表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
67/301

第六十七話 寮の秘密

竜次先生と合流して玄関まで移動する。


「・・・・・・・・・・。」


先程から最小限の会話しか交わしていない。

感情を見せないようにしているが恐らく苛立っているのだろう。


「・・竜次先生。向こうと連絡は取れましたか?」


だからといって情報共有はしなければならない。俺は口を開き今の状況を尋ねる。


「向こうは敵を確保したようだ。だが、こちらとは違い三下達しかいなかったみたいだな。」


平田さんと黒川は平の弟子。

三下と呼ばれる奴らも同じように師事を受けていたのだろうが

人数を多く配置している所を聞くと実力があまりない奴らだったのだろう。


「では、残るは寮ですか。」


「ああ。平がいるなんて連絡は入っていないが

校内にいない所を見ると兼定の読みは当たっているんだろうな。」


三道省達の高官達ですら立ち入ることを許されていない場所。

それがあるのが寮なのだろう。


「竜次先生は寮に何があるのか知っているんですか?」


神道省の理事である人が狙う物が何なのか俺も興味がある。


「・・龍穂、お前、寮の説明は受けたか?」


「五階までは受けましたがそれより上は時間が無いって言われて・・・・。」


アルさんは確か緊急事態が起きた時用の装置があると言っていた。

まさに今のような状況であり、ここで使わなけばいつ使うのかと言えるだろう。


それを聞いた先生は大きなため息をつく。


「謙太郎の奴だな・・・。しっかり説明しとけよ・・・。

あそこにはな、この日ノ本が非常事態に見舞われた時に作動させる結界の作動装置が置かれている。」


「結界・・ですか?」


「東京結界って知っているか?

