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創作  作者: 割引
10/13

かつてから燐光

訛りは脳内でなんとか補正して下さい


その時のタクシーの中では、くぐもった機械のノイズがかかるラジオが響いていました。



『4年前から立て続けに発生している連続失踪…』


『行方不明者全員には、

 共通して同じ場所が最後の目撃情報という…』

『地元警察は第三者による事件性の…も見ており…』


『被害者の1人には幼い子供も…』


『捜査は難航して…』




「物騒ですね」

「そうですねぇ」


「この事件の最後の目撃場所って、

 此処周辺の樹海前なんですよね」

「よう知ってますねぇ、

 お客さんここいらの人やないのに」

「分かりますか?」

「ええ、話し方で…関東の方でしょう?

 僕ずっとこのド田舎暮らしなもんで、

 憧れますわぁ」

「そんな憧れる様な所じゃありませんよ」

「そうですか?

 まぁ僕からしたらどこも憧れです」


「にしても、そっちまで知れ渡っとるなんて…

 この事件有名なんですねぇ、4年も前からやのに」

「まあ言うて僕も4年以上運転手やっとりますけど、

 こんな続けば緊張感も薄うなりますよぉ」


「いざって時に備えて、

 車に防犯の道具とか常備しよかなぁなんて

 思ってますけどねぇ」

「どうしてですか?」

「え、いやぁ、犯人の攻撃やら避けれるかと」

「なるほど…」

「まぁ冗談ですよぉ」




「というか物騒とか言うたら、

 お客さんの方がそうですよぉ」

「そうですか?」

「だって」


「あんた、その樹海に行くんでしょう」

「そんな少ない荷物で1人で」


「こんな辺境に来る人なんて、

 里帰りか、そうやって死にに行く人だけ」

「自殺スポットの名所なんて、

 悪趣味な注目のされ方しますわぁ」




「……」

「…止めないんですね」


「他人がどうこう言ったって、

 あんたら辞めはしないでしょうて」

「すっかり諦めちまいました」



「…ごめんなさい」

「何を謝っとるんですか」

「そんな言葉犬も喰いませんて」


「…ま、世間的に悪いんは、

 大人の僕らになるんでしょうなぁ」



「はは」


「慣れってのは怖いもんですわ」



ーーーーー



じゃり


じゃり


じゃり


じゃり




ぎぎぎ




しゅるる



ぐっ


ぐっ






すぅ


はぁ









『そんなんじゃ死ねないよ』

「えっ」



私が、木に括ったロープの輪っかに頭を入れようとしていたところは、見知らぬ少年に見られていました。



『その木を見なよ』

『枯れていてひょろひょろだろ、

 キミの体重なら直ぐ折れてしまう』


『それに、そのロープの結び方も』

『これじゃあ頭を通しても抜けやすいから、

 ぶら下がれずに落ちてしまうだろ』



唖然とする私を差し置いて、彼は一丁前にアドバイスをしてきます。辺りの霧のせいなのか、その身体は青白く光って見えました。



「…貴方は?」

『見れば分かるだろ』

『地縛霊だよ』

「そうなのね」



あどけなさの残る高い少年の声は吐息が多く混じっていて、細い首には真っ直ぐにロープの跡がありました。



『まったく呆れる』

『こんな用意で死ぬつもりだったのか?』


『キミなんかに此処に来る資格は無い』

『大人しく立ち去ってくれ』


『さぁ早く』



初めて彼と会ったその日、何も考える事の出来なかった私は、言われるそのまま樹海を去って近くの旅館に泊まりました。



ーーーーー



『何故また来るんだ』



翌日も、彼は居ました。



「貴方に言われた通りに直して来たの」

『そうかい』

『勝手にするが良いさ、

 ボクが知った事じゃ無い』



