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創作  作者: 割引
1/6

XXXX/X.XX/XX:XX No.10087 思考記録

じりりりりり

目覚まし時計さんが騒ぎます

短い針はぴったり6時を指しています


目を開けます

変わらない真っ白な天井が広がっています

私の部屋は全てが白いので当たり前です

もぞもぞと体を起こしてわたしは覚醒します


わたしは目を覚ますのがとても苦手です

お布団さんは離れないでと抱きついてくるし

あの不思議なまどろみに一度とろけたら

もう戻りたくなくなってしまいます


本当のことを言うと

ずっと寝てても怒られることはありません

それでもわたしはぎゅっと頑張って目を覚まします

あのまどろみをぼやぼやしながら振り払います


そんな事をするには大きな理由があるのです









「よし!」


早起きした後

顔を洗って髪をとかして

いつもの用意された可愛いお洋服を着て

しっかり支度を終えました


そして今日も扉の前に立ちます


もうすぐ8時の音がする時間です

わたしが早起きして支度した理由が始まります





ビー ビー ビー

同じ音が3回


そして重そうな扉がギギギと音を立てて開きます

お兄さんが来ました!


「おはようございます!」

「おはよう、ハナ」


わたしの背よりずっと高い位置から

とても優しい声でお兄さんは挨拶を返してくれます


「相変わらず君は偉いね」

「時間ぴったりに起きるどころか

 身支度も済ませてくるんだから」

「あっありがとうございます!」


「でも大変だろう?寝ててもいいのに」

「いえ!やりたくてやってるのでっ」

「そうかい?ふふ」


お兄さんは板にペンを動かしながら

どちらも微かに目尻を下げて口角を上げます

わたしはこの笑うが大好きです

笑うが見れてすごく嬉しいです


お兄さんは毎日こうして

わたしに8時に会いに来て

そしてお話ししてくれます

たまに笑うもしてくれます


この笑うが見れるお話しは

早く起きないと出来ません


よくは分かりませんが

お兄さんの笑うを

わたしはもっと見たいのです


というか話したいだけならそもそも

6時に起きて支度をするのでは無く

お兄さんが来る8時にただ起きていれば良いのでは


確かに前はそうしていました

でも不思議と恥ずかしくなってきたのです

お兄さんに起きた直後のわたしを見せるのが


というように

これがわたしが早く起きる理由です


こんな理由を持ったり

笑うを見たくなったりなんて

最近のわたしはわたしでもよく分かりません


近頃はこれについてずっと考えています

何処かおかしくなってしまったのでしょうか




「…ナ」


「ハナ?」

「ひゃいっ!」


いけません

ついつい考えるのに夢中になってしまいました


「何度か呼びかけたのにぼうっとして、

 大丈夫かい?どこか変だったり…」

「どどどどうもありません!大丈夫です!」

「そう…何かあったらすぐ教えるんだよ?」

「もちろんですっ」

「よろしい、まぁ何も無いなら無いで良いけれど」


「じゃあ、時間も限られているし始めようか」

「はい!」









わたし達は部屋の中に入りました

わたしが部屋の真ん中に立って

お兄さんはその前に立ちます

今日も元気かどうかの確認が始まります


お兄さんはわたしをじっと見つつ質問をします

「じゃあまず変な所は無い?」

「はい!元気です」

「目は?」「見えます」

「体は?」「動きます」

「声は…って出てるよね、よし」


基本の動きの確認が終わりました

次の確認です


お兄さんが腰のポーチからナイフを取り出します

わたしの右足を切るためです


「はい、座って」

近くから小さな椅子を運んできて

お兄さんがわたしを座らせます


「じゃあ力を抜いて…」

「触るよ」

「はい」


「痛かったらすぐに言ってね」

「はい」


いつもお兄さんは痛かったらと言います

今までその痛かったらになった事はありません

多分感覚の一つなんだろうなと

わたしは勝手に思っています


「…」


そしてお兄さんは毎朝いざ切ろうと

わたしの右足のひざから足首までの途中のところに

片手で持ったナイフをそっと当てる時

ほんの少しその手が止まります


一瞬だけれど

お兄さんの横顔をまじまじ見ても気付かれないので

わたしはこの時間が好きです


そして束の間にお兄さんの手が力を込めて動かされます


ざくざくとなんだか気持ち良い音を立てて

わたしの右足が切られていきます

わたしの右足だったものが生まれていきます


お兄さんの真剣な横顔を密かに見つめます

このまま時が止まってしまえばいいのに

なんて思ってしまいます

今日を含めそうなった事はまだありません


そうこう考えている内に

お兄さんはわたしの右足を切り終えます


「…」


お兄さんが切った所から出た水を拭いてくれます

床に広がった透明な水の中に落ちたわたしの右足を

お兄さんは拾って透明な袋に入れて断面を見ます


「よし…見た感じ変化は無いね」

「ねんりん、は増えてないんですか?」

「うん」


「前も言ったけれど、

 あれはそう起こることではないんだよ」

「年に一回、ハナの生まれた月、誕生月あたりに

 新たな層が段々と現れて重なっていくんだ」

「は、はい!そうですよね…」


わたしの誕生月

どれも鮮明に思い出せます


今みたいな確認の時間

ねんりんが増えているよと

笑うお兄さんは教えてくれます


その後にわたしは部屋の外に出ます

お兄さんに抱きしめられて抱っこされて

普段は見つめるだけの重い扉を

その日だけはくぐります


正直

外に何があるのかはいつも覚えていないし

そこまで外に出たいという訳でもありません

けど

お兄さんがその日だけはわたしを抱きしめてくれる

わたしとたくさんお話ししてくれる

毎年その日がわたしは


「ハナは誕生月が好きなのかい?」

「は、はい!」

「好きです!」

「…そう」


「お兄さんはどうですか?」

「僕は、」

「えっと」

「好きだよ、僕も」

「本当ですか!同じですねっ」

「そうだね」


お兄さんはそうして笑うを見せてくれました

この時の笑うでは目尻は下がっていませんでした


「見た限り誕生月はまだまだ先だ」

「でも、待つ時が長いほど

 嬉しさも増えるものなんだよ」




記録はここで途絶えている。

やはり脳波から思考を読み取るという行為は、

短時間が限界の様だ。


記録補完等の目的から、担当者への聞き取りを追記。


[職員番号:XXX]

彼女は桜をベースにその他様々な植物の遺伝子を人間の遺伝子と混ぜ合わせ生まれた実験体だよ。この子のデータはとても優秀でね、今までの中で1番安定しているし、本当の人間のように自立して思考する事も出来るんだ。しかも、身体に共生している植物を操る能力すらある。まさに彼女は新時代の人類の希望なんだよ。今は未だ幼いから、能力も理解していないみたいだけど、すぐにハナは力を使いこなせるだろうね。僕は信じてるよ、87。

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