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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第六十九話 それぞれの過去

タンクの中に安倍晴明が入っている・・・?

本気で言っているのか?


「そこにいる上杉兼定と青龍が結託しこの寮を作る際に作り上げた装置だ。

功績を上げて業の長に着くためにな。」


さらなる衝撃の発言を受け視線は兼兄に集まる。

何か反論してほしかったが口を開くことはない。


「我々も驚いたよ。何千年と前にわが主が回収しできず

諦めていた安倍晴明の遺体をまさか現代で見つけることが出来たなんてな。

だが気が付いた時には既にこの強固な部屋に守れたタンクの中。

侵入するのも困難な状態だったのであらかじめ部下を潜入させて隙を作らせてもらうことにした。


思っていた以上にうまく対処されてしまったが肝心の私はここにいる。

安倍晴明は我々”千仞”がいただいていく。」


こいつ・・・やっぱり千仞か。

いつでも襲い掛かれるように刀を構えるとそんな俺を不思議そうに見つめてきた。


「一つ聞きたいのだが・・・刃を向ける相手を間違っていないか?」


「間違っているわけないだろ!俺の命を狙っているんだから当然だ!!」


「まあそれはそうだ。だがな、私の目的は君じゃない。

先ほど言っていた安倍晴明だ。


それよりそこの大罪人に刃を向けた方が日ノ本のためじゃないか?

