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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第四幕 陰陽師試験
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第八十二話 ネクロノミコン

禍々しいオーラを放つ本を手に持ち尋ねてくる捷紀さん。

俺はその問いにすぐ答えることが出来なかった。


「・・・・・・・・・・」


答えを待っている。

見て見たい、見なければならないと答えないといけないが口がいう事をきいてくれない。


「・・・・・・・やめておこうか。」


声が出来ずとも何か意思表示を示さなければならないと手を動かそうとした時、

口を挟むようにしゃべり始める。


「この書物を読んだ者が精神に異常をきたしたという話を聞いたことがある。

それに別の国の言語で書かれているから例え見たとしても内容を把握できないだろう。


だから私が翻訳した上で必要な情報だけ話そうか。」


俺達の座るように目で催促しながらページをめくり語り始めた。


「ここには一度でも地球に関わったことがある神達の召喚方法などが書かれている。

その中で龍穂君が扱う風の属性に影響を与えそうな神は・・・三体いる。


一つ目は黒い風と呼ばれる神の化身。

ニャルラトホテプと呼ばれる相当厄介に神なんだが

黒い風が起こるときは雷や吹雪、そして疫病などを振りまくことから該当しないと思われる。


二つ目は風に乗りて歩む者。

こちらも風を操るが吹雪を司っている神だ。

龍穂君は氷の魔術を扱えないことからこちらも可能性は低い。


そして・・・三つ目。

私はこの神が一番可能性が高いと思っているがかなり強力な神であり、

もし使役していること自体がかなり危険だ。」


捷紀さんは見当がついているようで

俺の表情の変化を観察するようにこちらを覗いている。


「”名状しがたきもの”、”名づけざられるもの”、”宇宙空間の帝王”、”邪悪の皇太子”。

呼ばれる名称が多く、地球に多く関わりがある神。


その名はハスター。大気の神と呼ばれる

クトゥルフの兄弟である旧支配者と呼ばれる神の人柱だ。」


その名前が呼ばれた時、俺の心が跳ね上がる。

何とか表情に出さないように必死に感情を抑え込んだが捷紀さんは俺から目を離すことはない。


「ハスターはおうし座にあるヒアデス星団にある古代都市カルコサに住むんでいると言われている。


地球と関わるときは人間を取りつくとされておりその人間は体に大きな変化が起きる。

骨が無くなり流動体になると言われているが共通しているのが”黄色の衣”も身にまとっているらしい。」


黄色の衣・・・あの夢で受け取ったやつだ。

そのまま話しを聞いていると捷紀さんの視線がほんの少しだけ下に落ちていることに気が付く。


何を見ているのかと思い下を見ると制服の胸の内ポケットに伸びていることに気が付き

そこにはいつでも取り出せるように札をしまっているが夢でもらった札を入れてあった。


「あっ・・・・。」


「・・そこに何かあるのかい?」


黄衣の事を聞いて思わず体が動いてしまったのだろう。明らかに怪しい行動に指摘を受けてしまった。


「・・・・・・いえ、何もありません。」


「そうか。それならいいんだ。」


問い詰められてもおかしくはなかったが

捷紀さんは気に留めずに再度話し始める。


「一応他にも風の精を名乗る神はいるんだがそちらは生死が不明な事であるため

今回は除外させてもらった。


ハスターは強力な風を扱う神であり、資料によっては全てを破壊する風を扱うとも記されている。

交流会でのそこにいる純恋君と戦いで見せた炎を防いで風の壁は

恐らく魔力ごと火を破壊したからできた芸当なのだろう。


死霊の書き方からしてまだ能力はあるのだろうが龍穂君が使う風の魔術の特徴と一致している。

とはいえ一番可能性があると思っているハスターも怪しい部分がある。


先ほど言ったように体が無事で済んでいないだろうし

そもそもそれだけの神をどうやって使役したのか不明だ。

だから断定はできないけどおそらく宇宙の神様を使役しているのだけは分かる。」


ここまでしておきながら何故か踏み込んで来ない。


