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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第五十六話 労い

「疲れたな・・・・。」


電車に揺られながら呟く。


「そうやなぁ・・。龍穂にとっては色々あった一日やったろうな。」


隣に座る桃子が俺を労いのお茶を渡してくれた。


「飲まないのか?」


「純恋のために買ったんやけどあんなになっちゃったから・・・。よかったら飲んで。」


俺の隣に座っていた純恋はその奥にいる千夏さんの肩に頭を寄せながら眠っている。


「千夏さんも寝ちゃったな。影で一日中動いてくたくただったんだろう。」


先に純恋が目を閉じたが後を追うように千夏さんも眠ってしまい

まるで姉妹の様にすやすやと寝ている。


「それもあると思うけど・・・純恋が大はしゃぎやったからな。

それに付き合ってくれたから当然や。」


千夏さんの驚きの宣言の後、楓は素直に帰ってくれたが


『龍穂さん、あと少しで戻りますから。』


通常であれば嬉しい報告のはずが、わざとらしい笑顔と薄く開かれた目からは眼力を感じ、

何か俺に強く訴えているようで恐怖を感じてしまった。


その後、みんなで江ノ島を回ったが俺にべったりとくっ付く純恋とすぐ後ろを歩く千夏さん。

何やらけん制し合っているようで挟まれている俺は緊張しっぱなしだった。


「・・はしゃいでたようには見えなかったけどな。」


ペットボトルの蓋を開け、お茶を喉に流し込む。

勝手から少し時間が経っていたので少しぬるいが疲れた体にはちょうどよかった。


「あんな純恋久しぶりに見たわ。あれもこれも龍穂のおかげやな。」


車窓から見える海を見ながら桃子もお茶を飲む。


「堅苦しい大阪校じゃはしゃぐだけで上級生に怒られる。

みっともない、華族としての自覚を持てってな。


間違ってはいないんやろうけど四六時中そんなことをしてちゃ疲れてまうし、

何より大人の都合に振り回されてきた純恋にとっては地獄みたいな場所やったから

楽しそうな姿を見れて私も一安心したわ。」


大きなため息をつく桃子。それは苦悩から解放された安堵から出てものだろう。


「・・大人の都合っていうのは玉藻のことか?」


「そう、護国人柱。

誰も使役できない化け物を幼い純恋に封じ込めたばかばかしい話し。

あの子の人生は全て権力を持つ大人によって半分以上奪われたようなもんや。


そんで学校でいい格好をしろっていうのも三道省の人たちへ媚びを売り、

教えた教師の評価を上げるためや。

そんな奴らに上から抑え込まれても大きな反発をするのは当然。


周りに噛みつき、一人になることであの子は自分自身を守ってきたんやで。」


「それは・・大変だったな。」


「それに比べて東京校は自由やし、何より龍穂がいる。もっと純恋の隣にいてやってや。」


笑顔を向けてくる桃子。

きっと今まで桃子は反発する純恋を庇い大きな負担を背負ってきたのみたいだ。


「わかった。だけど桃子もあんまり無理しないでくれよ?俺もいるから頼れる時は頼ってくれ。」


「・・十分頼りにさせてもらっとるで。

だから今も純恋を守れるように隣に座っていないわけやし。」


いつもなら桃子は必ず純恋の隣に座っている。

だが今は俺を挟んで座っており周りへの警戒を無くしていた。


「服部雫が姿を現したとき、私らは敵だというイメージしか持っていなかったから

得物を取り出したけど私らの声を信じて龍穂がすぐにこっちに来てくれたやろ?


結局味方で大事にはならんかったけど正直助かったで。


さっきも言ったけど大阪校ではみんな大人の顔色を伺って何かあればすぐに自分の保身に走る。

そういう人達は最後まで信じ切れないんやわ。」


純恋は家柄や強力な式神を持っているので権力を持った大人たちはその力を手に入れようと画策し、

大阪校にいる子供に純恋に近づくようにと指示を出している奴らも少なくないのだろう。


「・・桃子達は一緒に戦ってくれたからな。

俺が近くにいる限り何とかして守るから安心してくれ。」


そんな上辺だけの奴らから純恋を守るために体を張ってきたのだろうが

そんな奴は東京校にはいない。ほぼ安心と言っていいだろうが仙蔵さんの例もある。


もしまた巻き込まれたとしてもそれは俺の近くにいた場合だろう。

楓は様々な人の手によって命を取り留めたが二度同じような犠牲者は出さない。

そう誓っている。


「・・わかった。じゃあさっそく・・・。」


そう言うと桃子は俺の肩に頭を乗せてきた。


「!?」


いきなりの出来事に思わず動揺してしまう。


「と・・とうこ・・さん?」


桃子も疲れていることは分かっているがまさかここまで頼りにされるなんて思ってもいなかった。


「純恋に怒られそうやけど・・頼りにさせてもらうわ。」


横を向いてしまうと頭に顔が当たってしまうので眼だけで横を見る。

桃子の吐息が聞こえてしまうほどの距離であり完全に目を瞑っていた。


(ま・・まじか・・・・・。)


