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創作  作者: 割引
7/8

お助け使用人 前編

⚠️ショタが可哀想

8/22 内容追加


屋敷に、新しく使用人が2人やってきた。


「使用人協会から派遣により参りました」

「短い間では御座いますが、

 お世話になります」

「お世話になります」


男性の執事が1人と、少女のメイドが1人だ。


手入れされた綺麗な使用人の服を纏い、

彼らは揃って、真摯にお辞儀をした。


元々の豪華さに加えて差し込む朝日の反射もあり、

遠くから見てても玄関ホールは嫌というほど明るい。

まるで後光を背負う彼らは、僕には天使に見えた。


そんな神聖な雰囲気の中、

お父様は彼らを笑顔で迎え入れている。


「あぁ待っていたよ」


「なんでも君らの協会が派遣する使用人は、

 皆素晴らしい働きをすると友人から聞いてね」

「丁度うちのが何人か休みを欲しがっていたんだ、

 その間の埋め合わせをお願いしたい」


「大変だとは思うが、よろしく頼むよ」


限界ホールには人当たりのよい声が響いた。



「……」


荷物のトランクをそれぞれ持ちながら、

お父様と話す彼らを僕は陰からそうっと見つめる。


それにしても新入りなんて珍しい。

かれこれ数年僕はここに居るが、

使用人の入れ替えは今回が初めてだ。


何か起こったりするんだろうか?

最近は屋敷も探検し尽くして退屈だったが、

新しい事が起こって少し嬉しかった。


「……」


もっとよく姿が見たい。

バレないようにしつつ身を乗り出す。

すると、


「…!」


思わずぞくっとして、僕は隠れる。

使用人2人の内、執事の方と目が合ったのだ。


びっくりするぐらい鋭い眼光だった。

音は立てていないし、ここは壁の影なのに…

しかもこの距離でまさか気付かれるなんて思わない。

やって来た使用人の何かが見えた気がした。


…いや待て、もっと恐ろしい事がある。

あの2人がお父様に聞きでもしたらまずい。


まだ朝早いこの時間帯、

僕は本来ならベッドルームで寝てなきゃいけない。

本当は玄関ホール近くのこの廊下で、

隠れて盗み聞きなんてしてちゃいけない。


ベッドルームから抜け出した事がバレたら、

お父様はまた…


「…っ」


想像した僕は怖くなって、

すぐにベッドルーム目指して一目散に走り出した。









「……」

「どうかしたかい?」

「いえ」


「何でもありません」


ーーーーー


夜。


窓を見つめてぼうっとしていると、

ベッドルームの扉が薄く開く。



「…お父様」



静かに部屋に入って来たのは屋敷の主。


外の暗闇に侵食された薄暗い部屋は、

老紳士が手に待つ蝋燭の光に照らされた。



静寂を纏ったままに彼はまっすぐ、

僕が横たわる広いベッドへ歩いてくる。



彼は蝋燭が乗った銀の燭台を、

隣の小さなテーブルに置くと同時に、

僕が寝るすぐ横、柔らかい純白のベッドに腰掛けた。



「大人しくしていたかい?」



頷く。

目線は合わせなかった。



「そうか、良い子だ」



そう言って僕の顔に手を寄せ、

お父様は頬に優しく触れた。



「……」



無言で見つめられながら、

かくも優しく、撫でられる。



老人ながらも整ったその顔に、

見下されながら。



「…仕事があってね、

 今晩は一緒に寝てやれない」


「寂しい思いをさせるが許してくれ」

「……」



返答は無言にした。



形を、柔らかさを、温かさを、存在を…

全てを確かめるように彼は僕に触れ続ける。



されるがままの中に見上げた彼は、

蝋燭の淡いオレンジ色に照らされて、

酷く甘ったるい優しい表情をして、

大人なのに子供のようで、



すごく怖かった。


ーーーーー


…彼らが来てから早くも数日が経った。


もう仕事もいくつかこなしたみたく、

その評価は他の使用人達の扱いから見て取れる。


まさに今も、2人は先輩達に詰められていた。


「あっあんたたち!」

「如何されましたか…?」

「如何されたも何も無いわよ!」


「あんたたちが清掃担当したとこは?」

「2階の南側の部屋…ですが」

「そう!そこなんだがね…」


また始まった。

さぁ長くなるぞ…


「まったく驚いたよ!」

「あの南側の空き部屋、

 揃ってこびりついた汚れがあったろう?」

「あぁ、あの変色していた床の…

 あれは残した方が良かったでしょうか?」

「いやいや!落としてくれて大感謝だよ!」


「使用人協会、ってのかい?

 最初は疑っちゃいたが、

 評判通りの腕でもう大助かりさ!」

「そんな…身に余るお言葉です」

「ははっ遠慮なんか要らないよ!

