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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第六十六話 未熟な弟子

囲まれた二人は冷静そのもの。相手は人造式神の体を持った鬼七体だ。


「連携は抜群、アンタたちにいなせるかな?」


新たに呼び出された鬼達は囲んでいる二人に向けて両手の手のひらを向ける。

すると機械音とともに手のひらから小さな放射口が現れ火、水、土、風の神術が飛び出した。


人造式神と言うのは神術があまり得意ではない者や

実力が無い者に対して従順に調教された付喪神や精霊を込めた人形などを事を指すが

元々実力のある鬼達をあえて人形に込めてさらなる力の増強させるなんて初めて見た。


「竜次さん!ノエルさん!」


各属性の攻撃をもろに食らった二人の援護に向かおうとするが五鬼の内の一人に阻まれる。


「手を出さないでよ。こいつらを倒してからしっかり相手してあげるから。」


幼い見た目からとてつもない殺気を体から放ってる。

この子が何歳なのかわからないがとんでもない才能の持ち主だと嫌でもわからされてしまう。


だがこんなところで怯んではいけないと魔術を使い鬼を倒そうと試みたその時。


「良い力をお持ちですね~。」


魔術の束の中からノエルさんの声が響く。


その声はいつも通りの穏やかでありこの強烈な攻撃をまともに受けても

響いてすらいないことを示していた。


斧を払い、魔術の束を断ち切ってしまう。

中からノエルさん達が姿を現したがその体は怪我一つなく両者とも余裕の笑顔を浮かべていた。


黒川茜くろかわあかねだったな。」


聞いたことの無い名前が竜次さんの口から出てくる。


「・・・・・そうだよ。」


少女の名前を知っているようだが今までの態度からお互い面識はない様だ。

なぜ竜次先生はこの黒川と言う子を知っているのだろうか?


「君は国學館のスカウトを蹴ったみたいだな。それはどうしてなんだ?」


「そりゃ私にとっちゃ国學館に通うよりか師匠の元にいた方がいいからね。


あんたら人造式神の知識なんて持ってないでしょ?

一番の高校だって言っても私に指導できる人なんて師匠だけなんだよ。」


先生の中に人造式神の技術を持っている人はいない。

それだけ専門的な技術であることは確かだがどれだけ環境がよくて

成功したら未来が確約されているとしても本人が行く気が無いのであればそれまでだ。


「君が断った理由も我々も把握している。

だがな・・・それは平殿が不祥事を起こさなかった場合だろう?


