幕間 王女と宰相のじいさん②
「爺! 爺はまだ来ないのですか!」
ここは王宮にある王女の部屋。
王女がイライラした様子で叫び声を上げる。
「はっ! ただ今参りましたぞ!」
慌てた様子で、宰相のじいさんが、王女の部屋に駆け込んで来た。
「聞きましたわよ! 北の王宮に軟禁していた女の転移者が、あの変態にさらわれたそうではありませんか!」
もちろん王女の言う変態とはカケルのことだ。
まあ、王女のパンティをくすねたのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが……
「まさか北へ行くとは…… あっ、いえ、なんでもありませんわ。ま、まあ、わたくしは、その可能性もあると思っていましたけどね」
嘘だ。この女は嘘をついている。そして演技が下手クソだ。小学生のときの学芸会では、きっと主役をさせてもらえなかったはずだ。
一方、スキル士のじいさんは、なにやら考えごとをしているようだ。そして——
「ひょっとすると、次はスキル『飛翔』を持つ者のところ、すなわち南へ向かうかも知れませんわい。あのスキルがあると、移動が容易になりますゆえ」
ドキッ!…… 頭の中すっからかん王女とは違い、このじいさん、多少キレるようだ。
しかし——
「なにを言っているのです? 北の離宮にいた女転移者は、転移後、直ぐに隔離したではありませんか。謁見の間で一度、あの女を含めた転移者全員のスキルを確認しましたが、あの短時間で仲間たちみんなのスキルを記憶するなんて不可能です。せいぜいスキルの名称を確認した程度でしょう」
ナイスアシスト! いや、ミスアシストかな?
なんでもいい、よく言ったぞ王女サマ。
残念ながら、謁見の間でクラスメイト全員のスキルが開示されたとき、委員長は自分を含めて19人全員分のスキルとその説明文を、全て記憶したのだ。
仲間思いの委員長を甘く見過ぎだよ、王女サマ。
それに、委員長は超絶頭が良いのだ。
スポーツ科に在籍しながら、定期テストではいつも学年1位なのだ。
……あれ? じゃあ、なんでスポーツ科に入ったんだろう?
まあ、いいや。
さて、頭ぱっぱらぱー王女の発言は更に続く。
「ふふふ。あの女が王宮にいた3日間、あの者にだけは個室を与え、四六時中監視していたのです。裏で他の転移者と接触することは不可能でしたので、飛翔スキルがどういうスキルなのか、知るはずが無いのです!」
「流石は姫様、そのような手を打たれていたとは! 爺は感服致しましたわい!」
感服の無駄遣いだな。感服は大切にしろよ?
「変態転移者は、今度こそ西に向かうはずです。さらに一層、西へと通じる街道の警備を充実させなさい!」
王女は力強く、じいさんに命じた。
しかし、この時、カケル、セイレーン、委員長の3人は、高嶺舞がいる南の商業都市ボロモーケ目指して旅立っていたのだった。
王女の判断ミスのおかげで、またしても移動が容易になったことを、カケルたちはまだ知らなかった。
「まあ、変態転移者は一刻も早く捕縛することと致しまして、姫様、今日は一つ良いご報告がありますぞ。お喜び下さい、兄上様方の勢力を一掃することに成功しましたわい」
権力争いみたいなことしてたんだな。
それで、その争いに勝ったってことか。
「では、ついにわたくしが女王になるのですか?」
「いえ、まずは皇太子になっていただきます。近日中に、立太子の宣言を、国王陛下にしていただく予定ですわい」
「なんだ、つまらないの」
「そう言われますな。国王陛下はカンチョー…… もとい、肛門への攻撃で受けた傷の療養中ですので、これで事実上、この国は姫様のものですぞ。国王陛下には、近い将来、退位していただきますゆえ」
……どうやらカケルは、余計なことをしてしまったようだ。
国王にカンチョーしたばかりに、王女が権力を握ってしまったではないか。
カンチョーは計画的に。
「ふん、今までだって、爺がこの国のほとんどを動かしてきたではありませんか」
「いえいえ、この爺めが握っていたのは兵権のみ。今日からは姫様がこの国の財を握るのですぞ」
「なるほど…… わたくしがこの国の財を握ったのであれば、早速、精神干渉系のスキルを封じる聖道具を購入して、兵士たちに配布することに致しましょう」
「と、言いますと?」
「北の離宮から逃げた女は、精神干渉系スキル『説教』が使えるから危険なのです」
「……聖道具を購入するには、ちと金がかかりますぞ。それを兵士たちに持たせるとなれば、莫大な金額になるかと……」
「何を言っているの爺? ニッシーノ国を併合すれば、お釣りがくるんじゃなくて?」
「なるほど…… もう先のことをお考えとは。ご慧眼、おそれ入りますわい」
こうしてこの後、王女は国の蓄えを失うことになる。
王女サマ、ザマァ!




