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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第六十八話 日ノ本の闇

普段は使わない非常階段を登る。

エレベータ―を使う選択肢もあったが平が潜んでいる可能性があり

乗っている時にワイヤーを切られれば一網打尽にされてしまうと選択肢から外れた。


「ちー、ゆー。変態して警戒に当たってくれ。」


竜次先生が前を歩く二人に指示を出す。


「人に言っておいて自分もやってんじゃん。その言いかたやめてって言ってるでしょ?」


「そうだよ、”兄ちゃん”?」


ちーさんとゆーさんが竜次先生に向かって文句を言うが

それを聞いた俺達は驚きのあまり警戒を止めてしまい視線がお兄さんに集まる。


竜次先生の見た目はまだ若い。

俺と兼兄のように年の離れた兄弟と言われても通用するだろうが見た目はまったく似ていない。


「・・悪かった。力を使ってくれ。」


今すぐどういう関係か聞きたいところだが

それどころではない事態であることはみんなが分かっているので

気になりながらも口を閉じて周りを警戒した。


「初めからそう言って。ゆー、ほら。」


ちーさんは札から白く霞がかった石がついているペンダントを二つ取り出すと片方をゆーさんに投げる。


「はいよ。」


ペンダントを首にかけると二人の体に異変が起きる。


ちーさんのきれいな黒髪が灰色に染まっていく。

ゆーさんは長いくせっけの金髪は黒い縞が入り始め

二人の頭には人のものでは無い大きな耳が二つ生えてきた。


「久々だね~。これを使うのも。」


「それだけ平和だったってことだよ。

ゆーは嬉しいかもしれないけど私は出来るだけ使いたくはなかったね。」


神融和とはまた違う姿を変えた二人を差す言葉を選ぶとするなら半人半獣。

獣の特徴が混じった姿に変わった二人は大きな耳を動かしながら周りを警戒し始めた。


「どうだ?誰かいるか?」


「羽音がいっぱい聞こえるよ。五階まではアルさんのお友達がいっぱいいるみたいだね。」


「ちーはどうだ?」


「ゆーと概ね一緒。だけど・・・上で足音が聞こえる。」


今いるのは三階。当然非常口の厚い扉は全て閉まっている。

俺達にはゆーさんが言っている羽音さえ聞こえないのにちーさんは遠くの足音を聞き分けていた。


「人数は?」


「一人。隠れているわけじゃなさそうだね。堂々と歩きまわっているよ。」


「兼定だな。階は分かるか?」


「羽音の音と比べてると・・・多分六階。非常口の前でお待ちだよ。」


毛並みと言っていいのかわからないが・・・

ちーさんは狼のような毛の色をしており、ゆーさんはまるで虎だ。


人間よりはるかに聴覚や嗅覚が優れている獣の力を持った二人は

俺達の警戒が無駄と言えるほど音だけで寮内の把握をしてしまった。


「六階だな。二人は引き続き警戒を頼む。

龍穂達も何があってもいい様に戦える準備を怠るな。」


鞘に指を掛けながら二人の後に続く。


桃子も同じように指を掛け楓はクナイを手に持つ。

千夏さんも杖を取り出しているが一番後ろを歩く青さんは

決して口を開くことなく静かな面持ちで歩いていた。


「・・お二人は頼りになるでしょう?」


千夏さんが小声で俺に話しかけてきた。


「ええ。とても頼りになります。」


「私も初めてあの力を見た時は驚きましたが