この先いつ裏切られるかわからないぞ?」


家族である兼兄から離れる理由にならないと言い返そうとした時、俺の口より早く破裂音が響く。


「結果だけで判断するほど私達の関係は浅くないよ。」


口を閉ざすために引き金が引かれた銃は火を噴いて銃弾を浴びせる。

真っすぐに平に向かって飛び出した銃弾だが手から伸ばされた光る何かによって防がれた。


「・・確かに非人道的と言える。

だがな、こうしてお前らが奪いに来ることを予期していたから上で兼定は提案してきたんじゃ。


あの時点で嗅ぎつかれておった。わしが晴明の遺体を持っていることがバレるのは時間の問題。

亡骸を利用され日ノ本を危機に陥れる方が晴明にとって苦痛だと判断したからじゃ。」


「だとしてもだ。どういった理由であれ人柱として差し出したお前を他の十二神将たちは恨むだろうな。

我らが奪えば仲間たちにも会えることが出来たのに。」


平の言葉を聞いて青さんが血相を変える。


「貴様・・!十二天将達も・・・!!」


「ああ、忠行様の軍門に下ったよ。いや、無理やり下らせたと言わせてもらおうかな。

我らが主の力に奴らも頭を下げるを得なかった。貴様らが戦っている相手の力は強大だぞ?」


タンクの後ろから金属音が連続で響いたかと思うと人の背丈を優に超えた鬼が現れる。


役小角えんのおづの。相手をしてやれ。」


黒川が使役していた前鬼と後鬼の師である役小角。

こいつも体を入れ替えているようで鋼の体を持った鬼がこちらへ向かってくる。


「後ろの雑魚共は・・・こいつらで十分だな。」


そう言うと懐から大量の札を取り出し

宙へ放り投げると役小角と同じような鋼の体を持った鬼達が召喚される。


「さて、私の任務は安倍晴明の体を手に入れる事だがここで賀茂龍穂を殺してしまえば一石二鳥。

忠行様からの褒美も期待できる。全員亡き者になってもらうぞ。」


小さな鬼達が素早く俺達を取り囲む。

そして役小角は兼兄の元へゆっくりとたどり着いた。


「竜次!そっちは任せる!!」


兼兄は刀を抜いて役小角に相対する。


「すぐに助けに行くからね!!」


ゆーさんが鬼達に向かって銃を乱射するが当たった衝撃で少しよろめくだけで

大きなダメージは入っていない。


銃弾を通さないほど鋼の強度が高い。これは刀の刃も簡単にはじき返されるだろう。


「では・・・・!!」


すぐさま千夏さんが火の魔術を放つも鋼の体を燃やし尽くすには圧倒的に火力が足りなかった。


「私には平田の様に精巧な作りの人形は作れないんでな。

一度も倒れなくていい様に鋼の体を用意させてもらった。


半端な攻撃は通すことなく有効な強力な魔術を使えばこの装置を支える機器を巻き込んでしまうぞ?」


鬼達は鋭く砥がきあげられた得物を取り出してじりじりと距離を詰めてくる。


単騎で突っ込んでくれば全員で対処可能かもしれないが

こうして確実に全員を袋叩きにしようとするところを見ると確実に息の根を止めに考えているようだ。


「俺が突っ込む。」


誰かが打開しなければならない状況であり竜次先生が槍を手に持ちその役を買って出る。


「ちー!ゆー!よく見ていろ!!」


縮地で飛び込み鋼の体に刃を突き出す。


いくら強靭な素材で作られた槍と言えど鋼相手では例え尽くさせたとしても

これだけの数を全て倒すとなるといつかは刃こぼれしてしまう。


だが先生が狙ったのは四肢を繋ぐ関節。

ほんの少し出来た空間に刃を突き刺すと関節を繋いでいた金属の糸を簡単に断ち切り

繋がれることが無くなった腕は音を立てて床に落ちた。


「弱点はここだ。ちー達はここを狙え。龍穂達は協力して一体ずつ敵を倒していけ。」


流れるような槍さばきで繋がれている糸を全て断ち切り一体を戦闘不能にして見せた。


「関節ね。やれるかな。」


「ゆー、あんまり撃つな。外れた時の跳弾がある。」


そう言うとちーさんはアサルトライフルをしまい新たに長物の銃を取り出す。


「狭いからやらなかったけどこれならこっちの方が有効だ。私を守って。」


長いスコープが取り付けられたスナイパーライフル。

本来は距離が離れた相手に使う得物だが狙いどころがはっきりとした今の状況に合わせたのだろう。


「でも銃弾は?突き抜けちゃうんじゃない?」


「雑賀に作らせた特注の炸裂弾を使うよ。これなら大丈夫。」


スコープを覗き引き金を引くと

鬼の頭の関節に命中した瞬間に魔術が発動して頭が弾け飛ぶ。


「さすがだね。頭が弾け飛べばあいつらと言えど・・・。」


だが鬼は動き止めずこちらへ近づいてきた。


「あれ・・?」


「・・奴らの核は胸みたいだね。威力は抑えてもらっているから胸はさすがに弾け飛ばせない。

先生に言う通り関節から狙わないといけないか。」


ボルトを引き再びスコープを覗く。


その間には鬼達は距離を詰めてきており

間合い内に入った途端ちーさんへ凶刃が振り下ろされるが届くことはない。