有名な神社で五芒星を繋ぎ結界を組んでいるやつだ。」


東京大神宮、神田明神、水天宮、金毘羅宮、日枝神社。

それぞれが強い信仰を持った神社であり、それらの力を使い結界を張ることで東京を守っている。


「ええ、知っています。」


「数年前その結界を強化しようという案が三道省合同会議の場で出た。


それは以前起きた大戦でその五社が大きなダメージを負い

有事の際東京を守れるのか不安視されたことが原因なんだが・・・

その役割を果たす装置が寮の中に設置されているというわけだ。」


東京が火の海と化した大戦で社は大ダメージを受けたのは

聞いているがそれを完璧に復旧したと歴史の教科書に乗っていた。


社が崩壊しようと大切なのは信仰心。

年々薄れてきていると言われているがそれでも神々の力は落ちることなくこの日ノ本を支えている。

俺の予想以上に大きな装置が置かれていることに驚きながらも続けて尋ねる。


「その装置を・・平は狙っているんですか?」


「いや、その装置を奪ってもどうしようも無いだろう。結界の源は神力、備わち信仰心だ。

そんな結界を強化するには建てられたばかりの寮では到底不可能。


これは俺の憶測だが・・・平は結界に関する何かを破壊、もしくは奪うつもりなんだろう。」


五つの大社は一つを除けばその全てが国津神や天津神を奉っている。

古くから日ノ本を支えている神々でありその信仰は古くから積み重なっているだろう。


そんな信仰心が集まった結界を強化できる力はこの国を探しても数えるほどだ。

それを失えば集めた信仰が無くなり、結界の強化にまた時間が必要になってしまう。


「・・竜次さんも業なんですか?」


そんな情報を知っている人物だ。兼兄とも繋がりがあるし業である可能性が高いだろう。

竜次さんを除くこの場にいる全員は業の存在を知っている。


「いや?俺は業じゃないよ。」


だが帰ってきたのは俺の推測とは違う答えだった。


「えっ!?じゃあなんでそんな情報を・・・。」


「いつかわかる。お前が自らの道を進んでいけばな。」


意味深な言葉を残した竜次先生。

その意味を聞こうとするも遠くから聞こえてきた足音が聞こえてきた。


「竜次先生!!」


敵の部隊の捕縛を終えた別部隊であるちーさんとゆーさんの姿が見えた。


「そっちは大丈夫だった?」


「ああ、問題ない。だがノエルが捕縛した敵の話しを聞くために戦線離脱だ。これは大きいぞ。」


「そっか。でもこれで校内の敵の殲滅は出来たんでしょ?」


「殲滅はしていない。そんな物騒な言葉を使うな。」


後から追いかけてきた全員が走ってきてこれで全員が合流した。


「すまない遅れた。」


「いえ、こちらも着いたばかりです。」


隊長である上泉先生と言葉を交わす。


「校内を封鎖しよう。これ以上かく乱されたら厄介だ。」


「ええ、私もそう提案しようと思っていた所でした。」


この校舎を封鎖することを上泉先生や隣で頷く田中先生も考えていたようで

それを聞いた田中先生は実行するために動き出した。


「その後ですが・・・全員で寮に入りますか?」


「それしかないだろう。残されているのは寮のみ。

全員で討伐するのが一番だ。」


「この人数で当たるには狭すぎます。

敵の位置は判別しています。選抜メンバーを組むのが一番被害が少ないでしょう。」


二人に間で意見が割れている。

寮は俺達が学校生活以外の時間を過ごす場所。決して戦闘用に作られていない。


槍など間合いが長い得物は室内での戦いは不利だ。

それは大規模な魔術や神術を扱う者も同じ。


俺を含め生徒達は長所を伸ばすように教育されている。

室内で長所を発揮する人選をした方が戦闘を有利に進めることが出来るのは確かだった。


「それを実行したとしよう。残された者はどうする。


敵の増援を全て倒したと断定できない。

バランスの悪い部隊の弱点を突かれれば全滅もあり得る。

室内でお互いを援護する方が被害が少ないのではないか?」


上泉先生のいう事も的を得ていた。部隊とは編制のバランスを考えなければならない。

室内という事は近距離戦や中距離戦が得意な人物が多く選抜される事だろう。


近距離、中距離、長距離と得意な隊員を配置しなければ隙が生まれ、

そこを突かれてしまえば簡単に全滅もあり得る。

議論が続けられるが答えは出ない。


「どうするんだろうね。」


近くにいるゆーさんが呟く。


「敵の居場所が分からない以上完璧な答えはないよ。

私達は長の指示に従うだけだ。」


ちーさんは冷静に状況を把握しているようでただ待つことしかできないとゆーさんを諫めた。


「我々では判断できんな。他の意見を聞きたいところだか・・・。」


膠着状態の二人に応えるように竜次先生の携帯電話が鳴る。


「俺だ。」


電話相手と軽い会話をした後、

スピーカーに切り替えて大音量でこの場にいる全員に聞かせた。


『上杉兼定だ。指示をした通りの働き感謝する。』


相手はもちろん兼兄。これからの指示を出すのだろう。


『既に動いてくれているようだが、学校は閉鎖だ。

そして再度部隊を二つに分けて作戦を行ってもらう。


一つは寮内に入って俺と共に主犯の捜索、そして戦闘ののち確保を目的とした部隊だ。

メンバーは竜次、ちー、ゆー、千夏ちゃん、龍穂、桃子ちゃん、楓だ。


編成の理由としては室内戦が得意な竜次、ちー、ゆー、桃子ちゃんと

それをカバーできる器用さを持った龍穂と楓。

そして多くの魔術を扱える千夏ちゃんがいれば平を確保できると判断した。』


室内戦という事で近距離戦重視のメンバー編成だが人数は最低限。

それが顕著に表れているのが遠距離が得意なメンバーが一人しか組まれていない所だろう。


いくら室内戦とはいえ全体をカバーできる広範囲の魔術を放つことが出来る魔術師を

一人しか配置しないという事は千夏さんに相当な負荷がかかる。

本来であればもう一人配置したいところだがそれを守る人員を確保しなければならない。


だがこれ以上の増員は別部隊に編成に偏りが出る。

最低限且つ現状一番バランスが取れた配置だろう。


『残るメンバーは寮の入り口前に陣形を形成。侵入を試みる奴がいたら排除してほしい。

