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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第五幕 八海事変
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第九十五話 握られた手の正体

強い太陽の力がダゴンを焼いていく。


「くっそおおぉぉぉぉ!!!!!」


無念の声が響いているがこれは猛の意志ではないだろう。まだダゴンの残滓が猛の体を支配している。


「・・・・・・・・・・・。」


縛っている木々は既に焼け焦げ灰と化した。

ダゴンを押さえつけているのは太陽の力のみであり抵抗する力も無くなってきている。

このままではダゴンの残滓を残したまま木々のように体は灰と化してしまう。

だが今やめてしまえば・・・・ダゴンは残ったままだ。


「・・・やめてくれ。」


このまま続けて純恋に命を奪わせるよりか、

猛がこうなってしまった原因の俺が手をかける方が良いと純恋に中断の合図を贈る。


「・・・・・・・・いやや。」


だが純恋はやめるどころか魔力をさらに込め始めた。


「純恋。」


「あんた、自分で手をかけるつもりやろ。そんな一人で背負うなんて許さん。

やったら私が・・・!!」


さらに太陽の力が増していく。本当に猛に手をかけるつもりだ。


「やめろ!!!」


俺を思う気持ちは嬉しいがやっていいことと悪いことがある。

無理やり魔術を止めようと太陽に向かって風の魔術を唱えようと手を伸ばした時、

俺と純恋の手を誰かが握った。


「やめなさい。」


桃子や楓、千夏さんではない女性の声に俺達は思わず振り返ってしまう。


「ア・・・ルさん・・・・・?」


そこにいたのはいるはずのない国學館の寮母さんであるアルさん。

なぜそこにいるのか分からず警戒してしまうが敵意を全く見せず、太陽の方に視線を移した。

俺達もつられて太陽を見ると光り輝く太陽が徐々に上空に上がっていく。


「なん・・で・・・・?」


純恋の反応は自ら太陽を操作しているのではなく意図しない動きに対し驚いている。

よく見ると太陽の周りに人型の炎が何個も浮かんでおり、

まるで太陽を持ち上げるように手を伸ばしていた。


「良く戦ったけど少しやり過ぎよ。

例え命を奪えるとしても、それじゃこの子達と同じになってしまうわ。」


純恋の行動に対し叱責してくれる。

猛の体からは肌が太陽の光によって燻っている音が聞こえているがまだ息はあるようだった。


「・・なんでおんねん。」


驚いていた純恋だがすぐに冷静を取り戻しいる理由のないアルさんに尋ねる。


「ここに来るように指示を受けたのよ。」


いつの間にか開いている外に繋がる扉の先を見て頷くと黒いローブを着た二人組が入ってくる。

そして猛に近づき膝をついてこちらに聞こえないほどの声で何を話し始めた。


「ちょっ・・待ってください!!」


兼兄の指示で来ているという事は恐らくアルさんは業だ。

そして二人組は業の隊員。連れていかれると

もう二度と顔を見る事が出来なくなってしまうかもしれない。


「彼は犯罪者よ。どの組織が引き取ったとしてもそれ相応の罰を受けるのは当然の事。」


「・・・・でもっ!!」


罪を犯したのは猛だが事の経緯によってはダゴンの残滓が悪さした可能性もある。

業に引き取られたとしてもその事実を調べてもらいたい、

そう言おうとしたがアルさんが言葉で遮ってくる。


「であれば!私達”白”が引き取った方がマシじゃないかしら?」


・・・白、聞いたことがある。確かクトゥルフ教団を壊滅に追いやった組織の名だ。


「大体の状況は把握しているわ。彼、ダゴンの力を体に入れられているのよね?」


「ちょ、ちょっと待ってください!突然のこと過ぎて頭の整理が・・・・。」


先ほどまで戦っていた脳はいきなりの出来事に全く追いついていかない。


「白が引き取った場合どうなるんですか?」


後ろにいた千夏さんが割って入ってくれる。


「純恋さんを止めていただいたことは感謝いたしますが、

戦いを終えたばかりで頭の回らない我々に条件を無理やり押し付けているようにしか思えません。

詳細を教えていただき、龍穂君が納得しなければそちらの彼を渡すことはできません。」


「んー、出来れば全て話したいんだけどね・・・時間があまりないのよ。」


アルさんが空を見上げると太陽を運んでいた人間の形をした炎、おそらく精霊が戻ってくる。


「さっきも言ったけど他の組織、特に三道省に彼を連れていかれれば重い罪に問われる。

そして三道省の中にいる”賀茂忠行”の配下に殺されることは目に見えているわ。」


賀茂忠行の名がアルさんの口から放たれる。

この人に相手に俺の使命について一言も話していない。


「今この現場には武道省と神道省の職員が迫ってきている。

だから早めに渡してくれないと彼の事を守れない。

悪いようにはしないわ。ひとまず彼を渡してくれないかしら?」


アルさんは猛の事を理解し保護してくれようとしている事だけは理解できる。

だがまだ信用するには情報が無さすぎる。


「・・いくつか条件があります。」


ひとまず猛を任せる事だけは決めた。

だが、素直に引き渡せばアルさん達が猛を何かに利用しようとするかもしれない。


「なにかしら。」


条件を突きつけられるのを分かっていたようにアルさんはすぐに尋ねてきた。


「白について詳しく教えてくれる場を設けてください。