君はハスターを使役しているのだろう?と一言聞けばいいだけなのに。


「・・何故素直に聞いてこないのですか?」


もっと話しを聞いてみたいと思いほぼ白状したと言っていい一言を投げかける。


「ん?そうだね・・・研究者の性と言えば良いかな。

99%の証拠があっても、残りの1%の疑惑によって仮説が全てひっくり返されることがある。


それに宇宙の研究をしている身だが今この瞬間にも宇宙空間は広がっており

我々が知り得ない謎も増えていっている。

だから簡単に君に尋ねることが出来ない。

だがもし私が君の使役している神の確証が取れた時、しっかりと尋ねさせてもらおうと思っている。


今は君が宇宙の神を使役していてその力が人間に影響を与えているという事実を得られたことだけでも

十分に成果を得られたということさ。」


他人の口出しを全て跳ね返せるほどの証拠を揃えないと仮説としか呼ばれないのだろう。

捷紀さんが研究者としての意識の高さが伺える。


「それに・・・謙太郎の可愛い後輩だからね。

下手に踏み込んで疑われてしまえば私と龍穂君を引き合わせてくれた謙太郎は信頼を失ってしまう。」


俺から視線を外し、謙太郎さんに視線を送る。


「謙太郎と連絡を取る時必ずと言っていいほど君の話題が出てくる。

それほどに君を信頼している証拠だし、私はそれを邪魔したくはない。


うちの謙太郎は魔術の注目されているが私から見ても神術もかなりの実力だ。

才能ある君ときっといいライバルになるだろう。

先祖を辿れば同じ上杉家だから縁もある。これからも仲良くしてくれると私としてもありがたいね。」


捷紀さんの言葉を聞いた謙太郎さんは恥ずかしそうに頭を掻いている。

短い間だが共に過ごしてきた時間の中でこんな謙太郎さんは見たことが無い。


山形上杉家の現当主であるおじいさんがかなり厳しい人柄が見えており

三道省合同会議で見た謙太郎さんは厳しい表情を崩さなかった。


少し前の授業参観の時もおじいさんが出席していたことを見ると

複雑な家庭環境なのかもしれないと思っていたが

お父さんと共にいると子供の姿を見れて新鮮だなと思うと共に

俺も何だか嬉しい気持ちになった。


「・・口を挟んで申し訳ないですが少しお聞きしてもよろしいですか?」


親子の姿を見せていた二人に向かって真剣な表情で千夏さんが尋ねる。


「龍穂君の魔術の秘密については理解できましたが

謙太郎君が生まれながらにして宇宙の力を持った魔術を使えた理由は何なのでしょうか?」


今までの話しの流れから謙太郎さんも宇宙の力に触れて

通常とは違う魔術を使えているとしたら当然両親のどちらかが宇宙の力に触れている可能性がある。


「謙太郎が生まれる少し前にクトゥルフ関係の事を調べていてね。

宇宙の神の力は影響力が強い様で文献にクトゥルフ神話の事が示されているだけで

宇宙の魔力が込められるらしい。


そんな文献に触れていた私から生まれた謙太郎が青い魔術を

持っていたいたとしても不思議じゃないだろう?

これも仮説の域を出ないが私はそう思っている。」


先程も言っていたが地球にいる我々は太陽の影響を強く受けているが太陽や地球は宇宙に浮かんでいる。

俺や謙太郎さんだけではなく少しでも宇宙の力に触れれば魔術など体に変化が起こるのかもしれない。


「そうですか・・・・。」


そう言いながら千夏さんは俺の方をじっと見つめてくる。

まるで俺に何かを伝えるように、俺から質問してほしいことがあるような視線だった。


「龍穂君も宇宙の力に大変興味を持っていらっしゃいますし

それに自分が使役している神について知りたがっている。


無理を承知でお願いしたいのですが

精神に異常をきたさない程度に使わせていただきますのでお持ちの資料をお貸しいただけないですか?」


これだけ宇宙の神についての知識を蓄えることが出来た

資料があれが賀茂忠行との戦いを少しでも有利に運ぶことが出来るだろう。


だが捷紀さんは首を横に振る。


「千夏君のようにリスク管理ができる優秀な子であれば貸してあげたいところなんだが・・・


この資料を含め私が集めた文献、実は現在は私の手から離れているんだ。」


資料を大切にしまいながら申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「私の他にも宇宙の神について調べたいと申し出た者がいてね。

