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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第三幕 国學館の変
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第五十二話 新たな日常

激闘を終え数日がたった。

寮や学校で生徒や先生たちに何があったか尋ねられ

話す内容を選びながら答える毎日に少し気疲れしたが平和と言える日々を過ごしていた。


「大変だったな。」


朝ご飯を食べ終え、綱秀と共に玄関に向かう。

綱秀からも話を聞かれたが俺の疲れを察したのか気を使いいつも通りの世間話に切り替えてくれた。


「ああ・・・・。」


あんな大ごとの当事者だったので仕方ないと割り切っているのだが問題は他にもある。


「あっ・・・・。」


エレベータ―の扉が開くと生徒達が集まっていたがその輪の中心にいる人物が俺達に気付いた。


「遅いで龍穂!みんな集まっとるやろ!!」


時間に余裕があるものの純恋はなぜか俺に怒っており桃子は他のみんなと楽しそうに話しをしている。

退院した後の登校初日、まるで図ったように純恋達が東京校に転校してきた。


元気な挨拶後すぐに涼音に話しかけすぐに仲良くなったかと

思えば休み時間に他学年の教室に遊びに行き初日にしてすぐに溶け込んでしまっていた。


学年や実力関係なく格式で序列が決まる

大阪校で窮屈な思いをしていた反動なのだろうが誰にもでも親しげに話しかけており

上級生にはその生意気さが可愛げがあると言われ、下級生には格の高さ関係なく

話しかけてくれることを嬉しそうにされる姿を見て純恋自身も本当に楽しそうに過ごしていた。


行き過ぎた時は桃子に突っ込みをされているがいいコンビだと思われているようで

むしろ周りが突っ込む姿を待っているような感じに見える。


「はいはい。ごめんごめん。」


いいことではあるのだろうが話し疲れてくるとダルがらみの相手をするのが少し辛くなってくる。


みんなの元に着き、全員で投稿していると桃子がこちらにやってきて


「お疲れの所ごめんな?」


フォローをしてきてくれた。


「全然いいよ。桃子も大丈夫か?転校してきてすぐは大変でしょ。」


「大変やけど・・・それ以上に楽しいかな。」


格の高い華族の従者である桃子は純恋を守るためにも周りに警戒をして過ごしてきたのだろう。

こういった従者達は他の格の高い生徒達に生意気だと陰口などの言われているイメージがある。


大阪校では純恋以上に窮屈な生活を強いられていただろうから

そんな差別などは無い東京校の生活はさぞ楽しいことだろう。


「そうか。それならいいや。」


みんなと対等に接する事が出来るこの環境をのびのびと楽しんでほしい。

桃子の楽しそうな笑顔を見て本心からそう思えるが少しだけ心残りがある。


(楓もいたらもっとよかったんだけどな・・・・。)


ムード―メーカーである楓がいればもっと賑やかだっただろう。

毎日携帯に連絡が入れてくれているが、かなり厳しく鍛えられているようで少し心配だ。


きっと元気な姿で帰ってきてくれるのは分かっているが・・・

そう思いつつ学校が終わると楓の連絡を待っている俺がいた。


「そう言えば龍穂。お前あれの準備は出来ているのか?」


楓の事を思っていると綱秀が話しかけてくる。


「あれ・・ってなに?」


「お前先生から聞いていないのか?実習だよ実習。」


「・・・実習?」


転校の時に話を聞いたけど・・・俺が実習に行くなんて聞いていない。


「お前が帰ってきた初日のホームルームで言ったぞ。

明日の土曜日に実習があって龍穂は行ったことないからなるべく出てほしいってな。」


「ああ・・そんなこと言っていたような・・・。」


初日は質問攻めや純恋の件もあって色々大変だったから疲れ切って頭から抜けていたんだろう。


「今日先生に出るって言っておくよ。」


「俺も出る予定だ。一年は火嶽と真田。三年は千夏さんが来るらしい。


今回は神道省の見回りの手伝いらしいから楽な部類だ。

だが、何かあった時は俺達も対処しなければならないからあんま気を抜くなよ。」


確か実習をすれば報酬が出ると毛利先生が言っていた。

内容にもよるだろうが報酬目当てに率先して実習を受ける生徒もいるのだろう。


(帰ってきたら楓に何か買ってやるか・・・・。)


