新一話 神、人間になる
その昔、現世にも神様がいたらしい。その他にもいろんな種族がいたとか。
でも、あることがきっかけで種族内で大きな戦いが起こった。それから現世から姿をけし、神様は新しく天界という自分たちだけの世界を創造したんだ。
そしてここ天界には神様に使える天使がほとんどをしめている。
もちろん、神様の子孫だっているぞ。その中の一人が俺だ。え?お前は誰だ!?だって!?
俺の名は紅蓮。先ほどから一人語りしていて申し訳ないな。と言ってもこの天界は暇で暇でしょうがないんだよ。だからこうして、誰かも分からない人たちに話してるんだ。で、話の続きをしようと思ったけど、誰か入って来たな。悪いが話はまた今度だ。
階段を上ってくる音が聞こえる。
「紅蓮!!!いつまで部屋にいるつもりなの!?速く出なさい」
ガンッ!!と音を立て扉が勢いよく開かれた。
白い髪をなびかせながら、突然入って来たこの子は、俺の数少ない友達のユリだ。
「なんだよ?俺はこの部屋で過ごす事に命の偉大さを感じてるんだ」
「とか何とか言って、また家から出ないつもり!?でも、今日という今日は外に出て貰うよ!!!」
彼女は俺の布団を引っぱってくる。
なんだ!やめろ!やめ…!…あっ………
布団が取られた……悲しい。
「んで?用件は何だよ」
洗面所で髪を整えながら聞く。
「ふふん!それはねぇ〜…これ!」
鏡越しにチラシを見せられる。
そこには、何人かの人が手を挙げた絵があり、選定と大きく書かれていた。日時は今日だ。
「んぁ?これが何だよ?」
顔を洗い始める。
「あんたが出ることになったから、それを伝えようと思って!!」
タオルで顔を拭いていく。
へぇ〜選定、選定にねぇ…………はぁ!?
「はぁ〜!?どうゆうことだよ!?何で俺が選定されなきゃならないんだよ!てかそもそ何だよ選定って!何を選定するんだよ!」
「あなた史上最も長文を聞いた気がするわ……てそれよりも、この選定てのはね——」
俺とユリは外に二人で歩いている。
「何で俺が行くんだよ、ユリお前が行けよ」
「あなた以外もいるんだから、そうあからさまに落ち込まないで…それに私は………とにかく!ほら、もうすぐ着くよ」
会場の外にはすでに何人かの集団ができていた。
獅子の顔をした者、蛇の顔をしたもの、筋肉がすごい男などの周りにあつまっている。
「会場にお集まりの皆様、エントリーされる方から中にどうぞ」
アナウンスの声に従いエントリーした者達が中に入って行く。
俺自身はエントリーして無いんだよなー。などと考えながら入ろうとすると、ユリは俺の前に立ち、ニコッと笑ってみせた。
「頑張ってね。紅蓮!」
「ここに残れるよう、全身全霊をかけてやる」
会場の中は薄暗く、マイクがポツンとあるだけで何も無かった。
ぞろぞろと中に野次馬が入って来る。
「いよいよやな」
「今回は誰が選ばれるんか」
「何だ〜?あのガリガリは、やる気あんのか?」
と言った声がする。ガリガリとはたぶん俺のことだろう。
そうだ、軽く選定について説明しよう。
選定てのは数百年に一度現世に降り、現世にいる子孫やら他種族を観察したり、世界各地を回ったりしたりする者を選ぶ…要するにめんど……おほん!!とても大切なことらしい。
例年なら、立候補した者の中から選ぶわけでは無く、直々に呼ばれた者が行くらしいからよく知らなかったが、ユリがたまたまチラシを見つけ、俺の名前を使ってエントリーしたことで行くことになった。当日まで言わないなんてズルいぞ。
「おほん!会場へお越しの皆様、今回の選定では今までとは少し変わったことをしたいと思っております。立候補制にしたのもここにあります」
マイクが置いてあった位置に光が当たり、ちょび髭の犬が喋りだした。
「それは、一人の人間として一から人生を始めることです」
「はぁ!?どうゆうことだ!!」
「意味が分からん!!!」
いろんな所から怒号が鳴り響く。
俺も意味が分からない。聞いてた話と違うぞ。なんで一から人生を始める。
「静粛に!」
バンッ!と床を踏み大きな音を司会が立てると、皆黙り込んだ。
「今回、立候補制度にしたのはそこにあります。例年ならそれはそれは偉く強いお方が行くのですが、今回選ばれた方がどうしても行きたくないと申し上げられたので、このような形に変更になりました」
「てことは、俺が下界で無双することは出来ないってことなのか……」
何をしようとしてたのかは知らないが、隣にいた頭がライオンの男が崩れ落ちた。
「それでは改めて下界へ行きたい方はいらっしゃいますか?」
ただ沈黙だけが過ぎていく。
「それではー……そこのあなた!あなたはどうです?」
司会者に指を差され、皆の視線が俺に来る。え?