「ここまで来られるのは久々だね~。なかなかスリルがあって楽しいよ。」


手には手甲鉤てっこうかぎがはめられており鋭い爪が関節の糸を削ぎきる。


「さあさあ!いくらでもかかってきなよ!!」


近づいてきた鬼達をまるで踊っているような足さばきで戦闘不能に追い込み、

近づくことが無理だと察した鬼達はちーさんの銃弾が炸裂していく。


なんと綺麗な連携だろう。

たった二人だがお互いの役目を完璧に果たすことが出来ればこれだけの威力を発揮するのか。


「見とれるのも分かりますが行きますよ。我々も彼女達に負けていられません。」


千夏さんの声を聞いて回りを見ると鬼達は着実に距離を詰めてきていた。


「囲まれると厄介だ。ひとまず穴を開けよう。」


「了解です。私が先頭を行きます。」


待っていたと言わんばかりに楓が鬼の群れに突っ込んでいく。

小刀とクナイを持っているが数の多い鬼達に取っては格好の獲物だ。


「・・単細胞だね。」


体をきりきりと鳴らしながら楓に向けて

力の限りで振り下ろされるが肉を絶つ音は聞こえてこず響いたのは床を叩く音のみ。

楓の姿は見えず鬼達が必死に辺りを見渡すが既に勝負はついていた。


影法師かげほうし。」


目の前で影に潜んだ楓は鬼の影から姿を現し流れるように糸を切り離していく。


「いくら体を固くしても明確な弱点がむき出しなのは

流石に見掛け倒しと言わざるを得ませんね。」


バラバラと崩れ落ちる人形達を冷たい眼で見下す。

兼兄の元で力を付けた楓はとても頼りになる存在に変わっていた。


「龍穂!来てるで!!」


桃子の声で振り向くと後ろには鬼が得物を振り下ろそうとしており急いで刀で受け止める。

近くにいた千夏さんを守るため桃子も必死で長い得物を振るっているがその手数に苦戦していた。


「くっ・・!!ここまで踏み込まれると対処できん・・・!!!」


刃が長い刀を使っているため間合いを詰められると隙が大きくなってしまう。

千夏さんも魔術で応戦しているが数が多くこのままではマズイ。


一体一体相手にしていては間に合わないと一振りで関節を断ち切る。


奴らが動いているのは胴から伸びる糸。

見る限り鋼を細く加工した特別製の糸であるようだが強度はあまり高くはないだろう

そして糸を操るために穴が開いている。すなわち空気が入っているという事だ。


「・・・空刃くうじん。」


人形達を繋ぐ糸を断ち切るため空気を回転させる。

鋼を断ち切るため最短で回転数を上げると桃子を狙う奴らの腕が一つ、また一つと落ちていった。


だが鬼達の体から作動音が聞こえるとつま先から大きな鋭い針が飛び出す。

油断をした敵に不意を打つために仕込まれた暗器に

桃子は反応しきれておらずこのままでは急所を突かれてしまう。


(糸を切るには時間が足りない・・・!!)


今から足に糸を断ち切ろうとしても

糸を断ち切るほどの回転数を上げる時間が無い。

それでも何とかするしかないと奴の足に入っている空気を全て動かす。


空気が動けば軌道が変わるかもしれないと淡い願いを込めた魔術だったが

鋼の体である奴の足はぺしゃんこに潰れてしまい針が桃子の体に届くことはなかった。


「桃子!!」


他の奴らの体も同じように潰しつつ桃子の元へ駆け寄る。


「あっぶなかった・・・・。助かったで・・・。」


ひとまずに対応しきれずに出来た生傷がありかなり負荷をかけてしまったようだ。


「大丈夫か?」


「うん、私は大丈夫。

ちょっと危なかったけどこんなん純恋を守った時に何回も経験しとる。


この調子で全部倒してそうや。」


鬼達は俺達の周りを再度囲み始める。

竜次先生達もかなりの数を倒しているが亡骸を踏み台にしてこちらに向かって来ていた。


「幸い再び起き上がるのではなくただ数を増やしているだけです。」


平が放った鬼達は見るからに数を増やしている。

恐らく兼兄との戦いの隙を突いて鬼達を増やしているのだろう。


「鬼の召喚には必ず限りがある。このまま対処していけば必ず手駒は尽きるでしょう。」


敵の数には限りがある。先が見えているだけで滅入ることなく戦い続けられる。


「・・龍穂君、お願いがあります。」


必死で戦っている中、後にいる千夏さんが声をかけてくる。


「胸にある人形の核だけを破壊することはできませんか?

それが出来ればお役に立てるかもしれません。」


四肢を破壊された鬼達の胴にはまだ核が残されており動かせる部分が無いだけで魂は残っている。


純恋さんが何をする気なのかわからないがこいつらの核となっている部分が

付喪神などを憑依させられる物であれば破壊することは可能だろう。


「・・分かりました。狙ってみます。」


内側からダメージを与えられるのはこの中でも俺しかいない。

近づいてくる敵を楓や桃子に任せつつ離れている人形を風で破壊しつつ人形達の数を減らしていった。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————


