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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第五十四話 うめき声の正体

うめき声が聞こえ、神社内が静寂に包まれる。


「・・・・・・・・・・・・。」


声が響いてここまで届いているがかなり遠く、うめき声の主は近くにいるわけではなさそうだ。


「・・神主さん。うめき声が聞こえたと報告があった場所をもう一度お聞きしてもよろしいですか?」


突然の出来事に焦ってもおかしくないが達川さんが冷静に状況を判断しようと神主さんに尋ねた。


「今までは全て海岸沿いでした。こんな内陸でしかもはっきりと聞こえる事なんて・・・・。」


神主さんは不安そうに答える。


弁財天様を奉っている神社がこの江ノ島を守っているので

その本陣にうめき声の主が近づいているという事は

弁財天様の力を恐れることが無い強い力を持つ何かがいる証拠だ。


「そうですか・・・清水瀬。」


「既に式神が辺りを見てくれていますが特に怪しい所や神力は感じられないですね・・・。」


清水瀬さんは俺達より早くに対応してくれたようだが状況に変わりはないようだ。


「・・どうしたもんか。」


うめき声ははっきりと聞こえているのに敵の影すら見えない。

これでは全く打つ手はないと思えたその時、


「・・・・・綱秀?」


隣にいた綱秀何も言わず突然立ち上がり小走りでどこかへ向かっていく。


「あっ・・・・おい!!」


急いで立ち上がり追いかけると綱秀は玄関に向かっており靴を履いてどこかへ急ぐ。

俺も必死で追いかけ外に出ると綱秀は神社近くにある蔵に一つしかない小窓にしがみつき

なんとよじ登って中に入ってしまった。


「おい!・・・何なんだ?」


何がしたのかわからないが小窓はかなり高い位置にある。

魔力を体に込めれば届くだろうが中は真っ暗だろう。


神主さんに知られているほどやんちゃだった綱秀は多分ああやって蔵に入ったことがあるのだろうが

俺はここに来るのは初めてであり中に入ったところで何もできない。


どうしようか考えていると後を追ってきたみんなが俺の元へやってきた。


「上杉、北条はどこだ?」


「あの・・・蔵の小窓を登って中に入ってきました。」


「あの中に・・?」


冷静な達川さんも驚いた表情を浮かべている。

ひとまず中に入ろうと達川さんは蔵の扉についている丸かんを引くがびくともしない。


どうやら鍵がかかっているようだ。


「今扉を開けます。」


遅れてきた神主さんの手には鉄の輪にまとめられた和錠があり、

その中から一本の鍵が鍵穴に差し込まれる。


「神主さん。北条が何を考えているかご存じなのですか?」


この蔵に行くと分かっていたように

鍵を持ってきたという事は綱秀が何をする気なのか察しているという事だろう。


「ええ・・・大体は。

ですが説明するより実際に見てもらった方が早いですからひとまず入りましょう。」


神主さんが鍵を捻ると扉からガチャリと重苦しい音が響く。


丸かんを持つと体重を思いっきり後ろにかけ引っ張ると

耳を塞ぎたくなるような金切り音を立てながら茶色い錆びの粉を落としつつ扉がゆっくりと動き出す。


真っ暗な倉庫に光が差し、小さな埃が舞う蔵の中が明らかになり

見るからに古い木箱や書物などが積まれていたが綱秀の姿は見えなかった。


「北条!どこにいるんだ!」


達川さんは取り出したハンカチで口元を覆いながら蔵の中に入っていく。