それから私は結び直したロープを持って、丈夫で折れないような木を探しました。でもこの樹海の木はほとんどが細くて脆そうで、私は迷ってしまいました。



「ごめんなさい、尋ねても良い?」

『はぁ、何』

「丈夫な木を探しているの」

「私がぶら下がっても大丈夫なくらいの木」


『何故それをボクに聞くんだ』

「貴方なら知っていそうな気がして」

「知らないかな?」


『”丈夫な”木だって?』

『キミが見ている通りさ、

 此処一面の木はほぼ全て脆いんだ』


『それに』

『知っていたとて、

 他人のキミに教える義理は無い』


「…そうね」

「ごめんなさい」



彼のきつい物言いに私はすっかり萎縮して、その日も樹海を去りました。



ーーーーー



『懲りないな』



その日の彼は、大分早く現れました。



『昨日も一昨日もあんなに言ったのに』

『何故そこまで死にたいんだ』


「…言いたくない」

『あぁそうかい』

『ボクだって無駄に他人を知りたくない』



そう言って彼はそっぽを向いたので、私は丈夫な木を探し始めました。昨日はあれ程言われましたが、これほど木が溢れているのです。もっと探せば一本ぐらい丈夫なものがあると思っていました。



『何をしているんだ』

「探しているの」

『また丈夫な木をか?』


『昨日ボクが言ったことを忘れたのかい』

『此処にそんな木は無い』

『もう諦めるんだ』

「嫌」

『は?』



「私は」

「私は生きてちゃいけないの!」



「あ」



気付いたら声を荒げていました。振り向けば彼は、少し驚いた目をして私を見ています。



「ご」

「ごめんなさい」



下を向いて黙したまま、何も言ってくれなくなりました。青白く光る彼は、静かになると普段より増して幽霊の、死人の様に見えます。


でも、彼には口がありました。



『キミは』

「えっ」


『キミは何も分かっちゃいない』

『”生きてちゃいけない”だ?

 なんて贅沢な悩みだろうな』


『キミが好きな所に行けるのは、

 好きな人に会えるのは、

 自由なのは何故か知っているのか』

『それは生きてるからだ』

『この世に存在する自由は、

 全て根底に”生きている”が存在するんだ』


『でもこの世界には生きたくても

 生きれない奴がいるんだよ』

『二度と戻れないって分かってるのに

 未練がましくしがみ付くぐらいの』


『そんな羨ましがられるモノを

 キミらは捨てたいって言ってるんだ』

『なんて、なんて自分勝手で我儘だ!』


『帰れ!』

『もう二度と顔を見せるな!』



それは初めて聞いた彼の叫び声でした。



いつもだったら彼にこうして怒鳴られるまま、私は逃げ去っていたでしょう。でもその日はそうはいきませんでした。聞き捨てならない事を彼は偶然溢していたのです。



「…貴方は」

「ここで自殺したんじゃないの?」

『っ』


「なのにそんな、

 まだ未練がある言い方をするなんて」

「矛盾しているわ」


「一体貴方は」

「何故死のうと思ったの?」


『……』




『…そんなの』

『キミに関係無いだろ』


青白い彼はそう言って、なんとも静かに、花弁が散る様に柔らかく消えていきました。



ーーーーー



あれから数日間、私は何度か樹海を訪れましたが、彼には一度も会えませんでした。


すっかり静かになった霧の中では、何だか胸がつっかえる気持ちで、どうも首を吊る気にはなれませんでした。




「……」




今日も彼は居ません。


あの地縛霊は、手を離せば簡単に飛んでいくヘリウムガスの風船だったのだと、愚かな私は今になって気付きました。




「…」

「ごめんなさい…」







「あぁ居た!お客さん!」

「!」



背後から声がして、静寂が破られます。


林と霧の中から吐き出される様に現れたのは、初日にこの樹海まで送ってくれた、タクシーの運転手さんでした。


「運転手さん…?」

「やっと見つけた!

