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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第五十九話 我が儘の代償

柔らかい糸を断ち切りながら人形達の凶刃をいなしていく。


「桃子!青さん!純恋を守るぞ!!」


この状況を変えるには人形を操っている平田を叩くのが一番だが体育館は糸が張り巡らされている。

近づいて絡めとられ身動きが取れないならいい方、

触れただけで肌を切り裂いた糸で体がバラバラになるかもしれない。


「最短でいくで・・・!!」


俺達の後ろで純恋が呪文を唱える。

いつも使っている体育館の地の利はこちらにある。

この場の支配を奪い返すためには強力な一撃が必要だ。


「手数が多すぎ・・・!!」


長い得物を振るう桃子と青さんは動きずらそうに刀を振るっている。


人形達は刀や槍、薙刀など得物の種類は豊富であり俺達の間合いにあった得物で攻撃して来る。

いくら慣れ親しんだ得物であっても手数で押され近くまで入り込まれたら対処できない。


「空弾!!」


何とか隙間を縫って二人に迫る人形達に空気の弾を放つ。

振り下ろそうとしている腕や急所であるはずの頭を弾き飛ばすが、

先ほどの人形達の様に動きが止まらない。


「言い忘れていたがそいつらは特別製でな。簡単には倒れてくれないぞ?」


奴が付けた魔術の糸を断ち切れば動かなくなるはずだが糸が目視できない。

魔力の感知にも引っかからず人形達からはなぜか神力を感じる。


一体どういう仕組みで動いているんだ?


「遅くなったな・・・!いくで!!」


純恋は詠唱を終え、俺達の上に小さめの太陽を作り上げる。


日輪招来にちりんしょうらい!!」


繊維を細く束ねた糸の弱点はいくつかあるが

広範囲に広げられているのなら純恋の火の魔術で燃やし尽くしてしまうのが一番だ。


思っていた通り、絡めとる欲しいとたちがみるみる内に溶けるように焼き切れていく。

だが人形達の動きは止まらず苛烈な攻めは勢いを留まることはなかった。


「こいつら・・糸で操られとるちゃうんか!?」


「そうか・・・おまえら!こいつらの心臓を狙え!!」


何かに気が付いた青さんの指示通り近づいてきた奴には左胸に刀を突き立て

間合い外の奴らには空弾を放つ。


体の一部を欠損しても動いていた人形達は心臓を貫らぬくと神力が漏れ出し

力が抜けたように床に伏せていった。


「気が付いたか。さすが長く生きているだけあるようだな。」


「青さん、これは一体・・・・。」


「先程の奴らは完全な人形だったがこやつらには神力メインで動いておる。

まさか廃れた原因を上手く使ってくるとはな。」


廃れた原因?

