第六十一話 茨木童子
神融和をした毛利先生が鬼の人形の一撃を阻む。
「なっ・・・・・!?」
自らの式神である鬼と神融和したようだがその中身が平田さんが憧れた鬼そのものだと豪語していた。
「あなたが作った人形の通り茨木童子は片腕を失っている。
神融和をしても右腕だけが恩恵を受けられない。
ですが・・それでも十分ですね。」
受け止めいるのは左手だ。
音もなく受け止めたところを見るとダメージは全くない様だ。
「・・すさまじい力だが本物だと判断できないな。本体を呼び出してもらえないか?」
「出てこないかと誘ったのですが贋作を見て興が削がれたようで・・・・。
お詫びとしてこうして神融和をしたのですよ。」
目を奪われた存在がすぐそこにいる。
平田さんが欲を出して見て見たいと言うのも無理もないが自らを模した人形が気に入らなかったようだ。
「さて・・・・。」
札から目の前の鬼と同じ様な棍棒を取り出すが
人の背丈を保っているのにもかかわらず鬼より大きい物を取り出す。
人の背丈の優に超え、太さも胴の二倍はある。
人の身では明らかに扱いずらいはずなのに左手で持ち手を握り簡単に持ち上げる。
「これ以上長引かせてはいけませんので終わりにしましょう。」
棍棒を肩に乗せながら近づいていく。その道中、目線がこちらに向いている気がした。
「・・舞台は整いました。我々も動きましょう。」
楓が大量の人形達を引き付け毛利先生が敵の切り札と相対している。
平田さんの持ち札はさすがに少ないはず。ここが仕掛け時だ。
「私は土魔術が得意ですがこの状況では強みを発揮できません。ですので・・・・。」
一枚の札を取り出し神力を込めると中から三体の猿が飛び出してくる。
「式神助けてもらいながら前に進みましょう。」
三体の猿はそれぞれ体を一部を布で覆っている。
目、耳、口ときつく縛っており
まるでその部位を使ってはいけないと封じられている様だった。
「これは三猿。体の一部を自ら封じる代わりに相手にも同じように封じられる能力を持ちます。
人形達には効果が無いでしょうが平田さんに接近さえできれば効果は絶大。
目、耳、口を封じられれば戦うことはほぼ不可能ですのでその隙に攻撃をお願いします。」
五感の内の二つを封じることが出来
さらに呪文などをしゃべることが出来なければこちらのやりたい放題だ。
だが大事なのはそこまでの接近を平田さんが許すかどうか。
人形遣いの弱点は接近戦。
そんなことは平田さんも重々承知であり何かしらの策を用意しているだろう。
(・・だけど勝つにはそれしかない。)
分身した楓達は少しずつ疲れが見え始めている。
このままではまずい。楓のためにも速く勝負を決めてやらないといけない。
「ふむ、こいつが千夏の・・・・。」
三猿のうちの一匹、目を布で覆っている猿が俺の方を見ながらしゃべりだす。
「確かに力は強いが・・・精神はまだ未熟のようだな。
これは千夏の教育のし甲斐が—————————」
見えていないはずの俺を見て値踏みをしているようで
何かを言おうとした時千夏さんが手に持っている杖で頭を叩く。
「無駄口はいりませんよ。
戦いの中で詰めは一番重要、敵が死に物狂いで抵抗して来ると教えてくれたのはあなたでしょう?」
「いや、しかしだな。こいつが千夏の選んだこ————————」
さらに叩かれ痛みから頭を押さえる猿。
何を言いたかったのだろうか?
「行きますよ。得意の魔術が使えないのであなた方が鍵になります。
龍穂君、彼らの跡に続いてください。」
叩かれた頭を掻きながら三猿達は駆け出す。
俺達を阻む糸は全て切られている。
後は平田さんの元へ駆けていくだけだが先導してくれる三猿たちはこちらをチラチラと見ていた。
「・・龍穂君。守るという事がどういうことか少しずつ理解しているとは思いますが
守るという事は戦いが起きたという前提条件があってこそなのです。
守るという事より戦いをどう運べば大切な人達を守りきるが出来るのか?
