新三話 空白の10分と謎の場所 兄(レックス)編
時は遡りバーンが道場に行ったところまで戻る。
「あの子お父さんのこと好きね」
「俺は嫌いだ。あの人は前の母さんを捨てた。もちろん、今の母さんが嫌いって訳じゃないよ」
自分の発言の軽率さに気づきすぐに補足をする。
「あら、ありがとうね。それはそうとお姉ちゃん、呼んできてもらえる?」
「分かった。行ってくる」
この家はリビングを除く5つの部屋があり、少し離れたところに道場と勝手に呼んでいる場所がある。
リビングを抜けた一番奥の部屋にアイツがいる。
「おい姉貴、飯の時間だ。行くぞ」
「あぁ?今顔のケアしてるの分かる?無理なんだけど」
「そんなこと知らん。俺は母さんに呼んでこいて言われたから来たんだ」
「あっそ、だったらみんなが食べた後に行くって言って」
「お前なぁ」
「なに!?文句があるなら聞くよ。無いなら帰った」
部屋を出るまでに一度も顔を見なかった。
とりあえず母さんに伝えておく。
「そう…それじゃ二人が帰ってくるまで待ちましょうか」
俺と母さんは席について、二人を待つことにした。
そろそろ帰ってくるだろうかと思っていると、いきなり背後から襲われた。
「ウッ……」
目を閉じる前に見たのはフードを被った何者かだった。
目を開けると薄暗い場所だった。
見たところ母さんはいない。
「ようやくお目覚めか?」
後ろから声がし、振り返ろうとするが身体が椅子に縛られているためいうことをきかない。
「おっと、動かない方が良いぜ。俺はガキは嫌いなんだ」
よく顔は見えないがすき間から見える毛並みで獣人かと思う。
「な、何をした。母さんはどこだ?他のみんなは?」
「さぁな?俺はお前さんのことを任された。それ以外は聞かれても何も答え無い」
答えてくれないのか。
「そうか…だったら俺はこれからどうなる」
「安心しろ、今は命は取らない。ただ、俺の仲間や依頼次第では変わるがな」
「それって…」
「まぁ、暇やし雑談でもしようや」
恐る恐る会話をしたが結局よく分からなかった。彼は自分の話を全くしようとしない。逆に俺ばかり話してる気がする。
「そろそろか…」
時計を確認するとそんな事を言った。
「あの?どうなるんですか」
「俺とお前はここでお別れだ。また、会えたらそん時はお互い立場が逆になってるかもな」
後ろからガチャと音がし、扉が開く。
目隠しをされ椅子ごと移動させられる。その間、謎の液体を腕に注射された。
どこに連れられるのかと思っていると、先ほどまで会話していた声とは違う人が話しかけて来た。
「お前の家族は死んだ。家もみんな焼いた。おっと!暴れるなよ。危うく撃ち殺すところだった」
「ウッ!アッ!」
言葉を出そうにも感情が前に出て、何も発せない。
「これからお前にはある場所に行ってもらう。そして、そこで一生暮らすことになる。それじゃあな」
駄目だ。力が入らない。さっきの注射のせいか。それに瞼も重い。抗うことすら出来ずにそのまま眠った。
目を開けても目隠しされていて、今が朝か夜かすら分からない。どれくらい時間が経ったのかもう疲れた。
「着きましたよ」
おそらく馬車の荷台に入れられていた俺は御者に話しかけられた。
「!!」
駄目だ。声が出ない。
「降りられませんか。では」
御者に降ろされ、すぐそこにあったのかチャイムが押される。
「はい」
「例の物です」
「あがって」
椅子ごと運ばれる。今まで気付かなかったがいつの間にか車輪が付いていた。
建物の中にそのまま入って行く。
「うん、確かに間違いないね」
「では、私はこれで」
御者は去って行った。
「コ……、コ?八?」
喉がおかしくなったのか、ガサガサで自分でも何を言ってるのか分からない。一体どこに来たんだ。
「先に確認するけど…あなたがレックス君で間違い無いわよね?」
首を縦に振っておく。
「良かった。じゃあ私の家を案内するわね。と、その前にえぇと?まずは、何をすれば良いのかしら?」
「おほん!お食事のご用意をして来ます」
「爺や、どうすれば良い?」
「ゴニョゴニョ」
何か話しているが小さ過ぎて聞こえない。
「そうね!じゃあまずは自己紹介ね!私の名前は!!!フリーダム・オールよろしくね。みんなからは、フリーダて呼ばれてるわ。あなたは今日から私の家族よ!!」
高らかに響く声に耳が振動している。
何がなんだか分からないがとにかく俺は彼女とその家族の一員となった。
〜用語解説〜
・オール王国
いろんな種族が揃う国。来るものは拒まず去るものは追わずという方針がある。
・フリーダム・オール 通称フリーダ
オール王国の王女様。
なぜ、レックスを招待したのかは分からない。