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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第五幕 八海事変
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第九十三話 動き出す様々な思惑

「これで・・・終わりだな。」


ひざまずくように片膝をついて息を荒げながら睨む真奈美に向かって親父は言う。

戦いは圧巻と言える内容だった。

真奈美の攻撃を一切合切全て払いのけ、倍返し以上の攻撃を放っていた。


「はぁ・・はぁ・・・クソッ!!」


歯が立たないと察した真奈美は姿を変え体に銀色に輝く鱗をまとわせ襲いかかった。


体に込められている力の感じからしてあの時見た半透明の神と神融和を行ったのだろうが

それでも親父を崩すことは出来ず、そのまま敗北を叩きつけれた。


「まだ・・やれるよ。アンタらを倒さなきゃ私は・・・・!」


「どうなるってんだ?お前が俺達を倒したらその直江家は八海に戻ってくるのか?」


親父からの問いに真奈美は答えられず、恨めしそうに睨むだけだ。


「その場の衝動で動くからそうなる。

結果としてお前が大切と言っていた龍穂に二度と会えなくなるかも知れないんだぞ。

まあ、今のお前に何を言ったって無駄なんだろうな。」


後先考えずの行動なんて真奈美らしくない。

だからこそ親父も気が狂っていると判断したのだろうがそんな中でも龍穂の事を思い、

口に出しているという事はそれほど大切に思っていることが見て取れる。


それだけに非常に残念なのはこの事件の主犯として武道省、それか神道省に捕えられてしまう事だ。


まだ詳細な情報は伝えられていないだろうが

公になればそれ相応の罪が言い渡され、重い罰を清算しなければならない。


これだけの被害が出ていれば命での償いも視野に入る。

運よくそれが免れたとしても長い刑期を言い渡され生きている内に戻ってこれるかわからない。


「さて・・・こいつをどうするか・・・・。」


動けない真奈美を尻目に親父は空を見上げる。

どうするかと言う言葉の真意、それが何なのか俺はまだ分からない。


このまま武道省に突き出すことしか考えていなかったが

親父はこれだけの大罪を犯した真奈美をまさか匿おうなんて考えているのではないだろうか?


「・・・・・親父。」


それは俺達家族にとって最悪の選択肢だ。

これだけの騒ぎになっている主犯を俺達が

匿っていることがしれれば三道省からどんな事を言われるかわからない。


「分かっている。お前が考えていることは絶対にしない。」


止めに入ろうとした俺を心中を全て読み取っているのか、親父はすぐに否定してきた。


「じゃあ・・一体何を考えているんだ?」


「俺達が出来るのはここまでだ。後は・・・どこに引き渡すかだ。」


俺が考え付く引き渡し先は武道省、それと・・・・業か。


兼兄に託せばこの騒動をなるべく世間に広めずに収めてくれるだろうが

俺達が対処にあたっていたという事は嫌でもわかる。

それを三道省の連中に突かれやしないだろうか?

頭の中で思考を巡らせていると近くの草木から物音がする。


「だれだ!!!」


すぐさま反応し、刀を構える。土御門の手先が真奈美を回収に来る可能性は十分にある。


「・・私よ。」


物音がした草木から聞いたことがある声がするが

俺達の知人の声を真似ることが出来る術はいくらでもある。

姿を見せ、身の潔白を証明が無ければ警戒を解くことはできない。


「・・来たか、遅いぞ。」


姿を現したのはなんとアルさん。俺達や龍穂達もお世話になっている国學館の寮母さんだ。


「ごめんなさいね。こちらも色々あったのよ。」


後には黒いローブをまとった集団が森の中に息を潜めていることが確認できる。


何が起きているのか分からないが統率が取れた部隊が俺達を囲んでおり、

それを率いているのがアルさんだという事だけは理解できた。


「色々?龍穂がこれだけの被害を受けているのにか?」


親父は胸元から煙草を取り出し加えながらアルさんにこれまでの不満をぶつける。


「予想できなかったんだもの。わざわざ私が隊を引き抜いて援軍に来たのよ?