 とっくに死んでしもたか思いました」

「は、はぁ」



「いやぁ僕ここ数日、

 あんたの事ずっと探してたんです」

「結構探してたんけど、

 足跡すら見つけられんもんですから…

 まるで神隠しにでもあったみたいに」

「はぁ…」



「でも昨日の今日でいきなり、

 足跡やら目撃したやら情報が入って」

「まぁ〜ホッとしましたわぁ」

「は…」



運転手のお兄さんはふわふわした優しい語り口で話してきますが、そこには何か得体の知れない違和感を感じました。


今思えば、この私の直感は鋭いものでしたが、その時の私は、そんな事を気にも留めていませんでした。だから普通に、質問してしまったのです。



「運転手さんは一体、何故此処に?」

「と言うより…

 何故私を探していたんですか?」


「あぁ、それは」






「あんたを」

「死なしてやる為ですよぉ」




「えっ?」






もう手遅れでした。


気付いた時には、首に当てられた何かから全身に鋭い痺れが広がって、私の視点は地面から彼を見上げていました。起き上がろうにも起き上がれません。


びりびりと、ぐわんぐわんと、脳が揺れていました。

何が起こったのか分かりませんでした。


世界が、視界の端からぼんやり暗くなっていく中、運転手さんの声が聞こえます。




「いやぁねぇ?

 此処が自殺の名所なんてもんになってから、

 ずいぶん色んな人が死にに来るんですよぉ」


「そん人らにとっちゃあ、

 やっと死ねる!なんて嬉しかろうけど、

 地元の人らには迷惑なもんで」


「家族ん方や警察に連絡とか、

 後処理がもう面倒臭いったらないんです」

「報告しろって言う割に、

 此処は田舎過ぎるやら木が多くて入れんやら、

 何かと文句付けて遺体の処理にも来てくれへん」


「此処らのお役所方も嫌がって、

 こんなタクシー会社に役目が回るんです」

「かといって放置でもしてたら、

 悪臭が〜とか文句も来ますし」




「ご、め」

「なさ」

「い」


「言ったでしょう、

 謝罪の言葉なんて犬も喰いませんて」

「根本の自殺を辞めてくれん限り、

 こっちは迷惑被り続けるんです」

「あん時僕が言っても

 辞めやせんでしたでしょう」




「はぁ…とまぁ、」

「あんたみたいなのが増える一方やから、

 僕思い付いたんです」


「死なれる前に殺してまえばええって」

「そしたら、こっちが楽な様に死んでもらえる」


「自殺の遺体って処理が大変なんですよ、

 特に首吊りは2人がかりやないと

 ぶら下がってんのは降ろせへんし」

「でもこうしてスタンガンで大人しゅうして、

 紐で首絞めちまえば楽なもんです、

 木から降ろす手間が省ける」


「どうせ元々死にたい奴らやったんですから、

 他殺になろうが関係ありませんよねぇ」

「一応死因は自殺っぽく合わせてますし」


「これねぇ、僕が思い付いたんです!

 すごいもんでしょう?」




彼の顔は、今の私の視界では見切れていて見えません。でも、笑顔なんだろうなと、容易に想像出来ました。


もう声も出ませんが、それがスタンガンの痺れのせいか、恐怖のせいなのかは分かりませんでした。




「あ〜…そろそろ、

 お喋りの時間も無くなってきましたわ」

「僕、こん後もタクシーの業務入ってるんです」


「じゃあ」

「あんたは…そのロープで首吊りですか」

「これまた面倒なの選びますねぇ」




私の握っていたロープが、簡単に手を抜けます。せっかく輪っかに結んでいたのに、しゅるりと解かれる音も聞こえました。


「よいしょ」


首にチクチクとした感触がして、それが首を一周するように広がります。新品だったロープは毛羽立っていて、とても痒く感じました。




やっと死ねるんだ!




私はそう思わなくてはいけないのに、ただの一時もそうは思えません。求めていた事が起こるというのに、喜びではなく、恐怖と不安が全身に駆け巡っていました。




こわい


私は死にたいんじゃなかったの?


ころされたくない


何の為に全てを捨てて此処に来たの?


しにたくない


私の望みは何だったの?