無理やり引きはがすなんてことはしたくないが

こんなことをされたことが無いので体が固まってしまう。


桃子の体から発されるいい匂い。

こんな感想を言っていること自体が気持ち悪いことだと分かってはいるのだが

呼吸をすれば嫌でも鼻の中に入ってきてしまう距離だ。


(仕方ない・・・。仕方ないんだ・・・。)


純恋が起きないでくれと祈っている俺を乗せながら電車は帰路を進んでいった。


———————————————————————————————————————————————


実習から数十日と経ち、楓が戻ってきた次の日の朝。

兼兄からメールが届いていた。


『楓と千夏ちゃん、純恋ちゃんと桃子ちゃんと一緒にみんなと遅れて登校してきてくれ。』


楓が帰ってきたのをみんなでお祝いしていたので

夜更かし気味の眠い目をこすりながら誰もいないエレベーターで欠伸をする。


(楓とのメッセージをなかなか終わらなかったな・・・。)


お互い話したいことが山ほどあり、気付けば夜更け。

急いで目を閉じたものの眠気が残ってしまった。


口で手を抑えているとエレベーターが開く。

するとそこにはあらかじめ連絡を入れておいた四人が俺を待っていた。


「龍穂、遅いで。」


既に集まっていた四人に合流して急ぎ足で学校へ向かう。

まだ時間に余裕はあるがわざわざ予定を入れてくるという事はなにかしら大事な用事があるはずだ。


「・・そう言えば楓。授業参観は風太さん以外に誰か来るのか?」


「お母さんが来ると言っていました。定明さん達と合流して一緒に来るらしいです。」


定兄に連絡を入れたら必ず行くという嬉しい返事が帰ってきたので

風太さんの耳にも入ったのかもしれない。


「龍穂さんのお家は他に来られないんですか?」


「親父と兼兄が来るよ。」


「・・お母さんは来られないんですね。」


行事には必ず親父かどちらかの兄貴が来てくれているが母さんは絶対に出席しない。


「一応伝えたけど・・無理だってさ。」


母さんは家のしきたりで八海から出ることはない。

定兄や兼兄が代わりに家にいてくれる代わりに母が出かけることはあるが数えるほどしかない。


「長期休みで帰れば顔見れる。少し寂しいけど仕方ないよ。」


そんなことを話していると道中で二人の人影が見える。

一人は長身でスーツ姿の男。あれは兼兄だろう。


「・・誰だ?」


もう一人は小柄で制服姿。

女性だろうがうちの制服ではなく、惟神高校の制服のように見えた。


「・・お、来たな。」


向こうもこちらに気が付いたようで足早にやってくる。

よく見ると・・・女性の方には身を覚えがあった。


「朝の忙しい所ごめんな。」


「ほんまやで。なんの用や。」


純恋が嫌み臭く答えるが兼兄は気にすることなく話を続ける。


「業の隊員を教えておこうと思ってな。龍穂は面識あると思うが彼女は加治知美。

惟神高校に潜入して色々と情報を探ってくれている。」


どうも~と軽く挨拶をする加治さん。

交流会前に俺に忠告してくれた新聞部の子だ。


「・・龍穂、面識あんのか?」


「ああ、交流会前に俺に惟神高校の生徒に気を付けろと警告してくれたんだ。」


「ふ~ん。でも惟神高校の奴らはなんもせんかったけどな。」


「それは違う。

表ざたにしなかっただけで会場に現れた鬼の侵入を許したのは

惟神高校の生徒のが緊急事態に張られるはずの結界のシステムの一部を破壊したからだ。


だが知美が事前に怪しい生徒達の行動を把握し、

上手く対処してくれたおかげで被害は最小限に抑えられた。

下手をすればもっと多くの鬼があの会場で暴れまわり多くの被害、最悪死者が出ていたかもしれない。」


三道省合同会議で語られなかった事実を聞いて俺達は驚き、

褒められた加治さんは頭を掻きながら照れている。


結果で言えばあの襲撃の死者はゼロ人。

一番被害を受けたのは楓だが、会場から少し離れた位置にいたので

どうやっても同じ結果になっただろう。


加治さんが惟神高校の生徒達を止めてくれたおかげで最小限の被害に抑えられた。

この人が陰の功労者と言っていいだろう。


「知美。まだ惟神高校には賀茂忠行の部下だと思われる怪しい一族の生徒がいるんだろ?」


「ええ。今回の件で有力な怪しい生徒達は軒並み

惟神高校から籍を外れましたがまだまだいらっしゃいます。


ですが今は大きく動かないでしょう。

彼らが賀茂忠行についているのは自らの地位を維持、または高めるため。

我々の疑いの目を避けるため大人しくしているでしょう。」


「かなりお詳しいのですね。