あまりにも熱心だったから彼に手渡してしまったんだ。」


「・・ではその方を教えていただくことはできませんか?」


無理だと言う返しに食らいつく千夏さん。


「それはいいけど時間が欲しい。すぐに教えられるような人物ではないからね。」


どうやら立場のある人物らしく二つ返事で教えることはできないが許可を取ると返した。


「・・・・・・分かりました。」


若干の不満があるようだが飲み込むしかできない千夏さんは食い下がる。

読むことを控えさせた所から貸してもらえる可能性の芽を残したんだ。一番良い選択肢を取れただろう。


「あともう一つ、封印術について教えていただきたいのです。」


千夏さんがこちらに一瞬目線を向けて再び尋ねる。


「三道すべてで特級を取られるほど知識が豊富な捷紀さんにお尋ねしたいのですが

人間の記憶を封印するような術は存在しているのでしょうか?」


俺に関係のある質問だ。だからこちらに目線を向けてくれたのだろう。


「あるよ。そもそもの話しだが人間の力の封印を掛ける時、

その目的にもよるけど基本的には力の源である心臓か

それを操る信号を放つ脳に掛けられることがほとんどだ。

だからその技術を応用して封印術をかけられるけど・・・相当難しいと思う。」


空になったカップにインスタントのコーヒーを注ぎながら質問に答える。


「難しいという事はかけられる人物が限られているという事ですね?

実は・・・龍穂君の記憶に封印が掛けられているかもしれないのです。」


必要な情報を遮断しつつ封印術についての情報を引き出そうと試みている。


俺に封印を掛けたのは長野さんと兼兄。

兼兄についてはその場にいた純恋にも同じ記憶の封印を掛けているのだろう。


「だろうね。」


千夏さんの問いに感情を動かすことなくさも当然だろうと捷紀さんは答える。


「・・・捷紀さんはご存じだったのですか?」


その姿を見た千夏さんは一気に警戒を高める。

封印を掛けた人物を知っていたのか、それとも掛けられていることを

見てわかったのかで話が変わってくる。


「いや?龍穂君とは初対面だから封印を掛けられている事なんて知らなかったよ。


だけどね、上手く隠しているけどこんなに多重に封印が掛けられているのは嫌でもわかるし

”こんなに”同じような封印を掛けられる子達が集まればある程度かけた術者の実力が見えてくるよ。」


これだけと言う言葉が頭に引っかかり千夏さんの顔を伺いながら思わず口を挟んでしまう。


「・・僕から改めてお願いしたいのですが封印術に詳しく教えていただけないでしょうか?