最期の人形を倒し、鋼の山を作り上げた。


「結構銃弾消費しちゃったみたいだけど大丈夫?」


「あれは敵の足を負傷とかを狙うための銃弾だよ。

平相手に使う予定はなかったから別に無くなっても大丈夫。」


平は俺達に対し人形を惜しげもなく使ったが

結果的に被害は桃子が少し傷ついただけと最小限に抑えることが出来た。

警戒しつつ兼兄に合流しようと足を進めるとそこには衝撃的な光景が広がっていた。


巨体の鬼、役小角が項垂れているがピクリとも動くことなく意識を失っている。

本来なら倒れるはずだがその体を支えているのは兼兄から伸びた大きく広がった影が

鋼の体を大きく貫いておりその影が役小角の巨体を支えていた。


兼兄はその姿を見ながら煙草をくわえており近くの床に役小角の拳が付けたと思われる

へこむが数か所あったものの兼兄は大きな傷はない。


「・・手駒たちはやられてしまったようだな。」


平はタンクに触れながらこちらに語りかける。


「全滅なんて息巻いたが結果はこちらの惨敗。

時間稼ぎで残りの手駒たちを全て出したはいいが安倍晴明の遺体を奪うどころか

取り出すことすら敵わなかった。」


「我々の実力を侮ったのですから当然の結果でしょう。」


兼兄は煙草を掴み煙を吐き出す。


「大人しく投降しろ・・・と言いたいところですが

これだけの騒ぎを起こしたのですから無駄でしょうね。」


「敵に対して優しいのだな。そうだ、目的が果たせないのなら変えるまで。


無暗にタンクを壊そうとすれば中にある安倍晴明の遺体が無事では済まないだろう。

であれば、タンクではなく私はお前達に牙を向けよう。」


平は自らの額に札を張り付ける。


「今解き放ったのは優秀な弟子二人を力を借りて作る上げた人形達。

平田に金属加工を頼み、鬼達を人形にいれたのは茜。

私はただ人形を糸でつなぎあげただけだ。


だが私は現代に人造式神の技術を蘇らせた第一人者としての意地がある。

彼らが倒された今、師である私が見せられるのは技術ではなくその意志。


目的を必ず達成するという意思をここに残すにしようか。」


札の中に入っていた神を体に降ろす。


体に何も変化はないが膨大な神力とは別に禍々しい呪いのような力が込めれていた。


「・・ここでは少し窮屈だな。」


天井を見渡した後、戦う素振りを見せずに影に沈んでいく平。


「屋上にて待つ。」


そう一言だけ残し漆黒の中に沈んでいった。


「・・散々振り回して最後は屋上か。」


頭を掻きながら兼兄の方を見る竜次先生。


「あれだけの人形を出したんだ。もう逃げ回ることはない。」


タンクに傷がついていないことを確認し安堵のため息をつく。


「・・奴の侵入経路が不明な今、俺はここを離れることはできない。

竜次、頼めるか?」


はいはいとめんどくさそうに答える竜次先生に対してすまんとタンクを見たまま謝る。

全員で平を追えば再び侵入してきた奴に安倍晴明の遺体が盗まれてしまうかもしれない。

兼兄がいなくなるのは痛手だが仕方がないだろう。


「・・・・・・?」


千夏さんがしゃがんで核だけ破壊した人形に触れている。

役に立てると言っていたが何をするつもりなのだろうか?


