表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第五幕 八海事変
84/291

第八十四話 不透明な始まり

八海が襲われているという報せに動揺のあまり固まってしまうがすぐさま立て直し伊達様に尋ねる。


「高校で事件が起きたって何があったんですか?」


俺の一言に周りに座っていた四人に緊張が走る。その中でも特に楓は大きな反応を見せた。


「・・肝が据わっているね。多分アンタの周りにはいつもの子達がいるんだろう?

どうだい?彼女達も一緒に付いてこれそうかい?」


俺の方を見る目は怖気るどころか強い眼差しでこちらを見つめている。

何があっても俺について来てくれると確信できる心強い視線だった。


「はい。大丈夫です。」


「いいね。じゃあ状況を伝えるよ。

事件が起きたのは終業式が終わり部活動などを行っている生徒や教員しかいない校内で起きた。

どうやら在校生が校内で暴れて死傷者も出ているらしい。」


生徒が学校で暴れたか・・・。

いじめか・・・教師に恨みがあったのかなど、その理由を勘ぐってしまうがその内容に疑問が浮かぶ。


死傷者が出ているとはいえその程度で神道特級である陰陽師の招集がかかるのだろうか?

俺が元いた高校で強力な式神を使役していた人物など心当たりがない。


「・・もう少し詳細な話しを聞かせていただけないですか?」


「分かっているよ。こんだけじゃ上級連中だけで対処させる。

八海に常駐している武道省の職員からの連絡が入ってね。

どうやら校内に”魚の鱗がある人型の化け物”がいるらしい。」


その化け物の特徴に心当たりがある。

確か仙蔵さんとの戦いでローブを身にまとっていた化け物達が同じような特徴があった。


「千仞・・ですか。」


他の乗客に聞こえず、周りの四人に聞こえるだけの声で呟く。


「ああ。確実にそうだろうね。

となればいくら上級連中を送りこんでも返り討ちどころかどれだけ被害が出るかわかったもんじゃない。


だからこそ陰陽師の資格を得ているアンタに依頼したいってわけさ。」


なるほど、それは俺に連絡が来るわけだ。

俺達が八海に向かっているという情報を得た賀茂忠行が高校に刺客を差し向けたのかもしれない。


(・・・・・・・・・・・・。)


俺の使命を知る人物が増え、周りに信頼できる味方が増えた今、疑わしい人物は限られている。


綱秀には悪いが一番初めに浮かんでくる人物は涼音だ。

国學館に帰ってきた涼音だが純恋達は一切声をかけることなく

距離を置いており俺に近づけないように配慮してくれており綱秀と共に行動していることが多い。


涼音に聞かれる所で八海に行く話しをした覚えはないが

もしかすると聞き耳を立てており賀茂忠行に情報を送っていたのかもしれない。


「申し訳ないが事件の詳細は以上だ。

私の耳に入ってからすぐに連絡したから我慢しておくれ。

まだ皇から直接陰陽師として認めてもらっていないけど私が上手く伝えておくよ。


もし事件の解決、および主犯の捕獲が出来たら報酬がもらえるけど

アンタからしたらそんなことは関係ないかもしれないね。」


「ええ。何もなくとも事件の解決に向かいます。」


「いいやる気だ。アンタ達が八海に向かっているのは息子から聞いている。


乗っている新幹線が止まっているだろ?

