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陰陽師世界に転生した俺だけ、レベル制RPG仕様 ~努力で霊力を999にした結果~  作者: 妙原奇天


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第6話 支援科始動、努力は連鎖する

 陰陽寮の東棟――古びた講堂の一角。

 蜘蛛の巣が張った机と、埃をかぶった札束。

 ここが、俺に与えられた“支援科”の拠点だった。


「……廃棄予定の教室じゃないか」

 ため息をつくと、肩の上の小狐丸がくすくす笑う。

「主サマ、“ゼロから始める努力科”って感じでいいじゃん」

「やかましい。これからここを“支援科”にするんだよ」


 陰陽師の多くは派手な戦闘を好む。

 結界を張る者、式神を召喚する者。

 だが、その裏で札を描き、道具を整え、霊脈を記録する者がいなければ戦は成り立たない。


 俺が作るのは、そんな“裏方の努力”が報われる場所。

 努力を制度にする、次の一歩だ。


「ここが……支援科、ですか」


 声をかけてきたのは、灰色の瞳をした青年。

 名は佐久間渉。陰陽寮の補助術士――要するに“落ちこぼれ組”だ。

「上層部から聞きました。あなたが……努力値制度の提案者だとか」

「そう。才能がなくても強くなれる方法を探してるだけだ」

「……それ、俺みたいな人間でも通用しますか?」


 その目の奥に、わずかな光が宿った。

 俺は頷いた。

「努力に上限はない。ここでは数字がすべてだ」


 昼を過ぎた頃、もうひとり来た。

 今度は少女――金髪の陰陽師見習い、ミナト。

「戦闘で負傷して式神を失いました。でも……もう一度、やり直したいんです」

「いい覚悟だ。じゃあ今日から“支援科”の第一号だ」

「はいっ!」


 それから二人、三人と人が集まり始めた。

 誰もがどこかに“努力しても報われなかった記憶”を持っていた。

 けれど、今だけは違う。

 机の上に並ぶステータスウィンドウが、小さく光を放っていた。


 夕方。

 講堂の外では、見物に来た上位陰陽師たちがざわめいている。

「支援科? 裏方の寄せ集めじゃないか」

「努力だけで通用するなら誰も苦労しない」


 その言葉に、俺は静かに笑った。

 努力が笑われるのは、どの世界でも同じだ。

 だが今度は違う。数字が、それを証明する。


「佐久間、霊力制御テストだ。札を一枚、描いてみろ」

「了解……っ!」


 彼の札が光を放ち、結界を生む。

 最初は弱々しかった光が、次第に濃くなっていく。


 ――ピコン。

 【努力値上昇:霊力+1】


 次の瞬間、周囲の陰陽師たちがざわめいた。

 誰もが信じなかった「努力値の共有」が発動したのだ。


「支援科の霊力上昇が、全体に反映されてる……!?」

「努力が、伝染している……!」


 俺はゆっくりと頷いた。


「これが、“努力分配”だ。

 支援科に所属する者の成長は、陰陽寮全体に波及する」


 空が赤く染まる。

 安倍晴臣が静かに現れた。


「やはりやるな、桜庭陽真。

 努力の制度化は、もはや理論ではなく現象だな」

「現象、ですか?」

「そうだ。努力は法則を生み、人を繋ぐ。――まるで“神域の再現”だ」


 彼の瞳が、一瞬だけ微笑を帯びる。

 そして低く囁いた。


「だが気をつけろ。“努力の力”を利用しようとする者も現れる」


 その言葉を残し、晴臣は闇に消えた。

 夕暮れの風が冷たい。


 努力が伝わる世界。

 それは、美しくも、危うい。


 その夜、講堂の灯りは消えずにともっていた。

 佐久間が必死に札を描き、ミナトが小狐丸の指導を受けている。

 俺は、彼らの背を見つめながら呟いた。


「努力は連鎖する。なら、この世界を変えられる」


 小狐丸が嬉しそうに尻尾を振る。

「主サマ、支援科……すっごく輝いてるよ」


「まだ始まったばかりだ」

 俺は空を見上げた。

 月が浮かんでいる。

 その輝きは、努力の光に少し似ていた。


次回 第7話「努力の敵、怠惰の貴族」

――制度は光、そして影を生む。

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