冬休みが終わり、寮で生活するのに寮母さんを疑いながら生活するのは私達も嫌ですから。」


「ここに姿を現した時からそのつもりよ。

こちらで場所を用意してもいいけど無駄に警戒されたくないから

龍穂達から時間と場所を指定してほしいわね。」


俺達からの信頼を勝ち取ろうとアルさんは気を使ってくれる。


「そして猛の状態を逐一報告してほしいです。

俺は猛からダゴンの残滓を取り除いて普通の人間してやりたい。

そしてその方法が見つかったら俺達を猛に会わせてほしいです。」


純恋の太陽の力でもダゴンを力を取り除けなかった。

他の手段を見つけるのは難しいかもしれないが、まだ方法は残っているはずだ。


「・・彼の犯した罪の詳細は既に三道省に流出している。

そんな彼が世間に見つかれば大騒ぎになることは間違いない。

報告するのは良いけど簡単に会わせることはできないわ。それでも・・・大丈夫かしら?」


この事件の内容が外に出ているのなら猛は正式に犯罪者となる。

アルさん達がここから猛を移動させれば行方知れずの犯罪者として指名手配される可能性は高い。


アルさんの言いかたからして猛を誰も見つからないような場所で保護してくれるようだ。

ひとまず飲み込むしかないと俺は首を縦に振った。


(他には・・・・・。)


俺の頭で振り絞った条件はアルさんに突きつけたがまだできることはないかと周りを見渡す。


「・・それと奥の二人、その二人の顔を我々に見せていただきたい。」


それを察してくれた千夏さんがもう一つの条件を提案してくれる。


「アルさんが白と言うのは分かりましたがそれ以外の隊員が我々を監視する可能性もある。


外にいる全ての隊員の素顔を見せていただきたいところですが、

どうやら姿を隠しながら活動しているご様子。


最低限そこの二人の素顔を確認させていただき

彼ら二人がアルさんに報告する形を取れば白と言う存在がバレる危険性は少なくなる。

そして先ほど言ったように我々の監視はやめていただきたい。

その二つを条件に加えていただけませんか?」


見ると外にも奥の二人のように黒いローブを羽織っている人が何人も控えている。

姿を隠してきた白の存在がバレる危険性を減らしつつ、新たな条件を突きつけた。


「・・・・丁度いいわね、いいでしょう。」


少し悩んだアルさんだが千夏さんの提案を受け入れ、猛の体を見ていた二人の向かって手招きする。

招かれた二人はアルさんの隣に立つが、深いフードを被っているので

かなり近い位置にいるものの顔は見えない。


「二人とも。千夏の話しは聞いたわね?」


片方は頷き、もう片方は頭の後ろに手を組む。


「・・もう少し秘密にしたかったんだけどね~。」


「時が来たってことだ。仕方の無いことだよ。」


二人がフードを剥ぐ。

綺麗な黒い髪とくせっけの金髪が露わになり、

二人のを見た千夏さんが驚きのあまりに漏れたような声を上げる。


「えっ・・・・?」


「黙っていてごめんね?でもだましたかったわけじゃないんだよ?」


フードを被った人物の正体はちーさんとゆーさん。

まさか国學館の先輩の中に白のメンバが―いたなんて流石に驚いたが、

長く過ごしてきた千夏さんは相当驚いたことだろう。


「この二人をこれから龍穂達の連絡役として任命するわ。

千夏の監視の排除・・・となるとこの子達を退学させる必要があるから難しい。

でも元々この子達は龍穂の監視役として国學館にいたわけではないのよ?


自分たちの実力で入学しただけ。それに・・・出来れば私たちは協力関係を築きたいのよ。」


二人は千夏さんの元へ歩いていくがいつもみたいに仲の良い姿は無くどうしてもよそよそしい。


「色々話したいけど・・・もうそこまで迫ってきているわね。

龍穂、ひとまずこの子を預かります。

もしそれが嫌なのであればすぐにでも彼を龍穂に渡すからその後は好きにして頂戴。」


そう言うと別の隊員が猛に近づくと影に沈んでいく。


「ちー、ゆー!龍穂達を連れて移動して頂戴!安全を確認したら色々説明してあげて!!」


アルさんは急いで影に沈んでいく。


「・・”古き英雄”か。」


その姿を見たイタカが何かを呟く。


「あまりその名前を言わないで頂戴。”風に乗りて歩む者”さん?」


聞いたことの無い名前を言い合いとアルさんの姿が完全に影に沈む。


「私達も行こう。すぐそこまで武道省と神道省の職員が来てる。」


「でも親父達が・・・。」


「影定さん達は無事だよ。それにこの事件の対応をしなくちゃいけない。

その現場に龍穂達がいれば事件の主犯として捕まる可能性がある。

そうなった方が色々厄介でしょ?今は姿を隠した方が懸命だよ。」


親父の安否が気になったがゆーさんに丸め込められると体が影に沈んでいく。

思い出の場所が俺達の戦いによって姿を変えた景色を目に焼き付ける。

再びこの場所に戻ってくることがあっても楽しい思い出が悲しい出来事に塗りつぶされている事だろう。


(・・・・・・・・・・・。)


賀茂忠行の手がとうとう俺の育った地まで伸びてきた。

この事実は俺にとって大きな衝撃でありいつ俺の首まで伸びてくるか分からない。


それにはさらなる実力強化、それに頼りになる仲間が必要不可欠。

イタカや白と呼ばれる義勇軍との出会い、それらを俺達が望む結末にしなければならない。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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