二人がいれば我々は周りに神経を割くことなく戦いの準備に集中できます。


それに獣の力は聴覚や嗅覚だけじゃありません。

どうやってあの力を手に入れたか分かりませんが・・・戦いではもっと頼りになるんですよ?」


千夏さんは二人と仲が良い。傍から見てもそれは伝わっており文字通り親友なのだろう。

そんな二人が力を俺達を助けてくれているのが嬉しいようで自慢するその笑顔は誇らしげだった。


何事もなく六階に着き、非常扉の前に立つ二人。


「中の状況は変わらないけど、一応迎撃出来るようにしておいて。」


俺達に声をかけたちーさんは重い扉の取っ手に手をかけ勢いよく引っ張る。


片手で開けたはずだが扉は簡単に開き全員が得物を抜いて警戒するが

そこには力なく両手を上げた兼兄の姿があった。


「待ってたよ。警戒しないでくれ。」


「じゃあどこにいるかくらい言っておけ。だからこうなる。」


槍の柄で地面を叩き抗議のしながら中に入っていく竜次先生。

俺達も後に続くがそこは機械に囲まれた一室だった。


「平は見つからないのか?」


「姿どころか影さえ見つからない。


一応ここが囮と仮定して業にめぼしい所を警戒させているが異常なしだ。」


兼兄も打てる手は打ったみたいだが全て空振りに終わったようだ。


(なんだここは・・・・。)


色とりどりの光を放ちながら稼働している機械たち。

これが何のための作動しているかわからないがひと際大きなモニターには地図が映し出されており

その上には大きな五芒星が描かれていた。


「その様子だと・・龍穂はここに入るのは初めてか。

ここは展望室。武道省が設置した防犯カメラから得た情報をここで確認できる。」


兼兄がモニターを指でつつくと画面が切り替わりとある神社の様子が映し出される。


「・・神田明神か。」


「あの人の家柄を考えれば何かあってもおかしくないと踏んでいたんだが・・・異変無しだ。」


「首塚は?」


「異常なし。どちらかで見つかればよかったんだがな。結局は俺の心辺りが本命だ。」


平家と言えば平安時代に日ノ本の政権を治めた名家。

源氏との戦いに負け失脚してしまうがその子孫は日ノ本に広がったとされている。


上杉家も元を辿れば平家の血を引いているらしく

実家の玄関には八海上杉家の隣に平家の家紋が掘られていた。


「首塚ってことは・・平って人は平将門と何か関係があるんですか?」


桃子が口を開き兼兄に尋ねる。


「ああ。あの人が人造式神の技術を得たのは平将門公の復活を目論んでいたからだ。」


平将門と言えばかつて朝廷に反旗を翻し朝敵として討伐された人物。

そんな人物を復活させようとしているなんて・・・

日ノ本を混乱に陥れようと企んだのだろうか?


「だがそれは日ノ本が危機に陥った時に東京を守護してもらうため。


多くの反対があったが大戦で東京が火の海になった時に

東京の結界がうまく機能しなかった事を引き合いに出し最終手段として研究の許可を得ていた。


人造式神の中に平将門公を降ろすために腕を磨き続けていたと聞いていたが・・・


成功したという報告は耳に入っていない。

研究のために行動を起こしたと考えたんだが、残念ながらあては外れた。」


戦いに負け、晒し首にされたが何か月も目を開いたり閉じたりしていたらしく

怨念により東の国に飛んでいき首が落ちた場所に首塚を立てて供養したという。


首塚を放置し荒廃させたり壊した時には関係者を怨念が襲ったとされる日ノ本三大怨霊の一柱だ。


「あてというかそれはお前の願いなんじゃないか?