そう考えることで龍穂君が望む結果が手に入ると私は考えています。」
守る事だけを考えてしまえば先ほどの様に攻める機会を失い自然と追い込まれてしまう。
それだと味方への脅威を退けなければ守り続けることになってしまう。
勝機を見つけて敵を倒さなければ永遠に大切な友人を守れはしない。
「今の話しを踏まえた上で私はどう動けばいいか、指示をいただけますか?」
楓は大量の人形達に苦戦しているがタフな楓ならまだいけるはず。
毛利先生は鬼の人形相手に善戦どころか圧倒しているので手助けは不要。
「早急に平田さんを倒します。千夏さんは俺の後ろで援護をお願いします。」
奥では桃子と青さんに守られている純恋もいる。
戦いが長引いて楓が倒れれば人形達がそちらに向かうかもしれない。
素早く倒すことが全ての鍵を握っている。
「承知しました。
得意魔術が使えないので純恋さんの様には行かないとは思いますが
精一杯務めさせていただきます。」
そう言うと俺の後ろにぴったりとついて共に駆け出した。
神融和をした毛利先生と戦う鬼の人形と共にいる平田さんは苦戦を強いられている。
人形が振るう棍棒はいとも簡単に受け止められ
先生が棍棒を振るうと人形の体はばらばらに崩れてしまう。
「クソッ・・・・!!」
崩れた姿を見た平田さんは顔を歪めながら糸を放ち崩れた部位に付ける。
そして糸で繋ぎ上げすぐに元通りにしてしまった。
「贋作と言ったでしょう?相手になりませんね。」
「それでもやらねばならん・・!!我が師のためにだ・・!!!」
つまらないという風に鼻を鳴らし冷たい目線で平田さんを睨む毛利先生。
「・・あなたはよくわかっているはずです。
ご自身が積み上げた技術が決して戦闘向きではないことを。
あなたの師は私も知っていますが・・・
なぜこんなことを指示したのかを調べなければならないですね。」
俺達のことをちらりと見た後、鬼に止めを刺すため踏み出し始める。
「捕えさせてもらいますよ。
未来ある国學館の生徒達を狙う者の情報を吐いていただきます。」
棍棒を肩に乗せながら近づいていく先生。
鬼特有の能力を一切発揮せず剛腕だけで勝負を決めようとしていた。
「くっ・・!!」
平田さんは鬼を直しながら糸を伸ばし距離を取ろうとする。
勝てない相手には正面から勝負をしない。正しい判断だろう。
「今じゃな。」
好機とばかりに三猿たちが距離を詰める。
あまりも大きすぎる存在感を持った毛利先生に
集中している平田さんは俺達の接近に気が付いておらず大きな隙を生んでいた。
「わしらが奴の感覚を奪うことが出来るが触覚だけは奪うことが出来ん。
奴は人形遣いだ。
糸を使う分手の感覚は鋭くなっており何かをしてくるかもしれん。千夏と協力して止めを刺せ。」
そう言うと猿たちは平田さんに向かって跳ねる。
手の届く範囲まで近づくことはなかったが
それぞれが布で覆っている箇所を手でさらに覆い隠すと平田さんは驚いた反応を見せた。
「・・・・・!?」
目と耳と口に神力がこもった文字のような文字が刻まれれている。
あれはおそらく封印術。
伝わる逸話から術を放つ神もいるので
徳川家にゆかりのある神社に掘られた三猿はこの能力を得たのだろう。
見るからにうろたえる平田さん。
必死に辺りを見渡しているが視覚聴覚を奪われているので平衡感覚を失い倒れてしまう。
「行きますよ千夏さん!!」
明らかな好機。
楓と千夏さん、毛利先生が作り上げたこの状況を無駄にするわけにはいかないと駆け出す。
「・・攻撃は任せました。」
千夏さんは三猿の後ろで足を止め杖の石突で床を突く。
すると床の気がうごめきだし人型の形をした木が何本も生えてきた。
声を出せない平田さんは周りを探るため手から糸を周りに散らす。
五感の内三つを失い、残る触覚で状況を打開しようとしているが千夏さんが
作り上げた木人たちがそれを許さない。
つい先ほどまで目視していた人数とは明らかに
多い数が糸を通して手から伝わってきている事実に明らかに動揺していた。
(一気に詰める!!)