首に触れるロープが、段々と私の気道を狭くしていきます。まるで水の中みたいに、息が出来なくなっていきます。


急速に思考を回転させようとしても、酸素が足りなくなって、頭が真っ白になっていきます。


すると、精密な動きが出来なくなった脳は、単純な間違いに気付きました。




ああ


そうか


わたしは


死にた んじゃないんだ




でも、もう遅かったの す。私 い識は、段だん 、うす ていっ て


何 かん え  なく

 って












『やめろ』



ーーーーー











「っ」


「っは」




目が覚めました。


息をしろという脳の命令が残っていたからか、私の身体は急速に酸素を欲します。肩が上下して、心臓がばくばく鳴っているのが分かりました。



『起きたかい』

「!」



隣には、あの地縛霊の彼がいました。すぐに声のしたそちらを見ると、彼と目が合います。青白く光るその目に釘付けになって、私は頭がちんぷんかんぷんでした。



『…何か喋ったらどうなんだ』

「あ」

「ぇ、あの」

「ぅ…」


『はぁ』

『いいさ、深呼吸でもして一旦落ち着け』



促されるままに私は深呼吸をします。樹海の霧が混じった空気は、身体と頭をすっきり冷やしてくれました。




冷静になって周りが見えてくると、そこがさっきまで居た樹海の入り口あたりでは無く、そのもっと深く、足を踏み入れた事のない樹海の奥だと分かりました。私はその中の一本の木にもたれかかかって座っています。


今まで感じていたよりも、霧の濃さと冷たさが段違いで、いつもは辛うじてあるはずの木漏れ日が無く、今が何時頃なのかも分かりません。


それより、私にははっきりと一つの疑問がありました。


「…何故」

「私は死んでいないの?」


「あ…あの人に」

「殺されたんじゃ、ないの」


『覚えてないのか?』




『キミは酸欠で気を失っただけ』


『幸運だな』

『首を完全に絞めきるより先に、

 奴が手を離したんだよ』


「…ど」

「どうして?」


『……』



彼は目を合わせようとしません。



「…もしかして」

「助けてくれたの?」


『……』


「ありがとう」

『な、何も言ってないだろ!』

「でも否定もしないのね」

『うっ…』



より暗い樹海の奥深くでは、彼の青白い姿は闇を照らす光でした。



『はぁ…もうバレたなら良いさ』

『ボクが奴を金縛りにして、

 キミの首を絞める手を止めた』

『それから気を失ったキミに取り憑いて、

 此処まで代わりに歩いて運んだんだ』


「そんな力があったのね」

『ボクも知らなかった』

「そ、そうなの」


『まったく、二度と来るなと言ったのに』

「ごめんなさい」

『もう過ぎた事だ、謝らなくて良い』

『その代わりにしっかりと反省をするんだ』

「…ええ、勿論」


不意に、私のもたれている木が目に入ります。


「あ」

「あら?」


驚きました。それはこの樹海に存在しないはずの、幹も枝も太く、私がぶら下がっても折れなそうな丈夫な木だったのです。他の細い木とは一目で違いが分かるくらい、此処に似つかわしくない生命力に溢れた木でした。



