第七十二話 援軍と願い
このままでは流れを持ってかれると思われた時に現れたのアルさん。
寮を囲んでいた妖精たちを引き連れてきてくれた。
「オベロン、感謝するわ。」
アルさんを持っていた派手な洋服を着た精霊に感謝を送ると妖精は骸骨の方へ飛んでいく。
「ちょっと竜次?なんで私を呼ばないの?」
そして敵前にして竜次先生を詰め始めた。
「敵との戦闘中だからだ。呼んでいる暇がなかった。」
「だからみんなが窮地に陥っているんでしょ?相手が相手なんだからすぐに呼びなさい!」
私の出番がないでしょと呟きながら平さんの方を見つめるアルさん。
大きな骸骨の騎士を前にしてリラックスしている姿はこの状況を理解していないのか
それとも相当な場数を踏んできているのかのどちらかだ。
「古き英雄達よ。なぜ木星の味方をする。
先を考えれば脅威となるのは私よりそいつだろう。」
古き英雄・・?
聞いたことの無い名称だが達と言っている事から竜次先生とアルさんに言っているのだろう。
「あら、そうかしら?
彼は自らの力を日ノ本の役に立ててくれているわ。
それに対して・・あなた方は皇の身を狙っているように見えるけど?」
そして木星と言われているのは・・・おそらく俺だ。
なぜそう呼ばれているかはわからないが・・・。
「先を見たらどう見てもあなたの方が日ノ本に取って害になるわ。
勝てないからって適当な理由をこじつけて味方に付けようとしないでくださる?」
あの力を持っている平に向かって煽るアルさん。
自らの実力に相当な自信を持っているようだ。
「見た目とは違って物事を見れているようだな。
虚言を使えば仲間にできると踏んでいたが・・残念だ。」
煽り返してきた平に対し怒りを露わにすると
思っていたがアルさんはどこか悲し気な表情を浮かべていた。
「・・援軍に来たのは良いが、今の君は何が出来るんだ?」
「全てよ。この状況をひっくり返してあげる。」
アルさんが指を鳴らすと骸骨達の方へ行っていたオベロンが戻ってくる。
何をしたのかと骸骨の方へ眼を向けるとあれだけいた骸骨達が全て崩れ去っており
その姿を面白そうに眺めている妖精達がいた。
「まずは妹たちを守らせてもらったわ。
あの様子だとすぐに動き出すのでしょうけどあんな奴らあの子達で十分。
これで何も気にすることなくあなたと戦える。」
俺達の精神を支配してた焦りの原因を一瞬にして解決してしまった。
「なんじゃ、わしは必要なかったか。」
空から青さんも飛んできた合流を果たした。
「形勢逆転じゃな。」
「・・気が早いな。まだ俺に傷一つ付けられていない。」
人数有利はこちらにあるが平に言う通り奴に有効打を打ててはいない。
「そうね、じゃあやらせてもらおうかしら。」
アルさんが竜次先生に視線を送ると炎を再びまといながら平さんに飛び込んでいく。
「私は先生ではないけれどいい機会だから
私なりの神道への考え方について少しだけ話させてもらうわ。」
「神道への考え方ですか・・?」
「龍穂、よく聞いておけ。春の指導は確かに的確だがそれは神術の対してじゃ。
アルと精霊達の関係性、通常ではありえない関係値を築き上げるコツを教えてもらえ。」
関係性・・・。
近くにいる大きな精霊とアルさんをよく見ると神力の繋がりが見られない。
それは骸骨達と戦っている精霊達も同じでありア
ルさんの指示を式神契約無しに聞いている事を示していた。
「気付いたようね。
私とオベロン、そしてピクシーと呼ばれる精霊達と契約は結んでいないわ。」
「では何故アルさんの指示を聞いているんですか?式神契約をしないと・・・。」
「その考えが間違っているのよ。契約を結ばないと指示を聞いてもらえないなんてことはないわ。
精霊達にも心がある。心を通わさればお願いを聞いてもらえるの。」
飛んできた小さな妖精を手に乗せながらアルさんは語る。
お互いの頬を寄せながら嬉しそうな顔を浮かべている所を見るかなり深い関係を築いているようだ。
「今の話しをした上であなたに聞くわ。
式神としっかりとした信頼関係を築けているかしら?」
尋ねられた時、自然と青さんの方へ視線が向く。
「・・自信を持って言えんのか。お前の事を何時から見ていると思ってる。」
青さんとの信頼関係は良好。神融和を出来る事を考えれば当然だ。
「・・・・木霊。」
アルさんが言いたいのは木霊の事だろう。
木霊とも幼いころから一緒だが言葉を交わせないからなのか
過去何度か神融和を試みたが出来た試しがない。
「寮で何度か見させてもらったけど木霊ちゃんとは神融和できないみたいね。心当たりはある?」
「いえ・・・。良好な関係だと思っていますが神融和をしてくれないんです。」
「そうか・・。きっと龍穂の何かを認めてないんだわ。それが何かわからないけど・・・。
式神との神融和が出来ない原因として一番上げられるのは実力不足。
仲が良くでも実力が見合ってないと思われいれば神融和を拒否されることがあるの。」
実力の相違・・か。
青さんと神融和で着ている時点で下級精霊である木霊に
実力を認められてもおかしくはないと思うが・・・。
「・・龍穂。お前は国學館に来てさらに実力を上げた。近くにいた木霊もそれを理解しているはず。
いい機会じゃ。竜次が敵の相手をしている間にもう一度神融和を試してみないか?」
姿を変えた竜次先生は平相手に互角の戦いを繰り広げている。
離れている俺達に意識を割く余裕はなく確かに試す時間はありそうだ。
「分かりました。やってみます。」
俺の返事を聞いた青さんとアルさんは警戒しながら俺の方を見つめる。
木霊の実力は俺が認めるが下級精霊に向けての警戒にしては明らかに行き過ぎている。
(・・・・・?)