「俺!?俺ですか!?」
「はい!そこのあなた。あなた立候補したんでしょう?」
「それは、まぁ…」
やばい、何か断る理由を……
「では!決定ということでこれにて解散とさせていただきます」
「あ、ちょま…」
会場からぞろぞろと出ていく姿をただ見送っていた。
「では応接の間までよろしくお願いします」
「はい…」
ふと後ろに目をやると、バツが悪そうな顔をしたユリの姿があった。
「ごめんね、紅蓮。ホントに選ばれるとは思ってなかったんだ…それにもう会えないよね」
涙を流しているのか、俺は彼女の顔を見ることが出来なかった。
建物の奥の部屋に案内され、中にいた従者らしき者としばらく待っているとフェイスベールのような物を着けた女性が入って来た。
服越しでも分かる胸に見惚れていると、俺の顔を胸では無く顔に向くように謎の力を使ってきた。
「それでは、まずお名前を」
「名前は紅蓮です」
「紅蓮様、この度は一人の人間として下界に降りてもらいます。心の準備はできていますか?」
「準備と言うか、いくつか質問してもよろしいですか?」
女性は周りにいた従者に目配せし、頷いた。
「では、まずどうして人なのですか?」
「それは、様々な種族が下界には存在しておりますが、その中でも特に人間という種族が一番我々に近い存在だからです」
「それはなぜですか?」
「それは言えません」
「では質問を変えます。どうして今回人間になるのですか?」
「それはどうゆうことです?」
「ええと、今までは決まった方が現世…下界に降り、各地を回っていたんですよね?それがどうして、いわゆる転生?という形になったのですか?そのような形になったのかを聞きたいのです」
「そうですね、どうしますか?」
再び周りにいる従者に目線を合わす。
少し考える素振りを見せ、口を開いた。
「言っても良いのでしょうか?う〜ん、いやー言ったら怒られるだろうなー。でもー……決めました。言います」
「ゴクリ」
口に溜まってたかどうかも分からない唾を飲み込む。
「ただの知的好奇心です」
「え?」
「もちろん、他にも理由はあります。ですが私の口から言える精一杯はこれです」
「と言うことは、結局何も教えられないと言うことですか?」
「そうゆうことになりますね。まだ聞きたいことはありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「それでは、儀式を執り行うので私と紅蓮様以外は外へお願いします」
何も教えては貰えなかったな。選ばれたからには、何か聞き出そうと思ってたんだがやっぱり無理だったか。
そうこう思ってる内に見る見る身体が光の粒子に包まれていく。
これでお別れか。下界でも俺はきっとごろごろ生活するんだろうな。
「紅蓮様、どうか神のご加護があらんことを」
俺が天界で最後に聞いた言葉はそれだった。
こうして俺はとんとん拍子でその日、人に生まれ変わった。
〜用語解説など〜
・紅蓮
神の血を継いでいる。だが記憶が曖昧なため、実力を発揮出来ない。毎日家からほとんど出ないで自堕落な生活を送っていた。
・ユリ
紅蓮の友達。負けん気が強く、よくいじめられていたが紅蓮に助けられたことでいつも気にかけるようになった。ある日を境に外に出なくなった紅蓮を、このままじゃいけないと思い、日々外に出すために試行錯誤している。
・神
天界を創った創造主。天使や使い魔に絶対的な信頼をしているが、裏切られた時は容赦なく消してしまう非道な一面もある。