先ほど人形遣いの技術がどうのこうの言っていたが俺には同じような技術にしか見えない。


「この人形達は人造式神だ。

お主達が持っている生徒手帳の様に何百年と育った樹木を素材に

住み着いた精霊や付喪神を中にいれ式神として使役すると言う技術。


全ての動作を糸で操る人形とは違い命令で動いたり

繊細な動きが出来るため人造式神が広まるにつれ人形使いは淘汰されていった。

奴が最初に見せた人形はブラフ。人形と思わせその間に勝負を決めるつもりじゃったのだろう。」


人造式神は専門店が置かれるくらい日ノ本で馴染があり

比較的使役しやすい精霊を相性などにより使役できない人のために

誰でも使役できる人造式神が存在する。


青さんが言っていた通り、使われている素材はかなりの年月が経った希少品であり値段は高額だが

指示通りの動きするため使い勝手が良く三道省の高官達もその汎用性から

必ず一体は契約しているなんて話も聞く。


「何が人形遣いじゃ。珍しい技術を見れると思っていたがとんだ大ウソつきじゃったわけじゃな。」


人造式神の技術は古くからあり人形遣いその分早くからいなくなったのだろう。


あの青さんが珍しいと言っているくらいだから

日ノ本に細々と続いている技術を会得した人なのだろうが何故そんな人が俺達を・・・・。


「嘘はついていない。証拠を見せてやろうか?」


那須はそう言うと手から細い糸を伸ばし再度人形達の体に付ける。

よく見ると全ての指に特殊な加工がされたリングが付けられており

そこから魔力を通せる特殊な糸を出している様だった。


放たれた糸は途中で別れ人形の四肢など体中に引っ付く。

そして今回は正真正銘糸につるされた様に体を起こすが歪な動きであり

カタカタと体を慣らしながら得物を握りこちらへ刃を突き立てていた。


「確かに日ノ本では人形の技術は廃れた。

それは神術の発展のよる人造式神の繁栄が原因だが欧州では違った。

魔術が主流であった欧州では人造式神を生み出せるほどの技術は発展せず

逆に人形遣いの技術が発展していったのだ。

技師も、それを操る術者の技術も高まり一人の手でなん十体と操る者まで出てくるほどにだ。


私は本来人造式神の技師を目指していた。

日ノ本一と言われている技術を持った男に弟子入りすることが出来

私の人生は順風満帆だと思われたが・・・私には才能が無かった。」


強く拳にを握るしめる平田。

握りしめた怒りの感情に呼応するように人形達も距離を詰めてくる。


「神道の実力がからっきしだったんだ。

どれだけ緻密で、繊細な人形を作ったとしても逸れに付けられた付喪神は俺のいう事を聞かない。


どうすることもできずに嘆き悲しむ俺を見た師は廃れたと言われた人形使いの技術を仕込んでくれた。

そして欧州まで出向き、技を磨いた俺は日ノ本で誰も及ばないと言われるほどの

人形師に成り上がったんだ。」


襲い来る人形達を桃子たちと協力して何とか対応する。

魔術を駆使しながら何とか殲滅するが


「・・・思い出した。」


そんな中、後に隠れる純恋が何を呟いた。


「小さい頃、龍穂と別れたちょっと後の頃や。


約束を破られて落ち込んでた時、両親にアーティファクトの展覧会に連れてかれた。

父さんと母さんが最新の魔道具を見て回る中、私は自動で動く人形に目を奪われたんや。」


———————————————————————————————————————————————————————————————————


吊るされることなく透明な箱の中で動く人形達。

西洋の演劇を披露している様だったが私には理解できなかった。


「・・・面白かったかい?」


後ろから声をかけてきたのはストライプが入った紺色のスーツを身にまとっている男。

恐らくこの作品の作者なのだろう。


「わからん。けど・・似てるなって。」


「似てる?」


「うん、私に。箱の中で誰かに動かされている人形。まるで私みたいやなって。」


私の言葉を聞いた男とは腕を組みながら箱を眺めている。

この考えは今でも変わらんけど、当時はませたガキとだったと思うわ。


「・・それは違う。」


きっとこいつも他の大人たちと同様に中身のない

同情を向けてくるやろうと思っとったけど帰ってきたのは否定の言葉だった。


「この人形はね、魔道と神道の力を掛け合わして動いている。


欧州で契約してきた力は弱いが演劇に興味のある妖精達が

魔術でによって精密に動くことが出来る人形に入り込んで自らの演劇を披露しているんだ。」


男は透明な箱を軽くノックする。

すると綺麗に着飾った人形達がこちらに向かって手を振ってくれた。


「例え箱のの中に閉じ込められていようと出来ることはあるはず。

彼らは自らの意志でこの劇場に入っているだけで

君が強く望み努力をすればこんな箱を壊すことなんて容易いはずだ。」


そう言うと男は名刺を一枚手渡し、私に背を向けた。


「望みは捨てない方が良い、二条純恋さん。絶望に抗った先に希望はあるのだから。」


———————————————————————————————————————————————


「その男の名は確か・・・平田忠清。

あの時私に声をかけたのはアンタだったはずや。」


俺と別れた時期と言えば純恋に取って一番つらい時期だったはず。

そんな時に深い言葉をかけてくれた男だからこそ覚えているのだろう。


「よく覚えているな。縛られながら鮮明に光を放つ原石が良くここまで腐ったものだ。」


純恋をまるで見下すように話す平田。


「腐った・・?あんたに何が分かる・・!!」


「何もわからん。光るものを持ちながらあえて努力せず、

箱の中から出ようともしなかったお前の事などわかってたまるか!!」


距離こそ離れているが、その鬼気迫る怒号は俺達の耳に強く響く。


「幼いころから自らが置かれた立場を理解していながら

なぜ足掻かなかった!なぜ箱を破ろうとしなかった!!


身を任せ箱の中から出られたはいいが

足掻く努力さえしなかったお前は皆の足を引っ張っているではないか!!」


純恋に対しての怒り。

それは自らの美学に反した者への怒りと言うよりかはまるで説教の様に聞こえた。


「お前が使う火の魔術!

玉藻の前から教わったが知らんがもっと素早く詠唱できるはず!


それをわざわざ仲間の援護をもらいながら

私の糸を引き裂くだけの威力しか放てんなど呆れる事しかできんわ!!」


「・・・・・・・・・。」


あれだけ気の強い純恋が言い返せない。

それだけ心当たりがあり、平田は確信をついている証拠だ。


それにしてもこの男、純恋について詳しすぎる。

護国人柱は公にされていない情報だ。あの場で会った純恋に興味が湧いて調べ上げたのかもしれない。


「努力もせず鳥籠から出ようともしない鳥がよく大口を叩けたな!!