封印術のかけ方からこの中で掛けられている人物、

それと・・・誰が同じ人物から封印を掛けられているか教えていただきたいです。」


掛けた本人達が十分に口を開いてくれないなら分かる人に聞けばいいとお願いする。


それに俺を見ただけで封印が掛けられていると分かる人なんて日ノ本で何人いるかわからない。

この機会は逃すべきじゃないだろう。


「宇宙に関係ないが・・・まあいいか。」


少し悩んだが快く承諾してくれる。


「なら話す前に少しだけ席替えをしよう。そうしたほうが色々話しやすいからね。」


そう言うと対面に俺と純恋、桃子と千夏さんを座らわせて残りの人達は特に指定することなく座らせた。


「封印術とはその名の通り力の封印を促す術式だ。

多くは対象の魔力や神力などを封印されることに用いられるが

高度な術式を持つ者は妖怪などの力を封じ込んだあげく

人の体に閉じ込めてしまったり、記憶の封印などが行える。


だが近年失われつつある技術であり神による力に頼った封印が施されることが多い。」


「それは・・・封印が得意な神様のお願いすると言う事ですか?」


「・・その聞き方だと封印術に詳しくないようだね。」


そう言うと立ち上がりホワイトボードの前に立ち授業が始める。


「いいかい?なぜこの技術が失われてつつあるか。

そもそも禁術指定されているのが主な要因でもあるが

それ以上に現代では力の放出に力を入れているからだ。


封印とは魔術や神術によって特定の動きを止める術式を込めるのだが

この”込める”技術が現代に普及していない。


文字であらわすと内包と放出。封印術を含めこの内包の技術が日ノ本では失われてつつある。」


目の前にいる敵の攻撃する際に魔術を放つ放出。

これが魔術の基本であり、日ノ本であればだれもが使う技術だ。


「その原因としては”科学”の発展だろう。


魔術の代わりに電気で動き機械が内包の役割を奪い取った。

昔は風の魔術を団扇に仕込み強い風を送ったと伝えられているが

冷風温風両方出せるエアコンなど魔力を必要とせず

電気代さえ払えば快適に暮らせるようになってしまった。


これは果たして人類にとって良いことなのか悪いことなのか。

私にはわからないが一つ言えるのは非常に勿体ないことだと思うね。」


昔の大戦で日ノ本が敗北を喫した相手は魔術で戦わず科学を用い日ノ本を圧倒した。


そして国力を抑えようと日ノ本に科学を持ち込んだことが

魔術や神術の発展を阻害したと聞いたことがある。

だが便利であることは事実であり科学がなければ日ノ本の発展は遅れていたことだろう。

考え方によっては良い進化を遂げたと捉えることが出来る。


「少し脱線したがこの内包の技術を持っている者は封印術を扱える。

簡単に言えば体の動きを止める術を敵の体に刻み込むことで

手や足に脳から出ている信号を受け取らせないようにするんだ。


だが記憶の封印となると難易度が跳ね上がる。

人間の記憶を記録しているのは脳だがある一部分で記録しているわけでは無く脳全体で記録し、

前頭前野と言われる部分が一番ベストな記憶を引き出していると言われている。


今軽く説明しただけでも訳が分からないだろう?

そんな繊細な脳に記憶の封印を人がかけもし失敗してとなれば

その人間は脳死してしまい、廃人と化してしまう。


現代の人間の技術では記憶の封印などまず無理。

だからこそ脳を司るような神の力を借り正確な封印を行うんだ。」


医療の発展により脳の働きが言語化されているが

小さく張り巡らされた血管によって血を巡らせている脳に動きを的確に止めるのは確かに不可能だろう。


「じゃあどんな神様の力を借りるか。千夏君、わかるかい?」


手に持っていたマジックペンで千夏さんを指す。


思金神おもいかねのかみ様ですね。」


「正解だ。知識の神である思金神。

神様の中でも一番の知恵を持っている神は人間の細部まで知り尽くしており

この神様の力を借りれば正確な記憶の封印が出来るだろう。」


そう言うと今度は俺と純恋、そして桃子を指した。


「君たち三人の封印は無駄がなく思金神が封印を施していると思われる。

純恋君は記憶の封印、桃子君は妖怪の封印。


龍穂君はかなりの量の封印が掛けられている封印術に込められた神力量に差異があるから・・・

おそらく別の術者による複数の封印が仕掛けられているな。


あとは千夏君だが・・・君の封印だけは違う。」


俺の横に並べられた時に察していたがどうやら千夏さんにも封印が掛けられているようだ。


「私にも・・・封印が・・?」


「ああ。君の封印が無駄が多い。だがその分何重にも重ねられている。


君たちにはわからないだろうが・・・私には伝わってくるよ。

この術者は人間であり、君に思い出してほしくない記憶があるようだ。」


千夏さんは必死に思い当たる節が何か考えているのか手を組みながらお腹に押し当てている。

目線が小刻みに動いており明らかに動揺を隠しせていない。


「千夏さん・・・・。」


隣にいた桃子が千夏さんを心配して膝に手を乗せるが様子が変わることはなかった。


「厳重な封印だ、決して思い出すことはない。だから無理に深く考えてはだめだ。

もし気を病んでしまうことがあれば仲間に頼りなさい。」


捷紀さんの話しは充実していたがそれと同時に大きな波乱を俺達に与えた。

謎が解けていくたびに新たな謎が増えていく。

この戦いが終われば全てが明かされるのだろうか?



ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

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