欲しい物は特にないので頑張った楓に

ささやかのご褒美でも買ってやろうと思いながら学校へと歩みを進めた。


——————————————————————————————————————————————


放課後、武道場で鍛錬をしていると置いていた携帯が震える。


「・・・・・・?」


画面を見ると兼兄の名前が映し出されていた。

連絡はなるべく見るとは言っていたが向こうから連絡を寄こすとは珍しい。


「ちょっと電話をしてきます。」


綱秀や謙太郎さん達に一声かけ、隅のほうで電話を取る。


「もしもし?」


「龍穂、久しぶりだな。」


「久しぶりって最近会ったばっかりだろ?」


なかなか連絡をくれなかった時に比べたら久しぶりとは言えないだろう。


「ははっ、すまんすまん。そうだったな。」


「・・なんかあったの?」


兼兄からの急に連絡は何か起こったのかと思わず警戒してしまう。

周りに出来るだけそう感じ取らせずに内容の確認をする。


「いや、別になんてことは何だがな。確かもう少しで授業参観だろ?」


・・本当に珍しいことを言ってきたな。


「ああ・・・うん。」


「親父に連絡入れたか?」


「・・・・・あっ。」


忘れてた。


授業参観は来月。

まだ時間はあるが忙しい人なので早めに連絡を入れないと怒られてしまう。


「やっちまったな。怒られる覚悟で早めに連絡入れとけよ~。」


「分かってるよ。それより本当に授業参観の話だけ?」


「実は言うとその授業参観で龍穂達相手に授業しなくちゃならなくなってな。


元々皇を接待しつつ参加しようと思っていたから

俺が授業している時間帯だけ接待を変わってもらおうと思ってたんだ。」


「・・・へ?」


皇が授業参観!?その言葉の衝撃に思わず声を上げてしまう。


「驚くのも分かるけど本当なんだなこれが。そんで龍穂に聞こうと思ったわけだ。」


「・・でもなんで俺に聞くんだ?最初っから親父に聞けばいいじゃん。」


「先に親父に聞いたらどうなっていたんだろうなぁ龍穂君?」


「・・・・・・・・・・。」


気が利く兄で本当に助かった。


「と言うわけだ。今日中に連絡を入れておけ。

あと定明にも連絡を入れておいてやれ。都合があったら行くと思うから。」


それじゃと通話は切られた。


色々あったとはいえ俺の落ち度だ。

ボーっとせずに先生の話はしっかり聞いておこうと反省しよう。


「なんかあったのか?」


一息ついていると声をかけられる。


「いや、兄から連絡が来まして・・・・。」


藤野さん。いつも冷静沈着な頼れる先輩だ。


「定明さんからか?」


「あ、いえ。上の兼定兄さんです。」


定兄を知っている三年生に兄と言えばこういう反応になるだろう。


「そうか・・・・。何のようだったんだ?」


藤野さんはいつも通り冷静に何を話していたか聞いてきた。


「少し先にある授業参観の話しをしました。親父に連絡をいれたのかを確認してくれたんです。」


今の話を他の人に話すのはまずいだろうと嘘はないように内容を選びながら答える。


「・・そうか。いい兄さんだな。」


何かを感づいたようだが気を使ってくれて話しを終えてくれた。


「おっ!龍穂終わったか!さあ続きをしよう!!」


先ほどまで木刀で一緒に稽古をしていた謙太郎さんが

こちらに気付きやる気満々で再開を催促して来る。


「謙太郎、もうすぐ飯だ。風呂行くぞ。」


だが藤野さんが時計を指さして冷静に止めに入ってくれた。


(ご飯食べたら親父に連絡入れるか・・・。)