その言いかたは無いんじゃないかしら。」


自分勝手な親父の言いかたにアルさんも反論する。

それを聞いた親父は頭を掻きながら謝罪と感謝の言葉を返した。


「大体の事は彼女に聞いたわ。私達は一体何をすればいいの?」


ため息をつきながら森の方へ眼を向けると中から加治が姿を現す。

俺達を送った後、姿を見なかったが援軍を呼びに行ってくれていたのか。


「そこにいる小娘を預かって欲しい。多くの被害者を出した加害者だが・・・・被害者でもある。


神の力を無理やり込められたことで精神を狂わされているが

時間が経ち、落ち着つけば有益な情報を引き出せるだろう。」


俺達を襲った背景を全て把握しているわけじゃないが親父の言っていることは正しい。

真奈美は龍穂を守るために八海の地で戦った。

もし真奈美達が惟神高校の生徒達を放っておけば今以上に龍穂が危険に晒されたかもしれない。


親父の頼みを聞いたアルさんは頷くと森の奥にいた黒いローブを着た内の一人が

縮地で飛び込んできて真奈美の首に軽く手刀を降ろす。


限界が近かった真奈美は意識を失くし、地面に伏せる。

それを確認し、片手で体を持ち上げ影の中に沈んでいった。


「この事件に改編やその他諸々は任せるわ。

隠すことは得意だけど三道省に介入出来るほどの力は私達にはないからね。」


「分かっている。・・・兼定はまだ来ないのか?」


龍穂の身に何かあった時はすぐ兼兄が駆けつけていたはずだが今回は一度も姿を見せていない。


「まだ仕事が片付いていないみたいよ。終わり次第すぐに向かうと言っていたけど・・・・。」


「・・謀られたか。」


兼兄の仕事は様々あるが今回はあらかじめ皇から受けていた任務であり、

長期間兼兄がいないことは公になっていた。


兼兄がいない時期を狙って龍穂を襲うことは容易に考えられることだが

手助けができるアルさん達の事を押さえつけられる何かを仕掛けた上で

今回の事件を起こしたとなれば相当力のある奴がこの事件を引き起こしたことになる。


「そう考えられるわね。

でも私達のほうは終わりが見えているとさっき連絡が入ったわ。

正気を戻した彼女から情報が取れればこの事件の詳細が少しは分かるかもしれないわね。」


親父を見たアルさんが軽く手招きをすると

森の中からバックを背負った者がやってきて怪我をしている足を治療にかかる。


「俺の事はいい。龍穂の援護を優先してくれ。」


「ご自身の立場を考えて。あなたはこの八海の守護であり神道省の課長で皇に仕える立場なのよ?