そんなお前など俺が殺してやる!!」


俺はこのような状況をよく知っている。

相手を思いながらあえて敵として戦い成長を促す。


きっと・・この男も・・・・。


「・・・・・っ!!」


俺達の後ろにいた楓が魔術を解き薙刀を持ち駆け出す。

柔らかい糸を焼き切ったとは言えこの先には何が仕掛けられているかわからない。


「純恋!!」


反応した桃子と共に純恋を追うため縮地を使う。


「バカが・・・挑発に乗りおって・・・!!」


何も考えることなく感情だけに体を任せた純恋はあまりに無防備。

このままでは無残にやられてしまうと後ろから青さんが水の魔術を放つ。


霧時雨きりしぐれ!!」


何時の間にか水分を上に集めており

霧状の雨が張っている糸にかかり体育館の灯りでキラキラと輝きだす。

近づかないと気が付かないほどの糸だったがこれなら目視しやすい。


「純恋!止まれ!!」


俺と桃子は全力で糸を断ち切りながら純恋に追いつき

声をかけるが答える気すらなくただただ突っ込んでいく。


「・・・・・・。」


追う俺達と純恋の間に新たに人形達が降ってきて立ちふさがる。

大きさは俺達ぐらいだが純恋の話しに出てきたように綺麗に着飾った人形達が

レイピアなど西洋の得物を持って俺達に襲い掛かった。


「ぐっ・・・純恋!!!」


足止めを喰らってしまい距離が離れてしまう。

薙刀を触れるとはいえ接近戦は苦手だ。このままでは奴の宣言通り純恋が殺されてしまう。


「アンタみたいな決めつける大人嫌いや・・!ここで叩ききったる!!」


「ふん・・・。目を背けるか。」


刃が向かってきているのにも関わらず微動だにしない平田。

そのまま凶刃が振るわれると思ったが純恋の腕は振り下ろされずに途中で止まる。


薙刀を阻んだのは光る一本の糸。たった一本で純恋を止めてしまった。


「弱い。後ろのお前を守っていたどちらかであればこんな糸断ち切れただろう。

努力とは結果につながる。また逆も然りだ。」


「だまれ・・・・!!」


人形達の頭や左胸に穴を開けようとも止まる気配はない。


「誰にも守られていないお前など怖くはない。ここで・・・終わりだな。」


取り出した弓矢を純恋に向かって引く。

引いて回避行動を取ればいいはずだが純恋は薙刀で糸を断ち切ろうして動く気配はない。


「くそっ・・・クソッ!!!!」


「純恋!避けろ!!」


何とか一体いなしできた隙を突いて桃子と共に純恋の元へ向かうが

糸の中を掻い潜らないといけないのでこのままでは絶対に間に合わない。


「純恋!!!!!」


桃子が叫ぶ。このままじゃ楓が・・・・。


(龍穂。純恋と桃子の近くにいろ。)


どうにかしようと突っ込もうとしてその時、青さんから念で指示が送られてきた。


「ぐっ・・・・!!」


何もできない純恋に向かって引かれた矢が放たれる。


黒風壁こくふうへき!!」


たどり着くのは無理だと判断し、魔力を最短で溜め純恋の前に黒い風の壁を作り上げる。

今は青さんの指示通りに動くことに専念するしかない。


「純恋・・!!」


矢は風の壁の前に弾け飛び、膝をつく純恋の元へたどり着いた。


「大丈夫か!?」


危機は回避したものの平田は壁一枚を隔ててすぐそばにいる。

この糸の中、奴の人形達を掻い潜りながら逃げるのは難しいだろう。


(どうする・・・・。)


青さんの指示通りにしたはいいものの劣勢には変わらない。

この状況を打破するために必死で考えている時、固いはずの床に体が沈んでいく。


「なっ・・・・!?」


「・・じっとしていてください。」


俺の影から話しかける何者かの声には聞き覚えがあった。


———————————————————————————————————————————————


「・・風が晴れたか。」


俺の魔術の効果が切れ、平田は弓を構えながら現れるが既に俺達の姿は無い。


「危ない所でしたね。式神契約が切れていることをすっかり忘れてました。」


影から俺達を助けてくれたのは楓であり平田と距離がある位置まで移動させてくれた。


「遅れて申し訳ありません。」


そこには千夏さんの姿もあった。

非常ベルを聞いて援軍に来てくれたんだ。


「数が増えたな。だが、俺相手では人数有利を取れるなんて思わないことだ。」


天井から再び人形が降ってくる。一体何体持っているんだ?


再び人形達に囲まれ俺達に襲い掛かってくる。

応戦するため刀を構えようとしたが俺の手を千夏さんが上から添えるように手で押さえてきた。


「大丈夫です。今は任せましょう。」


そうは言っても凶刃が既に俺達に迫ってきている。

この人達を守らなければ、そう思い魔術を唱えようとして瞬間。


「!?」


割れんばかりの轟音が辺りに響きまるで空気にひびが入ったような鋭い光が走り

人形達や張られている鋭い糸、そして平田に稲妻が走った。


「・・遅くなりました。」


腰に巻かれたベルトに刺さっている鞘から刀を抜きながら平田から守るように俺達の前に立つ人物。

いつもの降ろしている髪を後ろで結い、頼りになるこの背中は毛利先生だった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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