俺達も同じようにタオルやハンカチで埃を吸わないように

後に続いていくと蔵の奥に積まれた木箱の裏から綱秀と思われる手が手招いていた。


「・・・・・・・・・。」


詰まれた荷を避けながら奥に進んでいくと綱秀が床を見つめながら座っていた。


「北条、説明してくれ。」


視線の先には木で作られた床をくりぬいたような切れ目が入っており取ってが付けられている。


「じいちゃん、大丈夫か?」


先ほどまでの丁寧なものからこの二人の親しさを表すような言葉遣いに変わる。


「仕方ありません。いいでしょう。」


埃がかぶっている床をよく見ると塞ぐように札が張られていたようだが

無理やり床下への入り口を開けたのか全て破られていた。


「この下には弁財天に模した木像やそれに関わる書物などを保存するための

床下の倉庫があったのですが大雨や台風で地面に染みた雨水が滴ってきてしまい

木像などを置けなくなり長年使用されずに放置されていた倉庫があります。


子供の頃友達とここへ侵入した時に見つけ、秘密基地にしていたんですが・・・・。

親父に見つかって封印されてしまったんですよ。」


また一つ綱秀の悪行が出てきた。

こいつ・・・相当悪い事やってきたみたいだな。


「封印か・・・。

その友達の中に封印を解いてこの中でうめき声をあげる奴がいるのか?」


札をよく見るとかなり強固な封印を掛けることが出来る札の様だ。

もしこれを軽々破ることが出来る人間がいるのなら国學館がすぐさまスカウトしに行くだろう。


「一人・・・いや、一体だけ心当たりのある奴がいます。」


少しふざけたような達川さんの問いだが

綱秀は心当たりがあるようでわざわざ数え方を変えたのには意味があるのだろう。


「・・あまりもったいぶらないでくれ。急いでいたのはそれなりの理由があるからだろう。」


達川さんは少し動揺したものの綱秀に催促するが答えることなく床下の扉を開ける。


「俺の前に絶対に出ずについて来て下さい。」


灯りも無い地下へ繋がる梯子に足をかけ降りていく。


「・・・いくぞ。」


こうなってしまえばついていくしかない。達川さんの後に続きながら地下へ入っていく。


「足元、気を付けてください。」


先に入った綱秀は魔術で明かりをつけてくれており洞窟内にはうめき声を思われた声が響いている。


「・・・誰か泣いているのか?」


地面を通して聞いた時は確かにうめき声の様だったが泣き声に変わっていた。


「行きましょう。すぐそこにいると思います。」


そう言うと綱秀は歩いていく。

崩れないように木で舗装された地下室だが所々崩れているのが見える。

水が漏れていると言っていたのでおそらく水に浸され腐ってしまったのだろう。


「もう使わないので手入れを怠っていましたが

このようなことがあるのなら修理をしておけばよかったですね。」


歩いながら神主さんが呟く。

足元に気を付けながら歩いていくと声がどんどん近くなっていく。


「おい!めそめそ泣いてんな!!」


見るからにイラつき始めている綱秀は大声で泣いている奴に怒鳴り始める。


「おい・・・大丈夫なのか?」


つい先ほどかなり強い奴がいるという話しをしたばかりなので心配になって綱秀に聞いてみるが


「大丈夫だよ。前も同じようなことがあったんだ。」


イラつきつつも自信満々で答えた。


少し広い空間に出たが暗闇が広がっており前が見えず泣き声も止まってしまった。

綱秀も立ち止まっている。泣き声の主が見えたという事なのだろうか?