「これ…」

『…』


「貴方、私が丈夫な木が無いか聞いたら、

 ”此処にそんな木無い”って」

『違う』

「えっ?」


『ボクは“此処のほぼ全ての木は脆い”と言った』

『”ほぼ”全ての木、だ』

『嘘は言ってない』



薄々感じていましたが、彼が何かを隠しているのは明らかでした。少しだけ見えた糸口、今しか無いんだろうなと、思いました。




「…何故、その言い方をしたの?」

『……』




沈黙が続きます。その青白い光が、少し弱くなった気がしました。




『…キミは』

『死のうと、していただろ』


『そこで教えてしまったら』

『キミはこの木で首を吊っていた』

『ボクの…”目の前”で』

「…目の前?」

『ああ』


『…この木が何故、

 他より生き生きとしているか分かるか?』

「い、いいえ」

『養分があるからだよ』

「?」




『この木の下には、

 ボクの死体が埋まっているんだ』




想像もしなかった事実が私を殴りました。



「…え?」

『他と違ってボクの身体の養分があるから、

 この木はここまで成長した』



『だからボクは地縛霊なんだ』

『文字通り、死体のあるこの木に縛られて、

 成仏も、樹海の外に出る事も出来ない』

『そうして誰かの自殺現場を散々見てきた』


『でも…もうたくさんだった』

『首を吊っているところなんて見たくなかった』

『ましてやこのボクの木で、

 ボクの目の前でなんて』




「ま、待って」




「”埋まっている”なんて、貴方まさか」


「その首のロープの跡は?」

「自殺じゃ、ないの?」




何か触れてはいけない事、パンドラの箱を開ける気持ちでした。




『…ああ、そうだ』

『ボクは殺されたんだ』


『キミを襲った奴と、同じ奴に』




その箱の中に入っていたのは、宝石なんかじゃありませんでした。



ーーーーー



『ボクは数年前、

 この樹海に迷い込んだ』

『別に自殺したかった訳でも無く、

 この辺りに家族旅行で来ていた途中で』



『樹海を彷徨う中で、

 ボクは知らぬ間にこの奥に入り込んでいた』

『そこで見たんだ』

『あの男が人の首を絞めているのを』

「……」



『すぐに走ったんだ、

 パパ!ママ!って喚きながら』

『でも』

『奴からは逃げられなかった』



『ボクはそしてロープを首にかけられて

 …殺された』

『思い出せるのはそこまでだ』



『気付いたら此処にいて』

『何処にも行けなくなっていた』


「……」



彼は話しながら、自分の首の、真っ直ぐに付いたロープの跡を触っていました。


私から見るに彼は、顔立ちも幼く、子供らしい身体つきをしています。あまりに酷な話だと言うのが嫌と言うほど理解できました。



『多分その時は、

 本当に自殺しに来ていたその誰かと、

 口封じに殺したボクという、

 2つの死体が偶然生まれてしまって』

『奴も処理に困ったんだと思う』


『後から別の誰かが殺されるところを

 見て分かったんだ』

『埋められたのはボクだけなんだって』

『奴はいつも死体を持っていってた、

 埋めるなんてしなかった』


『ボクはいつも1人で…

 誰かが殺されるところを見ていたんだ』



青白い光は、今にも消えてしまいそうでした。




『…もう』

『嫌なんだ』




『死のうとなんてしないで』

『ボクから奪わないで』




『キミだけなんだ』

『この長い間にキミだけ』




『ボクと話してくれたのも、

 ボクが奴から守れたのも』

『キミが初めてなんだ…』




初めて見た子供らしい一面でした。まるで繭に自らを閉じ込めるみたいに、彼はそのまま体育座りの膝に顔をうずめます。


青白い光ももう蛍の光くらい弱くなって、彼は黙りこくってしまいました。


私は、どうしたら良いか分からないまま、彼の隣に座って、その涙が止む事を願っていました。



ーーーーー



私はそうして死なずに済んで、

今日まで生きています。


あの後気付いたら眠っていた私は、彼がまた運んでくれたのか、樹海の入り口辺りで目を覚まして、泊まっていた旅館に駆け込みました。


体験したこの話と、車に凶器が多く残っていた事から、運転手さんは直ぐに捕まりました。


私は結局帰らずに、そのまま旅館に住み込みで働いています。


そして今日もまた、樹海に入ります。




「おはよう」

『あぁ、おはよう』




『聞いてくれ』


『ボク、やっと樹海の外に出れそうなんだ!』

『夜明け頃に気付いたんだよ、

 いつもの木より向こう側に足が動くと』

『キミとの練習が効いたんだろうな、

 この調子なら集落の外にも出れるかもしれない』


『さぁ、今日はどうする?』




「今日はね」

「貴方に提案があるの」

『?』




「貴方の遺体」

「ちゃんと供養させてもらえないかしら」




「貴方の家族も探すわ」

「そしてそのお墓に入れてもらう」

「きっと彼らも貴方を探しているはずよ」




「私…貴方に、

 こんな場所に囚われていて欲しくないの」


「せめて、身体を…骨だけでも」

「今日は持ち帰らせてもらえない?」


『……』




『…パパとママに、会えるの?』

「ええ、絶対見つける」


『外にも出られる?』

「きっと」




『…良いの?』

「勿論」

「むしろやらせて欲しいの」




燐光は眩しく泣いていました。



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