第10話 努力の終焉、そして始まり
朝日が差し込む。
夜の戦いが嘘のように、空は澄み切っていた。
陰陽寮の屋根の上に立ち、俺は深く息を吸い込む。
光の粒が、世界に漂っている。
それぞれが、誰かの「努力値」だ。
「……終わったんだな」
小狐丸が肩で伸びをする。
「主サマ、世界が“努力”で満ちてる」
「ああ。だけど、同時に“怠惰”も消えてはいない」
俺の目に映る街では、人々が働き、笑い、時々立ち止まっていた。
それがいい。
努力も怠惰も、どちらも“生きる証”だから。
講堂に戻ると、支援科の仲間たちが集まっていた。
机の上には札と筆。
誰もが黙々と手を動かしている。
「お疲れ様です、陽真さん」
ミナトが笑う。
「世界を救っても、まだここにいるんですね」
「救ったからこそ、ここに戻ってきたんだ」
佐久間が頷いた。
「努力が神になっても、現場が動かなきゃ意味がないですからね」
「だな」
笑いが広がる。
それは戦いの光よりも、ずっと温かかった。
蘭華が静かに歩み寄ってきた。
彼女の氷の瞳が、やわらかく揺れる。
「ねぇ、陽真。あなたの努力って、いつ終わるの？」
「終わらないよ。終わらせない」
「……そう言うと思った」
彼女が微笑む。
氷が光に溶けていく。
まるで心そのものが、解けていくようだった。
その時、空に白い光が走った。
神々の声が響く。
〈努力神、桜庭陽真。汝の使命は完了した〉
〈これより、汝の神格を人の世に還元する〉
「……神を、やめる？」
〈努力は、もはや法則として確立された〉
〈今の世界に“努力の神”は不要だ〉
胸が、少しだけ痛んだ。
でも、それでいい。
努力は、誰か一人のものじゃない。
みんなの中にあるものだ。
「ありがとう、みんな」
俺は微笑んだ。
光が降り注ぎ、身体が透けていく。
ミナトが泣きそうな顔で叫ぶ。
「待ってください！ 陽真さん！」
「大丈夫。俺はもう、ここにいる」
彼女の胸に手を当てた。
温かい鼓動の奥で、確かに何かが光っていた。
――努力の火だ。
最後に、小狐丸が俺の袖を掴んだ。
「ボク、どうすればいい？」
「お前は、努力を見届ける神使だ」
「そっか……じゃあ、これからも主サマを見てるね」
「それでいい」
俺は笑った。
光の中に消える直前、ふと思った。
――努力って、終わらないんだな。
光が消えたあと、世界は静かだった。
陰陽寮の屋根の上に、風が吹く。
蘭華が空を見上げ、微笑む。
「ありがとう、陽真。……あなたの努力、ちゃんと届いたよ」
その隣で、ミナトが涙を拭う。
「私も努力します。だって、主サマがそう言ってたから」
風の音が、まるで彼の声のように響いた。
〈努力は、続く〉
［Final Status Window］
称号：【努力神（封印）】
世界法則：努力＝生
新職業：支援科長（人間）
状態：継続中
努力の神は消えた。
けれど、努力そのものは生き続ける。
誰かの小さな一歩が、誰かの明日を照らす。
その連鎖が、世界を動かしていく。
俺は信じている。
努力は、いつか“奇跡”になる。
【完】
――そして今日も、どこかで誰かが努力している。
完結記念あとがき＋スピンオフ導線版
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
『陰陽師努力チート』は、この第10話で一度の幕を下ろします。
――努力は報われるのか？
――報われなかった努力にも意味はあるのか？
この物語は、そんな問いへの“ひとつの答え”でした。
陽真がたどり着いたのは「努力の神」ではなく、
“努力が誰かの中に生き続ける世界”。
それを見届けてくださったあなたの時間こそ、この作品の努力値です。
作者からのお願い
もし少しでも「面白かった」「陽真に共感した」「頑張ろうと思えた」――
そんな瞬間があったなら、ぜひ
ブクマ／★評価／感想コメント
でこの物語を見送ってください。
それがこの世界の、最後の“努力値”になります。
次回作予告
『支援科新章：努力の遺伝子』
舞台は、努力が世界法則となった50年後。
陰陽寮に新たな問題が起きる――
「努力しすぎて壊れる者たち」と「努力を失った世界」。
陽真の残した“支援科”が、再び立ち上がる。
公開予定：近日中
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あなたの読了こそが、作者にとっての“努力の証”です。
最後まで、本当にありがとうございました。