「・・・おい!」


綱秀が再び声を上げると何かが動き出す。


「顔を見せろバカ!!」


前にいた綱秀が暗闇に向かってケリを入れると鈍い音が辺りに響く。

暗闇だと思ったが目の前に何かいる。


純恋が素早く魔術を唱えるとまばゆい光が辺りを照らすと

暗闇の中にいた影響からか思わず目を閉じてしまう。


「・・・・・!?」


何とか目を開けるとすぐそこに大きな黒い鱗があり、巨大な何かがすぐそばにいる事に気付いた。


人を優に超える化け物が目の前いる事実に全員が得物を抜く。


桃子に至っては鞘から刀を抜いており今にも切りかかりそうになっているが、

綱秀が手を伸ばして止めに入った。


「めんどくせえな!!」


止めに入ったはずの綱秀だが札から槍を取り出し巨大な鱗を突く。


石突ではなく刃の方を向けており、

切れ味鋭い槍は鱗の隙間に放たれ鈍い音を立てながら化け物に突き刺さった。


「・・・なんだ。」


鼻をすすりながら化け物が静かに声を上げる。

今まで俺達に気が付かなかった化け物だが肉に刃が刺されば当然気付いてしまう。


大きな胴で床を削りながら動き出すと

綱秀が槍を横にして半身で俺達に向けながら下がってきておりそれに押されるように

全体が徐々に化け物から距離を開けていった。


「やっと起きやがったな、ゴズ。」


大きな音を立てながら体の向きを変えていき、顔が見えてくる。


「今は機嫌が悪い。立ち去れ。」


なんと巨大な化けものの正体は頭が五つもある龍であり、槍を突きさした本人である綱秀を睨みつけた。


「立ち去るもんかよ。」


喉を鳴らしながら威嚇をしているが綱秀は一歩も引く気配を見せない。

このままでは食べられてしまうだろう。


「・・我を見くびっているようだな。」


全ての顔に涙を浮かべている龍は大きな口を開け綱秀襲い掛かろうと胴体を伸ばしてくる。


「綱秀!!」


このままではマズイと兎歩で近づこうとするが綱秀は来るな叫ぶ。

槍はこちらに向けたままだ。迎撃をする気など毛頭ない。


目に貯めた涙をこぼしながら鋭い牙が綱秀の体を貫く寸前、

綱秀を見ていた目が大きく開き顎の動きが止まる。


「綱秀・・・・か?」


「おう。」


龍はゆっくりと体を引いていき、晴れた目を見開きながら至近距離で綱秀を見つめる。


「おおぉぉ・・・・。」


綱秀と確認すると龍は五つの顔を伸ばし近づいていく。


「つなひでぇ・・・会いたかったぞ・・・・。」


そして顔を綱秀の体に擦り付け再びすすり泣きをし始めた。


「ああーウザイ!!一旦離れろ!!」


突き離そうと顔を押す綱秀。一体何が起きているのか理解できない。


「なんだ!久々に会った友に向かってその態度は!!」


「この距離じゃまともに話しを聞けねえだろ!!いいから離れろ!!!」


逃げようとする綱秀を長い首で巻き付き逃がさない。


「や・め・ろ!!!」


あれだけピリついた空気をまとわせていたのに今ではイチャついている。

得物を持つのもバカらしい空気へと変わり、札に収めて綱秀達に近づく。


「・・北条、説明してくれ。」


ここにいる全員の頭が混乱しており達川さんが改めて綱秀の状況の確認をする。


「説明・・したいんですけど・・・・!!」


巻き付いている首が綱秀を離さない。

槍の石突で頭を叩くことで何とか剥がすことに成功するが

今度は泣きじゃくっている大声で話にならない。


「あー!!いい加減にしろ!!!」


再び石突で突き始める綱秀。


(こりゃ時間かかるな・・・。)


俺達は状況が落ち着くまで素直に待つことにした。


———————————————————————————————————————————————


「ほれ、謝れ。」


龍は姿を人間に変え、綱秀の横に座り頭を下げる。


「どうも・・すみませんでした・・・・。」


俺達と同い年ぐらいの男でジーパンとパーカーを見つけている。なんとも現代的な格好だ。


「こいつは五頭龍。ここら辺を守っている神様です。」


頭が五つあった時点で少し察していたがあの泣きじゃくる様子を見てしまいどうしても疑ってしまった。


「・・で、なんでここにいると分かったんだ?」


達川さんも色々気になることがあるだろうがまずは綱秀が五頭龍の存在に

気付くことが出来たのかを尋ねる。


「見てわかる通り、俺達は親しい仲なんですけど何年か前に

どうしても江ノ島に行きたい聞かない五頭龍をここに連れてきたことがあったんです。」


綱秀の話しを聞いた神主さんは深く頷く。


「いたずらで龍口明神社に忍び込んだ綱秀君が五頭龍様と仲良くなり

奥様に会いたいと願い連れてきたはいいものの

すぐさま綱秀君のお父様に見つかりここに隠れたのですよ。」


確かに強力な力をもった五頭龍様であればあの封印を簡単に破ってしまうだろう。

しかし綱秀の悪行がここに来て功を奏するとは・・・こいつとんでもないことをしてきてるな。


「お前がここにいる理由なんて大体わかる。また母ちゃんを怒らせたな?」


母ちゃん・・・。おそらく清水瀬さんに話しに出てきた弁財天様の事だろう。


「ちがう!怒らせてなどいない!