不思議に思いながらも木霊と神融和できれば黒い風の魔術の強化になる。
そうすれば先ほどのように六連星を断ち切られることなく平を圧倒できるかもしれない。
木霊に近づき黒い体を優しくつかみ近寄せる。
「木霊・・・俺と神融和・・してくれるか?」
声を発する器官が無いため返事が返ってくることはない。
だが気持ちを共有することはできるはずだと木霊の頭と思われる所に額を近づける。
(頼む・・・・。)
思いを伝えるため目を閉じ額と額を合わせる。
瞼からほんの少しだけ明かりが目に入ってきていたが突然完全な闇が俺の目の前を襲う。
「龍穂・・・?龍穂!!!」
青さんが必死に俺の名前を呼ぶがどんどん遠くなっていく。
『少し早いが良いだろう。確かにあの龍が言う通り龍穂は腕を上げた。
だが・・・鎖を外すのは一本だけだ。体に負担が大きい。
周りの進言があったとはいえ決めたのはお前だ龍穂。壊れてくれるなよ?』
聞いたことがある声が頭に響き
太い金属のような何かが切れて床に落ちたような音が聞こえると
深い闇に落ちるような感覚に陥り意識が消え去った。
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「クソッ!早かったか!!」
黒い木霊と神融和をしようとした龍穂さんが突然紐が切れたように意識が無くなる。
だけど地に足が付いている。
これは実力差がある神融和を行った時に行われる神や精霊による意識の乗っ取りだ。
「安心して青さん。こうなった時のために私達がいるんじゃない。」
焦っている青さんとは対照的に冷静なアルさんはどす黒い神力をまとっている龍穂さんを見つめる。
「アルさん、龍穂さんはどういう状況なんですか?」
今まで見たことが無い龍穂さんの様子を見て私も思わずアルさんに尋ねた。
「・・龍穂と共に歩む子達にも説明しておかなきゃいけないわね。」
アルさんが指に魔力を込めて空中に魔法陣を描くとそこからまるでお姫様のような女性が現れる。
綺麗なドレスを身にまとい背中に羽が生えた女性はアルさんの頬にキスをし、
まるで我が子のように頭を撫でた。
「ティターニア、向こうをお願いできる?」
名前を呼んで千夏さん達がいる方を見てお願いすると
笑顔で頷き隣にいるオベロンと手を繋いで飛んでいった。
「千夏ちゃん達も呼ぶわ。
竜次なら持ちこたえてくれるでしょうから・・・しっかり説明しましょうか。」
妖精達と入れ替わるように千夏さん達がこちらに駆けてくる。
「アルさん!!」
「来たようね。骸骨達は心配しなくていいわ。彼らが眠らせてくれるから。」
見るとオベロンとティターニアが骸骨たちの上を飛び回り鱗粉を振りまいている。
吸い込んだ骸骨と妖精達は先ほどまで激しい戦いを
していたのにも関わらず床に伏せて深い眠りについていた。
「ティターニアを呼べるなら最初からやってくれればいいじゃん!
私達無駄に消耗しちゃったよ・・・。」
千夏さんは全くの無傷だがちーさんとゆーさんは体に切り傷を負っていた。
それに・・・灰色と金色の体毛がそこら中についている。
激しい戦いに耳の毛が服に飛んだのだろうか?