使った道具を片付け、汗を流すためにエレベーターに乗った。


———————————————————————————————————————————————


「・・・・・・・・はぁ。」


ご飯を食べた後、外に出て親父に連絡を入れたが案の定怒られた。


行事があるときは学校が両親にメールを入れているらしく

既に確認して予定は組んでくれていたが・・・・。


「まあ、そうだよな・・・・・。」


兼兄が先に連絡を入れていたらもっと厳しく言われていただろう。

親父に連絡を入れたよと兼兄にメッセージを送った。


自販機でコーヒーで買い、外にあるベンチで一息ついていると誰かの足音が聞こえる。


「どうしたんですか?」


誰かと思い声のする方を見ると千夏さんがこちらへ歩いてきた。


「あっ・・すいません。わざわざ来てもらって。」


八海上杉家の監視下に置かれている千夏さんは

寮での自由時間をなるべく俺と過ごすように兼兄から指示が出ている。


今日は頭の中が親父にことでいっぱいだったので一人で外に出ていたが、

電話を終えるまで待っていてくれたのだろう。


「いえいえ、何か暗い顔をしていたようですが・・・何かあったんですか?」


「えっと・・・・。」


少し恥ずかしいが話しの種になるのならと俺が怒られたことを素直に話す。


「ふふっ、そうだったんですね。」


笑ってくれて何よりだ。同情されるよりよっぽどいい。


「ここ最近色々あったのですっかり忘れてたんです・・。」


「そうですね。私達は色々ありましたから・・・。」


ここで大きなミスに気付く。

唯一の華族であるおじいさんを失った授業参観の話しをするのは避けるべきだった。


「・・一応酒井さんが来てくれるそうです。

疑われている身ではありますが、武道省の長官である真田様と

一緒に見て回ることで許可が出たんですよ。」


逆に千夏さんが気を使ってくれて話題を振ってくれる。


「そうなんですね。」


それはよかったなんて言えるはずもなく、兼兄がくれた話題に切り替えた。


「ここだけの話なんですけど、兼兄が授業参観の日に授業をしてくれるみたいなんです。


それに・・皇も来られるみたいなんですよ。」


「えっ・・・。皇が来られるなんてすごいですね。学校中が大騒ぎになっちゃいますね。」


自己紹介の時に皇族の血を引いていると紹介されていたので

皇と繋がりがあることは全員知っているがまさか皇本人が来るなんて思わないだろう。


「俺達だけの秘密でお願いしますね?」


「ええ。分かりました。」


みんなが驚く顔が今から楽しみだ。


「そう言えば龍穂君。明日のことは忘れてませんか?」


「実習ですよね。それは大丈夫ですよ。」


今朝まで危なかったけど・・・・。


「明日は上級生が私だけですので神道省の職員の方と合流するまでは私が指揮を執ります。


八時に寮に集合して電車で江ノ島に向かいますので

大丈夫だとは思いますが寝坊はしないようにお願いしますね?」


「ええ。わかりました。」


朝早くに起きて綱秀と武道場で鍛錬をしているのでアラームをかけていれば大丈夫だろう。


「あとですね、少し予定変わりまして・・・・。」


「・・・?」


————————————————————————————————————————————————————————————————————


翌日の朝。寮の玄関には綱秀から聞いていたメンバーがそろっていた。


「いやー!初めての実習は楽しみやな!」


「急に参加したいってわがまま聞いてもらってほんますみません・・。」


そして昨夜千夏さんが言っていた予定変更によって追加招集がかけられた二人。

まるで遠足に行くようにはしゃいでいる純恋とみんなに謝っている桃子の姿もあった。


「お二人は大阪校で実習を行ったことが無いと毛利先生から聞いています。

今回の内容はあまり危険ではないとはいえ、もしもの事も考えられますので

この後合流する神道省の職員の方の指示をしっかりと聞いてくださいね?」


笑顔で純恋達に話す千夏さんの姿はまるで小学校の先生のようだった。


「では行きましょうか。神道省の方々を待たせるわけにはいきませんから。」


実習は基本的に公共の交通機関を使っての移動になる。


目的地までの往復の移動代をあらかじめ請求しているためであり、

楽をしようとしてタクシーなど想定外の移動手段を

使った場合は提出した領収書で計算された誤差が報酬から差し引かれる仕組みになっている。


ここにいる生徒達でも払える額ではあるのだろうが

いう事を聞かない生徒だと三道省から判断され信頼を落とす可能性もあり、

ほとんどの生徒が従っている。


「バスってこんなふうになってるんやな・・・。」


純恋が手すりにつかまりながら外の風景を眺めている。