このことは既に皇の耳に届いている。仮に平さんが抱く野望を成し得たとしてもだ。

その先は地獄。我々以上の実力者が軍をなして君たちに襲い掛かるだろう。

それでも・・・師匠である平殿についていくのか?」


この事態が既に皇の耳に届いている限りこの子の運命は既に決まっているも同然だ。

竜次先生は今の攻撃をみて才能があると判断し彼女が生き残る道を模索しているようだ。


「ついていくよ。

身寄りのない私を師匠は受け入れてくれた。私はその恩義を果たさなくちゃならない。


師匠が望むのなら私もその道を走る。だから・・・師匠が道を逸れようと私もその道を走るんだ。

例えそれが悪の道であってもね。」


彼女の意志は固く竜次先生の説得に応じることはない。


「そうか・・だが君の才能を失うのは痛い。

きっと君の師匠もそう思っているはずだ。少し乱暴になるが捕えさせてもらう。」


槍を振り回しながら黒川に突っ込んでいく竜次先生。

周りの鬼に目をくれず足を進めているので当然前鬼と後鬼が行く手を阻んだ。


「アンタに・・・師匠の何がわかるんだよ・・・・!!」


竜次先生の言葉が琴線に触れたのか黒川の神力が急激に強まっていく。


前鬼と後鬼達が呼応し激しい雄たけびをあげると前鬼の口からは火が漏れ出し鉄斧を取り出す。

後鬼は細い棍手に持ち大きな水の瓶を背中に背負うと竜次先生相手に構えをとった。。


「前鬼!後鬼!やっちゃって!!」


前鬼が大きく口を開くと中から砲塔が飛び出し

純恋が扱うような光り輝く炎をまるでレーザーの様に打ち放つ。


後鬼も口を開け砲塔を向けると背中に背負った瓶に空気が入り水が中に装填されていく。

同じ様に竜次さんに噴き出すと炎と合わさり蒸発していった。


一見お互いの力を相殺し意味のないように見えたが瞬く間に蒸発した水蒸気は爆発的に膨れ上がり

竜次さんを中心に大きな爆発を起こす。


木壁もくへき!」


すぐ後ろにいた千夏さんが両手で杖の柄で床を突くと床の木がうごめき始め

俺達の前に壁が作り上げられる。

だが水蒸気爆発を前に壁は簡単に崩壊していき木の破片が俺達に向けて飛び込んで来た。


「くっ・・・!!」


目に入らないように手で隠しながら状況を把握しようと薄めで周りを確認する。

読書用の机はあまりの衝撃に吹き飛んでおり壁にぶつかりバラバラになっている。


本棚も同様に吹き飛ばされ本が床に散乱しており

強固な窓はなんとか衝撃に耐えた様だが所々にヒビが入っており

彼女がどうやってこの図書館に侵入したか一目瞭然であった。


「アンタが悪いんだからね。何も知らないのに師匠の事を語るなんてさ。」


水蒸気に包まれた竜次先生に語りかける黒川。

近くにいたノエルさんの姿も隠されているがあの衝撃ではおそらく無事ではないだろう。


「次はあんたたちの番だよ。」


二人を始末したと判断し、五体の鬼達が得物を取り出し俺達に向けて歩み始める。


「来るぞ!!」


四属性の攻撃を簡単に薙ぎ払った二人とはいえあれだけの衝撃に無事ではないだろう。

戦うしかない。そう判断し得物を構えるが煙の中から声が聞こえてきた。


「大丈夫ですか~?」


「ああ、少し驚いたが問題はない。」


晴れていく煙の中から二人の姿が見えてくる。


神体移管しんたいいかんだったか?

正直そのままの方が強いと舐めていたが見直さなきゃいけないな。」


煙が晴れてはっきりと見えた二人の姿に唖然としてしまう。

怪我を負っているどころか服すら乱れていない。

本当に水蒸気爆発を喰らったのかさえ疑ってしまうほどの姿は俺以上に黒川を驚かせていた。


「な・・んで・・・・?」


「世界は広いってことだ。かわずさんよ。


人造式神の技術を高めたいってんなら平殿についていくのは間違っていないが

自分の実力を上げたいのならこっちに来るべきだよ。


前鬼、後鬼達もたいそう強い式神だがこの程度なら後ろにいる生徒達でも難なく倒せるだろう。

もっと強い人造式神を作り上げたいのなら広い視野で物事を見るべきだ。」


竜次先生は俺達を引き合いに出して黒川の説得を試みる。

難なく倒せる・・・とは言い難いがあの攻撃が来ると分かっていれば対処は可能だろう。


「・・・どんな力を使った。」


静かに尋ねる黒川だが冷静とは程遠く自慢の一撃を簡単に防がれた驚きと

煽りとも受け取れる言葉が言葉尻を熱くしており怒りが見え隠れしている。


「火を吐けるのはお前さんの式神だけじゃないってことだ。」


竜次さんの口からは通常の人間なら絶対に出すことができない火が漏れ出しており、

黒川に向けて吹き付ける。

前鬼と後鬼がかばうために立ちふさがるが威力が強いのか徐々に押されていった。


このまま押し切れるかと思ったが火を吐くのをやめて代わりに炎のため息を吐く。


「これで相殺させてもらったんだよ。

目の前にいて見えていないようじゃまだまだ甘ちゃんだな。」


煽りを止めない竜次先生にさらなる一撃を加えようと指示を出す黒川に対し

先ほどより大きなため息をはく。


「周りをよく見ろ。もう終わってんぞ。」


床に散らばった本達が浮き上がりページが捲られていく。


いつの間にか魔力が込められておりその根源を辿ると

近くにいたノエルさんが静かに呪文を詠唱していることに気がついた。


「な・・んだこれ・・・?」


「本とは過去の知識を未来に残した人類の財産。

言葉だけを残したのではなく、形として残されているのですよ?」


小さな体が浮かび上がりその周りをまるで寄り添うように本たちが浮かんでいく。


魔道書グリモワールと呼ばれる書物は魔力が込められたインクで書かれており

起動の魔術を唱えることによって書かれた呪文通りの魔術を放つことが出来るのです。」


そう言うと小さな手を叩き呟く。


「démarrerきどうせよ。」


聞いたことの無い言語で呪文を唱えた後、

開かれたページのインクが光出し中から魔術が飛び出してくる。


四大元素以外にも木や土砂、あるいは金属など様々な魔術が周りにいる鬼達に襲い掛かった。


「みんな・・・!!」


形勢逆転。襲う側から急遽襲われる側に変わり何とか対処しようと動く鬼達だが

多方面からの攻撃を簡単にいなせるわけがなく次々とやられていく。


残るは前鬼と後鬼だけとなり魔術が集中していくが

倒れてもおかしくない一撃を何度くらっても立ち上がり黒川の前から離れなかった。


「・・・・・・・!!」


まるで子を守る親の様にボロボロで軋む体で必死に守る姿を見た黒川は式神の前に立ち両手を広げる。

本来守られるべき立場である使役者が前に立つという異様な状況だが

二体の式神達との深い絆を現していた。


「いいのですか?

