舞は配送センターの主任 前編
クラスメイト高嶺舞がいる商業都市ボロモーケに到着した、カケル、セイレーン、委員長の一行。
3人は、徒歩で7日かかると思われた行程を3日で走破した。
カケルのスキル『疾風』のおかげだ。
予想通り、カケルが手を繋いだ委員長、セイレーンにも『疾風』の効果が付与されたため、これほど異常に速いペースで駆け抜けることが出来たのだ。
夜は森の中で就寝した。
セイレーンのお師匠様によってカケルの胸に刻まれた『エロいこと禁止聖紋』のおかげで、セイレーンたちは清らかな夜を過ごすことが出来た。
しかし、カケルは一人、お師匠様と聖紋を心の中で呪いながら、悶々と夜を過ごすことになったのだった。
お師匠様、結構良い人だったのに。まったく、なに呪ってんだか……
道中、その聖紋の話を聞いた委員長は、
「私、そのお方の弟子になって、聖紋を刻めるようになりたいわ」
と、言っていた。
委員長は、最近の若者にみられる性の乱れに心を痛めていたのだ。
まるで近所のおばちゃんみたいだ。
3人は途中に立ち寄った村で、この世界の一般的な市民が着用する衣類を購入した。
これでボロモーケの街についても、目立つことはないだろう。
セイレーンも委員長もお金を持っていなかったため、衣類代はカケルが支払うことになった。
王女の部屋から拝借したお金は教会へ寄付したはずなのに、なぜカケルが衣類代を支払うことが出来たのか。
それはお師匠様ことブユーデンが、
『先立つものがなければ大変だろう。お前が罪を犯して得た金は、教会で善なる目的に使ってやるから、お前には私の金を貸してやろう』
と、言って大量のお金をくれたのだ。
ほらみろ、やっぱりお師匠様は良い人じゃないか。
しかし委員長は、
「それってマネーロンダリングじゃない……」
と、言っていた。
カケルは何のことだかよくわからなかったので、聞き流すことにした。
ボロモーケの街は周囲を城壁で囲まれた堅固な城塞都市のようだ。
だが、3人はカケルのスキル『隠蔽(本当は姑息)』のおかげで、なんなくボロモーケの街の中へと入ることが出来た。
街の中へ入ったカケルは、感嘆の声を漏らした。
「スゲー…… 中世ヨーロッパ風の街並みだよ。異世界ものラノベの世界だよ」
「なに言ってんだか…… ここはフィクションの世界じゃないのよ? しっかりしてよね」
あきれ顔の委員長がつぶやく。
「カケル様が見惚れるのもわかりますよ。ボロモーケの街並みは、帝国内で最も美しいと評判なんです」
「セイレーンさん! 俺のことをさりげなくフォローしてくれてるんですね! 嗚呼、あなたはなんという——」
「ハイハイ、長くなるから、以下、省略」
……やっぱり『以下、省略』の台詞、返して欲しいな、委員長サン。
只今の時刻は午前10時。今日は朝早くから行動を開始したため、とりあえず、セイレーンと委員長には休憩しておいてもらい、カケル一人で舞に関する情報を集めることにした。
♢♢♢♢♢♢
それから数時間後。
二人の元へ戻ったカケルが口を開く。
「姿を消して、いろいろ情報を集めたんだけど…… なんだかおかしいんだ」
「どういうこと?」
委員長が尋ねる。
「なんかさあ、舞の評判がすごく良いんだよ」
「それのどこがおかしいのですか?」
「セイレーンさんは舞のことよく知らないでしょうが…… アイツが一生懸命、この街の人たちのために働いてるって言うんですよ。俺、ちょっと信じられなくて……」
「ちょっと早瀬君。いくら高嶺さんと親しいからって、あんまりじゃない? まあいいわ。それで、高嶺さんはこの街で何をしてるの?」
「配送センターの主任」
「は? なにそれ。空飛ぶ宅配便とか?」
「実はそうなんだよ、委員長。アイツは自分のスキル『飛翔』を使って、この街から他の都市まで荷物の配送をしてるんだって」
「冗談で言ってるんじゃないのね……」
「舞は歩く冗談みたいなヤツだけど…… まあいいや。それで、さっき配送センターまで行って聞き耳を立ててたんだけど、舞のヤツ、ほとんど休憩も取らずに、それこそ本当に飛び回ってるんだって」
「それでは舞様と接触するのは難しそうですね。夜になるのを待った方がいいのでしょうか……」
思案顔のセイレーン。
「いえ、本日分の舞の飛行ルートは聞き出したので、運送中に接触しようと思います。ほら、夜コッソリ会いに行って、アイツが肌を露にしてたら、たぶん聖紋が光ると思いますんで…… 舞は陸上部の練習が終わった後、男子が見てても平気で着替えるバカなんですよ」