「隊列はここを登ってきた時と同じで行くぞ。屋上に着いた瞬間戦闘だ。

気を入れなおせよ。」


素早く準備をしなおして部屋から出ようとする。


「青さん、行きますよ。」


タンクを見つめている青さんを連れて行こうと催促するが


「・・置いて行け。少しここにいたい。」


静かに断られた。


兼兄に続いて青さんもいなくなるとさすがに痛手が過ぎる。

ここは是が非でもついて来てもらいたい。


「青さん・・・・。」


「後で追いつく。頼む。」


今は俺の式神だが何千年と前の相棒が目の前にいる。

一度敵の侵入を許したこの部屋は固く閉ざされるだろう。


そうなれば次いつ会えるかわからない。少しは時間を作るべきだろう。


「・・分かりました。」


タンクを眺める二人を背にして重苦しい扉を横目に部屋を出た。



———————————————————————————————————————————————


「相変わらず何も察しない奴じゃな。」


「それは中に入っている神の影響なのかもしれません。


かの神々は気まぐれであり知識を求める。

二つの意識が混同し、物事に対して無意識に素直に受け止めてしまっているのでしょう。」


大きなタンクを眺めながら語る二人。


「企みは順調か?」


「何の事です?」


「とぼけるな。奴は手を抜いていただろう。


大量の人形を出したのはここで戦闘を行ったという証を作るため。

そして侵入させたのは・・・お前だな?」


問いに答えることなくただタンクを見つめる兼定。


「あやつも仙蔵と同様か?」


「・・仙蔵さんから相談を受けたんです。自分と同じように脅されている人物がいると。

ですが使命がある。その使命を全うするために弟子達を守りたいと・・ね。」


懐から煙草を取り出し咥えると青が指から炎を出した。


「残した二人の弟子はこの先必ず大きな力と成り得ます。

春とノエルが説得に当たってくれていますのでおそらく大丈夫でしょう。」


「そうか・・・。思っていた以上に深くまで入り込まれている様じゃな。」


「魔道省元長官にして国學館の校長。そして神道省理事。

文献を振り返っても賀茂忠行がここまで大胆に動いてくるのは初めてです。」


「それだけ寿命が短いという事か。朗報と・・・言っていいのかの。」


煙草を深くまで吸い込み、肺にいれた煙を一気に吐き出す。


「それだけならいいんですがね。」


「他にも何かあるのか?」


「奴は欲深い化け物です。

自らの子孫を手にかけてまで寿命を延ばし生きながられるような・・・ね。


そんな化け物が寿命の限界を察した時、何をするか・・・。

見当がつきますか?」


青は腕を組んで深く考える。


千と何百年の間、宿敵として何度も戦ってきた相手だ。

隣にいる兼定より賀茂忠行が考える事を察することは出来るだろう。


「・・・まさか、な。」


「そのまさかです。おそらく本当に皇の命を狙っているのでしょう。

そして・・・この日ノ本の王の座に立とうとしています。」


「それは無理じゃ。たとえ王の台座に座ろうとも慕う民がおらねば王とは呼ばれぬ。


百を超える王が紡いで来たこの日ノ本に置いて皇に変わる王になると言うのは

至難の技を超え不可能と言っていい。」


「俺もそう思っていたんですけどね・・・。

奴の企みが全てかみ合えば・・・不可能じゃない。」


若くして皇直属の部隊である業を率いたこの男は日ノ本の闇をいくつも見てきた。

冗談を言っていない顔を見た青は再びタンクを見つめる。


「このような時・・・晴明はどうするんじゃろうな?」


「・・会いたいですか?」


「馬鹿者。この中に入っている体が再び動き出したとしてもそれは晴明本人とはいえぬ。

もう晴明と会えぬのだ。それは・・・分かっているつもりじゃ。」


青の脳裏に今までの努力と葛藤が蘇る。


不意を突かれ魂を抜き取られた晴明を必死で守りながら敗走し、

賀茂忠行が姿をくらました後、晴明が蘇る方法を探し始めた。


死者を操る死霊術、死者を生き返らせる秘術など時には日ノ本を飛び出し異国の地にも立ち寄った。

だが、魂が長い期間離れてしまえば二度と体に戻ることはない。すなわち安倍晴明は死んでいる。

そう理解した時の絶望も・・・頭に深く刻み込まれていた。


「・・・・・・そうですね。」


兼定は無念の気持ちを察し、同意する。


「だからこそ龍穂には賀茂忠行を倒してもらわねばならん。

奴には・・・その力がある。


才能ある父親と奇妙な神の巫女である母親。二人の力を引いた龍穂であれば・・・出来るはずじゃ。」


「俺もそう思います。


龍穂には強くなってもらわなければならないですし、

どんな手を使ってでも・・・その手助けをしなければならない。」


兼定も思い返す。


人が作り上げた地獄で新たな人生を歩み出した日。


そして他人だったはずの仲間を家族と呼べるほどの関係を築き上げ

全ての原因である”旧支配者の大司祭”を滅ぼすと誓いあった日々を。


「・・俺はここから龍穂達の手助けをします。

少し物音を立てますが邪魔はしませんので心行くまで再会を楽しんでください。」


兼定は鋼の人形達の山を歩きながら選別を始める。

青は音を立てる兼定に目を向けることなく愛おしそうにタンクに触れ、祈るように額を押し当てた。







ここまで読んでいただきありがとうございます!

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