新四話 残された家族
「おい…どうなってるんだ?」
レイルは落胆の声を出す。
目の前にあるはずの家族がいなかった。
全ての部屋を確認したが誰も居なかった。わずか10分ほどで、自分と父を除く家族全員が姿を消した。
「まだ、近くにいるかもしれない。行くぞバーン」
家の周辺を探したがなにも見つからなかった。
(子供ながらに理解した。もう家に家族が帰ってくることは無いと。)
「皆に会いたい」
バーンとレイルは家の椅子に腰掛ける。
「そうか…」
(本当はここに残ってバーンを育てるべきだと思う。だが他のみんなも大切だ。ここで食い下がっても良いのだろうかとレイルは考えた。)
「バーン、皆に会いたいのはすごく分かる。けどな、ここに残って家族の帰りを待つ事も大切だと思うんだ。分かるか?」
「分かんない。全然分かんないよ。」
(本当は分かってる。分かってるんだ。でも、体が理解するのを拒んでいる。)
「バーン…頼むからここにいてくれ父さんも一緒に残るから」
(お父さんにハグをされた。
お母さんとは違って、体がガッチリしていて、硬い。)
「もう………会えっ…ないの?…………い゛や゛た゛よ゛ー!!」
バーンは目にたくさんの涙を溜めて一気に流した。
父レイルはただハグを続けた。
次の日
バーンとレイルは家でご飯を食べてから、道場へと向かった。
「バーン!ホントにやるのか?」
「うん!お父さんを倒すよー!」
(お父さんの提案で今日からすることになった。なにをするのかと言うと、魔力と筋力の強化を始めるらしい。
ホントはしたくなかったらしいけど、ごゅしゅんじゅちゅ?てのを身につけて欲しいんだって。)
「それじゃあ、行くよ」
「どーんと来い」
一定の距離を開けて立っていたのを距離を詰め、パンチやキックを繰り出す。しかし、レイルはビクともしなかった。
デコピンを一発くらい少し吹き飛ぶ。
「大丈夫か!?」
「うん、これくらい平気だよ」
おでこを押さえながら言う。
「今日はもう辞めにしよう」
「えぇ〜、もっとやろうよー」
「次は魔力の使い方だ。厳密には超能力と呼ばれるものもあるが、とにかく一度お手本を見せよう」
右手を壁の方向へと手をかざし、目をつぶって詠唱し始めた。
「火、水、風、土、4つの元素の内、一つはあらゆるものを燃やし、全てを焼き払う。その業火は何を燃やし、その火を煌めかせる?煌火」
右手の周りが発光しだし、火が出現する。
詠唱を終えると同時に壁が勢いよく燃え始めた。
「うわぁ~すごい!!こんなことが出来たのなら、速く教えてよ〜」
「切り札はとっておくものだろ?さ、俺の言った通りにやってみろ」
指を鳴らすと壁の火が見る見る消えていった。
「分かった。やって見る。えーと……」
「まだ、片手だけじゃ不安定になるだろうから、両手を出してやりな」
両手を出し、目をつむる。
(たしか、こう言ってたよな。)
「火、水、風、土、4つの元素の内、一つはあらゆるものを燃やし、全てを焼き払う。その業火は何を燃やし、えと…」
「その火を煌めかせる?」
「その火を煌めかせる?煌火!」
周りが発光するところまでは同じだったが、火が出なかった。
「どうだった!!!!!?」
(自分が燃やした所はどこかどこかと見渡すが見当たらない。だめだった。)
「ま、最初はそんなもんだろ。これから出来るようになれば良い」
「じゃあもう一回行くよ!」
「辞めときな。もう魔力がすっからかんだと思う」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「子供の頃は魔力を使えば使うほど使える量が増えるが、その分体調不良になりやすくなるんだ。だから、辞めたほうが良い」
「へ〜、じゃあ次は何する?」
「普通に筋トレだ!」
力こぶを見せつける。
「えぇーー!!!?」
それからはトレーニングをして1日が過ぎた。
「それじゃ、もう遅いしご飯にするか」
「うん」
家へ帰り食事を済ませ、風呂から出るとバーンはぐっすり眠った。
「寝たか。ごめんなバーン、今は辛いかもしれないが俺はお前も失いたくないんだ」
寝顔を見たあとにリビングへと帰ろうとすると
「たの…し………いよ」
声がした気がした。
「え?」
後ろを振り返るが吐息が聞こえる。
なんだ寝言かと思いリビングへ戻る。
(今まで当たり前にいたものが無くなってから気づくんだ……大切だったことに。
なんで、こんなこと考えてんだろうか。)
涙が静かに目から落ちていく。
(あぁ、辛いんだ…みんながいなくなったから。まだ生きてるかどうかすら分からないから。それでも、一人まだ俺の側に残った家族がいる。だから……)
その日レイルは誓った。
目を離さないと、今度こそ俺が守ると、当たり前は無いと、自己満だろうと何だろうと構いやしないと。