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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第四幕 陰陽師試験
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第八十話 上杉捷紀

様々なことが起こった陰陽試験を終え、食堂でご飯を食べている。


「・・・・・・・・・。」


土曜日だからか人が俺たち以外誰もおらず静まり返っており

本来なら試験内容の報告など会話を弾ませたい所だが

お互い最低限の会話しかせずにただ黙々とご飯を食べ進めていた。


「・・・・・酒井様のとのお話はどうでしたか?」


このままじゃ何も情報を得られないと千夏さんに声をかける。


「・・酒井と会話の許可を出してくれてありがとうございます。おかげで良い話が出来ました。」


笑顔で俺に応える千夏さんだがそれが感情を抑え作り上げた表情だとすぐに分かってしまう。

深く聞き出そうとしてもうまく躱されてしまうだろうと察し他の三人に目線を向けると

俺の目線に答えた純恋が口を開いた。


「千夏さん、私らは仲間や。

隠し事は無し・・・とまではいかんけど出来る限り情報を共有しておくべきや。

それが例え千夏さんにとって悲しい情報だったとしても

その悲しみを共有すれば少しは気が紛れるかもしれへん。」


「・・・分かっています。」


「別にここで言わなくてもええけど言う時は千夏さんの口からや。

私達が易々話せるような内容じゃあらへんからな。」


酒井様は約束通り一緒にいた純恋達の前で千夏さんを

話しをしてくれたみたいだが一体何を話したのだろうか?


千夏さんや俺を思って行動してくれた人が

大切な人を泣かせるような話しをするわけがないと思いたいが・・・。


「・・酒井と少し近況を話した後、魔道省の実情を教えてもらいました。

あの事件以降、祖父を慕っていた高官達の信頼が落ち、新進気鋭の勢力が力を増しているようです。


高官達を慕っていた部下は新進気鋭についていくようになり

魔道省の勢力図に大きな傾きが出ており一枚岩ではなくなっていると言っていました。」


仙蔵さんの件は三道省内で情報を抑えていたが会議が長引いた影響で

末端まで情報が行き届いてしまったようで魔道省の職員たちは徳川家、

ひいてはそれを慕う課長に不信感を抱いた結果がこのような事態を引き起こしたのだろう。


「酒井は祖父に一番の忠誠を誓っていた部下であり何とかこの現状を治めようと

働きかけていたようですがその中で一つあまり良くない情報が出てきたそうです。」


「良くない情報?」


「新進気鋭を率いている人物が・・・防衛省課長の服部忍。


どのような手を使っても昇進を狙うような危ない人物達に力を与え、

祖父の部下たちを追いやろうと企んでいるらしいのです。」


服部忍か。俺を魔術師に推薦しようとしていたのもこの男であり賀茂忠行の部下なのは確定だろう。


「酒井は私がいずれ魔術省に入れるように何とか働きかけるようですが

服部の動きを邪魔したことで目をつけられてしまったらしくこのままいけばいずれ・・・・・。」


服部忍は忍びの家系であり暗殺には長けているはず。


魔道省長官である酒井殿が殺されたとなれば大事件としてその詳細を調べに入られるので

起こさないとは思うがどのような手を使ってでも昇進を狙う奴らを集めているのなら

いつ命を狙われてもおかしくはない。


「実は・・・・・。」


俺も救われたことを伝えた方がいいと思い陰陽師試験で会ったことを四人に伝える。


「俺も酒井様に恩があります。出来ればお守りしたいですが・・・・。」


「兼定さんに相談するのはどうや?