それに格式の高い華族出身の生徒は公共機関を使ったことをほぼ使わないようで

社会勉強の一環としてこのような決まりにしているようだ。


「バスでこれなら・・電車は使ったことないのか?」


純恋と桃子に尋ねる。


「新幹線ならあるで。同じもんちゃうの?」


「全然違うよ。新幹線より席数が少なくて時間帯によるけどぎゅうぎゅう詰めになるんだ。」


このバスも多少人は乗っているが通勤ラッシュ時の電車は比較にならないほど人が詰め込まれる。


「そうなんや・・。ちょっと楽しみかも・・・。」


嫌そうな顔をするかと思ったが逆に純恋の好奇心を誘ったようだ。


「私はあるで。だから純恋の事は任せとき。」


桃子はいつでも純恋を守れるように近くに寄り添っている。


「わかった。でも桃子もあんまり無理するなよ?そう警戒していると気疲れするからな。」


純恋ほどの身分になるといつどこで狙われるかわからない。

桃子にとっては信頼できる運転手がいる車の方がよかったのだろう。

俺の言葉を聞いて少し驚いた表情を浮かべる桃子。


「・・いや。これが私の仕事やから大丈夫。」


だがすぐに真剣な顔で辺りの警戒を再開し始めた。


(純恋はいつも楽しそうだけど桃子は大変そうなんだよな・・・。)


ここ数日でも見てわかるぐらいに桃子の負担は大きい。

せっかくなので少しぐらいは気を休めてほしいとは思うのだが

従者として仕事を全うしなければならないので難しいのだろう。


バスから電車に乗り換え、乗り継ぎで江ノ島に続く電車に乗り換える。


「情緒ある電車やな~。」


時代を感じるような車体と町の中をすり抜けるような民家すれすれを走る景色を楽しむ純恋。


「私も初めて乗りましたけど・・・すごいですね。」


火嶽ともう一人の一年生である真田麻由美も

純恋と共に窓の景色を眺めており、その二人を守るように桃子は立っていた。


火嶽は大人しく座っており、綱秀はイヤホンで音楽を聴きながらうつらうつらと舟を漕いでいる。


(俺もなんか聴くか・・・・・。)


ヘッドホンは荷物の邪魔になるので代わりに持ってきたイヤホンを携帯に繋ぎ音楽をかけ

この鉄道の駅名を題名にいれたアルバムを一から流し窓を眺める。


好きなアルバムの舞台と知っていたので一度来て見たいと思っていたが、

こんな形で叶うとは思ってもいなかった。


「・・・・・ん?」


2トラック目に差し掛かった時、隣から右肩を叩かれる。


「どうしました?」


隣で座っていたのは千夏さんだ。何かあったのだろうか?


「・・何の曲を聞いているんですか?」


俺の耳を指さしながら尋ねてくる。

千夏さんがロックバンドを聞いている印象は無い。上手く説明できるだろうか?


「えっと・・・俺の好きなロックバンドの曲です。

この電車が止まる駅名が題名に入っているんですよ。」


「面白そうですね・・・。私も聞いてもよろしいですか?」


おっ、興味を持ってくれた。好きな物を共有できるのは嬉しい。

持っているイヤホンを千夏さんに手渡し残ったイヤホンを右耳にいれる。


「結構激しい曲なんですね・・・。」


このロックバンドは比較的穏やかな方だけど・・・。


「じゃあもう少し落ち着いた曲に変えますよ。

千夏さんって普段はどういった音楽を聴かれるんですか?」


曲を変えながら千夏さんに尋ねる。


「クラシックなど・・・ですね。

少し変わり種だと映画のサウンドトラックも聴いています。」


なるほど・・・。

それならロックバンドは刺激が強いかもしれない。


上品な佇まいの千夏さんにはお似合いと言うか、

イメージ通りだがこの曲は気に入ってくれるだろうか?


「・・江ノ島の事を歌っているんですね。

歌詞や演奏から少し悲しさを感じますが一つの物語を聞いているみたいで面白いです。」


面白いと来たか・・・。

雰囲気が好きで聞いていたが、改めて歌詞を見て見ると確かに少し面白いかもしれない。


「じゃあこんなのはどうです?バンドは変わるんですけど・・・・。」


お気に入りの中から一つの曲を流す。

まるで絵本みたいな歌詞であり、これなら千夏さんはもっと楽しめるはずだ。


二人で携帯に映し出された歌詞を見ながら耳を澄ます。

電車が揺れる音など、環境音が頭に入ってこないぐらい片耳から流れる曲に夢中になっていた。


ふと千夏さんの顔を見ると俺と同じように集中しているのか

携帯の画面や俺の顔を見ながら感想を話してくれており、楽しそうに笑顔を浮かべている。


電車内の行き先表示が書かれている画面を見る。まだ目的地につくまで時間はある。


もう少しだけこうしていられると二人で一つの曲を夢中で聴いていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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