 そうだ!他の所も…」


彼らは2人共こんな感じで、

掃除も料理も何をさせても優秀。

影からの覗き見だけでも分かるくらい、

屋敷の使用人達からの評価は上々だ。


それに加えてここ数日で分かったのは、

執事の方が人当たりの良い好青年で、

メイドの方は無口で大人しいが美少女という事。


仕事の出来も見た目も申し分無い、

評判通り、またはそれ以上の完璧な使用人…

彼らは皆んなに好かれる存在になっていた。


だが、

僕は彼らが少し苦手だった。


「……っ!」

まただ。


彼らは、僕がどんなに隠れて覗き見しても、

必ず僕の視線に気付いてくるのだ。


うんと遠くても関係無しに、

彼らのどちらかが気付いて視線が一瞬合う。

正直恐ろしい。この前なんて、

屋根裏の窓から中庭という距離で気付かれた。


とりあえずいつも距離は取っているし、

気付かれたらすぐ逃げているから、

直接会ったり話した事は今の所無い。


でも、お父様に相談でもされたら、

僕の事だと分かってしまうだろう。


こんなリスクがあっても、

僕は彼らが気になって仕方ない。


僕はそうして今日も、

屋敷最上階の一番奥の隠された小部屋、

ベッドルームに逃げ帰っていた。






「…お兄様、見た?」

「あぁもちろん」

「また見に来ていたわ」

「そうだねぇ」


「…そろそろ良い頃合いかもしれないな」

「えぇ、そうね」


「後で御主人様に会いに行こうか」


ーーーーー


「っは」


部屋のドアには鍵が掛かっているので、

出た時と同じく窓を通って入る。


キングサイズのベッド以外、

他にろくな家具もない部屋だ。

僕は定位置であるそれに飛び込んだ。


ベッドについている金具が、

飛び込んだ拍子にちゃりちゃり鳴る。

この音は嫌いだった。


どうせ脱がされるし汚されるんだから、

埃の付いたネグリジェも素足もそのまま…

といきたい所だけれど。


抜け出した事がお父様にバレたら大変なので、

疲れていたにも関わらず急いで汚れを払う。


そして手錠を元の右手首に付け直した。


「……」


まだ早い鼓動の音を聞きながら、

僕はぼんやりと考える。


彼らは恐らく、ただの使用人では無い。

今まで誰にも気付かれなかったこの僕に、

やって来て数日で気付いたからだ。


その正体は何なのだろうか?

何度も覗きに行っても、

その完璧な仕事ぶりしか分からない。


疑問は完全に迷宮入りしていた。

けど…


「…ふふ」


思わず笑みが溢れる。


その秘密を追いかけるのが、

彼らを観察して新たな一面を見るのが、

僕は段々と楽しくなっていた。


暗く沈んで無色だった毎日が、

ここ最近は微かに輝きを放っている。


最初に彼らを見た時の「天使」という比喩も、

こうして小さな救いをくれたんだから、

あながち間違いでは無かったなとさえ思った。



この疑問にはまだ胸がもやもやするけど、

もう解けなくたって良いかもしれない。



怒られる程の多くの事は望んでいない。



僕にとってのこの最大限の楽しみが、

このままで良いからずっと続いて欲しい。



彼らの雇用は期限付きという事…

本当は部屋を抜け出しちゃいけない事…



その他諸々の不都合な現実を全部ほっぽって、

臭いものに蓋という蓋をして、

僕はこのきらめきに浸っていたかった。



本当に浸っていたかった。



本当に、


まあ、


でも、



やっぱり現実はそう上手くはいかない。


「ずっと」なんて有りはしない。


この単純で小さなきらめきは、

簡単に消せるちっぽけなもの。






そう僕は知った。



とっくに知っていたけど、



見て見ぬふりをしていたけど、



思い知った。












「部屋から出たんだな」



僕が馬鹿らしくはしゃいでいたのは、

薄いガラスの上だったんだって。






ーーーーー





「っ」

「ごめ」


「ごめ」

「なさい」


「ひ」

「ぁ」


「ゔ」


「っぐ」

「ぅ」


「ふ」

「っう」


「こ」

「こわい」

「や」


「いや」

「ご」


「ごめなさ」

「あ」


「ゔ」


「ひっ」

「おぇ」


「っ」


「やめ」

「て」


「ごめ」


「あ」


「」









そうだ


これがげんじつだ


おまえにきめらきなんてない


おもいあがるな


かんがえるな


あきらめるのがいちばん



けせ




すべてをけせ






けしてしまえ







































ドガシャーーーーーン!!!!!!



「っは?!」

「は〜いお楽しみのところ失礼しますよ」


「なっ…お前ら?!最近雇った…!」

「あ、ど〜も〜」

「お邪魔するわ、ご主人様」

「いやぁご主人様にはお世話になって…

 ん?違うか、お世話してま〜す」


「ってうわ聞いてたけど現場見るとよりキモ」

「お兄様、相変わらず口が悪いわ」


「はいはい分かってますって」

「じゃとりあえず優先はあっち!行け妹よ!」

「了解」


「え?!」

「失礼するわ」

「あっおい!」


「はいよいしょっと…あぁ可哀想に…」

「息はあるわ、気を失っているみたいよ」

「ほんとごめんな遅くなって…」


「てかこんなちいちゃい子が好みなんて、

 お兄様正直めっちゃ引くわ…

 いや聞いてた時点で引いてたけど…」

「同感ね」

「黙れ!クソッ…」


「な、そっそもそも!

