次の街へ
カケルとセイレーン、委員長の3人は、いよいよ今後の方針について話し合うようだ。
「帝国が俺たちの仲間を戦争の道具にしようとしてることは、さっきセイレーンさんが説明してくれたよな」
「ええ、ニッシーノ国との国境に、9人が配置させられているって話よね」
カケルの問いに答える委員長。
委員長はこの世界に来て3日目に、クラスメイトとは別の場所に隔離されたため、その後の友人たちの動向については何も知らない。
「俺とセイレーンさんは、みんなを助け出し、そして帝国の野望をブッ潰すつもりだ。そこで、委員長にも協力して——」
「みなまで言わなくてもいいわ。私はクラス委員なのよ。協力して当然でしょ? それに今、私は二人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいなの。せっかく、一番最初に私を助けに来てくれたのに、私ったら、みんなの情報、全然知らなくて……」
「なに言ってんだよ! 委員長のおかげで、アイツらがどんなスキルを持ってるかとか、いろいろわかったじゃないか!」
「そうですよ! 委員長様のおかげで、なんかこう…… いろいろ…… そりゃあもう、うわぁって感じになりましたから!」
「ふふふ、今日何回目のお礼になるかわからないけど、もう一度言わせてもらうわ、ありがとう! じゃあ、みんなで協力して仲間を助け出し、帝国をブッ潰してやりましょう!」
「「 おおーーー!!! 」」
やっぱり、委員長にはリーダーシップがあるようだ。
委員長は『申し訳ない気持ちでいっぱい』と言っていたが、委員長を最初に助け出したのは正解だったようだ。
「それじゃあ、次の目標だけど——」
早速、進行役を務める委員長。
カケルのクラスでは、いつも委員長がホームルームを取り仕切っていた。
カケルにとっては見慣れた光景だ。
「この地図を見る限り、西の国境へ行くには相当日数がかかりそうね」
「そうなんだよ…… 流石に、俺のスキル『疾風』を使っても、ちょっと大変かなって思ってたんだ」
「覚えてる? さっき私が説明したクラスメイトのスキルの中に、面白そうなのがあったんだけど」
「それって、スキル『飛翔』のことですか?」
「流石、セイレーンさん。その通りよ」
「お、おう、そうだよな。やっぱりヒショーだよな」
「……早瀬君は、わかってなかったみたいね」
「……見栄を張りました、すみません」
「潔いカケル様も、カッコいいです!」
「……セイレーンさん、俺の心は今、あなたのことでいっぱいで——」
「ハイハイ、長くなりそうだから、以下、省略」
…………今後、省略係は委員長に任せることにしよう。
スキル『飛翔』を持っているのは、カケルと同じ陸上部に所属する、高嶺舞。走り高跳びを専門にする選手だ。
「スキルの効果は空を飛べること。ちゃんと高嶺さんのステータス画面を確認したから間違いないわ。どのぐらいのスピードで飛べるのかはわからないけど、移動が楽になることは確かだと思うの」
「スキル『飛翔』については、私も聞いたことがあります。委員長様同様、スピードに関しては私もよく知らないのですが、透明なボードのようなものを使い、人や物を運ぶことが出来るスキルだと聞いています」
「それじゃあやっぱり、次に仲間に加えるのなら、高嶺さんがいいわね」
委員長とセイレーンはそう言っているのだが、カケルだけは難しい顔をしている。
「どうしたのですか、カケル様?」
「早瀬君は反対なの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…… 俺はアイツと同じ陸上部なんで、よく知ってるんだよ……」
「どういうことですか、カケル様?」
「…………アイツ、すっげえバカなんです」
「もう、カケル様! お友だちのことをバカだなんて——」
「いいのよ、セイレーンさん——」
セイレーンの話を遮る委員長。
「——だって、セイレーンさんの目の前にいる人も、高嶺さんからバカって言われてるから」
「え?」
「早瀬君と高嶺さんは、クラスで一番のバカはどっちかって、いつも競い合ってたの」
「はい?」
「アイツがいると、俺のおバカキャラポジションが奪われる危険性があるんです」
カケルは深刻そうな顔で、そうつぶやいた。
「と言いますと?」
「ほら、クラス一のバカって、なんかカッコいいじゃないですか」
よくわからないことを、さも当たり前のように言うカケル。
「うーん…… そう言われると、なんとなく破天荒で傾奇者で、それでいて唯我独尊的なイメージがしますね」
セイレーンも、よくわからないことを言い出した……
それを聞いた委員長は——
「えっ!!! セイレーンさん、バカのカッコ良さが理解出来るの!? クラスのみんなは面倒くさがって、『じゃあ、もうバカ1号と2号ってことにしとけよ』って言ってるのに……」
「じゃあ、私はバカ3号になりたいです!」
「セイレーンさん…… ひょっとして、あなた天使なの? それとも大バカなの? あれ? ひょっとして、私の考え方がおかしいの? 実はバカって素敵なの? 嗚呼、私、よくわからなくなってきた……」
委員長の嘆きは置いておくとして、とにかく3人は、ハイジャンパー高嶺舞の元へ向かうことにした。
高嶺舞、通称マイは、北の離宮から南の方角に進んだ地にある『商業都市ボロモーケ』にいるようだ。
セイレーンとカケルが出会った場所からから北の離宮まで、大森林の近道を通って約1日かかった。
地図を見る限り、北の離宮からボロモーケの街までは、その7倍ほどの距離があるので、単純に考えても約7日かかると思われる。
その計算でいくと、北の離宮からニッシーノ国との国境までは、およそ1ヶ月半もかかってしまう。
舞のスキル『飛翔』が高速で、かつ3人を乗せて移動出来るスキルであることを祈るばかりである。
さて、次の目的地が決まった3人だったが、なにやら委員長が思いつめた顔をしていた。
「私は絶対、バカ4号にはならないからね。嗚呼、このままでは私、バカな人たちに飲み込まれてしまいそう……」
委員長は、自分の意志を強く持つことにした。




