被告人が言うには
「…ああ、幹部様」
「本日は私めの為に貴重なお時間を割いて下さり、
誠に…誠に感謝いたします」
「こんなお時間を頂いたのは、
私自身ではとても判断出来ない…
重大な問題に直面したからで御座います」
「この問題を、幹部様に結論付けて頂きたいのです」
「勝手な事だとは重々承知しております…
貴方様へ迷惑だとも理解しています…」
「ですが本当に…もう、
私1人では抱えていられないのです」
「他の高尚な、聡明な誰かに決めて頂かないと、
私が壊れてしまいそうなのです」
「それくらい重くて深い…
訳の分からない問題なのです」
「…それが」
「私は、教祖様に…
何か別の感情を持っているかもしれないのです」
「何か…何か信仰とは違うような、
でも同じような…とにかく似て非なる物なのです」
「事の発端は、私がこの教会に…
此処で行われた定期集会に、初めて来た時でした」
「私は、集会もいよいよ終幕という時の、
最後の教祖様直々のお話で、
ここへ入信する事を決めたのです」
「それから…いえ、思えばその時から、
この気持ちは芽生えていたのかもしれません…」
「何せ、あの時の私が正直一番心打たれたのは、
教えや教義よりも…教祖様でしたから」
「今でも鮮明に蘇ります、あの教祖様のお姿」
「大勢の視線を浴びているのに堂々としていて、
本当に我々を新世界へ導きたいのだという、
なんとも優しい御心をむきだしにされていて…」
「そして教祖様の精神が痛い程現れたあの輝く瞳…
私は、あのお方の全てに光と救いを感じました」
「ああ、この方こそを神と呼ぶのだと…
愚かな私はそこで初めて知りました」
「その時は、まだ…
この感情が信仰と信じて疑わなかったのですが…」
「今となっては本当に信仰だけなのか、
その疑問がずっと脳裏にこびりついています」
「勿論、今でも信じて…信じたいと思ってはいます」
「ですがもう、私では判断できません」
「最近ではもう、教祖様を一目でも見ると、
身体が熱くなるのです」
「堂々として、凛々しくて、眩しいのに…
誰かに操られている様に目が離せなくなるのです」
「そして遂には…」
「お側にいたい、とすら、
考えてしまう様になってしまったのです」
「あの方に、触れたいとまで…」
「どうやって自制しても、
もう歯止めが効かないのです」
「どうしようも無く、抗えないのです」
「なんとも傲慢で残酷で酷い考えだという事は、
とっくに理解しております」
「理解しているからこそ…もう分からないのです」
「私は、どうしてしまったのでしょうか?」
「どうしたらいいのでしょうか?」
「何を捨てて何を得ればいいのでしょうか?」
「疑問が…選択が溢れて留まりません」
「ああ高貴なる幹部様…」
「きっぱりと判断して頂きたいのです」
「私はどうなるべきですか?」
「私は」