丁度その駅の近くにアンタの知ってる神道省の職員がいてね。そいつに現場までの移動を手配してある。

一応他にも職員を手配はしてあるけど何時どれだけの被害が出るかわからないから急いでいきな!」


先程報告があったとは思えないほど迅速な対応に感謝しかない。

電話が切れた後、すぐに立ち上がり荷物をまとめ始めると四人も俺と同じように荷物を持ち始める。

不安になっている乗客を煽るわけにもいかなかったが賀茂忠行の刺客が混ざっているかもしれない。


三道省の高官達が集まる国學館を襲う奴らだ。

俺達が千仞の存在に気付いたと察すれば乗客を巻き込んでまで襲ってくるだろう。


「行こう。」


なるべく違和感の無いように荷物を持って早足で通り道を抜け空いているドアから駅へ降りる。

そこから足早にホームを駆け下り改札へと向かった。


「どこへ行けばいいんや?」


辺りに人がいない事を確認して桃子が尋ねてくる。


「この駅に俺達を八海へ送ってくれる神道省の人がいるらしい。


電話をくれた伊達様のついさっき報告を受けて指示を送ってくれたみたいだから

どっちのホームかわからないけど何とか見つけよう。」


駅の出入り口は二つ。一般市民の混乱を考えて人気のない出入口を選ぶだろう。


改札を出て窓の外の様子を見てどちらに行くか判断しようと考えたが

誰かが俺の服を引っ張り注意を引く。


「皆さん固まってください。」


見ると楓が荷物を置いて得物を取り出している。

何が起きているのかと駅構内を見ると田舎なのであまり人がいない駅ではあるが

利用客が誰一人としておらず少ない売店や駅員を含め人の姿が見えなかった。


「いつもこんな感じ・・・な訳ないな。」


「伊達様に連絡が入っているという事は神道省内に連絡が行っているという事です。


もしその中に千仞のメンバーが潜んでいるという事は

あの新幹線に私達が乗っている事がバレている可能性が高いと言う事です。」


不自然なほど人気のない駅構内にいつものチャイム音が響く。


見たところ争った跡や血痕が見当たらないので何者かが利用客を襲ったわけでは無い様だ。


「・・遠回りになるけど出口まで走るか?」


何者かが襲ってくるような気配はない。

俺達のアクションを待っているのかもしれないが

縮地で出口まで駆けた方が良いのではないかと提案するが楓は静かに首を振る。


「来ますよ。得物を抜いてください。」


辺りへの警戒を強めると出入り口からローブを被った奴らが

ゾロゾロと群れを成してこちらにやってくる。


伊達様が言っていた八海で見たとされる深き者達だ。


「あいつら・・・鞄持っとるで。」


俺達を狙っているのなら手に得物を持っているのが普通だが

深き者ども達の手には通勤用の鞄や高齢者が持っているような杖が持たれており

まるでこの駅の利用者達のような荷物を持っている。


「・・厄介なことになったね。」


下から声が聞こえると千夏さんの影から雫さんが姿を現す。


「あいつら何なんや?」


「誰かがこの駅の人達に強力な術を掛けたみたいだね。

それが魔術か神術かわからないけど・・・・

術に掛けられた人達は深き者ども達に姿を変えられたんだよ。」


ローブの下に来ている服装が雫さんの言葉を裏付けておりスーツや駅員さんの制服が見えている。


「人間を深き者どもにって・・・そんなこと可能なんか?」


「可能じゃないよ。どれだけ姿が人間に似ているからって生体は別物だ。

だけど・・・それを可能にさせるような”奴”がこの近くにいたってことは確かなんだろうね。」


この場に幻覚を引き起こさせるような術式を仕込んだのかもしれないと言う俺の考えを雫さんは否定し、


さらに嫌な情報を与えてくれる。


「ってことは迎えに来てくれている神道省の職員もこの中にいるかもしれへんってことか?」


「そうかもしれないけど・・・もうそんなこと言っている場合じゃないよ。」


じりじりと俺達との距離を詰めてきている。このままだと辺りを囲まれ袋叩きにされてしまうだろう。


「こいつらの弱点は炎だよ!いくら元は人間だったとしても

今は化け物だ!情け容赦はいらないからね!!」


雫さんは手を丸め筒を作り口元に当てる。

それを見た楓も同じように手を口元に当てると同時に息を吹きかけた。


「「管狐火くだきつねび!!!」」


手印を使わずの同時魔術。

雫さんは風、楓は炎を吹きかけると空気を含んだ炎は大きく燃え上がり

体の細い狐のような形となり深き者ども達に襲い掛かった。


火を見た奴らはひどく怯え始め散り散りになって逃げ始める。


「やっぱりここにいる人達を変えたみたいだね。

本能で私達を襲ったみたいだけど信仰が浅いから統率が取れてない。」


元々は敵として深き者ども達を率い楓達と戦った人だ。

こいつらの生態や行動に関して俺達より知識が深いだろう。


怯えている奴も多いが手に持っている杖などを

振りかざしながらこちらに向かってきている奴らが近づいてくる。

武道を身に着けていないと見てすぐに分かるほどの身のこなしだ。


「・・・・・・・・・・・・・。」


数はそれなりにいるが負ける事はないだろう。

だが元人間だと言うことがどうしても頭から離れず得物で切りかかる事を躊躇してしまう。


罪のない人達をこの手で傷つけてしまう事を無意識に避け

空弾で弾き返そうと黒い風の弾を手のひらの上に作るとそれを見た深き者ども達が大きな反応を見せる。


戦意を失ったのかこちらに近づいてこないどころか

手に持った物を振りかざしながら体を固めてしまった。


顔に冷や汗を浮かべながら固まっている。まるで蛇に睨まれた蛙のように恐怖が心を支配している。

俺の空弾がそれほどまでに恐怖を煽ったのか?