「そう言わないの。龍穂が今の道を進むならいずれは共に戦うことになるの。
あなた達が仲が良いのは十分知っているけど命を預けて戦う機会はなかなか無いわ。
今の内に養っておきなさい。」
少し距離を置いた龍穂さんは未だ動く気配はない。
「龍穂くんに・・・何が起きているのですか?」
「今は龍穂の式神である木霊と神融和をしている最中よ。
あまりに力が強すぎて意識が乗っ取られているけど・・・・契約は交わせている様ね。」
「木霊・・?龍穂がそんな弱いわけないじゃん。」
いくら特殊な個体だとはいえ下級精霊である
木霊が龍穂さんの意識を乗っ取れるほどの実力があるとは思えない。
「それは—————————」
「俺が説明しよう。」
アルさんが説明しようとしたその時、骸骨達の間を縫って歩いてくる人物が遮ってくる。
「兼定さん・・・。」
「あら・・。いいの?持ち場を離れて。」
「おせっかいな昔の上司が助けに来てくれてな。おかげで持ち場を離れられた。」
兼定さんは力なく立っている龍穂さんを静かに眺めている。
「・・龍穂の式神の中にはとある神が封印されている。
その神と神融和を試みたからああやって意識を乗っ取られているんだ。」
「神・・?木霊に体に封印されるぐらいの神なんやったら
龍穂の実力やったら支配下に置けると思うけど・・・・。」
神の封印を施す際、依り代の力が大事になってくる。
封印する神の力が強ければ強いほど依り代の力も必要になる。
下級精霊である木霊に封印する場合強い神を入れることは不可能であり、
もし無理やり入れようとすれば体が粉々に崩れてしまう。
「あれは木霊じゃない。木霊に似せた特注の人造式神だ。
木霊の体を模して造られ木霊と認識できるような神術が仕組まれている。」
「・・そんな大がかりな式神だったんだね。で、何が入っているのさ。」
ゆーさんが兼兄を睨みながら尋ねる。
その式神を用意できるのは業の長である兼定さんだけだ。
ゆーさんは何をする気なのだと威圧しているのだろう。
「・・・古き神だ。その神は龍穂の母親と契約を結んでいた。
亡くなる少し前にその神を龍穂に託したいと前業の長に相談があったらしい。
そうして作られたのがあの人造式神だ。」
龍穂さんの母親。それは現在実家にいる方ではなく本当の母親の事だ。
「感動的な話なのは分かったからさ、その中身をはぐらかさないでよ。
教えてくれなきゃこれから龍穂の事を警戒しなきゃいけなくなる。」
「・・聞いた話だと大気を司る強力な神なのは確かだ。
この街を簡単に破壊し、下手をすればこの日ノ本の平穏さえ脅かす神だと聞いている。」
兼定さんの言葉を聞いた私達に緊張感が漂う。
そんな神が近くにいたという事実は恐怖さえ感じてしまった。
「だがそんな神を龍穂の母親は完璧じゃないとはいえコントロールをしていた。
亡くなる前に龍穂に託したのはその潜在能力に期待して
完璧にコントロールしてくれると思ってのことだ。
そして・・・その第一歩を龍穂は踏み出そうとしている。」
龍穂さんから出ていた神力がまるで跳ねるように強くなり辺りに衝撃を放つ。
強風が私達を襲い、吹き飛ばされないように踏ん張ると龍穂さんの周りに黒い風が纏い始めた。
「来たか・・・・。」
龍穂さんが瞼を開く。だがその眼に光が灯っていない。
「支配が解かれてないよ。これまずいんじゃないの・・・?」
冷や汗をかきながらちーさんが呟く。
「・・いや、大丈夫だ。」
黒い風は徐々に弱まっていき龍穂さんが平に向けて指をさす。
「龍穂の中にいる神が平を敵と判断した。
恐らく龍穂の意志を尊重して判断したのだろう。」
龍穂さんの行動に気付いて竜次さんが縮地を使いこちらに戻ってくる。
「兼定、龍穂をどう見る?」
「今は大丈夫。平を撃破した後の行動しだいだな。」
平も龍穂さんに気付き、剣を構えて迎撃態勢を整える。
「・・一つ聞きたい。」
戦闘が行われようとしている場面でちーさんが何かに気付いたように声を上げる。
「なんだ?」
「あの木霊、人造式神って言ったよね?
兼定さんがまだ幼い頃の話しなら平はまだ弟子を取っていないはず。
ってことはその人造式神を作り上げたのは・・・・。」
人造式神の技術を得たと兼定さんは言っていた。
その道の第一人者と毛利先生が行ったことを含めて考えると
恐らく今まで廃れていた技術を再び現代に蘇らせたのかもしれない。
その推測が正しければあれだけのすさまじい力を封じ込める
人造式神を作り上げられる人物は・・・一人しかいない。
「ああ、あれを作ったのは平将通。あの人が龍穂のために・・・あの式神を作ったんだ。」
急な展開に頭がついていかなくなっていく。
龍穂さんのために人造式神を作り上げた人が龍穂さんと戦っている?
一体何があってそうなったのだろう?
「・・・龍穂、安心させろよ。」
今にも戦いの火ぶたが切られそうな場面で
兼定さんが何かを呟く。
その横顔はまるで祈っているような表情に見えた。
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