私達は用事がないと魔術省に出入りできないけどあの人やったら服部に直接会う事も出来るんちゃう?」


桃子が良い提案を出してくれる。

確かに俺達だけでは力不足でありどうしても酒井様を守ることは難しい。


千夏さんであれば祖父を慕っていた部下たちに会うという名目で

魔術省に入ることは出来るかもしれないが徳川家に不信感を持つ職員達が多くいる魔術省から

下手をすると出て来れない可能性もある。


「・・ちょっといいかな?」


下から声がしたかと思うと千夏さんの影から雫さんが出てくる。


「人がいないからお邪魔するよ。

少し聞き耳を立てさせてもらったけど大変なことになっているみたいだね。」


「ええ、何かいい案はありませんか?」


服部忍の娘である雫さんだが親子関係は冷え切っており直接会って何かを聞き出すことは不可能だ。


「んー、私は死んだことになっているから魔術省から籍を消されてるんだよね。


スパイとして入ることは出来ないしあそこセキュリティー固いから

簡単に入り込むことはできないから直接何かが出来るわけじゃないけど

さっき桃子ちゃんが言った兼定さんに頼む話なら手を貸せるかな。」


「兼定さんなら龍穂が連絡を取ればいい話じゃないですか?」


「あの人携帯を持ち歩かないんだよ。

任務によってはバイブ音さえ鳴らしちゃいけないような場所に入り込んでいるからね。


だから龍穂の連絡じゃどうしてもタイムラグが出ちゃうけどあの人の隠れ家を知っている私なら

多分最速でお願いできると思うけどどうかな?」


業の任務についての話しを兼兄から聞いたことが無いが相当危ない任務についているようで

今まであまり連絡がつかなかったことに納得がいく。


「ぜひお願いします。酒井様を助けてほしいと伝えてください。」


「分かった。私も少なからず恩があるからね。何とかしてほしいってお願いしてみるよ。」


何千何万の職員を抱える魔術省の現状を変えることは難しいが

兼兄なら酒井様を助け出すことは出来るはず。

それに・・・優しい千夏さんが心配だ。少しでも手を打っておかないと心がもたないだろう。


「あ、いたいた!おーい!!」


話しが一段落着いた所で遠くから聞いたことのある声が聞こえてくる。


全員が声の方へ振り向くと遠くから見るからに大柄な男性がこちらに手を振りながら歩いてきており

その後ろをついてくる二人の男性。

謙太郎さん定兄と風太さんだ。お父さんと会ってきたのだろうか?


「捷紀さんの授業。面白かったけどかなり長引いたな。」


「それは定明がずっと質問しているからだ・・・ん?」


奥にいる風太さんが立ち止まりじっと見つめている。


「ヤバッ・・・・。」


その姿を見た雫さんはすぐさま影に戻る。

確か風太さんにコンプレックスがあったと純恋達から聞いたような・・・。


「・・・・!!!」


風太さんの姿は突然消えたかと思うと俺達の前に現れる。


「・・・・・・・・・。」


口を開くことなく辺りを見渡し何かを感じ取ったのかしゃがみこんで

千夏さんの影を撫でるように触った。


「・・・・・お前達。」


拳を強く握りながら風太さんは立ちあがり俺達を睨みつけてくる。


「つい先ほどまでここにもう一人いたはずだ。そいつが誰か・・・教えてくれないか?」


いつも無表情で感情を滅多に表に出さない風太さんが

怒りを露わにしておりその姿を見た俺と楓は驚いてしまう。


思わず雫さんの事を口を滑らせてしまう所だったがこちらを見る千夏さんが目に入り、

その真っすぐな瞳は何も言うなと語っていた。


「・・誰もいませんでしたよ?」


我ながら下手な嘘だと思うがこれくらいしか言い訳が思い浮かばなかった。

風太さんが雫さんをどう思っていたかわからないが雫さんは亡くなったことになっている。

誰が相手でもその存在を知られれば雫さんや千夏さんに迷惑がかかってしまう。


「・・・・・・・・・・・・そうか。」


俺の言葉を聞いてさらに瞼を狭める風太さんだったが長い沈黙の後、

一言呟いていつも通りの無表情に戻る。


「風太!どうした!?」


「何でもない。俺の勘違いだ。」


いきなりの行動に追ってきた二人は警戒しながらこちらに近づいてくるが誤解だと言い放った。


「勘違い・・・?何がだ?」


「気にすんな。それより龍穂達に用があるんだろ?」


怪しむ定兄だがこれ以上聞いても答えが返ってこないことを察し俺の方へ向く。


「龍穂!陰陽師の推薦を受けたんだってな!」


怪しむ顔から一転、嬉しそうに俺の方に来て肩を叩いてくる。


「あ、うん・・・。」


「試験はどうだった?受かりそうか?」


「まだ分からないけど・・・高評価だったと思う・・・・。」


「良かったじゃないか!」


まるで既に受かったかのような反応を見せる定兄だが色々あったことを思い出し素直に喜べない。


「しかし龍穂に先を越されるか・・・・。俺も早く追いかけなくちゃな!!」


定兄の神道の実力はかなりのものであり八海にいた時は歯が立たなかった。

俺が合格できるのならこの人もいつ推薦が来てもおかしくはない。そう思わせるほどの実力だ。


「定明さん、人が入ってきました。手早く済ましましょう。」


謙太郎さんが後ろを向きながら定兄に催促する。

確かお父さんは授業をすると言っていた。

食堂に人がいなかったのは多くの生徒達がその出席していたからなのだろう。


「そうだな。龍穂、捷紀さんから呼ばれているんだろう?

出来れば俺達も一緒に行かせてくれないか?」


定兄の申し出に少し考えてしまうが定兄達は俺の事情を知ってくれているし

謙太郎さんもつい先日話したばかりだ。


「・・・・・分かった。」


断る理由はない。

俺達より先に謙太郎さんのお父さんに会っている定兄達がいた方が

色々と話しを聞きやすいかもしれない。


「よし!まだ色々聞きたいことがあるからな~。楽しみになってきた!」


俺の了承を得た定兄はウキウキとしながら券売機の方へ向かっていく。


「・・・・・・・・?」


そんなに授業が楽しかったのか?秀才である定兄を楽しませる人の話しを聞けるのは楽しみだ。


嬉しそうに厨房の奥に大盛と言っている定兄を見て

沈んでいた気持ちを少し上向かせつつ冷めた昼ご飯を口に入れた。


———————————————————————————————————————————————


全員でお昼ご飯を食べ終えた後、来客室と書かれた扉の前に立つ。


「少し待っていてくれ。」


謙太郎さんがドアをノックし中に入る。


少しだけ開かれたドアの奥からはいつもの謙太郎さんの元気な声色に

嬉しさが混じったような声が漏れており楽しそうな会話が聞こえてきた。


(父親・・・・か。)


俺には育ての親である親父がいるが本当の両親の事について話しを聞かせてもらって

何を持って父親と言うのだろうと考えてしまう。


血の繋がりか?それとも長年気付いてきた絆か?