あなたが倒れて契約が絶たれることがあればこの方々は元の体に戻る機会を失うことになりますよ?」


黒川は前鬼と後鬼の体から魂を取り除き

自らが作り上げたであろう人造式神の中に入ってもらっていると言っていた。


今見せた深い信頼を築いたからこそずっと使ってきた体から人造式神の体に乗り換えてくれたのだろう。


「・・・この二人はいつも私を守ってくれた。

そんな・・・・私の家族を見捨てられるわけないじゃない・・!!」


彼女が送ってきた人生は分からない。

だが今までの言動からその険しさが伝わってきた。


「・・弱けりゃ何も守れない。君の両親も、そして師匠もだ。」


眼に涙を浮かべ、悔しそうに歯を食いしばりながら

睨む黒川に向けて厳しい言葉をかけ続ける竜次先生は槍を手に持ちながらゆっくりと迫っていく。


「俺達を憎んだところで何も変わらない。憎むんなら弱い己を憎め。」


槍先を首元に向ける。黒川は動じることなく睨みを効かせていた。


「動かないと死ぬぞ?良いのか?」


「・・・いい。」


「意地を張り続けるか・・・。こりゃ駄々をこねた子供だな。」


貶すような言葉を呟いた竜次先生の頭に大きな斧の腹が振り下ろされる。


「あだっ!!!」


すごい音を周りに響かせ悶絶する。


「言いすぎですよ。彼女なりの意地があるのでしょう。」


浮かんでいたノエルさんが斧をしまいながら黒川の元へ降りていく。

目に貯めていた涙は頬を伝っており恐怖と悔しさで胸がいっぱいのようだった。


「・・師の背中を追う。ましては育ての親であるのなら当然の行いなのでしょう。


ですが・・・その行いが師が紡いで来た道を絶ってしまう行為だとしたら

あなたはどうしますか?」


ノエルさんの言葉を聞いて黒川は少しだけ顔を上げる。


「人造式神の技師は平将通殿を除けばあなただけ。

どれだけ精巧な人形が作れようとも、

その人形に神を込められるほどの技術が無ければ技師とは呼べない。


ましては神体移管と言う高等技術をまだ幼い身で扱える才能を持ったあなたがいなくなれば

古くは平安時代から紡がれてきた人造式神と言う技術は完全に失われるでしょう。


あなたの大切な師が残そうと奮闘してきた技術を

残すことこそが一番の恩義・・・ではないのでしょうか?」


強く睨んでいる黒川の頬を優しく撫でる。


まるで妹を思う姉の様な姿は命を無駄にしてほしくないと本心で思っていると感じさせた。


「私・・・・まだ力を半分も出せてない・・・!

まだアンタ達に負けたわけじゃ・・・・!!」


「素直に全力を出させるほど俺達は甘くはないよ。全てを含めた上でお前の敗因は実力不足だ。

大切な人を守るために立ち回れるほどの実力はないってことだよ。」


竜次さんはそう言い放つと黒川に背を向けてこちらに歩いてくる。

厳しい言動を浴びせ続けたその表情はどこか物悲しげだった。


「・・あなたを捕えさせてもらいます。

知っている事を・・・全て吐いてもらいますよ。」


そう言うとノエルさんは浮かんでいる魔術書を手に取りページをめくる。


そして先ほどの起動の魔術を唱えると光り輝く細い糸が飛び出し

黒川と近くにいる式神達を縛り上げた。


「私は春達と合流します。竜次、後は頼めますか?」


分かったと言いながら図書室を出ていく。

黒川にいつになく感情的になっている竜次さんを見てその原因が分からなかったが

きっとこのような状況に追い込まれた黒川に対し

何か思うことがあったのだろう。


「もう一方の結果次第ですがこれ以上敵の侵入を防ぐために

校舎は一度完全に封鎖することになるでしょう。


ですので忘れ物が無いように準備を整えておいてください。」


ノエルさんは縛っていた前鬼と後鬼の拘束を解く。


敵である黒川の式神の縄を解いて大丈夫なのかと心配していると

案の定迎撃しようと立ち上がろうとするが軋む体ではバランスが取れないようで

すぐによろけてしまっていた。


「・・少しだけお力をお貸し願いたいです。悪い様には致しませんから。」


手に持っている本のページをめくりながら二体の体に触れる。

すると魔術書が光出しボロボロの体から木の枝が生えてきて動けない部分を補強する。


それを見た二体の鬼は少し戸惑うがじっとノエルさんの方を見つめると

縛られている黒川と残りの鬼達を背負いだした。


「竜次の跡を追ってください。外にいるはずですから。」


そう言うと影に沈んでいくノエルさん。


国學館の事務員さんはここまで強いのかと驚きを抱くと共に

悪事を働いている者達にもそれなりの事情があるのだと改めて思った。


「・・どういう事情があろうと我々に対して脅威なのは変わりません。


あの様子だとノエルさんはあの子を殺すなんてことはしないでしょう。今は前を向くべきです。」


楓が俺の近くで呟く。


「事情・・・か。」


どのような戦いでもきっとそうなのだろうと心の中でつぶやく。

仙蔵さんもそう。賀茂忠行も同じく己の野望のため俺を命を狙っている。


「・・行こう。」


俺にも”大儀”がある。交わらないのであればぶつけ合うしかない。


学校を閉鎖すれば残る場所は異変のあった寮だ。

あそこには兼兄がいる。この戦いの正体がおそらく分かる。


外にいる竜次先生と合流するため図書館の外へ足を向けた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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