 何故お前らがここに居る?!」

「そりゃあ使用人なんでお掃除ですよ」

「深夜に頼んでなどいない!」

「…まさかお前たちスパイだな?!

 最初から使用人協会なんて馬鹿げた協会、

 怪しいと思っていたんだ!」

「執事とメイドのフリして乗り込んで来たんだろ!

 正体を言え!何者だ!」


「えぇ〜何者なんて」

「言うとおりただの執事とメイド!使用人ですよ〜」

「ね?」

「ええ」

「それも”協会所属の”、よ?」


「…なっ!?」

「おぉ分かった?」

「ま、まさかお前ら…」

「はい!」


「実は警察か?!」

「ずっこ〜!はい大不正解」


「は?」

「いやぁ惜しかった!

 ま、そう思うのも無理はないか」

「似てるっちゃ似てるからねぇ…

 でもはっきり違うとこが1つあるんですよ」


「それはねぇ…」

「私たちは政府非公認、

 使用人協会の正体は秘密組織よ」

「って我が妹ォ!!」


「喋りすぎよお兄様、

 余計な事まで話すところだったでしょう」

「ターゲットにまでお喋りなのは感心しないわ

 前みたいにうっかり逃すつもりかしら?」

「ゔ…ごめんなさぁい…」


「とにかくやるべき事をやって早く帰りましょ」

「はぁ〜い」


「…ちょっ」

「ちょっと待て!」

「はいはい待ちますよ」


「先程から急にやって来て…

 散々私のことを馬鹿にしてくれたな!」

「なぁ妹よ…あいつ素っ裸でキレてる」

「お兄様黙ってあげて」

「〜ッお前ら!!」



「もう限界だ!私をみくびるなよ!

 わたっ、私がやろうと思えば!

 使用人の1人や2人簡単に潰せるんだからな!」

「ほら、お兄様のせいよ」

「あう…」


「はいはい分かった分かった…

 でも、もうあんたにそんな力ないんだよねぇ」

「はぁ?何を馬鹿な事を!」

「あっはは!流石に信じないよなぁ」


「じゃ、妹よ」

「”アレ”でしょう?分かってるわ」

「さっすが〜取ってくれてあんがと」


「はい!これ、な〜んだ?」

「…あぁ?写真…?」

「くふふ」


「ほらぁ」

「この部屋狭くて距離近いんだからさ、

 『遠くて老眼が』とか言わないでね?」

「……」

「…は?!ま…まさか」

「そ〜うそのまさか!」


「ご主人様がこの少年に

 無理やりにゃんにゃんしてる現場!」

「大スクープですよ大スクープ!

 いや〜衝撃的だよねぇ」

「…っ、そ…そんなもの!」

「あぁそんでね〜…

 これで終わりじゃないんですよねぇ」


「なんと!この写真がこうしてこう!」

「じゃじゃーん」

「新聞になりました〜

 我が妹なんでも出来ちゃう!すごい!」

「はっ…?!」


「そしてさらにこう!」

「じゃじゃじゃーん」

「この写真からお分かりの通り!

 現在!街で絶賛配布中で御座いま〜す!」

「はぁ?!」


「ちなみに各新聞社にも言ったらねぇ、

 見事に記事にしてくれたんですよ!

 み〜んな一面を飾る特大ニュースとして!」

「あとご主人様の他の偉業も教えたんだよねぇ、

 こうゆう少年少女だけを専門で扱ってる

 オークションの主催だとか〜人身売買とか!」

「なっ?!」


「もう皆んなびっくりもびっくりだよね〜!

 あんな綺麗で潔白なイメージの大富豪がぁ、

 まさかの裏の顔真っっっっ黒なんだからねぇ!」

「あ、もちろん情報の対価としてお金も!

 いやぁ莫大な利益になりましたよ〜!

 ありがとうございます!ご主人様!」

「っ…?!」


「お兄様、こっちの記事のタイトルは

 『世紀の大富豪の異常性癖!』だそうよ」

「どの新聞社も売り上げが倍増ですって…

 約束通り追加の契約金も振り込まれるわね」

「よっしゃ〜!ノルマどころか倍の利益!

 もう!笑いが!我慢出来ないよ〜!!」

「はしたないわお兄様」

「……」


「…っ…?」

「うんうん!そうだよねぇもう声も出ないよね〜!

 見てみろ我が妹!あの表情ったら!」

「視界に入れたくもないわあんな極悪人」

「ひぇ〜辛辣ぅ〜」



「…そんな事よりお兄様、

 もう外が騒がしいわ、警察が近くに来てる」

「へぇ〜割と早くなった?まあ遅いけど」

「この子の容体もあるのだから、

 早く撤収しましょ」

「はぁい」


「こほん」


「では、ご主人様…」

「短い間では御座いましたが、お世話になりました」

「使用人協会より派遣されました私共…

 本日付で契約破棄とさせて頂きます」


「…じゃ」

「二度と俺らに手ぇ出さないでね」

「さようなら、地獄に落ちて頂戴」



「……」

「……は…ぁ?」


キャラ設定画

https://x.com/15yasui/status/1964633813499461894

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