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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第五十三話 思いもよらない出会い

江ノ島駅に着き、みんなで目的地まで歩く。


「綱秀、大丈夫か?」


朝の稽古をこなしての授業でも寝ている姿は見たことないが

珍しく欠伸が止まらないようで目をこすりながらふらふらと歩いている。


「ああ・・・大丈夫だ。」


少し気になるが大丈夫と決めた綱秀に気遣いをかけたら逆に不機嫌になる。


一度決めたら曲げない男だ。なるべく実習を早く終えられるようにしてあげよう。


(・・・・?)


そんなことを考えながら歩いていると鋭い目線が俺に刺さっているのに気が付く。


「・・・・・・・・・・・・。」


チラッと見ると純恋が俺の方を睨みつけていた。


「・・どうした?」


何に対して怒っているのかわからないので恐る恐る聞いてみるが


「・・・・なんもない。」


不機嫌に返されれば何が原因なのか聞きたくなるが桃子が近くに来て耳打ちをしてきた。


「さすがに龍穂が悪いで。今日一日機嫌悪いと思うからあんま触れんといてな。」


俺が悪いのは察しているがその原因が分からないのが一番困る。

だけどそれについて謝っても純恋が怒ることを桃子は察しているのでここは大人しくしておこう。


江ノ島までかかる橋を景色を見ながら歩いていると見慣れない海が広がる景色に目が奪われる。


山の中で過ごしてきたので、このような海に浮かんでいるような江ノ島へ向かう足は浮足立っており

先程千夏さんと聞いていた曲の舞台に足を踏み入れられることを嬉しく思っていた。


「・・神道省の職員の方がこの先にいらっしゃいます。失礼の無いようにお願いしますね?」


先頭を歩く千夏さんは前を向きながら俺達に言ってくる。

恐らく既に視界に入っているのだろう。


橋のたもとまでたどり着くとそこには

スーツ姿で胸に神道省の職員である証のバッチを付けた男女二人組が俺達を待っていた。


「国學館東京校の生徒達だな?」


色黒で長髪を後ろにまとめた男性職員が高圧的に尋ねてくる。


「はい。総員七名、要請に応じ参集しました。」


「当初の予定より少し多いようだが・・まあいい。

私は神道省調伏課所属、達川博信たつかわひろのぶ


本日君達の指揮をとらせてもらう。」


そしてショートカットの女性が自己紹介を始める。


「神道省式神課所属、清水瀬千尋しみずせちひろです。よろしくお願いします。」


どこか見覚えのある顔つきだ。


「国學館三年、徳川千夏です。皆さんも自己紹介をお願いします。」


学年順で自己紹介をしていくが清水瀬さんが俺の方をじっと見てくる。

やっぱりどこかで会ったことがあるのだろうか?必死に思い返すが答えは出てこない。


「本日の実習の内容は江ノ島の見回りだ。


観光地であるこの島の見回りは本来武道省の管轄だが日が静まった頃、

最近男のうめき声が聞こえると通報が入った。


ここで犠牲になった男の地縛霊ではないかと思われたが

ここ最近は水難事故等は起こっておらず霊も見当たらない。

大きな神力も無いので精霊の可能性が出てきたので対処をするために我々が呼ばれたという事だ。」


恨みなど生前に強い思いを残して亡くなった人の魂は

思いの分魂に重量を与え天に昇ることなく現世に留まると言う。


そういった魂の重さを取り除くための調伏課が存在しており

悪霊払いのエキスパートたちが所属している。


「我々二人を長として部隊を構成する。

原因と思われる霊や精霊などを発見し次第全体に情報を共有。


獲物を見失いように監視をし、部隊と合流した後調伏へを開始する。」


流れるように指示を出す達川さん。

顔には細かい傷がいくつも付いており歴戦の猛者であることを物語っていた。


「構成はこちらで決めさせてもらう。

俺の部隊は徳川、北条、火嶽、真田。清水瀬の部隊は上杉、二条、伊勢だ。


長の指示は絶対だ。勝手な行動は隙を与え部隊の全滅を意味する。

敵の実力の大小は関係ない。目標の達成に全員が全力で取り組むように。


以上だ。何か質問はあるか?」


完璧な指示に誰も手を挙げることはなくすぐさま行動開始となった。


「さて・・・私達は右回りで見回っていくよ。

上杉君の実力はもらった資料に書かれていたけど

二条ちゃんと伊勢ちゃんの実力は・・・・。」


清水瀬さんは俺達の実力は見て行動の配置を考えているようだ。


「噂は私の耳にも届いているよ~。

三人は交流会でものすごい激闘を繰り広げたみたいだね。」