三道省が認めた研究ならこんな大ごとを起こすことなく公式に許可を取るはずだ。」


確かに今の説明には矛盾があり

平がこんなことをするわけないとどうにかして罪を軽くする方法を探していたように思える。


竜次さんの鋭い指摘を聞いた兼兄は何も答えることなくただモニターを見つめていた。


「そんなことはどうでもよい。

兼定よ、奴の目的はこの上で間違いないのじゃな?」


兼兄の答えを待つことなく青さんが急かすように尋ねる。


「そういうことになりますね。」


「だが姿を現さない。どうする気だ?」


主犯の姿が見えないという事はこの襲撃を解決できず学校の封鎖を解くことが出来ない。


だが動かないのにはそれなりの意図があるはず。

もしかすると俺達が兼兄の言っていた限られた者しか入ることが出来ない部屋に

探しに入るのを見計らっているのかもしれない。


「焦ることはありません。

奴は目的のある部屋に入ってすらいない。

時間はまだありますので無理に動く必要は・・・・。」


兼兄が青さんは諫めようとしたその時、ちーさんが口の前で指を立てて耳を動かす。


「・・・足音。しかも上の階。」


ちーさんの耳が受け取った最悪ともいえる状況。

既に敵は本陣に踏み込んでいる。


「ちー、聞き間違いじゃないな?」


「うん、今も動いている。でもすぐに立ち止まって歩いての繰り返し。

何か・・探してるみたい。」


優れた聴覚は足音だけで敵の様子まで正確に読み取った。

探しているということは目的には到達していないのだろう。


「・・そうか。」


「兼定、決断の時じゃ。行くしかないぞ。」


急かす青さんの言葉を聞いても焦る素振りすら見せない兼兄。


「”旧友”に会いたい気持ちは分かります。ですが奴の狙いもそれでしょう。

いくら探しても奴は目的にたどり着くことはできません。鍵が無いのだから。」


兼兄が皇族に家紋が刻まれた手帳を取り出す。


「・・それがあいつに会うための鍵か。」


「ええ。これが無ければ奴はたどり着けません。ですからここで待機するのも一つの手です。」


何も伝わってこない会話を聞いて閉じていた口が自然と開く。


「兼兄。平の狙いって何なんだ?」


敵はすぐ目の前。そして狙っている物を二人は既に察している。


「出来れば教えてほしい。

これから戦うのに何を守ればいいかわからなんじゃ気が散って後手を取るかもしれない。」


ここまで来て俺達に隠し事なんてできないはずだ。

平という人物が涼音を使い国學館に敵を送り込んでまで得たかった物とは一体何なんだ?