部隊長は・・上泉さん、お願いできますか?』


寮の入り口に集中した配置とはずいぶんと大胆な配置だ。


一番大きな入り口なのは間違いないが非常口など侵入経路は他にもある。


「承知したが・・・いいのか?隠密で近づかれたら寮内の侵入を許すかもしれないぞ?」


『大丈夫です。来ていただけたらわかります。』


どうやらひっ迫しているようで寮内の状況すら伝えずに電話が切られる。


「こちらの準備は出来ました。

あとは教員玄関にあるスイッチを押せば校内全ての扉が閉まり鍵が掛けられます。」


田中先生が封鎖の準備を終えて戻ってきた。異議を申し出る者は一人もいない。


「・・では行きましょう。兼定の元へ。」


竜次先生が全体に掛け声をかけ移動を始める。


玄関に着くと田中先生が変哲もない壁に魔力を込めると

仕掛けが作動したのか駆動音が鳴りスイッチが現れた。


「閉じますよ。」


スイッチを押すと校舎全体に神力が宿り一斉に扉や窓が閉まり始める。


「あのスイッチは神降ろしのスイッチだ。

大戸日別神おおとひわけのかみ。家の出入り口の神様であり

この学校の入り口を塞ぎ神降ろしを解くまで絶対に開くことはない。」


八百万の神がいる日ノ本らしい出入り口の神。

その神が鍵を封じているなら誰一人として入ってこれないだろう。


「その神降ろしは誰が解くことが出来るんですか?」


「本来はこの学校の長である校長がその実権を持っているんだがな、徳川校長は亡くなった。

まだ代理者もいない。解けるとするなら・・・兼定ぐらいか。」


緊急時の実権は校長先生が握っているのは当然だが

あれだけの人徳者の代わりを務められるのはそうはいない。


数か月と経った今でも新たしい校長は決まることなく、

また教頭という職務を設けていなかっため代理さえいない状況だった。


「この神様は破壊された壁や窓も修復してくれる。図書室の穴は安心しろ。」


遠くに見える図書室の窓を見ると空いていたはずの穴が完全に封じられていた。


「春やノエルは大丈夫だ。隠れ場所には何か月分と食料などが積まれてる。

俺達が負ける事がなければ・・・な。」


兼兄がいなければ校舎から出ることはできない。

いくら食料があったとしても餓死してしまうだろう。


「・・・分かってます。」


皆を守るには勝つ以外の道は完全に絶たれた。

自らを奮い立たせ寮へを足を進める。


寮の近くまで行くと遠くから見えていた異変の様子を間近で捕えることが出来た。


「これは・・・・・。」


寮の周りに群がる無数の精霊達。

だがそれは日ノ本で見るような種ではなく翼の生えた小さな人間のような姿をしていた。


「アルの仕業だ。こちらが敵を向けなければ襲われることはない。」


遠くから見えていた鳥のような奴の正体はこいつらだったのか。

一体どんな術を使ったのだろうか?


「ねえ、ねえ。こいつらだれ?」


寮の近くまで迫っていた俺達に精霊達が群がってくる。


「アルからなんも聞いてないよ?」


「じゃあ敵なんじゃない?」


楽し気に話しているがどうやら俺達を敵と判断しているようだ。


「やっちゃう?やっちゃう?」


「やっちゃおう!そっちの方が楽しいよ!」


竜次先生の話しと違う。

精霊達が魔術を唱え始め思わず得物を構えようとすると竜次さんが両手を上げながら前に出た。


「こら!俺がわからないのか?」


どうやら精霊達と顔見知りの様で近くにいた一体に額を突く。


「あてっ!何も~!!」


「待って!ドーラじゃない?」


竜次先生の顔を見た瞬間、魔術を解いてざわめき始める。


「その名前を呼ぶのは止めろとずっと言ってるだろ?

アルと兼定に用があってきたんだ。通してくれ。」


要件を伝えると精霊たちは寮への道を開けてくれる。


足を進めると可愛くごめんねと謝ってきた。

悪気はなかったと言いたいのだろうが笑顔で俺達を襲おうとする姿はどこか狂気を感じさせた。


「指示があった部隊はここで待機。

精霊達にはよく言っておくから安心して守ってくれ。」


精霊達に包まれた寮に入る。


エントランス、みんなが集まる共有スペースは今朝と様子が変えていた。

忍び装束を身にまとい黒い仮面をかぶった男達が力なく積み重なっており

その上にはいつも見慣れたアルさんの姿があった。


「・・・来たわね。」


男達に足を組みながら腰を掛け、頬杖をつきながらこちらを見ている。


「アル、あいつらをしっかり教育しておいてくれ。

またあの名前を言ってきたぞ。」


「あら、それはごめんなさいね。久々の出番だからはしゃいじゃったみたいね。」


エントランスにも無数の精霊たちが飛んでおり

アルさんが右腕の人差し指を差すとひと際綺麗な衣装に身を包んだ精霊が笑顔でその上に座った。


「兼定はどこだ?指示を受けた。」


「上にいるわよ。どの階にいるかわからない。

五階以降はこの子達すら入れさせてもらえなかったわ。」


「そうか・・・・。」


竜次先生は腕を組みながら何かを考え始める。


ちーさんとゆーさんは近づいてきた精霊達と楽しそうに会話をしており

まるで面識があるように親しげに話していた。


「・・青さんに話を聞いてみたら?」


答えが出ない先生を見てアルさんが提案する。


それにしてもなぜ青さんなのか?

何故かわからなかったが、呼ぶ前に青さんが俺の中から飛び出してきた。


「兼定はどこかわからんが・・・お目当ては七階だろう。」


「なんでそんなことわかるんですか?」


「”わしだから”だ。」


そう一言言い放ち、後は察しろと言わんばかりに佇む青さん。


日ノ本でも一部しか知らない情報を何故知っているのか分からないが

きっと寮の先に進めばその謎が解けるのだろう。


「・・兼定と合流しよう。ちー、ゆー。先導を頼む。」


竜次先生が決断を下し俺達に指示を出す。

敵の目的も、それを青さんが察している理由も分からない。

全てが謎であり暗闇を突き進んでいるような感覚だ。

この先に真実を照らす光があるのだろうか?


暗闇を歩くのは苦手だが後ろには守るべき仲間がいる。意を決して兼兄の元へ急いだ。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