俺達の戦いはどうやら三道省で話しに上がっているらしい。


「心配する必要はない・・というか心配する方が失礼だったね。

私が先頭を歩くから三人は周りの警戒をお願いね。」


「わかりました。」


「と言っても突然襲われる事なんてほぼないとは思うけどね。」


そう言いながら清水瀬さんは歩き出す。


「ほぼ襲われることがないってことはうめき声の原因が分かっている事なんですか?」


桃子が尋ねる。


「いや、それは分かっていないんだけどさ。ここには江ノ島神社があるからね。

弁財天の加護と五頭龍様がいるから悪さをする精霊がいる事なんてほぼないんだよ。」


弁財天と言えば仏教に出てくる護法神であり、

諸病苦を除く力や深く信仰すれば財を得られるなど古くから強い信仰を受けてきた神様だ。


川辺に住むと言われておりこの江ノ島に神社が置かれているのも頷ける。


「弁財天・・五頭龍・・・。

すみません、私達最近関東に来たものですからここら辺の事がよくわからなくて・・・。」


「あ、そうだよね。

弁財天は有名だから大丈夫だとして、ここ江ノ島に伝わる伝説について話そうか。」


素晴らしい景色を見ながら清水瀬さんは語り始める。


「平安時代よりも前の話なんだけど、鎌倉に首が五つある龍が大暴れしていてね。


山は崩すは嵐を起こすはでその地に住む人達は頭を悩ませていたんだ。

それを沈めるために天から天女様、弁財天様が降りてきたんだけど

なんと五頭龍は弁財天様に一目ぼれして求婚をした。


だけどそもそも五頭龍を沈めに来たからその悪事は耳に入っている。

当然断ったんだけど、五頭龍は諦めなくてね。

善行をする代わりに考え直してくれと約束を交わしたその日から心を入れ替えた五頭龍は

今までの悪事を払拭するために善行を積み続けた。


その姿を見た弁財天様は五頭龍を見直して月日がたったある日、再度申し込まれた求婚を承諾。

その五頭龍を奉っているのは鎌倉にある龍口明神社なんだけど

そこからこの江ノ島にいる弁財天様を見守っているってわけ。


その伝説が書かれている絵巻が江ノ島神社にあるんだよ。」


ただの観光地だと思っていたがそんな伝説が江ノ島にあるなんて初めて知った。


「へぇ・・・。そんな伝説があるんですね・・・。」


桃子と純恋も興味深く清水瀬さんの話しに耳を傾けていた。


「・・でも鎌倉と江ノ島ってまあまあ距離あるやんな。

せっかく結婚したのに一緒にいられないなんて悪事を働いた五頭龍が耐えられないんちゃう?」


確かに純恋の言う通り自らの行いを変えてしまうぐらい

好きだった相手と離れて奉られるなんて下手をすれば暴れ出してもおかしくはない。


「んー・・・大丈夫なんじゃない?

そこから五頭龍が暴れたなんて文献は無いし私達と神様の感覚は違うからさ。


きっと何とかなっているんだと思うよ?」


人間とは別次元にいる神様にとって鎌倉と江ノ島は目と鼻の先ぐらいの感覚なのかもしれない。


(・・・・・ん?)


辺りを見渡す清水瀬さんの横顔。誰かに似ている・・・・。


「・・・・・あっ!」


既視感の正体にやっと気づく。

苗字も同じなのになぜわからなかったのだろう。


「えっ!?」


「・・何か見つけた?」


思わず声を上げてしまい、反応した三人が警戒してしまう。


「あ、いや。そう言うわけじゃないんです・・・・。」


「なんやそれ・・・。だったら大声上げんといてや。」


思わず杖を取り出した純恋は文句を言いながら札に戻す。


「あまり感心しないな。無駄にみんなの警戒心を高めて体力を消費させちゃだめだよ?」


獲物である槍の石突で地面を突きながら清水瀬さんに叱られてしまった。


「すみません・・・。」


「まあいいでしょう。で、何があったの?」


こうなってしまっては聞きづらいが隠すわけにはいかないので恐る恐る尋ねてみる。


「清水瀬さんって・・弟さんいらっしゃいますか・・?」


「・・・・・。」


俺の問いを聞いて清水瀬さんは大きなため息をついた。

呆れから出たため息だろう。どう考えてもこの実習が終わってから尋ねるべきだった。


「・・猛から話は聞いているよ。友達が東京に行ったってね。」


怒られると思っていたがにこやかな笑顔で答えてくれた。


「や、やっぱりそうですよね?」


「なんや、知り合いか?」


「知り合いじゃないよ。一年とちょっとくらいかな?龍穂君の地元に家族が引っ越してね。

私はもう神道省に勤めて東京にいたから面識は無いんだけど弟が龍穂君と友達なんだ。」


清水瀬なんて苗字はそうはいない。なぜ苗字を聞いた時点でわからなかったのだろう。


「羨ましがっていたよ~?

