新六話 入学式
息を吸うように日は過ぎていき、いよいよ家を出る日がやってきた。
今日のためにフローラさんには礼儀作法などいろいろと教えてもらった。おかげである程度はいけると思う。
「いよいよか」
「うん、それじゃ行ってくるよ」
「あぁ行って来い」
「長期休暇には帰ってくるよ」
「ああ」
「フローラさんもありがとうございます。行ってきます!」
俺は父さんの後ろにいる、フローラさんに目線を合わせた。
「行ってらっしゃいませ。バーン様」
俺は笑顔を向けた後、ドアに手をかけ外へ出た。
いよいよか、今日から王都で住む。
もう誰もいないんだな。
今から馬車に乗り国の首都まで行く。
「ここまでお願いします」
御者のおじさんへ行き先を伝える。
「あいよ」
俺が乗るのを確認すると御者のおじさんは馬を走らせた。
ふわ〜〜ぁ、暇だなぁ。
代わり映えのない外の景色を眺めているといつの間にか睡魔に襲わていた。
「着きましたよ。お客さん」
「…ん、あ、ありがとうございます」
次に目覚めた時、話し声や歩いている音で目的地に着いたことを実感した。
駄賃を払い馬車を降りる。
ここから少し歩いたところに俺が行く学園があるはず。
それにしても建物も人も多いなぁ、俺のいたところとは大違いだ。
道中、何度も場所を聞きながらようやくたどり着いた。
「ここがオール学園で間違い無いな」
正門らしき場所には新入生らしき人の人だかりができている。
獣の耳をした者や、皮膚がゴツゴツとした者、長い耳を持つ者などいろんな種族が目に入った。
「あの〜すみませんがあなたも新入生ですか?」
自分が話しかけられたとは思わず、そのまま教室を向かおうとすると、目の前に女の子がプンプンしながら現れた。
「無視するなんて酷いじゃないですか!」
白髪の女の子はなぜか妙に既視感があったが思い出せ無いので気のせいということにしとこう。
「すみません。自分に話しかけてきたとは思わなくて、ご要件は何でしょうか」
こういうのは最初が肝心だとフローラさんから教えて貰ったからな。たぶん言葉遣いはバッチリだろう。
「そうなの?まぁ良いわ。教室がどこにあるのか聞こうと思ったのだけど、みんな誰かと一緒にいるから、話しかけづらいなと思ってたところにあなたがいたの」
「でも、自分もよく分からないんですよね。今日が初登校なので」
「う〜ん、困ったわね」
俺は頭を抱えている彼女を横目に通り過ぎた。
「ちょっと待ちなさいよ!どこに行くつもり?」
「どこって、教室ですよ」
「え?でもさっき分からないって」
「自分の教室は分かりますけど、あなたの教室の位置は分からないですもん」
「分からないって言ったり、分かるっていったり、あなた生意気ね」
怒らせてしまったな。でも、ホントに自分以外のクラスの位置は知らないからな。
「ちなみに何組なんですか?」
「1年B組よ」
「B組てことは同じクラスですね。それなら案内出来るか分かりませんが、一緒に行きましょう」
「なんか嫌な感じね、あなた友達いるの?」
玄関を入り階段を一緒に上がっていく。
1年B組は3階の右から2番目にある。
「友達は居ないですね。そもそも同年代が周りにいなかったので」
「そうなの、じゃあ私はあなたの友達候補になってあげても良いわよ」
「候補なんですか?」
「まだ友達と呼ぶには関係が薄いし、それにあなたの態度がなんか…なんか!いやだから!?」
そうこう言ってるうちに3階まで上がり教室の前まで来る。
「なんかってなんですか」
「それが言えたら言うわよ」
ドアに手をかけ開ける。
中には見たことがない種族がたくさんいた。
「な!…なんだ!!?」
俺の視線に気づいたのか、何人かの集団がこちらに来た。
まずい囲まれた。
「お前、ここらでは珍しい顔だな。種族はなんだ?」
「しゅ、種族は人間です」
「プッ!ハッハッハッ」
俺の発言を聞きその場にいた全員が笑った。
「うそ…あ、あなた…人間なの?」
俺のすぐ後ろにいる女の子は顔を真っ青にしている。
「おいおい、誰だよ。人なんて呼んだやつ。この世にある種族で一番最弱じゃねえか」
え?人間って最弱なの?でも、みんな人型じゃんか。
そんなことを考えていると長身で一番強そうな男が話しかけて来た。
「こいつは面白くなりそうだ。よろしくな俺はクロノ・ハツて言う。お前は?」
「バーンです」
「よろしくなバーン」
握手を求められたので素直に手を握り返す。
「あの~とりあえず席に着いてもらっても良いかなぁ?」
いつの間にか皆席に着いて後ろには先生がいた。
「「はい」」
席に着いて一息つくと隣の席にいたクロノが話しかけて来た。
クロノ「クラスの人気者確定だな」
バーン「そんなに珍しいんですか?」
クロノ「学校に来るってこと自体がイレギュラーだぜ」
バーン「そうなんですか?」
先生「そこ!うるさいよ。ちゃんと先生の話を聞きなさい!えぇ〜と今日は入学式なので…」
クロノ「さっきの続きだが、人間て種族は…」
先生「クロノ・ハツ君!後で職員室に来るように」
クロノ「はいっ!!!」
クロノの裏返ったような声でみんなが笑い出した。
「さすがにこれ以上初日に注意されて目つけられるのはきついし、続きはまた今度、時間がある時に話そうぜ」
「あぁ」
そしてあっという間に入学式は自己紹介も何もせず、学園長の話と担任の話を聞いて終わった。
〜用語解説〜
・クロノ・ハツ
誰とでも親しくなれる。
バーンと同じクラスの同級生。
種族=石人
身体を石のように硬くできる。普段は人間と同じような肌の色をしているが石化している間は灰色になり、その場を動けなくる。
四大元素の中でも土属性が得意。
・女の子
入学式早々話しかけて来た女の子。
名前はエル。
バーンと同じクラスの同級生。
種族=長耳族
長い耳を持つ、人と精霊のハーフ。かつて人が精霊を取り込んだ際に新しく生まれた種族。
精霊を取り込んだ影響か歳をとりにくい。
四大元素の中でも風属性が得意。