糸に当たらないように兎歩で移動しながら一気に距離を詰めようとするが
非常事態を察知し散らばせていた糸を急激に集め始め自らの周りを覆い始める。
防御態勢に入った。
このままではマズイと判断して時間を稼ごうとしているんだ。
溢れるように出てくる糸を断ち切ろうと刀を振り下ろす。
だが、糸は刃が入るどころかあまりの強度に刀がはじき返されてしまった。
「なっ・・・・!?」
見ると糸一本すら断ち切れていない。
まるで固い金属の塊のような糸の束は体育館の灯りを反射させ光を放っていた。
(刀じゃダメか・・・なら・・!!)
風の魔術で空気の動きを止め、それを台にして空へ跳ねあがる。
上から見ても穴が開いている所は見えない。
もしあればそこを狙いたかったのだが無いのであれば無理にコントロールせずに全力で叩き込むだけだ。
魔術で風の通り道を作る。
長く伸びた道は黒く染まっていき空気の回転が増すごとに細く、鋭利に精錬されていく。
「・・・・御手杵の槍。」
過去の大戦で燃えてしまった天下三名槍の一つであり
常人なら扱えないほどの太く大きな槍だったそうだがこの黒い風の槍もそれ相応に大きく、鋭い。
名前の元となった逸話もこの風の槍でなら出来なくはないだろうと付けた名前であるが
この槍でならあの鋼鉄の糸の束を突き破れるだろう。
「十分でしょうが、少し手助けをしましょうか。」
手に持っていた棍棒を糸の眉に向けて投げる。
目に見えないほどの速度で放たれた棍棒は風に穴を開けながら
繭へと向かって耳を塞ぎたくなるような
轟音を奏でた。
それでも穴は開かなかったが大きなへこみを見せた繭。
あそこを狙えば突破しやすいだろう。
黒いは風の槍を掌に載せて繭に向けて放つ。
風を引き裂きながら進んでいく槍は
繭に突き刺さった後、繭を削りながら
進んでいく。
ガリガリと音を立てながら削られた糸をまき散らしながら進んでいき
少し沈んだかと思うと一気に突き破り中へたどり着いた。
槍が体に突き刺さればこの人から情報を引き出せない。
軌道を変え槍を床に突き刺し込められた風を一気に解放する。
穴の開いた繭の中で解放された風は繭の中で暴い狂い穴から亀裂が走る。
毛利先生の力でも破れなかった繭は
耐えきれなくなり大きな破裂音を立て
解放された豪風は近くにいた三猿と千夏さんを軽々と吹き飛ばした。
「きゃっ・・・!!」
このまま吹き飛ばされれば体育館の壁に強くぶつかり当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。
俺は再度空気を固め縮地で吹き飛ばされている四人の後ろに立ち体で受け止めた。
「・・大丈夫ですか?」
風はなかなか止むことなく辺りで戦っていた人形達は吹き飛ばされている。
俺がやることを察していたのか楓の姿は無く足元から俺を風よけにしながら現れた。
「すごい風ですね・・・。
想定以上に風が吹き荒れたのですぐに影の中に逃げて良かったです。」
俺の目の前に空気の壁を作っているので風は俺達を避けて吹き荒れる。
純恋達は青さんが龍の姿でとぐろを巻く様に風から守っているので大丈夫だ。
強風の中で腕を組んで立っている毛利先生。伝説の鬼の前ではそよ風なのだろう。
平田さんが吹き飛ばされている姿は見ていない。あの繭付近にいるはずと風が止むのを待つ。
徐々に風が止んでいき繭の残骸が見えてくる。
荒れ狂う風に引き裂かれ散り散りになった繭の上に倒れている人物が見えてきた。
「・・・・・・・・・・・・。」
動く気配のない平田さん。
糸で身を守ろうとしたのか手からは糸伸びているがすさまじい風になす術なかったのだろう。
「・・・行きましょう。」
あの人が何故俺達を襲ったのか聞かなければならない。
受け止めた千夏さんを放し平田さんの元へ歩き出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!