「・・ちー。敵の動きは?」


「足を止めているよ。どこに隠れるわけでもなく部屋の中央で。私達を待っているみたい。」


大きなため息をついて俺の方を向く。


「俺を待ってるな。戦いの望むか。」


堅苦しいネクタイを外し、一番上のボタンをはずしシャツを緩めた。


「どうやって侵入したかわからないが敵は上の部屋にたどり着いた。

目的にたどり着くことはないが、ここでいくら時間を潰そうと部屋から動くことはないだろう。」


モニターに触れると画面が切り替わる。

薄暗い部屋には透明なタンクが置かれておりその前には男が一人立っていた。


「作戦を指示する。平将通の排除だ。

捕えようとは考えるな。隙を見せずに確実に倒せ。」


俺の質問には答えようともせずに扉に向かって歩き出す兼兄。


「・・兼定!」


答えないなんて許さないと竜次さんが声を荒げるが兼兄は冷静に答える。


「敵の狙いは結界強化装置の核だ。それを守りに行くぞ。」


頑なに敵の狙いを言おうとしない。


「・・日ノ本の闇に触れるぞ。後悔するな。」


部屋から出る時につぶやいた一言は業の長としての忠告でありそれはひどく重苦しい一言だった。


兼兄の後に続いて階段を登る。

足音を隠すことなく近づいている事を知らせているようだ。


「ちー、物音はするか?」


「ない。何も仕掛けていないよ。」


「よし、俺が先頭でいく。

後ろにちーとゆー、その後ろに龍穂、桃子ちゃん、千夏ちゃん、楓。殿しんがりは竜次だ。


龍穂達は千夏ちゃんを守れるように囲んで入ってくれ。」


通常であれば魔術師は距離を取って配置するが室内戦では距離を取ることができない。

安全に魔術を唱えられるように周りを囲んで守りながら戦う室内ならではの配置だ。


「・・・・・・・」


今まで通ってきたドアとは比較にならないぐらい

重厚なドアには菊花紋章が刻まれている。


「ちー、ゆー。あれを出しておけ。必要なら使用を許可する。」


「いいの?みんないるよ?」


「いい。」


兼兄からの指示を受けた二人は札から黒鉄の塊を手に持つ。


「安心して龍穂達には向けないよ。」


取り出したのは銃。以前見た魔銃とは違い一切の魔力を感じない本物の銃。


「私達も気を付けるけど射線には入らないようにしてね。

魔銃とは違って威力の調整も起動変化も効かない。


トリガーを引いたらそのまま真っすぐに飛んでくからね。」


平和な日ノ本では見る事のない鉄の塊は俺達に緊張感を与える。

こういうのはあまり詳しくないがアサルトライフルと言うのだろうか。


武道上級で銃の所持は出来る。だがそれはピストルなどの小型の銃のみ。

こうした大きな銃はたとえ特級を取ったとしても所持は出来ず

武道省が非常事態を宣言した上で仕様の許可を出したときだけ国内で扱うことが出来るはずだ。


「・・・いくぞ。」


なぜそんなものを二人が持っているのかわからないが

それを知っていながら指示を出した兼兄との関係性も気になる。


だがそんなことを聞く時間を与えることなく重苦しい扉の横にある機械に例の手帳を付けると

扉の鍵が開き大きな音を立てながら独りでに開いた。


電気のついていない部屋は置かれている機械の小さなランプのみが小さく部屋を照らしている。

警戒することなく踏み込む兼兄の後ろを銃を構えながらゆっくりと進む

二人に続きながら平のいる部屋に踏み込んだ。


「・・・明かりつけるぞ。」


壁に着いたスイッチを兼兄がつけると

そこにはモニターで見た大きなタンクが目に飛び込んでくるが平の姿はない。


「来たぞ、出てこい。」


全員が入ったことを確認して声をかけるが答えは返ってこない。


得物を構えながら辺りを警戒していると前を歩いていた二人の銃口が同じ方向に

向いていることに気が付く。


「・・タンクの後でしょ。奇襲は無駄だから素直に出てきてよ。」


ちーさんの聴覚の前では隠れても無駄。

簡単に居場所を特定してしまった。


「・・・・・別に奇襲をかけるつもりはなかったんだがな。」


タンクの後ろから重い足取りで姿を現す男。

上が白、下が黒の装束を身にまとって白髪交じりの男性が姿を現す。


「手塩に私の弟子たちを簡単に倒しすぎだ。

おかげで時間が足りずに奪う物も奪えなかったよ。」


密閉された部屋でこれだけの人数が目の前にいるにも関わらず

焦りの一つも見せない余裕はこの人が歴戦の実力者であることを示していた。


「平将通、あんたを排除する。」


鞘から取り出した刀を平に向けながら言い放つ兼兄。


「まあまて。こうして姿を現したのには訳がある。

せっかくこうして顔を合わせたのだから少し話をしないか?」


宣戦布告を軽く躱しつつ、

こちらを向きながら後ろにあるタンクを拳で軽く叩く。


「私の目的はこの中にあるんだが・・・後ろにいる子達はこれの中に何があるかわかるか?」


敵の方から本題に踏み込んで来た。


「伊勢桃子、君に問おう。」


わざわざ桃子を指名して尋ねてくる。


「・・東京結界を強化する核があるやろ。」


竜次先生が押してくれた情報をそのまま平に答えた。


「そう、結界強化の核。東京を守る結界を強化できるほどの何かがこの中に入っている。


まったく残酷な話だ。陰陽道を広めた人物のなれの果てが

その亡骸を先祖たちに搾り取られているとは。」


「・・違う。奴は死してなお日ノ本を守っている。」


平の言葉に青さんが静かに反論する。一体何の事を言っているんだ?


「都合がいいことを言うな。主人を売った元式神。

仇打つなどと言った結末がこの末路とは我らが主人が持つ魂が嘆き悲しんでいたぞ?」


「・・・・・・・・。」


「知らない者達に教えてやろう。

この中にはな・・・伝説の陰陽師である”安倍晴明”の亡骸が入っている。」


その名前を聞いて唖然としてしまう。

何千年と前に亡くなった人物の遺体が現代まで残っているはずがない。


だが、平の言葉が真実だと裏付けるように

恨めしそうに睨む青さんの姿がそこにはあった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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