近くにいた友達が突然遠くの名門高校に行ったなんて

負けず嫌いのあいつが黙っているわけないんだからさ。」


清水瀬さんの話しを聞いて猛の顔を思い出す。


「懐かしいな・・・・。」


思わず声を上げてしまったが八海から出て数か月しか経っていない。

それだけ濃密な毎日を送ってきた証なのだろう。


「猛の奴龍穂君に追いつくために毎日特訓しているらしくてさ。


丁度二週間前くらいに見に行ったんだけど

やっと三道の初級を取れるくらいだったのがもう中級まで取っちゃったみたい。


だけど体がボロボロになるくらい遅くまで特訓しているみたいで両親も心配してた。

だから龍穂君、たまに連絡してあげてね。

そして無理はしないでほしいと止めてほしいな。」


どこか悲し気な笑顔でお願いしてきた。

初めてあった時、三道のさの字さえも分からなかった猛は

そこから俺と共に猛勉強や猛特訓を重ねてなんとか初級までたどり着いた。


今あの時もかなり無茶をしていて何度か止めに入った。

真奈美がいるのでなんとか倒れずにいるのだろうが清水瀬さんの言いかただと時間の問題なのだろう。


「・・・分かりました。」


交流試合前までたまにメッセージを取っていたが最近は忙しいこともあり連絡を取っていなかった。

今日の夜に電話で一声かける。清水瀬さんに約束をして見回りを再開した。


———————————————————————————————————————————————


一通り江ノ島を回ったがおかしな所は見当たらない。

江ノ島神社に一度集合してどうしようか検討することになった。


「ふむ・・・・・・・。」


俺達の報告を受け、達川さんは腕を組みながら何かを考えている。

報告とは言ってもお互い異常なしだけなので手の打ちようはないと言えるだろう。


「見てない所はもうないですね。

うめき声を聞くことが出来れば何かわかるかもしれません。」


「声が聞こえる時間帯に法則性は無い。

大きな被害が無いから放っておいても問題とは思うが・・・。」


ここで待つと下手をすれば一日以上ここに留まる可能性もある。


「うめき声の原因が気になりますが後は江ノ島の常駐する武道省の方々に

任せるしかないのかもしれませんね。」


合流した千夏さんが神道省所属の二人を見ながら小さな声で話してくる。

大きな被害が無い以上、調査に時間をかけてはいられないのだろう。


「皆さん、お疲れ様です。」


解散ムードが流れる中、装束姿の男性がこちらへやってきた。江ノ島神社の神主さんだ。


「原因は見つかりましたでしょうか?」


「申し訳ない。何も見つけることはできませんでした。」


達川さんの言いかただとここで引き上げるようだ。


「謝ることはありませんよ。この結果は大きな被害に繋がる事象では無いという

証明だという事なのでしょう。」


見つからなかったという事は決してマイナスではないと神主さんは言ってくれる。


「中に冷たいお茶を用意してます。帰る前に体を冷やしていってください。」


半身で神社の方へ手を伸ばし招き入れてくれる。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」


秋を感じる肌寒さだと言っても、快晴の空に眩く光る太陽に照らされて体は火照っている。


ありがたい申し出に神社に向かうとするが

綱秀が小さなため息をついて後ろ頭を掻きながらまるで隠れるように俺の後ろに移動していた。


「・・・・・・・?」


あの神主さんに何かあるのだろうか?気になりつつも神社の方へ足を進める。


神社の奥に招かれ大きめのちゃぶ台に並べられたお茶を飲みながら周りを見ると

背表紙には江ノ島の歴史と書かれた本が番号順に敷き詰められており、

先ほど聞いた清水瀬さんの話しもあって少し気になる。


「本日はありがとうございました。

神道省の方と国學館の生徒さん達も・・・・あら?」


座っている神主さんが俺達の方を見て何かに気が付く。


「綱秀君・・・ですか?」


相変わらず俺の後ろに隠れていた男の名前を呼んだ。


「・・・・お久しぶりです。」


綱秀が隠れていたかったのは神主さんだったのか。


「国學館に入学なさったんですね。

確かにものすごい才能をお持ちでしたが、数年前お父様にお会いした時

別の高校へ行くとおっしゃっていた気が・・・・。」


どうやら家族ぐるみで関係があるようだが

そんな深い関係ならなんで綱秀は見つかりたくないような素振りをしていたのだろう?


「・・気が変わったんですよ。」


「そうだったのですか。立派になられましたね。

お友達と元気に江ノ島を駆けまわってよく観光客相手に悪戯をしていたのを今でも思い出しますよ。」


おっと・・少し見えてきたぞ。


「そのたびにお父様にきつく叱られて私がなだめていたのを今でも思い出します。

あの綱秀君が国學館か・・・・。よく心変わりをなさったものです。」


初対面で素行が悪そうに見えたがその印象が間違っていなかったのがここで証明された。


「・・・・・・・・・・・。」


バツが悪そうに俯いている綱秀。


今までの悪行をばらされたのだからしょうがないだろうが少し同情してしまう。


「そうですかそうですか。これは他の神主さんに良い土産話が出来ました。」


こいつ・・・他の所でも何かやっていたのか。同情したい気持ちがどんどんと薄れていく。


「・・ご迷惑をかけた他の方々には俺からご挨拶に行きますんで

話を広めるのは勘弁してもらえ・・・・!?」


綱秀が話し途中で何かに気が付く。

どうしたのかと聞こうとするが環境音ではない違和感のある音が耳に届いた。


「・・・達川さん。」


「分かっている。お茶をいただいた事が功を奏したな。」


違和感の正体を暴くために耳を澄ます。


「・・・呻き声だ。」


それは俺達がここに来た原因である

男のうめき声であり、どうやらこの近くから発されている様だった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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