あなたを失えば神道省には大きな亀裂が入るわ。

少しの傷とはいえ油断すれば致命傷に繋がるかもしれない。


それに・・・今回の龍穂の戦いに援護は出せないわ。」


アルさんは肝心の龍穂の援護を断ってしまう。


「兼定の承諾も取っているわ。

今回のように私達の手が届かないような戦いがいくらあってもおかしくはない。

ハスターとの神融和も出来ているしそろそろ一人で戦ってもらわないといけないの。」


「それはそうだが・・・。」


「それに私達が近くにいると言っても龍穂は一人で敵を倒している。

心配するほどの実力の持ち主じゃないってことはあなたも分かっているでしょう?」


それでも親父は納得する様子はない。


「・・元お弟子さんと同じ末路を辿らないためにもここで無茶させてあげないといけない。

そうではなくて?」


元お弟子・・・。それは龍穂の父親の事を言っているのだろう。


息子のように接していた親父はその人を死なせてしまったことをかなり後悔しているようで

うちの書斎の奥にある古いアルバムには龍穂によく似た男性が写る写真が多く残されている。


「・・・・・・分かった。」


親父はその言葉を聞いて納得する。

全ては龍穂のため、龍穂が生き残る未来を歩かせるためと自らの言い聞かせている様だった。


「援護はしないけれど最悪の事態を考えていつでも突入できる位置に部隊を配置するわ。

だから影定さんは一旦この場を離れて三道省との連絡を取って頂戴。」


俺は親父の補佐をしなければならないので肩を組み、親父を立ち上がらせる。


「深くまで詮索はしませんが・・・一つだけ聞いてもいいですか?」


気になることはいくらでもあるが・・・話しを聞いていて一番引っかかったことを尋ねてみた。


「アルさんが所属している部隊は一体何なんですか?」


「・・答えられないの。ごめんね?」


断れてしまった。であれば・・・・。


「であればアルさん達が対処していた事態とは一体何なのでしょうか?」


少し回り道をすることになるがアルさん達が対処していた事柄を知っておけば

後々アルさんがどんな部隊に所属しているかわかるかもしれない。

そう思い尋ねてみるとアルさんはあっさり答えてくれる。


「少し前の国學館での襲撃で情報をくれた生徒が襲われたの。

まだその子は寮に居てね、その時は外出していたんだけど何とか助けることが出来たわ。」


情報提供してくれた生徒・・・。

確か龍穂の同級生が平将通と関わっていて裏切る形で情報を吐いたと聞いた。


「・・ありがとうございます。」


龍穂に取ってあまり良い話しではなくアルさん達の正体がすぐに分かるような情報ではない。

だがいつか役に立つだろうと脳に刻み込み実家に戻るために歩みを進めた。


———————————————————————————————————————————————


星屑スターダスト。」


ダゴンの支配下にある海の上に浮かび支配した空気から無数の空弾を放つ。

一つ一つはあまり大きな威力を持たないがあまりの数の多さにダゴンも足を止めて受け止める。

それにしてもかなり固い鱗だ。

俺の魔術を軽々受け止めるなんてどういう体をしているのだろうか?


「・・・・・・・・。」


このまま距離を取って戦ってもいいが周りの空気を全て支配しているこの状況で

打開を試みるとしたら接近戦だろう。


俺がこのまま距離をとったまま戦っていると近づいてこないと察し、

奴が水での戦いに集中して後のみんなに危険が及ぶ可能性が高まる。


それに様々な選択肢を見せることによって奴の判断力が鈍りさらなる隙が生まれるかもしれないと

大太刀を取り出し魔力を込める。

刀身に黒い風をまとい、破壊の刃と化した大太刀を握りしめダゴンの元へ飛び込んだ。


ダゴンの俺が近づいていることは理解しているが空弾の雨によって動きを封じられている。

無防備になってダゴンの体を勢いよく切りつけるが手に伝わってくるのは肉を割く感触ではなく、

ダゴンの体からは黒い海水が溢れ出てきた。


「かかったか。容易いものだな。」


後ろから声がしたかと思うと海の中からダゴンが飛び出してくる。


何時身代わりを用意したのだろう。

まったく気付かなかったが拳を放ってくるダゴンを背中で気配を感じ、

腰に差していた六華を引き抜いて背を向けたまま刀身で受け止める。


「ほう、よく受け止めたな。」


「お前の領海に入っているんだ。これくらいは警戒している。」


俺は空気を支配しているがこいつは海を支配している。

その海の上で戦うという事を俺は十分に理解してあえてこの奴の領海に踏み込んだ。


二刀の刀を振るいながら奴と接近戦でしのぎを削る。

奴の拳を受け止め、また俺の人達を奴の鱗で固められた腕で受けとめる攻防。

そして襲い掛かってくる風や海がまるで荒れ狂う嵐のように飛び交っており、

体育館の中であることを一瞬忘れてしまうほどの激しい戦闘が繰り広げられていた。


『・・・青さん。そちらはいかがですか。』


視界が悪い中、青さん達の様子が気になり念で確認する。


『ちと苦しいが大丈夫じゃ。そんなことよりお前は目の前の戦いに集中しろ。』


何とか踏ん張っているらしいが状況はあまり良くないようだ。

だとすれば早期決着を狙っていかなければならずまた俺の方から仕掛けようと目論んでいると、

突然ダゴンが後ろに跳ねて距離を置く。


「・・・そんなに向こうの仲間が大事か?」


俺の飛ばした念を感じ取ったのかダゴンはこちらを向いてにやりと微笑む。


「そんなに大切なら行かせてやろうではないか。」


そう言うとダゴンは両手を叩き地面に付ける。

すると海水がうねるように動き出し水位を増していった。

その動きを見て宙へ戻り、風の壁を上げていく。

だがドンドンと増していく水位と荒れ狂っていく海に壁から海が溢れていく。


「深淵の激浪しんえんのげきろう。」


そして荒れ狂う津波は勢いを増しその勢いにとうとう壁が決壊し戦っている青さん達の元へ襲い掛かる。

どうにかしようと再び風の壁を作るがこのままではすぐに破壊されてしまう。

青さん達の大樹を使い何とかしようとするがすさまじい勢いに恐らく無駄に終わるだろう。


(マズイ・・!!)


風で吹き飛ばそうにも体育館の壁があり全てを抑え込むのはほぼ不可能。

このままじゃみんな深き者どもに姿を変えられてしまう。


ひとまずみんなの前に戻り再び強力な風の魔術の準備をするが

腰に差している六華の込められている神力が最大限に増していきあふれ出す。


「・・・!?」


そして中から出てきた何者かが指を鳴らすと再び風の壁を破壊した目の前に広がる津波が

まるで時が止まったかのように固まって行く。


「・・まだ未熟だな。」


六華の中から出てきた白い服装を身にまとった男。

その男には俺とは真反対の白い風を身にまとわせていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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