのだ。
どうやれば使えるのか、またどのような影響を与えられるのかということさえわからない。
旅の途中、カケルとセイレーンは自分たちにスキル『説教』を使って、その効果を試して欲しいと頼んだのだが、委員長は『あなたたちを実験台のように使うわけにはいかない』と、頑なに拒否し続けていたのだ。
委員長は仲間思いである。
舞に対しても、同様の気持ちを持っているのだろう。
カケルの表情は優れない。焦れているようだ。
「まあ、舞様が敵対的な態度を取られたわけではありませんので、ここは焦らずじっくり対策を考えればいいのではないでしょうか」
場の雰囲気を察したセイレーンが謎の串肉を頬張りながら、笑顔でカケル、委員長双方の顔を見た。
「そうですね。舞がどこかに逃げて行くわけじゃないんだし、ここはじっくり腰を据えて、対応を考えるとしますか」
「……ありがとう、セイレーンさん。私ももう少し冷静に対策を考えることにするわ」
「そうと決まれば、串焼きの追加を注文してきます! これ、何のお肉かわかりませんが、とっても美味しいです!」
そう言って笑顔を爆発されるセイレーンにつられて、素材に対するおぼろげな不安を抱きつつも笑顔になったカケルがお金を渡したところ……
——ドン!
どこからともなく駆け寄って来た男がセイレーンにぶつかり、その拍子にセイレーンは尻餅をついて倒れ込んだ。
「イタタタ…… あっ! お金がありません! ど、泥棒です!」
セイレーンが声を上げるが、ぶつかって来た男はすでに走り去っており、その後ろ姿はどんどん小さくなっていく。
「何すんだよ、コノヤロー!!!」
「待ちなさいよ、ドロボー!!!」
カケルと委員長が大声を上げると——
——ピタ
泥棒は立ち止まった。
「「「 あっ! 」」」
顔を見合わせる3人。
「コホン——」
委員長は一つ咳払いする。そして大声で叫んだ。
「そこの泥棒! こっちに来て、お金を返しなさい!!!」
泥棒は急いで委員長の元へ取って返し、盗んだ金をセイレーンに突き返した。
「お、俺、何やってんだ? 何で金を返してるんだよ!?」
混乱している様子の泥棒。
「動かないで!!!」
委員長が言葉を発すると、泥棒は直立不動の姿勢のまま、ガタガタと震え出した。
「か、体が動かねえ。い、いったいどうなってるんだ」
驚きの表情は、恐怖のそれへと変わった。
今、『スキル封じの聖道具』は、カケルのズボンのポケットの中にある。
委員長への信頼の証として、旅の間ずっとカケルが預かっていたのだ。
つまり——
今、委員長のスキル『説教』が、泥棒に対して発動したのだ。
「この近くに、この男の仲間がいるなら手を挙げなさい!」
委員長が叫ぶと、カケルたちの近くに座っていた男の手が挙がった。
その男も驚きの表情を浮かべている。
「動かないで、じっとしていなさい」
手を挙げたまま、じっと座り続ける仲間の男。
「ふぅ…… セイレーンさんは大丈夫みたいね。じゃあ、あなた——」
直立不動の泥棒に向け、委員長は言葉を放つ。
「——これから、私の質問にいろいろ答えてもらうことにするわ」
委員長がニヤリと笑った。
怖い。委員長がとても怖い。
委員長は悪事を憎むことこの上ない性格の持ち主なのだ。
『俺、委員長の前では心清らかな人間であり続けよう』
心の中で自分に言い聞かせるカケルであった。