出来れば怪しい人物のリストを教えていただきたいのですがよろしいですか?」


「敵味方をはっきりさせたい気持ちは分かりますし

私としても出来ればお渡ししたいですがお断りさせていただきます。


惟神高校と国學館では色々と距離がある。

広い範囲を警戒しすぎると足元をすくわれかねないので

何かあり次第私から連絡する方がよろしいかと。」


色々な距離。物理的な距離もあるが格の高さもあるだろう。


国學館への転校の機会を伺っている生徒達がもし加治さんと俺達が繋がっている事を察すれば

何をしでかすかわかったもんじゃない。


「そのために知美を連れてきたんだ。


業の隊員の存在を明かすことはあまり良くないことだが

知美が引き出せる情報は龍穂たちに取ってあまりも大きい。

知美と連絡先を交換してほしいんだが・・龍穂、頼めるか?」


兼兄は俺を指名してきた。


「何で龍穂なんや?他にも選択肢が・・・・。」


「知美は新聞部として龍穂の情報を集めたという事になっている。

本当は俺がひっそり教えていたんだけどな。


直接龍穂から聞き出したと学校新聞で大々的に報じているし

龍穂の連絡先を持っていてもおかしくはない。

怪しまれないためにも龍穂と連絡を取り合うのが一番いいんだ。」


千夏さんと楓と関わりが無く、純恋と桃子に至っては転校してきたばかりなので

連絡を取っていれば怪しまれるかもしれない。


「・・わかった。だけど一つだけ約束をしてもらいたい。」


「・・・なんでしょうか?」


訝しい眼でこちらを見つめてくる加治さんだが俺と関わること自体がかなりのリスクがある行動だ。

すぐに助けに行けない距離にあるので警戒しながら連絡を取るつもりだが万が一の場合もある。


「何か危険なことがあったらすぐに連絡をしてほしい。すぐに助けに行く。」


情報を持っているという事は一番に狙われる対象になる。

俺に関わって殺されたなんてことは防ぎたい。


「お心遣いありがたいですが・・・私を舐めてもらっちゃ困ります。

こんな若いですが業の隊員なのですよ?何が起きても難なく対処しますよ。」


「いや、それでもだ。条件を飲んでもらえないのなら今後一切連絡を取らない。

声をかけられても無視させてもらう。」


これだけは譲れない。

加治さんは兼兄の方に振り向いて無言の確認をするが兼兄はほんの少しだけ首を縦に振った。


「・・わかりましたよぉ。その条件飲ませていただきます。」


何かを含んだような笑みを浮かべながら承諾してくれる。

純恋達は少し怪しんでいるようだが兼兄の部下であれば信用できる。


携帯電話の連絡先を交換すると、加治さんは俺の連絡先を見つめる。


「・・確かに頂きました。惟神高校で疑わしいことがあったらすぐに連絡しますね。」


そう言うと加治さんは影に沈んでいく。


「一つ忠告しておきますが、私が一番怪しいと思っている方は惟神高校ではなく

”そちら”にいらっしゃいます。


惟神高校に所属している私から接触は出来ませんが

国學館にも業の隊員が潜伏してしますので彼と共にうまく対処してくださいね?」


衝撃の言葉を残しながら影すら残さず消えてしまった。


「・・・兄貴。」


俺は加治さんの言葉の真意を兼兄に尋ねる。


「もう一人の隊員に関してはまだ教えることが出来ない。

龍穂達を直接援護できる貴重な人材だからなるべく伏せておきたい。


実力は折り紙付きだ。それにいざとなったら自分の判断で業と明かしていいと指示してある。

しっかり援護してくれるから意識せずに学校生活を送ってくれ。」


結局の所を教えてくれなかったが俺達の周りに味方が多いことだけは分かった。


校門で兼兄と別れ、学校に入る。

一限目は授業参観に行われる特別授業。三道省の職員による授業であり、三年生の教室で行われる。


「龍穂、遅かったけどなんかあったのか?」


女子三人組が楽しそうに話している後ろで綱秀に尋ねられる。

いつも綱秀と集まってから登校していたので不思議に思われるのは当然だろう。


「・・ちょっとな。」


あったことを素直を話せば綱秀も巻き込まれてしまう。なので察してくれとはぐらかす。


「・・・そうか。」


曲がったことが嫌いな綱秀は一瞬疑いの目を向けてくるが少し考えた後呟く。

いつもなら無理やり言わせて来るくらい隠し事を嫌うが今日はなぜだか認めてくれた。


少し違和感を抱きながらも三年生教室に向かっていく。

兼兄の特別授業、何を教えてくれるのか楽しみだ。



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