第八十五話 八海での出来事
深き者どもの襲撃を躱し装甲車に揺られながら八海に向かう道中。
定兄からの報告の報告に俺の心をかき乱す。
「決して確定と言うわけじゃない。
だがこれから向かう高校の中で猛と真奈美に出会っても信用するのはやめておけ。」
死傷者が出ている事件に友人が関わっていてその犯人として疑えなんて
素直に受け入れられるわけがない。
「で、でも。そんなことする奴らじゃ・・・・。」
「そんなことは分かっている。
だがな、死傷者が出ているという内容とさっき見た奴らが校内にいたという報告のみしか情報が無い。
別に端から疑えなんて言ってはいない。
それだけ情報が無い以上背中を預けるだけの信頼が今のところ無いってだけだ。」
なだめるように語りかけてくるが内心それどころではない。
「・・龍穂、定明はもしもの話しをしている。
お前が戦っている相手は誰だ?俺達が生まれるはるか前から日ノ本で虐殺を続けてきた男だ。
何をしてきてもおかしくはない。」
運転している風太さんが俺の様子をバックミラーで見て口を挟んでくる。
「これから事件が起きた現場に向かうのにそんな心構えでは隙が生まれる。
それがどれだけ危険なことはお前自身もよくわかっているはずだ。
決して全てを疑えなんてことは言わないが何が起きてもいいように
心身共に準備をしておけという事だ。」
風太さんの言葉で俺の脳裏には楓の心臓が貫けれた時のことが思い返される。
助けてくれた仙蔵さんはもうこの世にはいない。
次同じようなことが起これば取り返しのつかないことになる。
「・・・・・・・・分かった。」
二人の言う通り全て疑う必要はない。だが警戒は決して緩めてはいけない。
何時いかなる時も、例え猛と真奈美と無事に再会でき喜びを分かち合っている時でさえもだ。
「親父が八海で情報を集めてくれているが深き者ども達ことを無暗に扱えず
援軍も心もとないことが想定される。主力は俺達だけだと思っておいてくれ。」
「兼定さんは来てくれないのでしょうか?」
千仞との戦いはいつも兼兄が手助けしてくれてた。
この情報も兼兄の耳には届いているだろう。
千夏さんの言う通り兼兄や業の人達が来てくれれば事件の解決ははるかに楽になる。
「兼兄は別の任務でこちらには来れない。終わり次第すぐに来るとは言ってくれたが期待はするな。
だが業の隊員を送り込んでいると聞いている。親父と共に情報を集めてくれているらしい。」
業の隊員か・・・。
誰が来てくれても心強いが出来れば毛利先生が来てくれているとかなり心強い。
「もうすぐ八海に入る。
安全を期してまずは影定さんと合流する。
そこに俺達の両親もいるから一度情報をもらってどうやって潜入するか決めるぞ。」
車のフロントガラスを見ると見慣れた景色に八海と書かれた青看板が見える。
俺達が組んだ予定であれば気楽な里帰りだったはずだが車内にはそれと真反対の
ピリついた空気が流れている。
人気のない八海に街中にたどり着きつい数か月前に旅立った実家にたどり着いた。
「いくぞ。」
車から降りて周りを警戒しながら玄関をくぐる。
廊下を歩き居間につくとそこには厳しい表情で座っている親父。
「・・・・来たか。」
母さんの姿は無く、その代わりに
「お邪魔していますよぉ。」
加治さんの姿があった。
「定明、風太。急な指示に対応してくれて助かる。」
「別にお礼を言われる事じゃないよ。それに・・・・大変なのはこれからなんだから。」
業の増援と言うのは加治さんの事でありテーブルには乱雑に置かれた資料と思われる紙と
いくつかの写真が置かれている。
「龍穂達も大変だったな。本来なら大いに歓迎するはずだったんだが
こんなこと状況になってしまい申し訳ない。」
「そんなことはどうでもええ。その様子だと何か調べごとをしていたんやろ?