そう考えた時、平将通が襲撃してきた時の竜次先生の言葉を思い出す。

竜次先生は後者と呼んでいたがすでに亡くなっていたとしても父親と言う関係を切ることはできない。


(何なんだろうな・・・・。)


今の所明確な答えは出ないがきっとどっちも父親と言えるのだろうなと思う。

俺には親父が二人いることになるがその方がしっくりと来る。


「お待たせした。入ってくれ。」


父親について考えていると謙太郎さんが会話を終え外に出てくる。

最速され中に入ると淡いブラウンのスーツを着た男性がイスに座って俺達を待っていた。


「よく来てくれたね。上杉龍穂君。」


机の上には食べかけのパンと飲みかけのコーヒー。どうやら食事中だったようだ。


「こちらこそありがとうございます。」


「それと先ほどの生徒さん。確か龍穂君のお兄さんだったね?」


「はい!定明と言います!!」


背筋を伸ばし目を輝かせながら挨拶をしている。


「捷紀さん・・・と呼んでもよろしいですか?」


「うん、それで構わないよ。」


「謙太郎さんにお聞きしたんですが宇宙の研究をされているんですよね?」


ひとまず今回呼ばれた内容の確認をしようと捷紀さんのついての話しをしようとすると

定兄がすごい形相でこちらに見る。


「バカ龍穂!それだけじゃないぞ!

捷紀さんは宇宙の研究を始める以前は神道魔道武道全てで

特級を取った功績を持つほどの大天才なんだ!!」


三道全てで特級・・・?


「へ・・?」


聞いたことがないほどの偉業を聞き思わず素で答えてしまう。


「お前・・・捷紀さんの事を知らないで来たのか?」


定兄の他に多数の目線がこちらに集まっておりその全員が驚きの表情でこちらを見ていた。


「・・この人そんなにすごいんか?」


純恋と桃子、そして楓が俺と同じようによく状況を理解していないようで

純恋が捷紀さんを呼び差して定兄に尋ねる。


「お前ら・・・・。」


何も知らない俺達を見て定兄が肩を落としながらため息をつく。


「すみません捷紀さん。世間知らず共が失礼してしまって・・・・。」


「大丈夫だよ。謙太郎には宇宙の研究をしているとだけ伝えてくれと言ってあるからね。

まあそちらのお二方には陰陽師の授与式であったことがあるけども。」


「あんなめんどくさい式典の事なんか覚えとらん。」


「私も緊張であんまり・・・・・。」


桃子は申し訳なさそうに言い訳をするが

純恋は相変わらずふてぶてしく悪気の無さそうにしていた。


「すみません・・・・。」


「いや、いいんだ。むしろこっちの方がやりやすい。


私の経歴を知っている者は私を天才と言い謙遜、ひどい場合は私の言葉を分からないものと前提して

話しをろくに理解しようとしてくれないんだ。

他人より少しだけ視点が広く、興味深く、欲深いだけなのにね。


だからわざと謙太郎には情報を絞って誘ってもらったし

君のように興味深く質問してくれる生徒と話しをしたかったんだよ。」


三道全てで特級。


単純に言えば青さんのように滅多に現れない式神を使役し新しい魔術の開発、

そして新たな武道の流派を作り上げられるほどの人物が目の前にいるという事になる。


言いかたは悪いが化け物のような人物であるはずなのに体の線は細く、威圧感はまるでない。

謙太郎さんには似ても似つかないような風貌だ。


「私の呼びかけに応じてもらったのに立たせたまま話しを進めるわけにはいかない。

奥のソファーに腰を掛けてくれ。」


奥にある応接間にあるような大きなテーブルとソファーを指さすと

食べかけのパンを口に放り込みコーヒーで流し込んで

あらかじめ沸かしていたポットでお茶を入れ始める。


その姿を見た謙太郎さんが手伝いに入り

俺達の前に良い匂いを漂わせた紅茶が入った綺麗なカップが置かれた。


「あとは・・・これだ。」


謙太郎さんがカップを置いてくれている間に捷紀さんは高級そうな皮のバックから何かを取り出す。


「・・・・?」


取り出したのは何枚も札を張られた封筒でありその中には何か厚みのある物がいられている。


「それは一体・・・・?」


「資料さ。君との会話を有益なものにするためのね。」


ソファーの空いている箇所に腰を掛け目を閉じた後ゆっくりと瞼を開く。


「では・・・・始めようか。」


待ちに待っていた捷紀さんとの話し合いが始まった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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