お前との悪戯で懲りた俺はずっと鎌倉の地を守ってきた!!」


涙声で弁明をする五頭龍様。この必死さを見るとおそらく本当なのだろう。


「じゃあなんでこんなところで泣いているんだ!」


「妻がいなくなったのだ!!」


・・・いなくなった?


「いなくなったって・・・いつも通り他の神社に行ってるだけじゃないのか?」


有名な神様であれば日ノ本中に祀るための神社がある。

弁財天ほどの神様であれば両手で数えられないほどあるはずだ。


「弁財天様の力が弱まった可能性を考え他の神社や寺院へ連絡を取ったが・・・

どの神社も弁財天様がおられるなんて話しはしなかったな。」


「ほら!達川さんもそう言っている!少しいなくなっただけで考えすぎだ!!」


綱秀は攻め立てるが五頭龍様は認めない。


「確かに妻の力は各神社に残っておる!

だが本体の気配が完全に消えたんだ!夫の俺が言うんだから間違いない!!」


必死に状況を伝えてくる五頭龍様を見て綱秀は困ったように息を吐く。


「・・ひとまずもう一度調べてみるという事で手打ちにしませんか?

このままここにいては龍口明神社の方々が心配されますし。」


今すぐに答えが出ないのは明らかであり痺れを切らした清水瀬さんが提案してくれる。


「まあ・・・ひとまずそれしかないな。」


頭を掻きながら歩き出そうとする五頭龍様が綱秀の腕を力強くつかむ。


「お・・・・・く・。」


「・・なんだ?」


「俺を・・連れて行ってくれ!!」


五頭龍様はとんでもないお願いを綱秀に言ってきた。


「はぁ!?」


「お前は江戸にいるのだろう!?あそこには妻を祀る寺院がいくつかある!

お主らの言っていることが本当ならもしかするとその中にいるのかもしれん!


妻がいない以上、俺がここにいる意味はない!

探し出し、なぜいなくなったか理由を聞かなければならんのだ!!」


弁財天様に一目ぼれをして改心した五頭龍様の言い分も分からなくはない。


「・・お前がいなくなったら鎌倉は誰が守るんだ?

それにもしお前の勘違いですぐにあの母ちゃんが帰ってきたらとんでもないことになるぞ?」


だがこの人は神様として奉られている。

信仰してくれている人々のために果たさなければならない役目があるはずだ。


「鎌倉は・・お前の父親と話をつける・・・。

鎌倉にある神社を束ねる鶴岡天満宮の長であればなんとかしてくれるだろう・・・・。」


綱秀は鶴岡天満宮の出身だったか。

始めて戦った時使った神術と苗字で薄々気が付いていたが

確かに全国的にも有数の力を持つ神社の主であれば何とかしてくれるだろう。


「妻の方は・・・俺の感覚を信じる。

ここを離れる時は必ず俺に一言声をかけていた

妻が何も言わずにいなくなるなんて何かあったに違いない。


もし!俺の言っていることが本当であれば

江ノ島だけの問題ではなく日ノ本における大きな損失だろう!」


綱秀は五頭龍様の言葉を黙って聞いている。


「だから綱秀!俺を連れて行ってくれ!

もしお前の身に何かあった際は必ず役に立つと約束しよう!!」


本当なら神道省に激震が走り、下手をすれば総員を動員しなければならないほどの大事件になるだろう。


「・・丁度実家に行こうと思っていた所だ。ひとまず親父には会わせてやる。」


「本当か・・・!?」


「だが!そこからは親父の判断通りに動いてもらうぞ?