早く状況を整理しようや。」
全員が椅子に座り情報の共有を始める。
「まずは今回起きた事件についてだ。
龍穂と楓が以前通っていた八海高校で事件が起きた。
部活動中に何者かが生徒達を襲い死傷者が出て事件。
本来なら不審者が高校生たちを襲った事件だと思われるが校内に鱗の着いた人間が目撃されている。
お前達はそう聞いているな?」
親父の問いに全員が頷く。
「初めは俺もそう聞いていた。
だから俺が乗り込んで手っ取り早く事件の解決させようと思ったんだが・・・
そこに現れたのがそこにいる業の隊員である加治だ。」
深き者ども達の姿が無かった場合、
ただのと言ってはいけないのだろうが不審者が侵入し生徒達を襲った事件と考えるのが普通だ。
「加治さんは兼兄に指示を受けて八海に来たんですよね?
何か知っているという事はあらかじめこの事件が起きる事を知っていたという事ですか?」
目の前にある資料がこの事件の深さについて物語っている。
兼兄や加治さんの事を疑うわけでは無いが
あらかじめこの事件が起きる事を知っていて放置していたとなると簡単に信用できなくなる。
「いえ、私は兼定隊長の指示を受けて八海にいたわけではありません。
私は個人的な調査のためにここにいたんです。」
そう言うと加治さんは写真をまとめて俺達が見やすいように並べ始める。
「以前お会いした時に惟神高校にいる生徒たちの事を監視していると説明しましたね?
龍穂君達もご存じだとは思いますがここ最近魔道省の勢力図が大きく変わりまして
新参の勢力が力を伸ばしています。
その勢力の中に惟神高校に子供を持つ生徒がいましてね。
その生徒達が怪しい行動を取っていたので追跡してきたんですよ。」
写真には惟神高校の制服を着た二人の男女が映し出されている。
「彼ら、龍穂君達が実家に帰ると予想してここで襲おうと計画を立てていたみたいなんです。
平将通の襲撃が終わった頃から頻繁に八海に足を運び壮大な計画を立てていたようですが
そんなことをしていれば私の目に留まることは必然。
年末辺りに目星をつけた彼らを追ってこちらに潜入したのですが・・・・予想外の結末を迎えました。」
俺達が思っていた以上に今回の事件は複雑に入り組んでいるようだが
この話しを聞いて涼音が俺達の動きを賀茂忠行に報告していないことが判明した。
「どうやら見たことの無い制服の生徒が頻繁に八海にいると
怪しんでいた八海高校の生徒達やこの土地の人間がいまして、
作戦の準備をしていた惟神高校の生徒達を止めようと戦闘になりました。
普通に考えれば八海高校の生徒達の実力不足で敗北が濃厚とみて
私も影ながら援護をしようと考えていましたが思わぬ加勢が入り彼らは勝利を収めたのです。」
「・・思わぬ加勢が気になりますがそれを聞く前に一つお伺いします。
現在報告されている死傷者はその戦いで出てしまったのですか?」
「彼らの戦いは熾烈を極めました。その中で致命傷を負ってしまった生徒はいます。
ですがそれだけじゃない。
加勢に入った人物が人物だったので私はすぐにその場を離れたので
申し訳ないのですがその後どうなったのか把握していません。
ですが・・・私が見た致命傷を受けた人物と死傷者の数が一致してしません。
ですからその後に何があったのだろうと私は考えています。」
色々聞きたいところだが・・・ひとまず加茂さんが逃げ出すほどの人物が気になる。
「・・出てきた人物と言うのは一体誰なんですか?」
「その姿を見た時、私も驚きました。
まさかこんな辺境の地にあのようなお方がおられるとは・・・・。」
加治さんが椅子から立ち上がり歩き出す。
勿体ぶるように間を開けるが難しい顔つきからまるで言いたくないような雰囲気を醸し出していた。
俺達は黙って加治さんの答えを待つ。
「そこにおられたのは・・・”土御門泰国。神道省副長官の姿がそこにはありました。」
衝撃の人物に全員が思わず驚きの声を上げる。
俺がいない間に八海で一体何が起きたのだろうか?
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