新五話 動き出す歯車
数年後
森の中木から木へと移動一人の姿があった。
「よし、こんなもんかな」
バーンは背中につけているリュックの中身を確認すると、森をぬけ急いで家へと向かった。
「たっ、だいまぁぁぁー!!!…て誰もいないのか?」
家に入るがあいも変わらず静かなもんだな。とか思っていると奥から一人の女性が来た。
「あら、お帰りなさい。バーンさん、旦那様は道場にいらっしゃいます」
「ありがとうございます。行ってきます」
あれから10年ほど経った。
父さんはシワが増えて老けたと思う。みんなが居なくなってから、俺が寂しくないようにと家政婦のフローラさんを雇った。
「父さん。ただい、ま……てま〜た地下に居るのか」
階段を使って降りる。
父さんは目を閉じ座禅をくんでいた。
しばらく待っていると目を開けた。
「お、バーン。帰ってきたのか。お帰り」
「あぁ、ただいま」
父さんの近くまで行き尻をつけて座る。
「バーン。学校へ行く気は無いか?」
「学校?」
学校かそれ自体は嬉しいけど、父さんは大丈夫なんだろうか。
「あぁお前もそろそろひとり立ちする時だろうかと思ってな」
「それは良いけど…父さんは大丈夫なの?」
「俺のことなら心配するな。家政婦のフローラさんだっているし、いつまでもここに残すわけにもいかないだろ?」
そうかもしれないけど、それでも心配だ。
「う〜ん……」
「実はなもう手続きはしてある」
そう言うと父さんは立ち上がり、引き出しからパンフレットのような物を出し渡して来た。
「オール学園て……え?文武両道に力を入れ、どんなことでも学ぶことが出来る王国指定三大学園の一つの!?」
「そうだ。そこでバーンにもっと強くなって欲しい」
補足だがもう俺は父さんを超えた。
週に一回ほどしか、父さんとは組手をしていなかったが毎日筋トレ、肺活トレーニング、魔力の基礎を練習し続けているうちにいつしか父さんを倒した。
「それでも俺はここに残りたい。父さんは俺を追い出したいの?」
「そうゆうわけじゃないが……このままだと納得いかないだろうし話すか…」
「それって?」
「近いうちに厄災が来る」
「へ?」
いきなりそんなことを言われて変な声が出た。
厄災?それってなんだ。
「まだ何が起こるか具体的には分からないが、厄災が来ることだけは確かだ」
「その厄災に自分が学校に行くのと何が関係するの?」
「俺はその厄災で間違いなく死ぬはずだ。だから俺がいなくなったあとも…親がいなくなっても…いや、何でもない…」
父さんは最後まで言わずに口籠った。
「そ、そんな……なんで、何で自分が死ぬことが分かるのさ、おかしいよ。こんなに元気じゃん!!」
「そうだな…確かにそうだ。実際その場に出くわさない限りそう思わないよな」
「そうだよ!」
「俺は自分の死期が分かる」
父さんは人差し指を頭につけ、真っ直ぐこちらを見つめる。
「初耳だよ、…そんなの…そんなのって無しだよ!後出しなんていくらでも嘘つけるじゃんか!!」
「悪いなバーン、俺だって精一杯頑張った結果がこれなんだ。だから、学校に行ってくれないか?」
無理だ。もう今日は無理だ。自分ってこんなに心が弱かったんだな。
「………分かった。とりあえずは行ってみるよ、いつからなの学校?」
「来月からだ」
「来月って…」
俺は壁に貼ってあるカレンダーを見た。
「もうあんまり日にち無いじゃん!」
「なかなか言い出せなくてな。制服やらなんやらはフローラさんが管理してるから後で聞いてくれ」
「分かった…」
「んじゃ、家に帰るか」
外に出ると、日が暮れようとしていた。
「もうすぐ夜だな」
「………」
バーン、暗い顔してんな。無理もないか、いきなり父が死ぬとか言い出すんだもんな。身体は大きくなっても、あの頃のままだな。
気のせいか昔のバーンと重なって見えた気がした。
「バーン。明日は一緒にどこか出かけに行こう」
「ほんと!?」
バーンは笑顔になった。
「あぁ、ほんとだ!」
これが俺の出来る最後の…いや、湿っぽいのは無しだな。俺は自分が生きるために頑張るんだ。まだ確定してないことだし、今までだって俺は生きた。今回も何とかなるだろう。
それに、これで少なくともバーンは生きる。
「よぉし、それじゃ家までどっちが先に着くか勝負だ」
夕日に照らされた2つの影が楽しそうに動いていた。
〜用語解説など〜
父・レイルは未来、(自分の死期)が見える。ただし、それがいつのことかまでは分からないし、見る度に変わるので確定ではない。
ただ今回は何度も同じ夢だったので確信した。
厄災が来るというのは、自分が死ぬ運命に至る経緯を厄災と言ったのか、それとも他にもあったのかもしれません。