苦手な火を見た時より強い恐怖、こいつらにこの空弾がどう見えているのだろうか。


異様な光景に作り上げた空弾を放つかどうか悩んでいると俺が眺めていた外の窓が前触れもなく割れる。


敵の増援かと割れた窓に視線を送るとそこには大きな烏とその上に乗る人の姿が見えた。


「こっちだ!!」


あの烏には見覚えがある。確か・・・・・。


「・・全員外に出るぞ!!」


空弾を飛ばし黒い風を深き者ども達の前に飛ばし

解放された風圧によって奴らが吹き飛ばされる。


衝撃で距離が開き、隙が出来た瞬間全員が窓の方を見て駆け出すが

雫さんだけは千夏さんの影に飛び込んでいく。


外に見えたのは定兄の姿。

いつもとは違いスーツ姿であり伊達様が頼んだのは迎えとは定兄の事なのだろう。


俺が放った空弾の衝撃で窓がいくつか割れており、定兄が乗る烏に向かって飛び跳ねる。

深き者ども達に追いつかれることなく烏の背に着地し振り向くと駅からは白い煙が立ち上っていた。


「目くらましの煙幕だ。新幹線も東京に戻ってもらっているから被害は抑えられる。」


見るとホームに新幹線の姿は無い。俺達が降りた後、連絡が入ってすぐに東京に戻ったのだろう。


「定兄!どうなっているんだ!?」


俺が聞いたのは八海が襲われているという報告のみ。

その八海から数駅離れているのにも関わらず深き者ども達が

出現しているとなればここら辺一帯が千仞の手に落ちている可能性もある。


「落ち着け。まずは車に移動するぞ。」


すぐさま現在の状況を定兄に尋ねるが冷静に移動するための車への移動を促した。

烏が下に降りていくとそこには装甲車が止められており運転席には風太さんの姿が見える。


「すぐに出してくれ。」


駅構内が煙幕に包まれているとはいえ追手が来ないとは限らないと


急いで車内へ入ると車はすぐさま移動を始める。


「・・ひとまず影定さんからの任務は遂行出来たな。」


俺達の無事を確認して風太さんが大きなため息をついている定兄の労をねぎらう。


「親父からの・・?伊達様じゃないのか?」


「伊達様が配置していた職員との連絡が突然途絶えてな。親父から様子を見てこいと言われたんだ。

そうしたらあいつらが駅の中にうじゃうじゃしてびっくりしたよ。」


一息つきながら車内に置かれていた水を飲んでいる。


「・・ぷはっ!色々聞きたいことがあるだろうが順を追って説明する。

とはいっても俺達の着いたばかりなんだけどな。」


車内に乱雑に置かれた資料に目を向けていた。


「俺達は車で八海に帰っている途中だったんだが親父から八海で事件が起きたと連絡が入ってな。

そんで龍穂達が危ないかもしれないと途中で拾って来てくれと言われたんだ。


一応職員を配置していると言っていたから様子見がてらに寄ったら

この装甲車がエンジンを掛けられたまま放置されていて駅の中があれだ。


風太に運転できる準備をしておいてもらって龍穂達を回収したんだよ。」


俺達が帰ることは定兄にも連絡を入れていたが

近くまで来てくれていたのは運が良かったとしか言いようがなく

あのまま深き者ども達を倒せていたとしても移動手段がなかっただろう。


「この街も人たちも姿を変えられているのか?」


「いや、その様子はない。おそらくあの駅にいた人達だけ姿を変えたみたいだ。」


装甲車の分厚い窓から甲高いサイレンが聞こえてくる。


「連絡が入って緊急避難警報が出されたな。

既に職員との連絡が途絶えた事は上に伝わっているからすぐに援軍が到着するはずだ。


あいつらは駅から出たとしてもすぐに倒されるだろう。」


倒されると言う言葉に元は一般人だと言ってしまいそうになるが口を閉じて言葉を抑える。


戻す方法がない以上あの人達に俺達が出来ることは限られている。

あとはなるべく援軍の人達の心を痛めないようにと言葉を心の奥にしまい込んだ。


「定兄、伊達様から大体の事情は聞いたんだけど新しい情報はない?」


事件はまだ解決しておらず新たな動きを見せている可能性があり

八海を拠点としている親父は今も事件に対応しているのだろう。


そんな親父の指示を受けた定兄は俺が知らない情報を持っているかもしれない。


「・・ついさっき親父から連絡が入った。

主犯は分からないが校内に残っている生徒が分かったらしい。」


言いずらそうに俺の問いに答える定兄の様子を見て何が言いたいのか察してしまう。


「・・・あの二人がいるってこと?」


「ああ、お前と仲が良い清水瀬猛と佐渡真由美の二人が校内に残っていると連絡があった。」


犯人は死傷者を出しておりそんな奴と一緒に校内にいればいつ命を奪われてもおかしくはない。


「じゃあすぐに助けに————————」


心配のあまり声を上げるがその途中で定兄が俺に向けて手のひらを開いてこちらに向けた。


「いいか龍穂。まだ全てが明かされていない状況では最悪の事態を想定しなければならない。

主犯は分からないがおそらくまだ校内にいる。その意味することは・・・・分かるか?」


定兄の問いの意味を俺はすぐに理解するがそれは俺にとって受け入れがたいものだった。


「猛と真奈美を・・・疑えってこと?」


「・・校内に残されている人物は少ない。

お前の気持ちは十分に理解しているが・・・・疑うべきだ。」


八海で起きている事件。まだ始まったばかりだが俺にとって既に最悪の事件となりつつあった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