はっきり言うが今回の件は俺一人の判断で決められるほど小さな問題じゃない。」


握られた手を引き上げ五頭龍様を立ち上がらせる。


「達川さん。それでいいですよね?」


「・・ああ。それが今取れる最善手だろう。神道省には俺から報告しておく。」


達川さんが胸ポケットから名刺入れを取り出し名前と連絡先を綱秀に渡す。


「親父さんと話しをしてどうするか決まったら連絡を入れろ。

それ次第でこちらの対応も変わってくる。」


「・・分かりました。」


その光景を見た清水瀬さんが頭の後ろで手を組みながらため息をつく。


「はぁ・・・。なんだかとんでもない出来事の連続で疲れちゃいました・・・。」


そして振り返り外へ向かって歩き出す。

確かにとんでもない展開の連続に頭が追いつかずに体は疲労感満載だった。


「ゴズ、いったん外に出るぞ。」


やることは決まった。そうと決まればここに長居する意味はない。俺達はひとまず外に向かった。


——————————————————————————————————————————————————————————————————————


江ノ島神社の前に集合して達川さんの話しを聞く。


「神主さん。うめき声の件はこれで一件落着でよろしいですか?」


「ええ。まさかこんな大ごとだとは思っていませんでしたけどね。

この神社にも弁財天様の力は残されておりますし

これ以上は私の手にあまりますので対処はお任せします。」


そう言うと深々と頭を下げてくれた。


「今回の任務は終了。

本来であれば代表者は国學館に戻り終了の報告をしなければならないが

特殊な事例のため私から報告を入れさせてもらう。」


不確定な情報を国學館に流せば混乱を生んでしまうだろう。

綱秀の連絡先を持ち、情報を整理することが出来る達川さんが報告したほうが得策だ。


「私と清水瀬は今から神道省に戻り弁財天の情報を集める。

国學館の生徒はここで解散となるが・・・北条は五頭龍様と親父さんの所にいくんだよな?」


「はい。話しが決まり次第連絡を入れます。」


「わかった。いつでも電話を取れるように準備をしておく。

休みの所我々の任務に同行していただき感謝する!では・・・解散!」


達川さんは解散の号令をかけて後、清水瀬さんが出した

式神である大きな烏に乗って大空へ駆けていく。


「・・ゴズ、行くぞ。」


見送った後、綱秀と五頭龍様は駅の方向へ歩き出した。

急な展開の連続だったため、かなり時間が経ったように思えたが携帯の画面を見るとまだお昼時だった。


火嶽と真田は事前に打ち合わせをしていたようで江ノ島の方へ歩いていくが俺はこの後何も予定はない。


(気になるな・・・。)


綱秀と五頭龍様の話しはかなり気になる。

それにこの一連の騒動が賀茂忠行によって仕組まれた可能性があるかもしれない。


(・・行ってみるか。)


今から走ればまだ追いつく。

事の結末を確認するため駆け出そうとしたその時、服の袖が引っ張れている事に気が付いた。


「・・・・・・・・・。」


何事かと思い振り返るとそこには千夏さんがおりにこやかな笑顔でこちらを見つめていた。


「な、なんでしょうか?」


綱秀達は急いでいるだろうしここで時間を食っている暇はない。

要件を聞いて早く追いかけなければ。


「龍穂君。この後予定はありますか?」


「えっと・・綱秀の様子を見に行こうかなと・・・。」


「あの二人が気になるのは分かりますが

ここら辺一帯の神社を束ねる鶴岡天満宮の神主様と神様の話し合いに

あまり部外者が首を突っ込まない方が良いでしょう。」


・・・確かにそうかもしれないな。

俺がいる事で綱秀達の話し合いが円滑に行われないのならついていかない方が良いだろう。


「・・わかりました。」


「実ですね・・。見回りの際、純恋さん達と話していたのですが

もしよろしければ私達と江ノ島を回りませんか?」


千夏さんの後ろの見ると腕を組んで睨む純恋と心配そうにこちらを見つめる桃子が立っていた。


「丁度よくお昼時ですし、せっかく江ノ島に来たのなら

見回りではなくゆっくり観光したいと思いまして。」


服の裾から手を離し、今度は俺の手を両手で握ってくる千夏さん。


「・・いかがですか?」


出来れば俺も観光したいと思っていた。

それに・・・千夏さんにこうしてお願いされたら断れない。


「分かりました。」


承諾すると千夏さんは俺の手を引いてくれて不機嫌そうな純恋達に合流する。


「大丈夫だそうですよ。」


「・・・ふん!」


ひとまず腹ごしらえをしようと歩き始める。

冷たい風に乗ってきた海の香りを吸い込みながら神社を後にした。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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